始解がモロ滅却師な席官さん   作:K+#ガソ林

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第6話

 浦原喜助は狼狽えていた。彼が銀城空吾と月島秀九郎から感じた力量は、隊長格のそれと同等と感じ取れたからであった。

 

「まずい…四楓院サン、黒崎サン、秀忠サンで三人…そしてあの二人組に、雀部サンまで加わると…。」

 

 現在、隊長格六人程の実力を持つ者達が護廷十三隊に仇なしていることになる。さらに浦原が秀忠を通して見ている景色が本当であれば…。

 

「計算的には黒崎サンと白哉サンが相打ちして、藍染惣右介と市丸ギン、東仙要が裏切って、戦力としては…伯仲…スね。」

 

 護廷側が九、反護廷側が七。また、月島と藍染の活躍次第では、この均衡がさらにひっくり返る可能性がある。実質的に彼らに対抗できるのは…山本元柳斎と、一時的に黒崎一護の味方をしていた更木剣八、また、初代剣八とも言われる卯ノ花烈、最強格の斬魄刀『花天狂骨』を有する京楽春水ぐらいだろうか。

 

「四対十二になったらいよいよ、総隊長の本気かぁ…黒崎サン達は逃したいんですが。」

 

 

 結論から言えば、浦原喜助の危惧は杞憂である。山本元柳斎と相対した時点で雀部は『ブック・オブ・ジ・エンド』の能力で改変された記憶の中の矛盾の補完が不可能になり、廃人と化す。また、秀忠も大前田から声をかけられさえすれば、同じように廃人となるだろう。さらに、黒崎一護と四楓院夜一は、大罪人、藍染惣右介の野望───朽木ルキアの奪略を止めようとする第三者という扱いになり、護廷十三隊からすれば狙う理由はない。

 この状況では藍染惣右介達と、銀城空吾、月島秀九郎のみが、明確な尸魂界に対する敵であった。

 

「銀城、良かったのかい?秀忠だけ向かわせて。」

 

「俺たちも一緒に行ったら、まとめて処理されちまうだろうが。」

 

「…銀城、銀城、空吾…死神殺しの大罪人、初代死神代行の、名。…だが…月島、殿と、共に行動を…。何故…何故…。」

 

 雀部が苦しみ出す。ブック・オブ・ジ・エンドによって植え付けられた過去と現実の矛盾に耐えきれなくなったようだ。このような状態になった人物は、皆廃人のような状態となり、気絶するのだった。

 

「あ、雀部が壊れちゃった。まぁよく持った方だけどね。どうする?」

 

「…気絶したら、能力を解いてやれ。隊長格一人を戦闘不能と考えりゃいいさ。」

 

「了解。」

 

 

 双極の丘。藍染惣右介に敗北を喫した一護は…浦原喜助が遣わした協力者の姿を見て、今にも死にそうだった血相を変えた。

 

「…あんた、死神だったのか…!黒い顔の兄ちゃん!滅却師だと思ったぜ!」

 

「話は後だ。黒崎一護。君はそこで安静にしていろ───朽木ルキアは、俺が引き受けた。」

 

「…すまねぇ!頼む!」

 

 大弓を向けられているのにも関わらず、藍染はほんの少しも怖気付くことはなかった。悪辣な笑みを絶やすことはなく、ただただ周囲を威圧し続ける。

 

「誰かと思えば、秀忠二十席か。浦原喜助から頼まれ、この私の邪魔をするためだけに、現世から遠路はるばるご苦労と労う場面だろうな。」

 

「───なぜ、それを。」

 

「浦原喜助については初めから警戒していた。君が懐柔されるかもしれないと予想していたが、まさか本当に懐柔されるとは。」

 

 痛いところを突かれた秀忠は、その心中で大きく慌てる。それでも緊急事態だからと頬の筋肉ひとつ緩めた様子がないのは、流石死神と言ったところだろうか。

 

「藍染惣右介。四十六室殺しだけで無く、彼らが誇りとするその権力を徒に使って尸魂界を混乱させた罪、万死に値する。」

 

「私は君を軽蔑する。」

 

 論点をずらし、なんとか保身しようとした秀忠へ向け、藍染惣右介は眉間を顰めて、軽蔑する、と、そう言い放った。

 

(あ、藍染隊長って…ここまでハッキリと敵意を示す人だったっけ…。)

 

 重圧に耐えきれず、秀忠の頬から汗が伝う。藍染から秀忠へと向けられたのは、強い激情であった。秀忠を許さないと言う強い意志と、理不尽に対する憤りが、彼の膨張した霊圧から伝わってくる。まるで全身が、細かな針で刺されているような感覚だった。

 

「…軽蔑?あなたがそれを言うのか。」

 

 あくまで平然の態度を貫きつつ、秀忠は藍染へと問い返す。

 

「君は力と立場が手に入ればこのように掟を守り、正義を成す。では君が───浦原喜助の手で卍解を手に入れてなかったらどうしたと言うのだ。」

「…。」

 

 秀忠は、分の悪い賭けはせず、何事も勝算があってから始める人間だ。少しその勝算の見積もりが甘いが。そのため秀忠は…卍解が手に入らずにいたら、藍染惣右介の前に身を翻すなどという愚を行わなかっただろう。

 

「状況に流されるだけの人間がそのような大言壮語を言い放ち、この世の中を支配する。私はそれを嫌悪する。故にこの私がそれを是正する。」

 

 藍染惣右介の全身から滲み出る霊圧、激情より…彼が新たな世を望む覇王の如き猛りと、それを支える力を兼ね備えていることが窺えた。

 

「…地に落ちたな、藍染惣右介…!」

 

