始解がモロ滅却師な席官さん   作:K+#ガソ林

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───17話の誤字告知───

 申し訳ありません。
 石田竜弦の父である石田宗弦は、かつて見えざる帝国に所属していた滅却師で、その在り方に疑念を持ち、脱退。

 と描写するべきところを、
 石田竜弦は、かつて見えざる帝国に所属していた滅却師で、その在り方に疑念を持ち、脱退。

 と、書いておりました。また、聖十字騎士団の数も29人と誤っておりました。正しくは30人でした。現在は共に修正しております。




第18話

 

 

 悪い夢を見ているようだった。

 染影が秀忠(自身)の肉体を使って射った神聖滅矢により、ユーハバッハは滅却された…それは良い。

 ならば、なぜ…。

 

「なぜ…増えている…?」

 

 目の前に…血まみれの謎の男を抱き止める、無傷のユーハバッハがいるのだろうか。

 

 

 聖文字、『Y』。

 The Yourself(貴方自身)のロイド・ロイド。

 

 この聖文字を冠する者は二人いるのだが、Lのロイド(Loyd)は対象にした者の技術と力を、Rのロイド(Royd)は対象にした者の精神と記憶をそれぞれ寸分の狂いもなく真似る事ができる。

 

 Lのロイドは見えざる帝国の内部に居た更木剣八に殺害されたので、ユーハバッハを真似ていたのはRのロイドである。

 

「ロイド…。よくやった。」

 

 真のユーハバッハは、死体も同然のRのロイドに労いの言葉をかける。

 Rのロイドは一筋の涙を流し───ユーハバッハの聖別にて、その力の全てを奪われて死亡した。

 

「松井礼司秀忠。」

 

 空間を支配する程の…威圧。

 万感の殺意を持って放たれた言霊は…秀忠の五感を鈍らせる。

 

「もう、貴様は一介の死神に戻ったのだろう?」

 

 真の滅却師の王は、ゆっくり首をもたげて秀忠を見た。

 

 一挙一動が───天が揺れるようだ。

 彼が一歩踏み出せば、地は裂け、口を開けば、万物は止まって静聴する。

 

 何もかもが彼に従っているような錯覚を、ユーハバッハは敵対者に刻みつける。

 

「頭が高いぞ。」

 

「───!」

 

 秀忠は腰を屈め、頭部を下げて神聖滅矢を躱す。

 先程まで頭があった位置を、滅却の矢は通過する。

 

『秀忠…!覚悟を決めろ!完現術の力を使いこなすのだ!心臓を動かせ!!』

 

(───染影…!?)

 

『"魄睡と鎖結"は作ってある…!炉心を回せ!───でなければ、死ぬぞ…!』

 

 神聖滅矢が、足元に1発。

 跳躍するも間に合わず、踝(くるぶし)が消える。

 

 しかも上昇した先には、視界を埋め尽くすほどの神聖滅矢が【発生】し、秀忠に向かって放たれていた…!

 

(馬鹿な…!ユーハバッハは何もしていないはずなのに、何故…!)

 

 秀忠の視界の中のユーハバッハは余裕そうな笑みを崩さず、また、なんの行動もしていない。

 

 神聖滅矢の遠隔作成・操作など、どの滅却師でさえ出来たことのない偉業だ。

 

「教えてやろう。」

 

「───滅却師の力を極めたとは、どういう事かを。」

 

 

 こう言う時こそ───飛廉脚の応用だ。

 霊子の壁を作り、それを操作。

 壁を自身に突進させ、突き飛ばされた勢いで無理やり軌道を変える…!

 秀忠は勢いよく下へと落ちることで、無数の矢に啄まれることを回避した。

 

「その後はどうするつもりだ?」

 

 魚群の如き矢の領域から逃れれば、またしても大量の矢に囲まれる秀忠。

 

 尸魂界全体の霊子を操作すれば、このようなことは容易い。

 元々秀忠に逃げ場などはないのだ。

 

『秀忠…!』

 

(───白、染…!)

