第16話
炎は閉ざされど、天は灼熱に燃え、
一千年を超えし頂点は、自身を薪として敵を打ち滅ぼさん。
しかし今、炎を超え、一人。
彼の者こそは───新たに頂点に立つ者。
眼に映るのは、業炎がひしめく地獄の空。
跪けば灰、見上げれば血。
空は青から白に染まって、いよいよ耐えきれずその涙を地へと流す。
…孔の空いた者共は、涙を啜って天へと昇る。
1番隊隊長、山本元柳斎重國。
逝去。
西流魂街に降り立った秀忠は、目の前の景色に呆然とする。
泣き叫ぶ民衆、轟く怒号。
空中から虚閃が何発も打たれていた。
「…。」
辺りを見れば、低級の破面が住民の魂魄を貪り食う。
止めに入るはずの死神は、皆屍となって土を舐めていた。
秀忠は何を思ったか、死者の斬魄刀を手に取り、屋根を登って跳躍、空中から虚閃を打つ破面へと切り掛かる。
「…貴様あァ!!」
雄叫びのままに刀を振り下ろすが、今の秀忠は霊力の欠片も生み出せない雑兵。
響転によって回避され、破面は秀忠の背中を殴りつける。
「…遅いなぁ。」
「ぬ…!ぐ…!」
斬魄刀を構え、破面の拳を防御…しかし、空中であり、霊力もないため踏み止まれず、秀忠の身体は家屋の瓦礫へと突っ込んだ。
「…がっ…!」
「遅い上に…うまそうじゃ…ねぇなぁ。霊力もないな、お前…。」
破面No.16。ディ・ロイ。
十刃であるグリムジョーの従属官にして、元中級大虚。
一般の席官程度の実力では、彼と対峙すれば最後…死は免れない。
「食事の邪魔すんなよ、ゴミが…。」
秀忠を狙い、虚閃の無差別放射が行われ、周囲に何発か着弾する。
秀忠は体を起こして立ち上がり、走り出して弾幕から逃げようとするが…ここにきて自身の移動速度が上がっていることに気づいた。
(…これは…滅却師の力が戻ってきている…?)
秀忠に速さを与えているこの歩法は、間違いなく飛廉脚だ。
しかし、何故今になって滅却師の力が戻り始めたのか…秀忠には思い当たるところがなかった。
(染影…アイツ確か、力はしばらく戻らないって…。)
秀忠は覚えている。
秀忠の今の肉体は、染影が白染を核に作り上げた霊子の身体だということを。
染影は、滅却師の力は全て身体の維持に使うため、今後暫くは扱うことができないと言っていた。
(…まぁ、なんでもいい。)
理屈について考えるのをやめ、秀忠は戦いに集中することにした。
飛廉脚のスピードを駆使して虚閃を避ける。
「…?ゴミ。お前今何やった?」
ディ・ロイから8つの虚弾(バラ)が秀忠を囲うようにして放たれた。
虚弾とは虚が放つ霊子の弾で、虚閃の20倍のスピードを誇る。
虚弾で秀忠を囲い、逃げる先を限定したところに虚閃を放って…確実に殺害しようとする。
だが、秀忠は滑るように移動して虚閃、虚弾共に避け切った。
秀忠は敵対する虚の因子に触れたために、滅却師の力が覚醒してきているのだ。根底に刻まれた防衛本能が、秀忠の力を向上させている。
「避けただけだ…破面!」
秀忠は飛廉脚で飛び上がり、霊子を固めて剣を作った。
滅却師の間では魂を切り裂くもの(ゼーレシュナイダー)と呼ばれる近接武装だ。
「…は?」
霊子の剣は破面の鋼皮を引き裂き、深い傷を与えた。
返す刀で二撃目を与えようとするが、響転で逃げられる。
ディ・ロイはよほど秀忠に傷をつけられたのが衝撃的だったようで、自身の傷跡を二度見する。
「なんだテメェ…!?なんでクソ弱ぇ魂魄が、俺の肌にダメージを…!」
「答える義理があると思うか?」
戦闘は続く。
秀忠の霊子の収束技術は以前の物と近しくなっていた。
