始解がモロ滅却師な席官さん   作:K+#ガソ林

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第8話

 虚と死神。

 敵対する両者が…何故混ざり合うことができるのか。

 それこそ、ルーツが同じであるからだ。

 虚は劣化した魂魄。

 死神は鎖結と魄睡という、霊力を作り出す器官を持った魂魄。

 虚の劣化を、死神が補い。

 死神に足らぬ力を、虚が補う。

 故に混ざり合う。

 

 秀忠の根底の意識には、常に孤独があった。

 この世界の異物と蔑まれるような、そんな孤独感。

 

 実際に、誰も彼には話しかけなかったし、誰も彼に気づくこともなかった。

 秀忠は影の中で生まれ、影の中で過ごし、飯を盗んで生きていた。

 

 その生活にも慣れた頃───流魂街の離れにある、ある貴族の家に忍び込んだ時、すこし、ヘマをした。

 

 その家の食卓の上に広がるお菓子を、獣の様にかっくらっている途中に…家人に見つかってしまったのだ。

 

 どこにいた。

 どこから出てきた。

 

 彼はそう言った。

 

 はらがへっている。食わせろ。

 

 秀忠は横暴にも、そう返した。

 

 好きなだけ食え。

 そんなもの、端金にもならん。

 

 そう言われたその日から、秀忠と彼との交流は日常となった。

 獣のように痩せこけた体躯はみるみるうちに肥えあがり、秀忠は健康体となる。

 

 しばらくすると彼は秀忠に常識を教え、従者として教育を行った。

 

 彼はまた、秀忠に名前を与え、さらに、家人としての地位までもを与えた。

 

 そしてその後、秀忠は彼の付き人として、真央霊術院に赴くことになる。

 彼の名は、大前田希千代。

 現二番隊副隊長にして、秀忠の親友である。

 

「…ん…ぐ…。」

 

 秀忠が目を覚ます。

 藍染惣右介の反乱から一週間が経とうとしていた。

 

「ぐおおおおおお…。ぐおおおお…。」

 

「……。」

 

 彼が寝ていた病床のすぐ横の椅子に座り、いびきをかいて眠るのは、大前田希千代。

 よだれ、たれっぱなしであった。

 

「……大前田、副隊長…。」

 

 秀忠は彼の名前を口にする。

 月島秀九郎が頭に出てこないあたり、白染の能力は上手く自分に作用したようだと安堵した。

 

 白染の能力は、霊力をエネルギー源とする特殊能力の無効化だ。

 霊圧の咀嚼といってもいいかもしれない。

 

 白染が、秀忠自身と、その周囲にある霊圧を喰らうことによって、敵対者から向けられた攻撃を無効化することができるのだ。

 

 今回は『ブック・オブ・ジ・エンド』の能力を構成している、自身の身体に巣くった月島の霊圧を食らいつくし、記憶の改変を無効化した。

 

「…今まで起きたこと、全て報告書にまとめるのか…。」

 

 浦原喜助の調査に赴いた秀忠は、浦原喜助に懐柔され、転神体を用いて卍解を習得。

 

 その後旅禍を助けに行き、雀部と交戦している最中、フルブリンガーとやらに背中を刺される。

 

 フルブリンガーの月島の能力によって記憶が書き換えられ、月島と銀城、二人のフルブリンガーと、同じように記憶を操作された雀部と共に行動する。

 

 月島達の目的は浮竹十四郎への面会。状況は進み、藍染惣右介の裏切りが発覚し、その後単身、旅禍の助けに赴き、藍染惣右介へと敵対する。

 

「…こんなところかな。」

 

 秀忠は筆を置いた。

 1頁の文量もないが、四十六室は既に全員死んでいる。緻密に書く必要もないだろう。

 文書を机へ置いておく。

 

「しかし、フルブリンガー、か。」

 

 尸魂界では、フルブリンガーと言われる存在に関しての情報が遮断されている。

 秀忠は二番隊にいたため、名前程度は聞いたことはあるのだが、どのような特性を持った者達であるのかは聞いていなかった。

 

(浦原さんは知ってたっぽいよな。)

 

 浦原喜助。

 今回の事件では、崩玉を作り出し、それを自在に魂魄に埋め込んだり取り出したりする技術が藍染惣右介に使われていた。

 