 

 

 それは、過去の現世の一幕。

 破面との戦いが終わり、秀忠の身体の精密検査が終わった頃。

 何故、秀忠の身体には魄睡と鎖結があるのに、まともに機能していないのかを浦原喜助は考えていた。

 

「…んー…。ありえない。飛行機が飛ばないぐらいありえないっスね…。」

 

 秀忠の身体は正常に稼働するはずなのに、何故か稼働していない。

 それは、何故か。

 

「…拒絶…?」

 

 飛行機は飛ぶように作られているが、パイロットが飛ぼうとしなければ飛べない。

 秀忠の身体も、同じであるというのであれば…。

 

「…アタシに出来ることはないっスね。せめて、炉心が稼働した後、正常に運用できるように…鎖結と魄睡付きの義骸でも作っちゃいましょうか。」

 

 

 秀忠は、自身の中にある【虚】を認めたくなかった。

 

 自身が【虚】の混ざり物であると意識すればするほど───何か、心に孔が空いているような、そんな気分になったからだ。

 

 

 白染を握るたび、蘇る記憶。

 それは、秀忠が───今の秀忠になる前のこと。

 

 

 二百年前に虐殺を受けた、【滅却師】の魂魄が抱える…強い喪失感の記憶。

 

 仲間の【滅却師】を喰い漁り。

 【虚】に堕ちた友と共食いを続け。

 体を食いちぎられ突き飛ばされて。

 同胞は虚圏へと堕ち…自身だけ尸魂界へ辿り着いた。

 

 そんな記憶だ。

 

 秀忠は、これ以上何も喰いたくないと、強く思っている。

 

 肩を寄せ合う友を───食いちぎり、貪るようなことは、二度と。

 

 あのような孤独は、もう、二度と感じたくないと。

 

「【白染()】は、俺の力じゃない。」

 

 俺の始解は───俺の斬魄刀は、【染影(滅却師)】だ。

 

 

 矢に貫かれ、地に、影に落ちる秀忠。

 わかっていたはずなのに、刀を抜けなかった。

 弓を握っていたいと思うばかりに。

 

「……ごめん。」

 

 子供か、俺は。

 なんでこんな躊躇いで、負けているんだ。

 山本総隊長だって、死んじゃったらしいじゃないか。

 

「ごめん。」

 

 何が護廷の志だ。

 何が仮隊長だ。

 

 今ここにいても、何にもできやしないじゃないか。

 あんな滅却師もいるんだ、他のみんなも滅却師に襲われて困ってるはずだ。

 

「ごめんなさい。」

 

 お前が助けなきゃいけないのに。

 俺がみんなを助けなきゃいけないのに。

 こんなところで腹裂かれて死ぬのがお前なんだよ。

 

「…。」

 

 台無しだ。

 

 

『だから───私が貰ってあげる。』

 

 

「『卍解』。」

 

「『初剥色』。」

 

 魄睡と鎖結が起動する。

 弓が刀に変化───抜刀完了。

 内なる虚の力が仮面となって現れ、秀忠の体を動かす。

 

 この現象は【虚化】だ。

 【虚】と混ざった死神が変化する形態であり、変化すれば莫大な力と【虚】の因子を得るが───自我が呑まれる危険性がつきまとう。

 

 今の秀忠は、秀忠自身の意思で動いているわけではない。【虚】に完全に呑まれてしまっているのだ。

 

「『───いくよ。』」

 

「来るか───【虚】。」

 

 ユーハバッハは秀忠を見下ろす。

 虚化した秀忠は、響転と飛廉脚を併用し、慣性を無視した高速移動でこちらに向かってきている。

 

「…つまらん、幕引きだ。」

 

 だが───秀忠の肉体が耐えきれていない。

 答えは単純、【虚】の身体操作が拙いからだ。

 

