申し訳ありません。
石田竜弦の父である石田宗弦は、かつて見えざる帝国に所属していた滅却師で、その在り方に疑念を持ち、脱退。
と描写するべきところを、
石田竜弦は、かつて見えざる帝国に所属していた滅却師で、その在り方に疑念を持ち、脱退。
と、書いておりました。また、聖十字騎士団の数も29人と誤っておりました。正しくは30人でした。現在は共に修正しております。
何か大きなものが上にあるのかと、空を見上げれば何もない。
目に映るものは白雲ばかり。
ならばと下へ視線を戻し、答えを得るため思索する。
地を這うこの巨大な影は一体、なんだと言うのか───。
眺めていれば、突然に影が伸び、空中へと這い上がって濁音を鳴らす。
その様はまるで噴水のようだ。
「───。」
わかる理由などないはずだ。
常人に知る権利など与えられない。
この影の集合がなんであるかは、誰一人としてわからないはずなのだ。
「染、影───?」
しかし、秀忠には覚えがあった。
それは、その技は。
染影の始解…影に潜む能力だ───!
「……何を、躊躇っている?」
「切れ。」
「私はお前の───敵だ。」
敵が姿を現す。
赤い瞳に黒髪の長髪。
滅却師の王、ユーハバッハ。
「来ないのであれば、私から行くぞ。」
彼の顔が目の前にあった。
飛廉脚だ。
一瞬で、秀忠に接近したのだ。
「お前は、誰だ…!」
秀忠は咄嗟に霊子を操作して剣を作り出した。
急拵えの魂を切り裂くもの(ゼーレシュナイダー)で、ユーハバッハの刃を止める。
霊子と霊子がぶつかり合い、火花がチリチリと肌を焼いた。
「お前の敵だと言っただろう。松井礼司秀忠…。」
敵は目を見開き、一気阿世に雄叫びを上げ…秀忠の剣を破壊した。
老齢にして、白装束の軍装を纏いし滅却師は、その見た目に違わぬ熟達した戦闘能力にて、秀忠を追い詰める…!
「切るつもりのない刃であるなら、あらかじめ刃を落としておけ───。」
二撃目。
決着。
「───が、はっ…。」
剣が皮膚を割って身体の中に。
骨を割って内臓を切り裂き。
皮を破いて外に出る。
「死ね。我が血の分け身よ。」
頭がクラクラする。
二つ瞬きもしないうちに、目が黒しかとらえなくなった。
こんなにはっきりと、目を開けているのに、黒しか見えないのだ。
(───染、影…。)
「───聖別(アウスヴェーレン)。」
秀忠の身体の中にある、滅却師の力が根底より引き出される。
根底より、表層へ。
しかし…寸前にて、止まる。
『詰めが甘かったな。』
秀忠の中の【虚】の力が───【完現術】という楔となって滅却師の力を縛り付ける…!
純粋なる霊王の血の力たる、滅却師の力。
壊れし霊魂が力を求め喰らう、虚の力。
ならば完現術の力とは、滅却師と虚がお互いを滅ぼし合い、混じり合った…いわば虚と霊王の力だ。
虚の因子は滅却師…霊王の力にとって【毒】。
故に完現術は、滅却師の力を秀忠の肉体へと繋ぎ止める【楔】となり得るのだ。
『私の分け身よ。』
『全てがなかった時のことを、今でも思い出すのだろう?』
『赤子の頃を。』
『…全てを手放せ、ユーハバッハ。』
『お前は神などでも、ましてや父などでもない。』
『ただの人の子であるべきなのだ。』
水の中に絵の具を垂らしたかの如く、パッと世界は緑に染まる。
「…これは…!力が吸収できぬ…!!虚が混ざっていたのか…!」
聖別とは、滅却師の力───霊王の血を相手の体から吸収する、ユーハバッハのみが持つ技だ。
しかし、秀忠の体内にある血はユーハバッハに還元されない。
「───絶望の子よ!」
秀忠が語気を荒めて叫ぶように言い放つ。
今までの秀忠とは別人のようであった。
それもそのはず、今の秀忠は霊王の血に宿りし───【滅却師の始祖】の意識が、表層へと現れている状態であるがために。
