1番隊副隊長、雀部長次郎がまさか卍解を使えるとは思わなかったため、秀忠は脂汗を流した。一つ鐘を撃ち鳴らす間に、たちまちのうちに天候は曇り、周囲には雀部が支配する雷が降り注ぐ。天候を従え、電雷を司るその様は───まさに死神。神の如くの有り様である。
「雀部、おぬし…。」
「この力を発せば、最早副隊長ではいられますまい。しかし…相手が滅却師とあらば、この力を振るわぬというのが傲慢なもの。」
山本元柳斎は瞑目した。卍解を使える者は、漏れなく隊長格となる…雀部は1番隊の副隊長でいたいがために、卍解を封じてきたのだ。
「…儂も老いたな。」
「それを慈愛というのです。元柳斎殿。」
「…そちらを頼んだぞ、長次郎。儂は少し…悪餓鬼どもに説教をせねばならぬからの。」
瞬歩と言われる死神の歩法にて、高速移動する山本元柳斎。離反した8番隊隊長京楽春水と、13番隊隊長浮竹十四郎を追う。
「総隊長殿があちらへ、か…。雀部殿。私も手伝おう。」
「───待て、砕蜂殿!」
「なっ…!?」
雀部の卍解、黄煌厳霊離宮の雷が砕蜂を守るように彼女の周りを囲うが…瞬神とまで言われた元2番隊隊長にして、死神の徒手空拳…白打を極めた女性、四楓院夜一によって容易く突破される。
「お主の相手は、この儂じゃ!」
「…四楓院夜一ィ!!今更私の前に立ちはだかるかぁ!!」
戦況は、雀部対秀忠、黒崎一護対朽木白哉、四楓院夜一対砕蜂、山本元柳斎重國対京楽春水、浮竹十四郎と…混迷を極める。お互いに自身の戦闘に他者を巻き込まないため、また、勝負の途中で他者から水を刺されないようにするために、十分な距離をとって戦闘が行われていた。
「さてさて、彼の調子はどうかな〜っと。」
浦原喜助は後学のため、秀忠の身体に発信機兼カメラをつけ、滅却師の力が反映されている卍解の記録をしていた。
「おっすげぇ、雀部サンの卍解スね?おおっと、ここで雷と矢で相殺スか。流石滅却師の斬魄刀ですねぇ。」
野球観戦か、プロレス観賞の如き気分で雀部と秀忠の戦いを見物する。自身の生死をかけて秀忠は戦っているのに、とんだロクデナシである。
「きゃあああああああ!!」
「おいっ!やめろっ!…ぐわぁっ!?」
「───うるる!?ジン太!?」
だが、そんな見物人気分も…浦原商店の店員、うるるとジン太の悲鳴によって終わる。
「鉄裁サン!…あ、あなた方は…。」
鉄裁も地に伏せ、うるるとジン太も痛めつけられていた。
「邪魔するぜ。死神…。」
「待っていたよ、喜助。」
そこにいたのは…銀城空吾と、月島秀九郎。完現術…物体から魂を引き出す、フルブリングと呼ばれる力の使い手だ。月島が語り出す。
「手短にいうよ。彼に僕のフルブリング…『ブック・オブ・ジ・エンド』を使った。この能力は過去に事象を差し込む能力で、今、僕と鉄裁は親友であったという過去を共有している。」
「この能力を解いて欲しければ、取引ってわけだ,。───俺たちを、尸魂界に送れ。」
「奥義───雷束閃…!」
雀部の卍解を最大限に活用した奥義が、秀忠に向けられる。その技は黄煌厳霊離宮の雷を自身が持つレイピア状の斬魄刀へ束ね、一点突破を狙う技である。今回束ねたのは…電柱ほどはあろう雷柱の10の束。
「受けれるか!滅却師!」
「───私は、死神だ。」
「!?」
雀部の突進が止まる。滅却師の歩法、飛廉脚…それは、自身の足元の霊子を足場の様に硬め、さらにその足場を操作して高速移動を可能にした技。今回はそれを応用し…霊子で作った壁を用いて雀部を止めた。
「縛道の八十一、断空。」
(断空じゃないけど。)
「ぬうう…!」
尸魂界は現世とは違い、どこもかしこも霊子でできた空間…故に、滅却師の力である霊子操作も容易く行える。隊長格の突進を受け止められる密度の霊子の壁など、簡単に作れるのだ。
「ならば…我が限界にて押し通るまで…!」
雀部は雷をさらに束ね始めた。威力がどんどん増してゆく…。このままでは、壁が持たない…!
(やべぇ終わる。影に隠れようかな…。)
自身の負けを悟り、秀忠が逃げの姿勢を見せたその時だった。
「秀忠サン!秀忠サン!大変っス!」
(!───この声、浦原さん…!?俺の身体に何かつけてたのか。)
浦原の特注品であるカメラ付き発信機が秀忠の耳元で喋り出す。
「フルブリンガーの…死神の敵がそっちに行ってます!そのうち一人は───斬った人を仲間にできる様な能力を…!」
(フルブリンガー…って、何…?つか、死神の敵!?)
しかし、秀忠は現在…雀部の卍解の対処へと全霊を尽くさなければならなかった。
「遅いよ。喜助…。」
「な、いつのまに背後に…!お前が浦原さんの言っていた───。」
そのため、秀忠の後ろに…月島秀九郎が立っていたとしても、何もできやしない。首だけ後ろに振り返り、苦々しく月島を睨みつける秀忠。
「挟んでおいたよ。」
「!?…ぐっ…。」
秀忠の身体を貫くのは、月島のフルブリング…『ブック・オブ・ジ・エンド』。恐ろしい切れ味を誇り、霊子を纏って防御しているはずの秀忠の皮膚を容易く貫通した。
「君と僕は、親友だった。」
双殛の丘の影に潜む者。それは、秀忠だけではなかった。
滅却師───ロバート・アキュトロン。
「素晴らしい(グッド・インディード)。」
卍解のデータを取ることを目的とした彼ら聖十字騎士団(シュテルンリッター)は、思わぬ好機を得た。滅却師の斬魄刀…それを持ち帰ることができれば、どれほどの成果が挙げられるだろうか。
なぜならば、斬魄刀とは虚を切るもの。しかし、滅却師は虚に触れると崩壊する。
故に秀忠の斬魄刀は…本来なら虚に触れれば崩壊するはずなのに、虚を斬った後も斬魄刀として活動できているという特異性を秘めているのだ。また、銀城空吾らフルブリンガーが介入してきたのも大きい。旅禍が一人増えた程度では、誰も何も言わないだろう。見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)の存在は、どうあっても死神にはバレない。
リスクがなく、リターンしかない戦場に、ロバート・アキュトロンは飛び込んだ。