 車両を運転している時に、ブレーキをかけたことはあるだろうか。

 ブレーキをかけた瞬間は、強大な反動が運転手を襲う。

 

 秀忠の身体も同じように、急発進、急停車を繰り返すことで強烈な反動が波濤の如く押し寄せているのだ。

 

 既に身体の末端は霊子の構成を維持できなくなっていた。

 ユーハバッハとの距離は5メートル。

 致死圏内である。

 

「───さらばだ。我が血を分けた死神。」

 

 神聖滅矢が、秀忠の身体に穴を作った。

 鎖結と魄睡を撃ち抜く一撃。

 間違いなく死亡するような、致命傷だ…。

 

 だが、死の直前。

 秀忠に身体の主導権は戻る。

 

 最後に、彼は何を言うだろうか。

 この状況に呆然とするだろうか。

 それとも、全てを理解し、自身の無力に打ちひしがれるのだろうか。

 

 さて───どっちだ…?

 

 滅却師の王は口角を上げた。

 

 

 

 

「───ふざけんじゃねぇッ!!」

 

 貫かれ、魂魄として滅する瞬間。

 目をカッと見開いて、秀忠は叫んだ。

 

「ふざけてんじゃ、ねぇよ…!」

 

 平和を乱す者。

 日常を奪う者。

 情けなく死んでいく俺!

 

「終われる、か…終、われる、かぁぁァァ!!!」

 

 

『そうだ。秀忠…。』

 

 白染に助けられたのに、何も言わず!

 拒絶し、排斥し…!

 

 なんとも腐った男だ!松井礼司秀忠とは!

 

 あの大前田希千代が名をつけた俺は!

 

 こんなに狭量で、矮小だったと言うのか!

 

『殻を破れ───!お前は、誰でもない…松井礼司秀忠なのだから!』

 

 

「変わってんだよぉォォオッッ!!」

 

 

 

 ───完現術が稼働する。

 今度は、【血】ではない。

 【刀】だ。

 白染が───分解され、再構成される。

 

「完現、術(フル、ブリング)───。」

 

「【孔の剣(クチーリャ・コン・アグジェロス)】…!」

 

 刀が二つ、峰を併せて繋がったような───白き両刃の大剣。

 それは、覚悟の剣だ。

 同胞を食った事を、忘れない覚悟。

 

 忘れようとした【孔】を、白き剣は忘れさせない。

 

『…秀忠…。』

 

「───食うぞ!白染ェッ!!」

 

『!…うんっ!』

 

 滅却師の矢を喰う。

 分解の矢を咀嚼する。

 ありえざる光景だ、

 神聖滅矢を喰い切る虚など───聞いた事がない。

 

 矢を食い切ったと思えば、次の瞬間には魂魄の崩壊が止まる。

 滅却師の力を使い、周囲の霊子を自身へと固めて体を縫合したのだ。

 身体に空いた穴を塞ぎ、再生を完了する───。

 

「…待たせたな…ユーハバッハ…!」

 

「参考にしよう。松井礼司秀忠。」

 

「…?」

 

 秀忠はユーハバッハとの戦いを仕切り直そうとした。

 だが、ユーハバッハは弓を納め、戦おうとする気すらない。

 

「黒崎一護も、このように力を解放するのだな。」

 

「───黒崎、一護…?彼が、どうしたって…?」

 

 ユーハバッハは、秀忠から目を逸らした。

 

「お前は黒崎一護とほぼ同じ資質を持っている珍しい死神だ。故に…黒崎一護とほぼ同じデータが取れると私は考えた。」

 

「…。」

 

「【対策】は完了した。…私は暫し留守にするとしよう。影の中に入って死神達を助けるなり、天上へと赴いて藍染惣右介の道行を見届けるなり…好きにするがいい。」

 

「逃すと、思うのか…?」

 

 【孔の剣】の能力でユーハバッハの周囲にある霊子を咀嚼し、【ブラッド・オブ・オールマイティ】の力で霊子を隷属し、結集する…。

 

 ユーハバッハの周りの霊子は根こそぎ秀忠によって奪われ、滅却師の力の真髄たる霊子の隷属も、今の彼にはできなくなっていた。

 

「無駄だ。【影】は私に触れている。」

 

「!」

 

 ユーハバッハのマントの、【影】───それが蠢き、ユーハバッハ自身を飲み込む…!