「…絶望の子、か。」
「無の虚(うろ)に生まれし霊王の子よ。我が力は彼の犠牲の後に紡がれしもの…。滅却のその先…世界の浄化の行く果てだ!」
「滅却の、その先だと?」
「私は父の考えを理解した。父は輪廻を求めていたのだ。虚を虚あらざる物とすることを望んだ!それこそが浄化だ!」
「くだらないことを…。輪廻など意味がない!私は死など必要としない!」
ユーハバッハは、突き刺している剣を振り上げて、秀忠の口を切り裂いた。
彼岸花の如く飛び散った血潮が、ユーハバッハの軍装を赤く染める。
「もう何も話すな…!一介の死神風情が何を知ると言うのだ!」
「私は───お前自身だ。」
「…!」
秀忠の身体が再生する。
緑の発光と共に…。
明確な『異常』が立て続けに起き、いよいよ滅却師の王は背筋に寒気を感じて後ずさった。
「騙るな…!私自身などと、そんなはずはない…貴様はなんだと言うのだ…!」
「お前の野望…すっぱりと諦めてもらおう。滅却師の王よ。」
秀忠の霊圧が───膨れ上がる。
流れ出る霊圧の奔流に、ユーハバッハは吹き飛ばされた!
秀忠の血が…光を放って姿を変える…!
(…ぐっ!?なんだ!?なんなのだ!?)
何故こいつは私の過去を知っている?
何故こいつは私の力が通用しない?
何故、こいつは我が父のことをここまで語れるのか…!
「完現術(フルブリング)。」
「ブラッド・オブ・オールマイティ。」
それは…大弓だ。
刀でできた大弓、シンメトリーに基づいた美しさが、見る者の心を魅了する。
鉄の大弓は青白い霊力を纏い───放つ…!
ユーハバッハは回避のために弓へと目を凝らすが、次の瞬間───彼が見たのは、彼の想定とは全く違う未来。
ユーハバッハを追随する20の神聖滅矢により行われた、不可避の全方位攻撃である。
「…なっ!?」
(矢を放った動作は一回だったはずだ。なのに…どうして20発の矢が同時にこちらを襲ってきているのだ!私が目で追い切れなかったとでも言うのか…!?)
ユーハバッハは血の力を操り、静血装(ブルート・ヴェーネ)を発動。
それでも耐え切れないと判断し、自身も神聖滅矢を撃って凶弾を相殺する…!
退けば老いる、臆せば死ぬ。
ユーハバッハは猛りを上げて、秀忠を睨みつけた。
「…何故このような土壇場で貴様が出てくる!それに…貴様が私だと!?笑わせるな!私とは何もかもが違うではないか!」
神聖滅矢を構え、射つ。
お互いにこちらを狙う矢を飛廉脚で避けながら、矢を射つことを続け、滅却師同士の命の取り合いは続く。
「この場でしか出てこれなかったが正解だ。聖別によって引き出された私は、お前の所へ還る訳でもなく、身体の内で眠るわけでもなく───故に、完全に表層に現れることができたのだ。」
回避と攻撃が同時に行われるため、熟練の滅却師の戦いの規模はそれ自体が凄絶だ。
矢の数は百を超え、空を弾幕が埋め尽くす。
また、お互いに飛廉脚の達人であるため、どこまで行っても決着がつくことはなかった。
「…秀忠。起きろ。もうこのような機会は二度とないと思え。私の動きを覚えておけよ。」
ユーハバッハより先に、秀忠が動きを見せる。
霊子の絶対隷属───聖隷(スクラヴェライ)だ…!
「バカなッ!滅却師完聖体(クインシー・フォルシュテンディッヒ)ですらないと言うのに…!」
驚愕するユーハバッハ。
次世代の滅却師の戦闘術が最終奥義、滅却師完聖体に至った者ですら、発動できる者が限られるこの技術を、まるで基本技能のように使うとは───!
「あらゆる霊子を分解、隷属させ───放出する。滅却師の基本だ。」
大気中全ての霊子を吸収し、放出───。
霊子の矢の威力は、彼の双殛の4倍にも及ぶだろう…!