「大逆の大罪人が…!」

 

「…………。」

 

「ありゃあ、こりゃ、身内で争ってる場合じゃないねぇ。山爺。」

 

 突如現れた複数の声に、藍染は周囲を見渡す。余裕を持って、ゆるりと。

 

「…ふむ。」

 

「すみません隊長、ボクら囲まれちゃいました。」

 

「…ギン。少しは緊張感を持て。」

 

 藍染と市丸、東仙の周りを、隊長格が囲んでいた。皆、刺々しい殺気を愛染へと向けている。普通の者ならば、この時点で自身が死への道を選んだことは後悔するだろうに、こと、藍染はその余裕を崩さない。

 

「なるほど、囲まれたか。話が過ぎたな。」

 

 不意をつくように、巨大な刀が藍染惣右介を襲う。狛村左陣の始解、天譴である。双極の刃と同等の…巨大なる刀の一撃が、咆哮と共に藍染惣右介へ叩き込まれる…!

 

「藍染惣右介ェェェェェ!!」

「破道の九十、黒棺。」

 

 何気なく放たれた言葉だった。故に狛村は呆気に取られ…黒き霊圧にその身を切り刻まれて倒れる。うめき声ひとつ、十分に漏らすことすらできずに。

 

「がっ…───!?」

(同じ隊長でさえ───こんなにあっけなく…。)

 

 黒崎一護は憔悴した。このままでは───浦原からの助け舟であるらしい、あの秀忠と呼ばれる死神も、果ては尸魂界中の死神が藍染一人に殺されてしまうかも知れない。

 

「ワオ、九十番台詠唱破棄…いつからできたんですか?藍染隊長。」

「これは失敗だよ、ギン。本来の威力の3分の1にも達していない。」

 

 身の毛のよだつような会話であった。九十番代の破道は、極めれば卍解並の威力を放つことができる。その代わりに、詠唱時間が長いと言うのが欠点であるのだが…詠唱破棄が完成してしまったら、狛村を倒したアレの、3倍の威力の黒棺が四方八方へと飛び回ることになる…!

 

「さぁ、そろそろ…崩玉を頂こうか。浦原喜助が朽木ルキアに隠した…成長の珠を。」

「…藍染惣右介。朽木ルキアは儂らで保護した。今更渡すと思うてか?」

 

 山本元柳斎は重く、藍染へと語りかける。言外に…貴様の野望は潰えたと言っているのだ。

 

「君が手に持っている彼女は、私の斬魄刀…鏡花水月の能力で、そう見せられているだけに過ぎない。」

 

「───!?」

 

「恋次!?───ルキア!!」

 

 山本元柳斎が抱える朽木ルキアは、阿散井恋次へと代わり、藍染惣右介の足元に倒れていた阿散井恋次は、朽木ルキアへと姿を変えた。黒崎一護の咆哮が虚しく響く。

 

「五感を支配する完全催眠に、君たち程度では対処できない。」

「やめろーーッ!!」

 

 両断された下半身を動かせない一護含め、この場にいた全員が藍染の行動を止められなかった。

 

(まずい…迂闊に攻撃できない…攻撃した先が幻なら、味方を攻撃してしまうかも知れない…。)

 

 何故かといえば、こういった秀忠の考えのように、皆が同士討ちのリスクを常に考えていたからだ。藍染惣右介に生半可な攻撃は意味がない。しかし、強大な攻撃は仲間を傷つけるかも知れない。藍染惣右介は、鏡花水月の能力を───たったひとつ、阿散井恋次と朽木ルキアを入れ替えるということに使っただけで…場を完全にコントロールしたのである。

 

(しかし…どうすれば…!)

 

 同士討ちを危惧して手を出せぬ中、崩玉の摘出が始まる。朽木ルキアの身体の中に腕を突き刺す藍染。血は出ず、切り裂くこともせず───水面に手を入れたかのような、滑らかな施術であった。

 

「大霊書回廊を探し回り得た浦原喜助の術…まさか、これほどの高等技術とはな。惜しいものだ。」

 

 腕を引いて取り出せば───それはとても小さな球であった。ルキアの体に空いた穴は、腕を引き抜けば閉じていた。

 

「…なるほど、浦原喜助の技術は完璧であったらしい。後遺症もなく、魂魄に埋没した崩玉を取り出せるとは…ね。」

 

「…ッ…!」

 

 震える朽木ルキア。ルキアが生きていることに安堵する一護。だが───藍染は非情を突きつける。

 

「朽木ルキア。君は用済みだ。───殺せ、ギン。」

「はーい。射殺せ───神槍。」

「ッ!ルキア───!」

(…!素で呆けていた!)

 

 元3番隊隊長、市丸ギンの斬魄刀───神槍。その能力は高速の伸縮。秀忠は、ルキアを守るために霊子の壁を構築しようとするが、もう遅い。自身を守るための至近距離の霊子操作ならともかく、遠距離にいる他人を守るための霊子操作など、神槍の速度の前に間に合うはずもなかった。そもそも秀忠は、霊子の扱いにかけては1日も修行していない素人であるのだから───。

 

(やばい間に合わない浦原さんになんて言えば───。)

 

 黒崎一護は息を呑んだ。霊圧を高め、天鎖斬月の力を使って割り込もうとするが───できない。癒えずにいる身体が動かないのだ。

 

(動いてくれ…!俺の身体…!…ルキア…!)

 

 何もかも遅く、刃は、ひとつ呼吸する間に朽木ルキアへと───。

 

「…にい…さま…?」

「……。」

 

 割り込んだのは、朽木白哉。6番隊隊長にして…朽木ルキア処刑派の筆頭。その彼が、身を挺してルキアを守った。

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