 

「…何処へ行くんだ!?ユーハバッハ…!」

 

「断界へと。」

 

「…!」

 

「止めに来ても良いが…後悔するなよ。」

 

 影の向こう側へと赴くユーハバッハ。

 

「貴様の言う生と死の輪廻───それを保つためには、魂魄のバランスが必要である事をな…。」

 

「何が、言いたい…。」

 

「霊王宮にて破面が殺され…何千、何万と言った魂魄が解放され、尸魂界に蓄積してきている…。現世と尸魂界の魂魄の天秤は崩れようとしているのだ。」

 

 ───暗に、ユーハバッハは秀忠に言う。

 

 死神を救えと。

 

 滅却師を殺せと。

 

「不可解か?だがな、私は合理的なつもりだ。───励めよ、秀忠。三界の保持はお前の双肩にかかっているのだから。」

 

 最後に不敵な笑みを浮かべて、ユーハバッハは断界へと去っていった。

 

 

 見えざる帝国にて。

 滅却師達は───死に瀕していた。

 

「…第8師団!完全沈黙!聖兵の7割が死亡または行方不明となっております!」

 

「キルゲ様!不可解な死因の原因がわかりました!」

 

「…ほう、聞きましょう。」

 

 聖十字騎士団所属、聖文字『J』、『The Jail(檻)』のキルゲ・オピー。

 滅却師としての基本技能を極め、最上級技能の聖隷(スクラヴェライ)を修めた…まさに最優の滅却師の名が相応しい人間だ。

 

「ガスには【虚】の因子が含まれておりました!」

 

「…なるほど。それでは、口元の霊子を常に分解するよう全体に通達しなさい。治療は不可能です。既にガスを理由に治療を受けている者達に介錯をお願いし〼(ます)。」

 

「ハッ!仰せのままに!」

 

 忙しなく働く、キルゲ直属部隊の狩猟部隊(ヤークトアルメー)。

 彼らは【虚】を殺戮するために集められた、いわば聖兵の中のエリートである。

 その証拠に、死神との乱戦の中でも生き残ることができていた。

 

「キルゲ様!報告があります!」

 

「なんでしょう。」

 

「黒崎一護が破面を3体連れ、聖十字騎士団の2名…『T』のキャンディス・キャットニップ様、『P』のミニーニャ・マカロン様が捕虜となりました!」

 

「んん〜。」

 

 キルゲ・オピーは苦悶する。

 護廷十三隊に殺害、または捕虜となった滅却師達は今のところ…。

 

 

 『K』、BG9。

 護廷十三隊の隊士達の2割を皆殺しにし、その後、砕蜂の卍解『雀蜂雷公鞭』を避けたところに、駆けつけた黒崎一護から月牙天衝を受け、死亡。

 

 『L』、ぺぺ・ワキャブラーダ。

 【仮面の軍勢】の者達を自身の能力…『The love(愛)』で操り、同士討ちさせることに成功するも、平子真子の卍解『逆様邪八宝塞(さかしまよこしまはっぽうふさがり)』により敵味方の区別が反転した【仮面の軍勢】により集中攻撃され、死亡。

 

 『O』、ドリスコール・ベルチ。

 戦闘部隊ではない4番隊の隊士を殺害してまわっていたところを、黒崎一護と雀部長次郎、狛村左陣が駆けつけ、それぞれ卍解。

 抵抗するも及ばず殺害される。

 

 『Q』、ベレニケ・ガブリエリ。

 更木剣八と交戦、死亡。

 

