雀部長次郎は隠密機動の隊員から質問や事情聴取などを行われていた。
「月島殿は流魂街の住人で、銀城殿と行動を共にしていました。」
しかしここで、雀部は月島が流魂街の出のものだと、事実とは誤ったことを語る。
これは何故か、それは、月島がまた雀部に挟み込んだのである。
今度は、自身はあなたが護るべき民草である、と。
「失礼致します!秀忠二十席からの文書が届きました!」
「こ、これは…なんと…!?」
しかし、秀忠からの報告文書が大前田を通じて隠密機動に伝わった。
なんとその文書には、衝撃的なことに、月島が記憶を改変する能力を持っていると記されていたのである。
秀忠、雀部、両者の言い分は食い違っていたが、隠密機動としては秀忠の文書を無視し、月島を放置することの方がリスクが高いと判断する。
「月島捕縛班を組織する!2番隊隊士は集合しろ!」
隠密機動の席官が人員を集め、銀城と月島を捕縛するための準備が始まった…。
流魂街にて。
藍染惣右介一行は隠密に徹していた。
浦原喜助の技術を真似て作った霊圧を遮断する袈裟を纏い、自身の存在が発覚しないようにしている。
本来ならいつ隠密機動に見つかってもおかしくない状況ではあるが、彼らは全く焦った様子には見えない。
市丸は今後の動向について藍染へと尋ねた。
「隊長、どうします?本来の予定とはかなりズレちょりますけど。」
「今、ここで黒腔を開いて虚圏に戻るのはリスクが高い。かといって、この戦力で瀞霊廷に戦いを挑むのは無謀だ。動きを少々変えなければならない。」
「…隊長。」
「どうした、要。」
東仙要には、一つだけアテがあった。
「影の中…そこに、小さく霊圧の道があります。今までは全く感じ取れませんでしたが、先程から私の霊圧知覚を刺激しております。まるで、我々を誘っているようで…。」
「…ほう。」
見えざる帝国…影の中の世界からの接触だ。藍染は小さく笑みを浮かべ、市丸は怪訝そうに顔を顰めた。
「罠、ちゃいます?」
「わからん。」
「招待を受けたならば、赴かぬことこそ失礼だろう。」
影に穴が開く。
それは、滅却の世界への出入り口だ。
「滅却師の王、霊王の血を受け継ぐ者よ。もし、私を欲しがるというのなら、十分な歓待を用意するのだな。」
「おーおー、毎度のこと余裕すぎて頼り甲斐がありますねぇ。」
「…正義のために。いざ。」
浮竹と砕蜂の戦いによって高まった霊圧を、銀城が感知できぬはずがなかった。
「そこか!浮竹ェッ!!」
「お、お待ちください!銀城様!…縛道の七十七!天挺空羅!」
天挺空羅の効力により、銀城が浮竹の方へと向かっていることが隠密機動全体に伝達される。
「チィッ…!もう少しのところを…!また避けおったな…浮竹!」
「ぐ…ふ…。は、ぁ…!」
一方、浮竹はというと、砕蜂の雀蜂に対して防戦一方であった。
浮竹の防御技術は、二刀の斬魄刀のため高い部類に入るのだが、砕蜂の斬魄刀…雀蜂は、体の同じ場所に二度その刀身から攻撃を喰らうと、体躯が灰となり死に至る能力を持つ。
二刀とはいえ、二度かすり傷を負っただけで死に至る極限状態な上、砕蜂は体術の達人だ。
現在、浮竹は消耗こそしているが、雀蜂からの攻撃を一度として受けていないため、その技量を賞賛すべきだろう。
「…なんだか知らないが、攻撃に焦りが見えるぞ…砕蜂!」
「お前をこの場で殺すわけにはいかん。あくまでひっとらえよと言われていた。しかし…状況が変わった。」
「…!」
浮竹は唾を飲み込んだ。
卍解だ…。砕蜂の霊圧が極限まで高まる…!