「…謎が尽きない人だ。」

 

「ぐがぁぁぁ〜…ごっ。んぅ…?」

 

 秀忠が大前田へと目を向ける。

 彼は、秀忠が起きた後の2時間程度…睡眠していた。

 

「おぉ…?おお?おおう!?秀忠!秀忠、おまえ起きたのか!!」

 

「お久しぶりです。大前田副隊長。」

 

 顔を赤らめ、秀忠に満面の笑みを見せる大前田。

 オーバーリアクション気味だが、それ故に気持ちがいい態度だった。

 

「いや〜焦ったぞ。俺が一声かけたら倒れちまうんだからな。さらに、一週間も目が覚めないときたもんだ。俺が何かしたって疑われちまうところだったぜ!」

 

「ご心配おかけして申し訳ありませんでした。ですがこの秀忠、このように健康であります。」

 

「おお、そうか。…そうだ、秀忠。病み上がりで悪いがな、お前に───話さなきゃならねぇことがある。」

 

 場の空気が一気に冷え上がる。

 大前田はいつになく、神妙な表情をしてきた。

 

「双殛の丘に現れた、滅却師の技を使う死神…秀忠、お前であってるよな。」

 

「…はい。」

 

 秀忠は自身の処刑を覚悟した。

 藍染惣右介に敵対したとして、それでも掟を破ったことには変わらない。

 副隊長と交戦した秀忠には、間違いなく罪がある。

 

「…よーく聞けよ?よーくな。驚くんじゃないぞ…!」

 

「前フリとかいいんで、はやく言っちゃってください。」

 

「おぉい!?一応お前の進退がかかってんだからな!?」

 

 秀忠はなんとなく、大前田の態度からわかったのだが。

 多分これは、いい感じの話だ。

 

「ごほん。えー、松井礼司秀忠二十席。」

 

「はい。」

 

「貴殿を護廷十三隊は、三番隊隊長へと承認する。」

 

「はい。…は?」

 

「…よかったな。隊長だぞ?貰える給料だって段違いに増える。」

 

 秀忠は震えていた。

 何故なら…今の秀忠はもう、染影を使うことはできない故に、卍解もできないからだ。

 

「ちなみに…断ったら処刑だ。今回の隊長就任勧告は一種の懲役刑みたいなもんだからな。」

 

「…あ、えと、その…俺、卍解が…。」

 

「卍解が?」

 

「使えなくなっちゃって…。」

 

「はぁ!?」

 

 

「なるほど、そう言う事情か…。」

 

 秀忠は山本元柳斎に経緯を説明した。

 何故卍解が使えないのかと言うのは、斬魄刀の気性が荒く、今回、浦原喜助の元で無理な具象化と屈服をしたために、気を悪くして使えなくなったと言うことにした。

 

「しかし…始解すらも変わってしまうとは。卍解が変わると言うのは、珍しくもない話なのじゃが…。」

 

「真の卍解…ですか。」

 

「儂の残火の太刀とて、未だ発展途上よ。」

 

 秀忠は乾いた笑いを見せる。

 元柳斎程の死神が発展途上なら…他の死神の立場がない。

 

「秀忠。お主は仮初のものとはいえど、具象化と屈服を一度行った。故に、今回は仮隊長処分とする。」

 

「仮隊長!?」

 

 秀忠の驚きように、元柳斎は小さく笑った。

 

「今後の尸魂界を支える樹木となれい。無理は通してナンボじゃ。」

「わ、わかりました…。」

 

「下がって良いぞ。…沖牙!」

 

「はっ。」

 

「書類と判子を用意せい。」

 

「承知致しました。」

 

 一番隊第三席の沖牙と、元柳斎が忙しくしている中、なんとなく引け目を感じて逃げるように出ていく秀忠であった。

 

 

「総隊長殿。」

 

「わかっておるわい。滅却師そのものがやつの卍解であったことは。」

 

「そのことではありませぬ。以前旅禍と共に現れたフルブリンガーと名乗る二人組について…。」

 

「初代死神代行、銀城空吾か。」

 