「神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)。」
避けきれぬ膨大な破壊の奔流が、ユーハバッハを打ち砕く───!
「聖文字(シュリフト)持ちの騎士団もずいぶん少なくなっちまったなぁ。」
聖十字騎士団所属のバズビーはごちる。
聖文字───ユーハバッハが与える、魂の力を解放する文字だ。
バズビーの聖文字は「灼熱(The Heat)」。
炎を操る能力である。
話を戻すと、死神達の奮闘により滅却師達の数はかなり減っていた。
聖兵に至っては4割、幹部の騎士団も30人のうち、6人が殺害されていた。
「…なぁ、石田竜弦。」
「……。」
石田竜弦の父である石田宗弦は、かつて見えざる帝国に所属していた滅却師で、その在り方に疑念を持ち、脱退。
その後…長い時を経て、石田宗弦の息子である石田竜弦は、ロバート・アキュトロンによる密告を受け、脱退した父の代わりに騎士団へ復帰するか、息子である石田雨竜の命かを天秤にかけられ、聖十字騎士団へと入団を果たした。
「俺と手を組まねぇか?」
「…なんだと?」
バズビーが思いがけない提案をしたことに、驚きの表情を見せる竜弦。
バズビーは竜弦に自身の身の上話を始めた。
「俺は元々、ユーハバッハの聖別で家族も何もかも奪われたんだ。復讐がしてぇ…。お前は息子を人質に取られてるって聞いた。利害は一致してるはずだ。」
「…断ったら。」
「断れねぇよ。仲間は一人でも多い方がいいだろ。」
石田竜弦は一つため息をついて、少しだけズレていた眼鏡を直した。
バズビーの言っていることは的を射ていたからだ。
竜弦は元々───石田雨竜を助けるためだけに、この聖十字騎士団への入団を果たしたのであるから…!
「…息子を助けてからだ。その後なら承服する。」
「いいねぇ。契約成立だ!」
バズビーが拳を突き出し、合わせろと言うが竜弦は無視。
それでも仲間の証だと言って根気強く粘るため、竜弦はしぶしぶバズビーと拳を合わせた。
共に彼らは地下牢へと歩き出す。
聖十字騎士団最高位(グランドマスター)、ユーグラム・ハッシュバルトは難儀していた。
死神達が思っていたより…強大な力を持っていたことだ。
死神の卍解の力は凄まじく、雷を起こし、大気を凍らせ、巨大な鎧武者を召喚したりなど…騎士団でなければ太刀打ちできないのだ。
「…特にあの男、黒崎一護…。」
黒崎一護は滅却師との戦いで虚化を繰り返し、死神と協力することで既に3人の騎士団を打倒。
また、力を使いこなせるようになっており、戦闘力が倍々と上がってきている…。
「陛下…少々安請け合いのしすぎではありませんか。」
藍染惣右介が霊王宮を掌握するまで、後何時間かかるだろう。
戦闘組織の長として、人員を失うわけにはいかないハッシュバルトは自身が前線に赴くことを選択する。
「…仕方がない。私が出るか。」
「あの仮面の軍勢の奴らのおかげでかなり虚への知見が高まったところで、滅却師の襲来かネ…。丁度良い機会すぎて、運命というのを信じてしまいそうじゃないか。」
いかなる霊圧をも漏らす事がない特殊空間の中で、涅マユリはデータの解析に勤しんでいた。
マユリは味方の死神達が影に飲み込まれている中、運良く地上に残る事ができたのだ。
また、周囲に光を当てる事で影を消し、見えざる帝国に取り込まれないように対策する事ができた。
「…しかし、滅却師共、戦い方が随分と進化しているネ。…空中では大きな霊圧がぶつかり合い、影の中では死神達と滅却師の戦いか…。よし、ネム。」
マユリは自身の作った人造魂魄であるネムに目配せする。
「涅ネム、調整終了いたしました。」
「よろしい。それでは行くとするヨ。」
涅マユリは滅却師への毒───虚から作成した毒ガスを抱え、影の中へと飛び降りる。
「200年前の焼き直しといくかネ。」