「卍解…雀蜂雷公鞭。」
「───。」
巨大な金の弾丸と化した雀蜂。
「お前の斬魄刀は鬼道を吸収する。なら何故、私の霊体がお前に吸収されて消えないのか…考えていた。」
「…。」
双魚の理は、霊子でできた攻撃を吸収し、放出するカウンター型の斬魄刀。
しかし…霊子を吸収するのなら、至近距離にいる死神の身体も吸い取れるのではないか。
だが、そのような兆候は見られなかった。
「答えは一つ。お前の双魚の理は…密度のある霊子を吸収できない。」
「───!」
雀蜂雷公鞭は、隊長格である砕蜂の莫大な霊圧をただ一つの弾丸へとまとめたもの。
死神の体躯と霊子の密度は変わらない。
「終わりだな───浮竹。」
「…最期に一つ聞く。何故俺と銀城を会わせない…!」
「その願望さえ封印すれば、死なぬこともなかっただろうにな。…答えはこうだ!!」
雀蜂雷公鞭の弾丸が浮竹へと放たれた。
「───砕蜂ーーッ!!」
慟哭、後に爆発。
浮竹の霊圧が…巨大な霊子の爆発に包まれ、その気配を消す。
「…天挺空羅だ。元柳斎殿に連絡せよ。事態は最悪を免れたと。」
「…はい。」
しかし…浮竹の霊圧は消えていなかった。
まだ息があると悟った砕蜂は、戦闘態勢を取り直す。
「いや。待て。まだ浮竹の息がある…。」
「な…隊長の卍解がまともに当たって、生きていられるはずが…!」
黒い刀だった。
光を飲み込むように暗く、黒い牙。
「…隊長同士の喧嘩にしちゃあ派手だなぁ。オイ。」
その男こそは、一瀉千里の動きを見せ、あの朽木白哉ですら見切れぬ速さの持ち主。
彼が一度最高速となれば、雷公鞭を避けることなど容易いこと。
満身創痍の浮竹十四郎を肩で支え、砕蜂を睨みつける。
「味方内での殺し合いは御法度って聞いたぜ。砕蜂…!」
「黒崎…一護…!」
「大変です!隊長…!」
「何があった!…う…!」
隠密機動の部下の声に、砕蜂が振り返ってみれば、そこに立つは完現術の担い手にして、初代死神代行、銀城空吾───。
「大変って、なんだよ死神…。察しはつくがな…。」
銀城は、傷を負った浮竹へと目を向ける。
拳で突かれて骨を折られ、爪で抉られ体の所々から血が噴き出している。
霊圧で無理をして身体を動かしているような状態だ。
「ぎ、銀城…俺は…。」
「後で話そうぜ。…色々と、大変みたいだからよ。」
銀城は、黒崎一護へと目を向けた。
一護は突然の乱入者に警戒している。
それもそのはず、黒崎一護からしてみれば、銀城は浦原喜助の手のものでもない不審者だ。
黒崎一護は銀城へと質問した。
「…あんた、誰だ。人間だろ。霊圧でわかるぜ。」
「銀城空吾だ。死神代行を過去、そこの浮竹から頼まれてやっていた。」
「死神代行証…これを尸魂界が作ったきっかけは、あんただったのか。」
「銀城って呼べよ。自己紹介した意味がねぇ。」
一護は死神代行証を銀城へと見せる。
「…端的に説明するぜ。ちょうどいいからな。俺はその代行証に付けられた発信機について、浮竹に話をしに来たんだ。」
「発信機…?」
「フルブリンガーって知ってるか。」
「知らない。」
「滅却師みたいなもんだ。母親の体内にいる時に、虚に襲われると発症する能力のことを言う。…俺はフルブリンガーからフルブリングを無くすための力を持っていた。フルブリングは些細な激情で暴走する人殺しの力だ。」
「…まずい…。」
砕蜂は焦るが、もはやどうしようもない。
砕蜂だけでは、隊長格並に強い銀城の口を塞ぐことはできないのだ。
「俺は現世にかつて存在していた、自分の力を捨てたいっていうフルブリンガー達を集めた。…だが、死神代行証に発信機がつけられていたために、フルブリンガー達は皆死神に殺された。」
「殺された…?死神に、か?」
「ああ。なんのためかは分からねぇ。フルブリンガーを皆殺しにしたのはなんのためか知るために、俺は浮竹を訪ねたんだ。」
動揺する黒崎一護。
空間は3秒ほど、硬直した。
重苦しい空気を打ち破ったのは───巨大なる斬魄刀であった…!
「ぬぉおおおお!!砕蜂殿!!無事かぁぁぁぁ!?」
「狛村!」
護廷十三隊七番隊隊長、狛村左陣。
彼は自身の卍解である、人の20倍はあろう大きさの鎧武者、『黒縄天譴明王』を操り、銀城を巨大な刀で襲う…!
「っ!死神!一応聞いておくぜ!」
完現術(フルブリング)、『クロス・オブ・スキャッフォルド』を展開し、狛村の刀を受け止める銀城。
「なんで俺を襲う!」
「戯けが!貴様の仲間である月島が珍妙なる『ふるぶりんぐ』なる術を使い、雀部副隊長の記憶を操ったこと、忘れたかぁ!!」
「…秀忠の野郎か!あいつが漏らしたのか…!」
巨大な刃と完現術の刃がぶつかり合う。
銀城が押され気味の中、ギリギリの拮抗を繰り広げる。
月島は雀部を『ブック・オブ・ジ・エンド』で二度切り、自身を流魂街の住人と偽って、保身は完了していた。
ならば双殛の丘で切ったもう一方、秀忠しか月島の能力を漏らす死神などいない…!
