「朽木隊長!?」
「……。」
「兄様っ。兄様っ!!」
朽木白哉は考えていた。己の誓いを。己の、愚行を。黒崎一護へと、その眼を向ける。そして───その瞼を落とした。
「時間だ。」
藍染惣右介は語る。そして天空に、孔が開き───尸魂界と虚圏を繋ぐ黒腔(ガルガンダ)より、大虚(メノスグランデ)が姿を現す。
瞬間、この場にいた者全ての時が止まった。誰もが予想していないことが起こった。
───藍染惣右介の言葉に呼応し、黒腔が開いたこと?
───違う。
───では、神槍を朽木白哉が受け止めたこと?
───それも、違う。
「卍解。」
「残火の太刀。」
最強最古にして、最大の破壊力を持った斬魄刀が、目を覚ましたことだ───!
「北、天地灰尽。」
空中へと飛び上がり、黒腔へ向けて斬魄刀を翳すのは───護廷十三隊が総隊長…山本元柳斎重國!
閃光の如く奔る炎の津波…並々と揃う悪霊供全てを焼き滅ぼさん…!
「……。」
藍染惣右介は言葉を失った。黒腔から虚圏へと逃げようと言う算段であったが、ここに至り全てが無駄となった。黒腔は炎の渦だ。入れば死ぬ。例え藍染ほどの実力者でもあろうとも、
「要。」
「卍解───清虫終式・閻魔蟋蟀。」
東仙要の卍解、清虫終式・閻魔蟋蟀。その能力は一定領域内の視覚、聴覚、嗅覚、霊感の剥奪。鏡花水月では操作できない霊圧探知すら無効化することができる。山本元柳斎を含め───ここにいた全ての者へとその効果は発動した。
山本元柳斎の動きは───鈍る。藍染を滅ぼすためには、天地灰尽を…周囲に向けて打たねばならない。今、このタイミングで。守ってきた尸魂界を───焼き滅ぼすことを代償に。
…閻魔蟋蟀が解ける。山本元柳斎重國は、残火の太刀を解いた。そこに藍染惣右介達の姿が───存在していなかったが故。元柳斎は、尸魂界を壊すことを良しとしなかった。故に、天地灰尽を放たず…藍染を逃したのであった。
双殛の郊外にて、二人は行き先を考える。
「銀城。どう思う?あれ。」
「尸魂界に喧嘩を売るのは無理そうだ…。浮竹の家に忍び込むしかなさそうだな。」
月島秀九郎と銀城空吾は先程まで考えていた作戦を破棄することにした。気絶している雀部長次郎を人質として、尸魂界へと交渉を迫ると言う作戦を。
「おとなしく旅禍の一人として長次郎を引き渡しに行こう。名目は…そうだね、気絶していた長次郎が、藍染惣右介の仲間に襲われていたところを助けたってことで。」
「なら、秀忠が言ってた浦原喜助の名前も出すとするか。お前はともかく、俺は罪人扱いされてるしな。」
滅却師、ロバート・アキュトロンは戦慄していた。千年前の戦いで滅却師の王を殺した卍解を───恐ろしいと感じ、それ故に、進まねばならぬと決心した。
(私がいなくとも、いずれ聖章化(メダライズ)は完成する。)
(ならば私がやるべきことは…死神の不確定要素の調査と把握…!)
