また、滅却師が霊子を消滅させると言う解釈は、秀忠の脳内でのみの解釈です。
秀忠は目を開ける。あの後、秀忠は過労で気絶していたようだった。
「お〜案外早かったっスね。2時間ぐらい眠ってましたよ。」
「…浦原さん。」
朦朧とした意識の中、秀忠は思い出す。自身が卍解を習得したことを。
「あ…俺、卍解を…。」
「そうっス。卍解できるようになったっスね。」
秀忠は浦原喜助の手法により、超短時間で卍解をモノにすることができたのだ。そしてそれは、契約を遵守しなければならないということを意味する。
「じゃ、よろしくっス。」
「え、えと…そうですよね…。」
「一護サン達の力になってあげてください。よろしくお願いします。」
地獄蝶の導きに従い、穿界門を抜ける。その道中、秀忠は考えていた。
「…染影。」
彼自身の斬魄刀のことである。
「お前…ほんとに滅却師の力だったなんて…。」
滅却師とは、最早尸魂界ではおとぎ話になりつつある種族の名前だ。
彼らは虚の魂葬ではなく消滅を目的とし、霊子の収束、発散を得意とする種族であり、主武装である神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)による攻撃は、虚をたちまち霊子ごと消滅させる。
しかし…霊子を消滅なんてさせたら、無くなった分の霊子だけ、尸魂界、現世、虚圏の3界は霊子の量のバランスを崩すことになる。そのため、死神達によって200年前ほどに一部を除いて絶滅させられたのだ。
涅マユリの研究により、彼ら滅却師は虚への抗体を持たないことから、虚を消滅させることが唯一の自衛であったことが判明して以降、彼らを同情的に見る若い死神も少なくない。
「…。」
秀忠は染影の言葉を思い出していた。先程意識を失っていた時に、染影から語られた内容を。
『私が扱う力は霊子だ。』
『霊子と霊子をぶつけ合っても消滅などはしない。それが道理だ。』
『ただ、より細かくなっているだけなのだ。あらゆる霊子を分解し、最小単位へと落とす力が滅却師の矢ということだ。』
その言葉が真実であれば、滅却師は存在しても良いことになる。
「…なぜ。そうであるなら…世界のバランスが崩れるなどと…。」
秀忠は答えが出せぬままでいた。
双殛の丘。6人の隊長と、彼らに付き従う隊士が───朽木ルキアの処刑を見守る。
1番隊隊長、山本元柳斎重國。
2番隊隊長、砕蜂。
4番隊隊長、卯ノ花烈。
6番隊隊長、朽木白哉。
8番隊隊長、京楽春水。
13番隊隊長、浮竹十四郎。
双極の処刑台から伸びる影の中に、秀忠は潜んでいた。
(…無理だろ。助け出すの…。)
特に、山本元柳斎…。彼の老体の斬魄刀の始解…流刃若火は並みの卍解を凌ぐほどの強力な威力を誇る。
(黒崎一護とやらが…それなりに強くないと…。)
処刑の時は訪れる。朽木ルキアは処刑台の上の方へ浮遊させられ…罪人を処刑する、斬魄刀100万本の威力を持つ双極の矛が起動する。
燬鷇王───双殛の執行人。巨大な火の鳥の姿をした【それ】は、朽木ルキアへと襲いかかる…!
(やっば。)
秀忠は朽木ルキアをなんとかして救出しなければならない。だが、影を操る能力ではルキアを救うことはできなかった。単純に、燬鷇王の光で影が消されているからである。
「───卍解。」
故に卍解をするしかなかった。突如として現れた侵入者に…隊長達は気付くのが遅れた。
「【浄影染光霊弓】(じょうえいせんこうれいきゅう)───参る。」
霊子の収束、発散…どちらの現象にも欠かせないのが、霊子の隷属だ。まず大気中にある霊子を従わせなければ、その行為はできない。では、どうやって従わせるのか───。それこそ、自身の中にある霊力を作用させるのである。
「───ハァッ!!」
今の秀忠の霊子の隷属能力は高まりに高まりきっている。故に、燬鷇王の妨害も可能であった。矢が放たれ、燬鷇王に直撃…命中した部分の半径4mをくり抜く大打撃を与える。
「霊子の…矢…?」
秀忠はちゃらんぽらんとした考え無しの死神だが、小心者だ。自身が滅却師と同じ力を持っているとバレたかもしれない───もうこの時点で震えが止まらなかった。しかし、その震えは無用───状況は秀忠に構わず回り出す。
「ルキア。助けに来たぜ。」
「双殛を破壊するぞ!」
「双極の破壊を止めろ!大前田!」
「…滅却師…か。」
雪崩れ込むように…状況は4者4様の展開を見せた。あっという間もなく、双極は浮竹十四郎と京楽春水によって破壊され、朽木ルキアは双極に到着した黒崎一護によって奪還された。隊長格の様子を伺う中…旅禍の青年、黒崎一護を確認した秀忠は…とりあえず狙われては危険なので、影に潜むことにしたのであった。
突如姿を消した秀忠に対して、隊長らは困惑したが…各々が運命から自身へと用意された戦場へと赴くことになる。
「…あの【仮面】のにいちゃん。ありがてぇけど、誰だったんだ…?ん、あいつは…恋次か…受け取れっ!お前の仕事だ!」
「きゃああああぁああ!?馬鹿者ォォ!?」
「落としたらどうすんだ馬鹿野郎!?」
「逃げろ!恋次!離すんじゃねぇぞ!」
「───当たり前だ!」
駆けつけた阿散井恋次に朽木ルキアを投げ渡し、朽木白哉へと向かう黒崎一護。
「…阿散井を追えっ!何をボサっとしておる!副隊長全員でだ!」
「!!」
砕蜂の指示に従い、双極を破壊して離反した8番隊と13番隊、阿散井恋次が副隊長の6番隊以外の1番隊、2番隊、4番隊の副隊長が一護へと迫る。
だが、そこに立ちはだかる者がいた。秀忠である。副隊長3人程度なら、自身は卍解できるので大丈夫だとタカを括っていた。
「黒崎一護…浦原喜助からの依頼だ。ここは任せろ。」
「…怪しいけど、今は何も聞かねえ。助けてくれてありがとよ。黒い顔のにいちゃん。」
黒崎一護は朽木白哉を睨みつける。
「朽木白哉!卍解して───俺と戦え…!」
朽木白哉は規律を重んじる。黒崎一護は卍解した白哉を打ち倒すことで、尸魂界全体のルキアを処刑しようとする気骨を折る気でいるのだ。
「奔れ!凍雲!」
「打っ潰せ!五形頭!」
始解を行う副隊長二人。しかし、霊子を使い、身体能力を強化しながらの白打にて、容易く2番隊副隊長大前田希千代と4番隊副隊長の虎徹勇音を蹴散らす秀忠。
「ぐわぁっ!?」
(そんな───斬魄刀すら使わずに…!)
(ごめん大前田副隊長。卍解の礼なんだ…。後で謝るから許してくれ。)
───さて、そろそろお気づきだろうか。
今、秀忠は始解である染影の能力を使用し───顔全体を影で覆っている。
そのため、誰も秀忠が誰なのか分からないのだ。
故に、1000年前の決戦にて、滅却師の脅威を存分に味わった人物が…本気を出すこととなった。例え滅却師の如き力を持つ、その者が───斬魄刀を持っていたとしても。
「卍解。」
「黄煌厳霊離宮。」
まさしく…雲行きが変わる。