愛染→藍染
『ブック・オブ・ジ・エンド』。その能力は───過去の分岐。刺した対象と、月島秀九郎自身の過去に自分を挟み込み、過去を分岐させる能力なのだ。
護廷十三隊、2番隊副隊長、月島秀九郎。『彼と秀忠は親友であった』。流魂街で出会った彼と秀忠は、真央霊術院へと入り、メキメキと実力を上げ、お互いに切磋琢磨した。月島秀九郎は常に秀忠と共にいた。真央霊術院を卒業し、月島が秀忠より先に始解に目覚めた時、秀忠はすぐに祝いに来た。そして反対に…秀忠が始解に目覚めた時、月島もすぐに祝いに行った。故に、こんなことを考える。
(僕のブック・オブ・ジ・エンドは、存在しない人物に割り込むことはできない。つまり───親友である僕と同じ程度の友好度を持った人物が、確実に存在する。)
例えば、天涯孤独であった人物に、自分はお前の父親だと言う過去を挟み込んでも…その人物は父親の記憶などを持っていないため、挟み込むことができないのだ。月島はその人物に当たりをつけた。本来の二番隊副隊長、大前田希千代である。彼と秀忠は同期であり、お互いに二番隊に入った仲である。大前田はその後、隠密機動第二分隊「警邏隊」隊長となり、秀忠は隠密機動第一分隊「刑軍」へと入り、離れ離れになった。
その後、双殛の丘で、その顔を影で隠した秀忠と対面し───今に至る。
「あ、ぁ…月島"副隊長"…?お、おれ、あなたを気絶させたはずじゃ…。」
「秀忠。今は緊急事態だ。僕のために働いてくれたら、今までのことを不問にしよう。僕に味方してくれるかい?」
「い、いいんですか…?勿論です!頑張らせていただきます!」
月島の言葉に元気よく返す秀忠。すぐ近くでは、本物の二番隊副隊長である大前田が気絶していると言うのに───。だが秀忠の脳は、矛盾が発生しないように記憶に補正をかける。もう彼らは親友で、100年来の友達なのだから。
「…相変わらずインチキな能力だな。月島。」
「銀城。あの死神を倒しておくれよ。このままでは秀忠は負けてしまう。」
現在、秀忠の卍解─── 浄影染光霊弓で作った断空もどきで雀部の奥義を耐えている途中なのだ。今、雀部は卍解によって作り出した雷を束ねることに意識を割いている…仕掛けるなら今が好機である、
「わかった。『クロス・オブ・スキャッフォルド』…行くぞォ!!」
「ぬっ!?」
銀城は首にかけた十字架のネックレスを変形させ、巨大な大剣を手にし、空中へ飛んで大剣を振りかぶった。
『クロス・オブ・スキャッフォルド』。その能力は循環。大気中に霊子の塊を放ち…また、大気中の霊子の塊を取り込む、大剣を通してあらゆるものの循環を行う力がある。
「貴様は、初代死神代行…!?」
「うぉらァッ!!」
銀城の剣が振り抜かれ、放たれた衝撃波は雷の防護壁と拮抗。だが荒ぶる霊圧は雀部の防御を抜け、彼の体勢を崩す。銀城は、卍解して霊力が5倍程度になった隊長格にすら膝を折らせるほどの霊力を纏っていた。完現術の恩恵───霊子の使役によって。
「しまっ───。」
「浮竹にも勝てるように、鍛えてんだよ───月島ァ!」
「やれやれ…挟んでおいたよ。」
一瞬の隙をついた月島、衝撃波によって開いた防壁のもつれに飛び込み、雀部の身体に『ブック・オブ・ジ・エンド』を差し込んだ。
自身の身体を貫通する刀を見て混乱する雀部。
(───刺され、た…!?)
