始解がモロ滅却師な席官さん   作:K+#ガソ林

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第15話

 時間遡行。

 井上織姫の双天帰盾のような───時間を巻き戻す能力。

 彼女は軽々と行使しているが、本来、時間の巻き戻しは難解にして困難。

 

 少なくとも死神に行使できる能力ではない…ならばどうやって、浦原喜助は秀忠達が穿界門から出てくる時間をズラすことができたのか。

 

 狗突である。

 狗突とは、尸魂界と現世の間にある空間…断界を走る外敵排除の理だ。

 

 狗突に追いかけられた者は時間がズレる。

 過去へも、未来へも…。

 浦原喜助はその現象を利用し、鬼道に組み込んだのだ。

 

「しかし、浦原さん。死神は通常、地獄蝶を使って狗突が走らないルートを通行しているはずです。そこはどうやったんですか?」

 

 ベッドの背もたれに腰掛けながら、秀忠は浦原へと話しかけた。

 

「ああ、そこは狗突の移動範囲を広げたんス。元々狗突はすごい速さで動き回ってるんで、一つ障害物をなくせば軌道も変わるんスよ。」

 

 破面との戦いから一週間が経っていた。

 あの戦いで死亡したと思われた秀忠は吉良イズルによって発見され、浦原喜助の元へ運ばれて今は経過観察と言ったところだ。

 

 もちろん、普通の死神ならばこのような経過観察など行われない。秀忠にはある特異性が見つけられたのだ。

 

「…しかし、驚いたっスねぇ。まさか…秀忠サンの霊力が全て尽きていたなんて…。」

 

「ええ。もう俺には霊力を生み出す能力がないんです。」

 

 そう───霊的能力の全損である。

 秀忠は死神だったと言うのに、流魂街の魂魄のように霊力を生み出す鎖結、魄睡が機能していないような状態だったのだ。

 

 おかげで秀忠は瀞霊廷に戻ることもできない。

 

「能力がなければ、もう隊長業は…いや、席官ですらできないでしょう。」

 

「…惜しいっスねぇ。吉良サンの話によれば、あの巨大な破面の右腕を断ったのは、秀忠サンの卍解だったんでしょう?」

 

 秀忠の卍解、初剥色。

 刀から特殊な霊圧を放出し、他者の霊子と結合。

 そのまま全身を侵食して最後には分解すると言う、恐ろしい卍解だ。

 

「…ええ。まぁ。」

 

「しっかし、アタシ、そんな秀忠サンのために…あるものを用意しました。」

 

「…え?」

 

 義骸。

 それは、霊子の欠乏激しく力尽きようとする死神を助ける唯一の手段である。

 

 魂魄が義骸の中に入れば、たちまちに霊力は回復し始め、一ヶ月程度の時間を要せばどんな死神の霊圧でも完全回復する。

 

 秀忠は浦原喜助謹製の回復用義骸の中へ入れられていた。

 

「どーっすか?秀忠サン。調子のほうは…。」

 

「…す、すごい…。もう鬼道を使えるようにまで回復するなんて…。」

 

「おー、良かった良かった。」

 

 この義骸は特注品の中の特注品で、中に入る魂魄の霊子の漏出を防ぐことを初歩に、霊子ブースターにより鎖結を、内蔵された大容量霊子バッテリーによって魄睡の役割を代替している。

 

 斬魄刀の始解ですら、今の状態の秀忠ならば可能だ。

 

「じゃ、ゆっくりしてていいっスよ。」

 

「あ、はい。ありがとうございます。」

 

 感謝の言葉を言い切ってから、秀忠は違和感を感じた。

 浦原喜助に、だ。

 この力は明らかに戦う力だ…。浦原喜助は非力な者に戦う力を与え、それと引き換えに協力を求めるような人間だ。

 

 そんな浦原喜助が秀忠に対して、力を渡すだけ渡してあとはご自由にどうぞなど、裏があるに決まっている。

 

「あ、あの。浦原さん。何か…無いんですか?」

 

「ん?いや、なにも。強いて言うなら…保険ですかね。そうだ。今後の予定です。」

 

 浦原は秀忠にスケジュール帳を渡す。

 

「今後一週間は現世で過ごしてリハビリでもしててください。アタシと鉄裁サンは少し留守にするんで、何かあったらジン太とうるるに。…あぁ、食料はあちらの冷蔵庫にあるんで、好きに料理でも作っちゃってください。」

 

「…何か、隠して無いですか?」

 

「…悪いんスけど、今は何も…。何もするなとは言いません。ただ、アタシ達からは何もできないんス。」

 