聖章化(メダライズ)とは、卍解を奪う技術だ。それを作るために、ロバートは卍解のデータを取得していた。───影に潜む時間は、終わる。物陰から身を乗り出し、大げさに言い放った。
「───滅却師!?」
「通してください!私は旅禍の仲間です!仲間の名は───黒崎一護といいます!」
「あの英雄の仲間…!?」
治療部隊、四番隊が双殛の丘へと到着する。
「二班と三班は朽木隊長!他の四つの班は狛村隊長への治療を急げ!」
「阿散井副隊長への簡易治療完了!治療所へ移送します!」
「朽木隊長は重症だ!浄気結界を!」
バタバタと各員が走り回る中、秀忠は硬直していた。秀忠に文句の一つでも言いそうな、2番隊隊長の砕蜂は逃げ出した夜一を追っているため、誰も秀忠に構う者がいないので問題はなかったのであったが。
「黒崎一護───礼を言う。」
「───ルキア…済まぬ。」
「兄様…!」
時は流れど、立ち尽くす秀忠。嫌な予感がしていたが、動くことができなかった。なんとなく、気づいてしまったのである。
「よ。」
崩壊の時が訪れる。振り返ってはいけないと、本能で感じた。
「あの時はよくも俺をのしてくれなぁ!秀忠ァ!しっかし、いつの間に卍解なんか覚えたんだよ!お前!」
月島さんではない。いや、月島さんが…彼ではなかったのか。
「…?おい、どうしたんだよ。へこんでんのか?お前が助けようとした旅禍も許されたし、今日は派手に───。」
大前田希千代。あぁ───崩れていく。俺の…人生が───。
「っ!?おいっ!誰か!四番隊の者はいないか!早くしろォ!救護者だっ!秀忠が倒れたッ!」
「結論から言う。お前はもう、廃人となった。」
染影が俺に言う。
「もう2度と、通常通り行動することは叶わない。ここ…深層心理以外ではな。」
残念そうに、目を伏せていた。言葉の節々に、彼の思いが滲み出る。
「死ぬなと言ったが、死なぬなら何になってもいいわけではない。」
「ごめん。染影。」
「…まったく。」
染影はため息をついた。
「手のかかるやつだ。」
「…。」
「私がここへお前を招いたのは、ただ世間話をするためではない。」
「…何を、するんだ?今回は…。」
染影は一つの刀をこちらへと渡そうとする。それは斬魄刀のように思えた。俺は刀を受け取る。
「これをどうするんだ…?」
「壊せ。」
なんでもないことのように、壊せと言う。何故、壊すのか。どうして、染影を壊さなければならないのか。
「…冗談、か?」
「お前の真の力が、そこに眠っている。」
「…意味わかんねぇよ!!」
秀忠は叫んだ。目を見開いて、染影の目を見て。それが真意であり、善意であると見抜きながら。
「俺が2番隊で!そこで任務やってても…お前がいたから!俺は頑張れたんだ!」
「…。」
「俺には親も何もいない!お前だけが家族なんだ!俺の家族はお前なんだよ!」
「……。」
「…っなんとか言えよっ!染影!!なんで俺に壊せって言うんだ!!」
「───本当に、手のかかる、子だ。」
一言ごとに、別れに近づいている気がして、涙が溢れた。染影は笑ってた。いわゆる…ニヤつくとか、そう言うのじゃない。他者を慈しむような…そんな笑いだ。
「お前は幸福の探し方を知っている。」
「……。」
「私がいなくても、やっていけるさ…。だが、お前に免じて話しておこう。」
染影は話を始める。
「お前のルーツだ。」
過去、二百年前…滅却師の大掃討があったと言う。その時に尸魂界へと送られた滅却師の魂は…溢れ出る怨念によって、半虚(デミ・ホロウ)の…なりかけになった。虚とは、魂魄が力を求め、捕食機能を求めて魂魄自体を弄り…一部魂魄の欠落を代償にして力を得た形態だ。その出生から、自身の魂の欠落を埋めようと他者の魂魄を喰らう。滅却師の半虚もどきが喰らったのは、同じく滅却師の半虚もどき。
共食いを繰り返して、完全な虚になりかけて、滅却師の因子のせいで崩壊してを繰り返して…ようやくバランスを保った魂魄となったのが───。
「───お前だ。秀忠。」
染影が、割れる。
「お前の真の力は、滅却師の力ではない。私はあくまでも鞘なのだ。」
「死神と虚の混じり合った姿が───お前の真の斬魄刀だ。」
染影は語る。染影が剥がれ落ちて───秀忠の目の前にあったのは…真っ白の斬魄刀だった。
「…染影。」
「なんだ。」
「俺は、お前が斬魄刀じゃないと嫌だ。」
秀忠は拳を握りしめた。
「だから、いつか必ず…俺はお前を迎えにいく。」
染影は笑った。吹き出すように笑った。
「フフ、ハッハッハッ…。…待ってるぞ、秀忠…。」
「案ずるな。お前が望めば…また、会える。なにしろ…私はお前の中に、いつまでも居るのだからな…。」
そして、消えた。
「───塗り潰せ。…『白染(しろぞめ)』。」