 『R』、ジュローム・ギズバット。

 更木剣八と交戦、死亡。

 

 『U』、ナナナ・ナジャークープ。

 『The Underbelly(無防備)』の聖文字を活かすため、黒崎一護を観察中に、破面であるネル・トゥに発見され、黒崎一護と交戦。

 降伏して捕虜となる。

 

 6人は全て完聖体を使用して戦い、敗北しているので、護廷十三隊の実力が窺い知れるところだ。

 また、その6人に加えて、更木剣八に殺されたとされる『Y』、ロイド・ロイドと、先ほどの2人を入れると…。

 

「んん〜。9人…。残るは21人ですねぇ。」

 

「どうされますか?」

 

「…わかりました。黒崎一護は私が相手をしましょう。案内を。」

 

「ハッ!!」

 

 

 走る破面と死神。

 ドンドチャッカとペッシェ、ネル・トゥの3人組と…黒崎一護だ。

 

「ひぃ〜!なんでオラ達が終われてるでヤンスかぁ〜!?」

 

「速く走れェェェェェネル、ドンドチャッカァァァァ!!死ぬぞォォォォォォォ!!」

 

「ひっ、ひっ、ひっ…!」

 

「あぁ〜くそ!なんでお前らもついてくんだよ!破面だろ!?藍染の仲間じゃねぇのか!」

 

 護廷十三隊の隊士を守って駆け回っていた一護は、突然に空から降ってきたネル・トゥらを放っておけず、滅却師から守りきってしまった。

 そのために、彼らに懐かれ、今に至る。

 今、彼らは大量の聖兵達から逃げていた。

 

「オっ、オラ達!なんか黒腔に迷い込んじゃったみたいで…!」

 

「一護ォォォォォォォォォ気にするな一護ォォォォォォォォォ!」

 

「ネル達はっ、コッチに来るつもりじゃなかったっスっ!不本意なんスっ!虚圏で平和に暮らしたかったっすーッ!」

 

「…虚圏には戻れねぇのか?滅却師の巣窟に虚が迷い込んだら、誰か助けてくれるもんだろ。」

 

「ネ、ネル達はっ、落ちこぼれだからっ、藍染様は何も言わないっ、し、気にかけてくれることなんてっ、ありえないっス!」

 

「…なるほど、な。」

 

 一護は思案した。

 虚にも、人間みたいな奴はいる…。

 なら、やることは一つだ。

 

「わかった。手ェ貸してやる。だけど…ちゃんと借りは返せよ。」

 

「わかったっス!」

 

「オラ達にやれることなら、なんでもっ!」

 

「一護ォォォォォォォォォエッチなことする気だな一護ォォォォォォォォォ!」

 

「ペッシェッ!お前はちょっと黙ってろ!」

 

 一護から刀の柄で殴られるペッシェ。

 痛みに泣き叫ぶが、走りのフォームは澱みない。

 凄まじいランニングスピリットだ。

 

「…!お前ら、止まれ…!」

 

 一護が止まり、斬魄刀を構える。

 どうやら…聖兵から逃げるうちに、誘い込まれてしまっていたらしい。

 霊圧が───影の中で蠢いている…!

 

「一護ぉ…!」

 

「ネル…おまえら、離れてろ。」

 

 破面達は家屋に身を隠すことにした。

 霊子が放散し、空間が歪む───滅却師、キルゲ・オピーが影から姿を現した。

 

「黒崎一護…。で、合って〼(ます)か?」

 

「…ああ。」

 

「ふむ、膨大な霊圧に、破面を連れている…間違いありませんね。

 

「…戦う前に、一応聞いとくぜ。…石田雨竜って名前を知らねぇか?」

 

 黒崎一護の仲間である石田雨竜は、ロバート・アキュトロンと石田竜弦によって連れ去られて以来、その霊圧を全く感じることができなかった。

 

「…石田…。ええ。知ってい〼。」

 

「───!何処にいる!答えろ!」

 