「雀部副隊長を救援したとのことで、既に恩赦を与えて罪人から解きましたが、現世へと送り返そうとするも…浮竹十四郎に会わせろと…。」

 

「ならぬ。」

 

「……。」

 

「志波家が没落し、当主が尸魂界から抜けた四楓院、当主が流魂街の者を娶り、貴族として危ぶまれている朽木に続き、綱彌代までその名を下げたら、尸魂界は力ある者が支配する世界となってしまうじゃろう。」

 

「ですが…ならば、四十六室が。」

 

「皆殺しにされ、積み上げた歴史が消えた機関が何を言うても、公平性など感じられぬ。」

 

「…くっ…。」

 

 皆殺しにされた中央四十六室だが、貴族がこぞって子息を入室させようとしている。

 

 貴族の意思の傀儡ばかりが集まれば、いかなることも貴族優位に進むだろう。

 

 かといって、今此処で綱彌代時灘が行った完現術者(フルブリンガー)殺しの罪を告発して、貴族自体の看板を汚せば、人々は護廷十三隊を支持し、十三隊の隊首会が政治の頂点となる世界へ変わってしまう。

 

 護廷十三隊は力ある者であれば隊長になることができる以上、行きすぎた独裁政権になるのは想像に難くない。

 

「四十六室については、儂はもういじれん。残念に思うじゃろう沖牙…。じゃがな、儂が思うに、護廷十三隊が政治をする世界は地獄と何も変わらん。」

 

 元柳斎は、政治の世界に立つことを強く嫌がる。

 それは護廷という志を一番にしているからだ。

 振りかざすのではなく、ただ隣人を護るだけの力を、美しいと感じているのだ。

 

「…じゃが、どうしようもなくなったら、涅の奴に頼むとするかのう。やつはあれでなかなか政治が上手いからな。」

 

「承知いたしました。」

 

 

「チッ…おーい!浮竹ェー!俺だ!銀城だ!おい!開けろよ!」

 

 どんどんと、浮竹の家の門を蹴り上げるのは銀城空吾。

 何故かはわからないが…浮竹はしばらく家を留守にしているようだ。

 

「おい、お前!浮竹の家は此処で確かなんだろうな!」

 

「はい。」

 

 隠密機動の隊員が銀城の質問に答える。

 当然嘘だ。

 此処は浮竹の家ではない。大きくて立派なだけの空き家である。

 

「銀城…。やる?なんか、誤魔化されてるような気がしてならないよ。」

 

「ダメだ。尸魂界の中で能力を使った瞬間に罪人扱いに戻すって言われちまってる。完現術は使えねぇよ。」

 

 項垂れる銀城。

 空は澄み渡っていた。

 

「…浮竹…。」

 

 

「何故此処を通ってはいけないのだい?」

 

「護廷の為です。どうか、これは内密に…銀城空吾様とあなたを会わせるなと、総隊長殿から…。」

 

 別の隠密機動の者が、浮竹十四郎の足を止めさせる。

 身振り手振りで必死に説得するも…。

 

「…銀城が!?俺は行くぞ!あいつとは話し合いたいことがある!」

 

「浮竹様!いけませぬ!」

 

「そうだ───良くないぞ、浮竹。私の部下を困らせるのはな。」

 

「───砕蜂!?何故…!」

 

 浮竹の前に立ちはだかるのは、2番隊隊長、砕蜂。

 無言で刀を構える。

 浮竹は冷や汗を流して後退りした…。霊子による攻撃の吸収を得意とする浮竹の斬魄刀は、物理系である砕蜂の斬魄刀とは相性が悪い。

 

「…くっ…。」

 

「わかったか。浮竹…総隊長殿は、私を使うほどに本気なのだ。下がれ。」

 

「…銀城がそこにいるんだ。話すだけだ!」

 

「それがいかんと言っているのがわからんか!浮竹!」

 

「何故許されない!─── 波悉く我が盾となれ、雷悉く我が刃となれ!」

 

「─── 死罪でいいな!浮竹!」

 

 浮竹十四郎は覚悟を決めた。

 友がそこで待っているのだ───そして、自身は間違っていない。

 

「尽敵螫殺、雀蜂!」

 

「双魚の理!」

 

 両者、始解。

 前代未聞の、隊長同士の戦闘が始まる───!

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