「僕は君の最も尊敬する人だった───うっ!?」
能力の行使とともに、月島が倒れる。過去への差し込みは、月島の記憶をも改変する力だ。死神の寿命は人間の10倍程度はザラであり、その年月分の記憶が全て月島に叩き込まれたのであれば、気絶するのもおかしいことではない。しかしここで、敵対していたはずの雀部は月島を抱えた。もう彼にとって月島は、最も尊敬する人だ。先程まで戦闘していたと言う事実も、彼の脳内では自分の気の迷いということになった。
「月島殿…私は、なんてことを…!あの滅却師もどきと、初代死神代行が月島殿の味方であったとは…。」
秀忠への攻撃をやめ、月島に向けて謝罪する雀部。銀城は大剣を握りながら警戒を解かずにいた。そんな時に、秀忠が雀部へと話しかける。
「雀部副隊長。あなたも月島副隊長によってお目覚めになられたか。」
「!貴様は…死神…!?本当に死神であったのか…。」
「松井礼司秀忠二十席、月島副隊長の味方です。先程までの戦闘は全て水に流して、月島副隊長のために共に力を───。」
雀部は激怒した。全霊の力を込めた正拳突きが秀忠に突き刺さる。いきなりのことに目を丸くする銀城。
「貴様如きが"総隊長殿"を…尸魂界の為を思い、あえて卍解を見せない月島殿を副隊長呼ばわりかァ!」
「ぐえぇっ!?…?、?」
「月島殿と改めよ!貴様は今後、平隊士へと降格だ!」
「は、はひ…!?も、申し訳ありません!雀部副隊長!」
(月島副隊長が総隊長…?意味わかんないけど、そ、そんなに強かったのか、月島さん…。)
お互いに挟み込まれた対象が違うため、思わぬ軋轢を発生させた雀部と秀忠だった。銀城は何とか軋轢を解消するため、慌てて月島を起こしにかかる。
「こら、起きろ!月島!」
「う、うーん…あ、銀城がいた。千年間銀城無しは堪えたよ…。」
「…女々しいこと言ってないで早く行くぞ。俺は浮竹に用があんだよ。」
月島がすぐに起きたことで安心し、表情を和らげる銀城。お互いに握り拳を合わせ、健闘を讃える。月島は雀部の支えを穏便に振り解いて立ち上がった。
「…僕にとっては、君以外現実じゃないからね…。ねぇ、長次郎。浮竹の元へと案内してくれるかい?」
「はっ。月島殿の言うことであれば、すぐに!」
月島は雀部に道案内を頼み、目的である浮竹を探し回ることにした。
中央四十六室───。40人の賢者と6人の裁判官が集まり、尸魂界の行く末を決める機関だ。だが───賢者、裁判官共に死亡。それも、血の固まり具合から───かなり前に全員殺されていたということがわかった。
5番隊隊長、藍染惣右介によって。
4番隊隊長、卯ノ花烈に助け出されて以降、藍染惣右介の捜索に同行していた虎徹勇音による縛道の七十七『天挺空羅(てんていくうら)』により、隊員全体にこの情報が広まる。無論、浮竹を探す銀城一行に同行していた雀部にも。
「…藍染惣右介が裏切っただと…!?」
「長次郎、どういうことだい?」
「藍染惣右介は…朽木ルキアを処刑させるために、四十六室を殺して成り替わったと…!」
「な、なんてことだ…!あの藍染隊長が…!」
(こいつも護廷十三隊を裏切ってるようなもんなんだけどなぁ。)
銀城が心の中で野暮なツッコミを入れている間にも、状況は進む。
黒崎一護の勝利。
三番隊隊長、市丸ギンと九番隊隊長、東仙要の裏切り。
裏切った東仙要による、阿散井恋次と朽木ルキアの捕縛。
砕蜂の敗北。
この四つが立て続けに起き、状況は混乱を極めていた。ここで秀忠が一つ、月島に要望する。
「月島殿。俺は浦原喜助との約束で、黒崎一護の助けをしなきゃならないんです。今、黒崎一護と藍染惣右介の霊圧がぶつかり合っている…。ちょっとあそこに行ってみていいでしょうか。」
(月島さんがいるなら今がチャンスだ。藍染隊長もなんかよくわからないけど裏切ったみたいだし、ここで藍染隊長の捕縛に協力すれば、なし崩し的に朽木ルキアの処刑を妨害した罪が不問になるかもしれない。)