「そう、カッカしないでいただきたい。石田雨竜はあの石田竜弦の息子にして、唯一力が奪われなかった───混血の滅却師、合ってい〼か?」

 

「…違わねぇ。」

 

(力が奪われなかった…?なんだそりゃ。)

 

「彼はこの銀架城 ( ジルバーン ) の地下牢…中心部の階段を降れば会うことができるでしょう。」

 

「親切なんだな、アンタ。」

 

「ええ。死に行く邪悪に、幸あれ…。私は『J』のキルゲ・オピー。…ここであなたの快進撃を、終わりにさせていただき〼!」

 

「…その頭の輪ぶっ壊して、お前らが殺した奴らに謝らせてやるよ。───卍、解!」

 

 キルゲは滅却師完聖体を解放…!

 淡青に光る霊子の翼と…天使の輪を身につけ、卍解した黒崎一護へと襲いかかる…!

 

 

 銀架城、地下牢にて。

 滅却師、ロバート・アキュトロンは石田竜弦、バズビーの2人と相対していた。

 

「…なぜ、ここにいる。石田竜弦。バズビー。」

 

「ロバートのおっさんよぉ。察しはついてんじゃねぇか?───息子を助けにきたんだってよ。」

 

 地下牢の中で、石田雨竜は顔を上げる。

 ロバート・アキュトロンは欺瞞の塊であった。

 涅マユリから逃げてきたことも、今を生きる人間のために手を貸そうと言う思想も、今まで見せてきた笑顔も───その全てが嘘、偽り。

 

『私は───死のない世界の為に、戦っているのだ!戦わずして逃げ延びた石田宗弦の子孫など、軽蔑の対象に過ぎんのだよ!』

 

 竜弦が来る少し前に、彼は心の底から出た叫びを石田にぶつけた。

 だが、石田はロバートの発言を信じることができなかった。

 

 目を見開いて、涙を隠し。

 叫びをあげて、嘆きを隠し。

 侮辱して、慈しみを隠した。

 

 やはり彼の行動には、欺瞞が溢れている。

 

「…悪いが通すわけにはいかない。彼は唯一聖別を免れた混血統の滅却師として、研究室に引き渡しする予定だ。」

 

「───押し通る。」

 

「良いねぇ!…やるぜ!バーナー・フィンガー4!」

 

 竜弦の矢が放たれ、バズビーの炎が刀剣となってロバートを襲う。

 流石に二対一では、最速の滅却師とも言われるロバート・アキュトロンでさえ勝つことは不可能だ。

 

 だが、今更、裏切ることなんてできない。

 

 命欲しさに降伏するなんて、滅却師の誇りが許さない…!

 

 ロバートの身体は切り刻まれて撃ち抜かれ、遂に足も損傷し、まともに動くことができなくなった。

 

「…終わりだ。ロバート・アキュトロン。」

 

「最速も地下牢じゃ活かせねぇよなぁ。残念だぜ…。」

 

(……。)

 

 壁を背もたれに、無言を貫くロバート。

 死のない世界が欲しい───この思いは、本当だ。

 ロバートは滅却師としてユーハバッハに尽くすうちに、死のない世界に憧れ、自身を研鑽するようになった。

 

 だが───今は、すこしだけ。

 すこしだけ、生と死の循環がありがたいと感じた。

 

(私は今死ねば…忠義者として、死ぬことができる。)

 

 ロバート・アキュトロンは滅却師の王の思想に疑問を感じた半端者ではなく、最後まで道に殉じた───誇りある、滅却師と。

 

 そう、覚えられるだろう。

 

「止めろ!」

 

 ああ、やめろ。

 

「…どけ、雨竜。」

 

 やめてくれ。

 

「牢が壊れて、飛び出してきちまったみたいだなぁ…。面白ぇ。」

 

 石田雨竜。

 

「この人にこれ以上───手を出すな!」

 

 死ねないじゃないか、これじゃとても。

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