 浦原は帽子を深く被った。

 

「…それじゃ、アタシ達はしばらく出掛けてきます。ゆっくりしててください。」

 

 ガララ…と、浦原商店の扉が開き、鉄裁と共に遠くへと歩んでゆく浦原喜助。

 

 秀忠は彼らの背中を店内から見つめるばかりだった。

 その日、浦原達の霊圧が現世から消えた。

 

 

 浦原と鉄裁が自慢の鬼道にて空座町を復興。

 人々に記憶操作を施し、空座町の一軒は全て…長期的な避難訓練ということになった。

 

 人混みの中を歩く秀忠。

 銀城も、月島も…あの黒崎一護の霊圧ですら、感じることはなかった。

 1人だけ人間の町に取り残されたのだろうか…そのようなことを考える。

 だが、それも当然だ。

 

 今の秀忠には、戦う力がない。

 

 だから、何もできやしないのだ。

 そう、思ったのだが…。

 

『…考えろ!死にに行くだけじゃないだろ!何が出来て、何が出来ないのか…考えろ!考え無しが!!』

 

 その叱咤を、思い出す。

 

 

 夕暮れだ。

 話す者もいない日というのは、随分と久しぶりだなと思う。

 幼少期以来だろうか。

 親友である大前田希千代は元気だろうか。

 

「……。」

 

 秀忠には、分かっていた。

 尸魂界が…大変な目にあっているであろうことが。

 だって、日番谷冬獅郎と言った死神達はともかく、あの黒崎一護でさえここにはいないのだ。

 

「…そうと、いっても。」

 

 彼らはおそらく、尸魂界に現れた破面に対処しているのだろう。

 現世に現れたのだ。尸魂界にも、破面達が現れてもおかしくはない。

 藍染惣右介。

 彼の目的は、あくまでも…。

 

「…待てよ。藍染惣右介の目的って…。」

 

『状況に流されるだけの人間がそのような大言壮語を言い放ち、この世の中を支配する。私はそれを嫌悪する。故にこの私がそれを是正する。』

 

『さぁ、そろそろ…崩玉を頂こうか。浦原喜助が朽木ルキアに隠した…成長の珠を。』

 

『私から言わせれば、霊王という犠牲の上に成り立っている世界などは必要ない。』

 

『新たに天に立つものだ。わかるだろう。私は霊王に頼り切ったこの世界を終わらせる。』

 

『霊王の屍の上に成り立つ死者の国、尸魂界。腐った土台を私が全て破壊する。それを邪魔するというのなら、こちらとしても万全の準備で迎え討とう…以上だ。』

 

「…霊王様に、成り代わる…こと…か?」

 

 霊王とは、尸魂界を支配する王…護廷十三隊ですらその姿を見た者はおらず、王属特務たる0番隊のみが詳細を知る、霊を統べる王の事を言う。

 

「…世界を破壊するとも言ってた。それじゃあ狙いは現体制の破壊?」

 

 だが、そんなことがわかったところで何もできない。

 何かできるはずもない。

 力が無ければ、何も。

 

 

 悶々としながら夜を明かし、朝を迎える。

 しかし、秀忠はなかなか図太いようで、一眠りすれば安心して飯を食べ、安心して歯を磨いて生活していた。

 

 心の内の何かに突き動かされ、なんとなく町を彷徨うことこそあれど、その感情はしばらくのうちに風化してしまうだろう。

 そう、秀忠自身が思っていた頃だ。

 

「おーっす!雑魚死神!」

 

「あの時の死神さん…お久しぶりです…。」

 

 浦原商店の子供、うるるとジン太が接触してきた。

 なんとも、浦原と鉄裁の行き先を知りたいのだという。

 

「浦原さん達が行ったのは…尸魂界じゃないのか?」

 

「そういうことを聞きてーんじゃねーんだよ!」

 

「…浦原さん達…生きて帰ってくるのか、心配で…。」

 

 彼らが聞きたいのは、浦原達が何故、何をするために尸魂界へ行ったのか、だった。

 本来、浦原は罪人なので尸魂界へ行くことなどできないはずだと彼らは言う。

 

「オメーならなんか知ってんだろ?雑魚死神!」

 

「…ひ、ひどい…。謝って、ジン太…。」

 

「ぐえーっ!?…オメー、タマはねーだろ…!タマは…!」

 

 ジン太とうるるが乳繰り合う中、秀忠は情報から結論を繋ぎ合わせる。

 

「おそらくは…尸魂界から、通行許可が出た…?誰が許可を出したんだろう…。」

 

「んなもんお偉いさんに決まってんじゃねーかよ…!」

 

 …中央四十六室は、既に皆殺しにされてから再編成を待っていたはずだ。

 その状況で、浦原喜助に許可を出せる者達は護廷十三隊に限られるだろう。

 

「……。」

 

 だが、何故?