藍染惣右介が四十六室になり変わり、朽木ルキアの処刑を命令したという話の流れが全くわかってない秀忠は双殛の丘を指差した。その場所からは、黒崎一護と朽木ルキア、阿散井恋次に、藍染惣右介の霊圧までも感知することができる。
「銀城。どうする?」
「…俺も浮竹の霊圧を感知した。秀忠だっけか?お前が言う方向にあいつも向かってる。出戻りになるが…行くぞ。」
「わかった。秀忠。一緒に行こう。」
「ありがとう。月島さん。」
「藍染惣右介…決して許せぬ…!裏切りの大逆、月島殿の手を煩わせる前にこの雀部が処断してくれようぞ!」
ロバート・アキュトロンは月島達の言葉を聞き、秀忠達の行き先へと先回りする。双殛の丘にて…影に隠れつつ、藍染惣右介の様子を伺っていた。
「あいつが…藍染か。まだ逃げる体力、残ってるか?恋次。」
「残ってる…だが、逃げたって追いつかれちまう。ここで戦うしかねぇんだ。」
卍解している黒崎一護と、卍解ができず始解で戦おうとする阿散井恋次の様子を伺う。
「黒崎一護、そして阿散井恋次…。君達が既に限界なのは知っている。私にとっては、君達など地に落ちた塵の一つや二つと変わらない…。逃げたらどうだ?朽木ルキアを置いてな。」
「…引くわけがねぇだろうが!俺たちはルキアを助けに来たんだ!」
「一護!俺が隙を作る…!藍染隊長を倒せ!行くぜ…蛇尾丸。」
恋次は蛇尾丸を地に突き刺し───地に散らばった蛇尾丸の刃の欠片へと霊圧を込める…!
「狒牙、絶咬───!」
それは、阿散井恋次がいずれ、朽木白哉を乗り越えるために研いできた牙の一つだ。散らばった蛇尾丸の刃を霊力で動かし、全方位からの奇襲を行う。今回の欠片は17。17の刃を、一度に叩き落とすなど───一護が持つ卍解、天鎖斬月並みのスピードが無ければ不可能だ。
「───。」
黒崎一護が駆け出した。朽木白哉との戦いの終わりに、すぐに駆けつけた旅禍の一人───井上織姫によって多少の治療こそ受けているが、その体力は枯渇しかけている。それでも───天鎖斬月込みでの速さは、他のどの死神よりも抜きん出ていた。
蛇尾丸の17の刃が着弾。その隙に、一撃───。大技である霊子の斬撃、月牙天衝すら放てないが、それでも…ルキアを追わせないために、多少の損耗を与えようとする。
「───ふむ。」
藍染惣右介は一つ息を吐いて───霊圧を解放する。
(なん───だと…?)
黒崎一護の、天鎖斬月が…藍染惣右介の指一本のみで止められた。
(刀を、指で、止める…?)
死神の戦いは霊圧の勝負───黒崎一護の刀は、藍染惣右介の霊圧に押し負けたのだ。その事実は衝撃的だが、今の一護らに呆けている暇はなかった。…例え、呆けなかったとしても…この結末が変わることはないだろうが。藍染惣右介の斬魄刀、鏡花水月が黒崎一護の腹を横凪に断ち切る。
「う───。」
高校生の人間、黒崎一護は死をイメージした。現実感がない話だ。刀によって、上半身と下半身が泣き別れになるなど。断面から夥しい血が───自分の体から流れている実感がなければ、とても、自分のこととは思えない。
「が───。」
「おや、腰から下を切り落としたつもりだったが───浅かったか。」
黒崎一護は倒れる。霊子を作る器官───急所を狙われなければ滅多に死なぬ死神であっても、致命傷に近いほどの傷だった。
「…そ、そんな…馬鹿、な。」
黒崎一護が倒れた…。朽木白哉にすら、打ち勝ったのに。隊長格に肉薄するほどの実力を持つ者を容易くあしらう───目の前の"アイツ"は、いったい…何者なのか。一つ瞬きをすれば、阿散井恋次もまた、切られていた。
(あ…ちく…しょ…。)
あっけない幕引きだ。朽木ルキアを発端とした騒動は…。尸魂界を巻き込み、掟をひっくり返そうとして朽木白哉にも打ち勝った者達は───通りすがりの上位者に蟻でも潰すかの如く容易く殺される。
「藍染惣右介。そこまでだ。」
影より現れし一人の死神。その名を、松井礼司秀忠と言う。
「これ以上の尸魂界への狼藉…この二番隊の秀忠が許さぬ。」
大弓は、超越者へと向けられていた。
「神妙に縄につけ。」