霊子の剣を変形させ、弓と矢を形成…外部から集めた力で神聖滅矢を放つ。
「…!ピンと来たぜ…!お前、滅却師だな…!」
体を抉られながらも響転で矢を躱す破面。
既に深手を負い瀕死の状態だったが…彼にはまだ、切り札がある。
帰刃だ。
「だけどよぉ…タネが割れたらお前はもう終わりだぜ…?帰刃───。」
「させないぞ。」
秀忠の言葉が耳に届いたかと思えば、ディ・ロイの視界は焼け尽きた。
5発の神聖滅矢が一度に着弾し、破面の身体は粉々になって放散する。
ディ・ロイを倒した後に秀忠が残る破面を掃討したため、西流魂街は平和を取り戻していた。
破壊された家屋の復興が始まり、民衆に日常が戻り始める。
秀忠は流魂街の人々から歓待を受けたので、情報収集ついでに礼を受け取ることにした。
「ありがとうございます、隊士様…。よければお名前だけでも…。」
「松井礼司秀忠です。俺、実は今から瀞霊廷に行くつもりで…何か情報があれば、いただきたいのですが…。」
瀞霊廷と聞いて、流魂街の者達は驚嘆した。
「せ、瀞霊廷…!?今あそこは壊滅状態なのですぞ!?」
「今のような仮面を剥がした虚が溢れたのもおそらく、護廷十三隊が襲撃を受け、隊士が皆死んでしまったからだと思いますじゃ…。」
「…壊滅…。」
そんなことはありえないだろう、そう秀忠は思った。
何故ならば、現世から浮竹隊長や京楽隊長まで復帰して、尚且つ仮面の軍勢という無法者の実力者集団まで、今の瀞霊廷にはいるのだ。
ある程度のダメージこそ負ってはいるが、壊滅という程にはなっていないだろう。
「あの総隊長とも呼ばれる…山本元柳斎殿まで、死んでしまったのですぞ!!」
「………。」
総隊長が死亡。
秀忠の脳内には、ありもしない可能性だった。
藍染惣右介が相手でも、卍解を使ってまともに立ち回っていたあの山本元柳斎重國が…死亡したとは。
「…なら尚更、俺は行かないと。まだ他の仲間も瀞霊廷で戦っているはずです。」
「お待ちください…!私たちは何も、ここにいて我々を守ってほしいがためにこう言っているのではありません…!必ず死んでしまうからこそ、このように言うのです…!」
秀忠を引き止まらせようとする彼らの声は、切実だった。
話を聞けば、3日前にここに来た、尸魂界の救世主たる死神───黒崎一護も同じような事を言って、仲間を引き連れ瀞霊廷に向かって行ったのだという。
「あの英雄殿も戻ってこないのであれば、内部は尋常ではありません…!…隊士殿…お気をつけください…。」
「…情報ありがとう。流魂街の皆さん。それじゃ、気をつけて行きますね。」
秀忠は軽く頭を下げ、瀞霊廷に向かうのであった。
門を飛廉脚で飛び越えて瀞霊廷に入る。
しかし、そこには誰も彼も初めからいなかったかのように綺麗なままであった。
戦闘の跡もない。
「…これは、どういうことだ…?」
山本元柳斎の死亡という情報に、この綺麗さっぱり何もない瀞霊廷。
異常なことばかりだ。
瀞霊廷を隈なく探せど、一人として隊士はいない。。
「来たか。」
滅却師の王は告げる。
「我が血を分けた、息子よ。」
見えざる帝国は、瀞霊廷の影に作り上げた滅却師の空間だ。
しかし、どうしたことだろうか───この空間には死神の霊圧が夥しく存在している。
「藍染惣右介が山本元柳斎を倒し───霊王宮の結界を壊すその時まで…影から出る気はなかったのだがな。」
そう、全ての死神達は、山本元柳斎を除いてその全てが見えざる帝国へと取り込まれたのだ。
「私が迎えに行くとしよう。」