 秀忠は自身の本来の任務…銀城と月島の引き渡しについて考えた。

 しかし、それは関係ないと結論づける。

 罪人の引き渡し程度で、浦原喜助を尸魂界の内部に入れるわけがない。

 

「……藍染惣右介が破面を率いて攻め込んできたなら、可能性はある。」

 

「ピンポーン。」

 

 機械音声が鳴る。

 秀忠が背後を振り返ると、そこには血文字のようなものでメッセージが書かれていた。

 

『明日の1時半、勉強部屋に集合!』

 

「…っわビックリしたぁ!?つかなんだコレ!?ダイイングメッセージ見てぇだなぁ!」

 

『P.S. このメッセージをダイイングメッセージだと思う人はツッコミのセンスがないと思います。』

 

「───んなもンいらんわクソ店主ゥ!!」

 

「…ジン太くんのプライド…可愛いそう…。」

 

 

 その後、ジン太たちと共に1日を過ごし、寝床につく。

 

(…明日、か。)

 

 多分…。死ぬような目に遭うだろう。

 死とは、断絶だ。

 死ぬとは、そういうことだ。

 例を挙げれば、シャワーを浴びて体を洗って、その後に死んで…。

 備えてきた明日を、迎えられず死ぬような…そんなこと。

 

(…ここにいれば…多分、人間として生きていくこともできる。)

 

 浦原商店に入れば、日常が手に入る。

 仕事だって力仕事を探せばいい。

 浦原喜助のことだ、現世での身分程度は用意していることだろう。

 

(…だけど。)

 

 新しく手に入るのであれば───今までの日常を捨てるというのか。

 守ることすらせずに。

 

『君は力と立場が手に入ればこのように掟を守り、正義を成す。では君が───浦原喜助の手で卍解を手に入れてなかったらどうしたと言うのだ。』

 

 かつて藍染惣右介から言われた言葉が、胸の中を反響する。

 何度も…何度も。

 

 できるのならば、やるのか。

 確実ならば、やるのか。

 そうでなければ、見て見ぬ振りか。

 

 

 1時半。

 秀忠は勉強部屋にいた。

 浦原商店の地下にある、鬼道で構成された不可思議なこの空間に。

 うるるとジン太は秀忠に聞く。

 

「…行くんですか?」

 

「…ああ。」

 

「雑魚死神が行ったって、なんの役にも立ちゃしないぜ。アイゼンソースケって奴…強いんだろ。昨日はウチの店主の事をお前に聞いたけど…別に、行かなくたっていい。アイツらのことだ。後でのほほんと帰ってくるだろ。」

 

 秀忠はジン太の、自身が弱いという言葉を否定しない。

 秀忠が弱いのは間違いないことだ。

 卍解ができなければ、藍染達が戦っているステージまで上がることはできないだろう。

 

 だが、秀忠の心中には意思があった。

 助けたいという情動が、彼を突き動かしていた。

 

「それでも、助けたい友がいる。俺は隠密機動だ。…忍び込んで助け出すぐらい、訳無いさ。浦原さん達についても…努力する。」

 

 恐怖と勇気が混ざり合って、秀忠の言葉に載せられる。

 遂に迷彩が解かれ、空間に現れる穿界門。

 ジン太は一つため息を吐いて、かぶりを振った。

 

「…わかった。穿界門を開いてやる。…だけど、4分だ。」

 

「…?」

 

「4分で───尸魂界まで辿り着け。行けるよな?」

 

「すみません、義骸も置いてってください。霊子変換機は私たちだと使えなくて…。」

 

 秀忠は驚いた。

 だって、自身は地獄蝶を持っていない以上、尸魂界と現世を繋ぐ世界…断界を走ることになる。

 

 それも、霊力無しでだ。さらに、尸魂界は魂魄の世界故、義骸も置いていかなければならない。

 

「…え、えーと。やめようかな…。」

 

「さっさと行けぇッ!ジン太ホームランッ!!」

 

「…ここで引くのは、流石に情けないと思います。穿界門、起動。」

 

 ジン太のバットにかっ飛ばされて、義骸から抜け、霊体で穿界門へと飛び込む秀忠。

 道中、不運なことに狗突に目を付けられ、追いつかれないようにひたすら真っ直ぐ走るのであった…。

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