「ごめん、銀城。完現術使っちゃった。」
「いいんだよ。もう暴れるしかねぇ。」
月島が隠密機動の隊員達を薙ぎ倒しながら、銀城へと合流する。
二人で力を合わせることで、狛村を翻弄していく…。
「くっ…!人間が何故隊長格程の強さを…ふるぶりんぐとは厄介な…!」
「僕たちが特別強いだけだよ。」
「黒崎一護ォ!」
「…なんだ、銀城。」
銀城は一護へと呼びかけた。
「助けてくれ!」
それは、なんの考えもない、救いを求める声であった。
狛村の攻撃をいなしながら、銀城は一護へと訴えかける。
「俺は此処で終われねぇんだ!浮竹とまだ話してすりゃいねぇ!」
「一護!ふぅ…いきなり走り出してどうしたというのだ!…浮竹隊長…!?」
「ルキア…。」
突然一護が卍解した霊圧を感じ取ったため、一護を追っていたルギアだが、傷だらけの浮竹を目にする。
状況が混迷を極める中、一護は選択を求められた。
だが、しかし…穿界門の問題があった。
「…助けてやってもいいが…穿界門は開けてもらえねぇぞ。どうやって逃げんだよ。」
「黒崎一護!お前まで…!」
「穿界門は、俺が開けよう…。」
浮竹十四郎は息も絶え絶えの体で、一護へ協力すると言った。
確かに隊長格であれば、穿界門を開けることは容易いことだ。
一護は銀城を助ける覚悟を決めた。
「浮竹隊長!しっかり!…一護!これはどういうことだ!」
「わりぃ、後で話す。」
一護までと言う狛村の声からは苦悶が滲み出ていた。
尸魂界の英雄である一護と敵対することは避けたかったからだ。
これは誇りの問題だ。ルキアの処刑を止めてもらうことで、尸魂界は間接的に一護に救ってもらったようなものだ。
狛村としては恩を仇で返すような真似はしたくなかった。
ルキアに抱えられる浮竹十四郎。
「穿界門まで、辿り着ければだがな…。」
「…任せな。」
「一護!」
狛村の内心の葛藤に反応してか、黒縄天譴明王の動きが鈍くなる。
銀城へと叫ぶ一護。
「聞いてたか!銀城!」
「助かったぜ!恩に着る!」
「逃すわけなかろうが!瞬閧 ( しゅんこう )!」
攻めあぐねている狛村に見切りをつけた砕蜂は自身の力を解放した。
砕蜂の背中が爆裂し、鬼道の力を放出した翼が現れる。
瞬閧とは、拳法である白打と、鬼道の合わせ技…それを使う者は自身でも制御しきれぬほどの力を得る。
余波のソニックブームでさえ、周囲の建物を破壊するほどの…速さ、破壊力を兼ね備えた一撃を銀城へと喰らわせようとした。
「花風紊れて花神啼き、天風紊れて天魔嗤う『花天狂骨』。」
「…京楽春水…!!」
だが、砕蜂の攻撃は、突如現れた八番隊隊長、京楽によって止められる。
京楽の霊圧は砕蜂より高いため、全力を出せば瞬閧でさえ受け止めることができるのだ。
「…ハッ、私の瞬閧はまだトップスピードではない!一度受け止めたぐらいで完封できると思うなよ!」
「砕蜂隊長は怖いねぇ。…浮竹。こりゃ一体、どういうことだい?」
「ぐふっ…誇りに関わることだ。」
「一言じゃ説明できないのね。わかった。───『影送り』。」
「…京楽隊長まで…。」
花天狂骨の能力は遊びを戦闘に絡ませたものだ。
今回発動した影送りは、自身と相手に影で出来た残像が見えるようになる能力である。
これで狛村と砕蜂の目を欺き、移動する一護達であった。
「と、言うことがあったらしい。」
時は夕方。
二番隊隊舎の前で、秀忠は大前田から説明を受けていた。
「ええ…?」
「京楽隊長と浮竹隊長は二度の離反から罪人認定。これで尸魂界から隊長が一気に五人減ったことになる。」
「俺のせいってことか…?」
「お前の報告書が無くても同じような展開にはなってたんじゃねぇかな。なにしろうちの隊長は喧嘩っ早いし…ごふぅっ!?」
「大前田。誰の、事を、喧嘩っ早い隊長と?」
大前田の頭を握り潰す勢いで鷲掴みにする砕蜂。
全く気配などしなかったのだが…。流石の瞬歩である。
「ウゲゲゲゲゲゲ。」
「砕蜂隊長。なぜ隊舎の方に?新しい情勢に向けて、隠密機動の隊員達と会議していたと聞きましたが…。」
「秀忠ぁっ!見てないで助けろよっ!」
「ああ、その事なんだがな…。」
「はい。」
「無視ぃ!?」
大前田がうるさいので、指の力を抜く砕蜂。
だが無情、倒れ込む大前田。
既に限界であったようだ。
「技術開発局長を兼任する涅隊長から連絡が来てな。浦原喜助から連絡があったそうだ。」
「浦原喜助…。たしかに、黒崎一護が行くなら彼の元しかありませんね。」
「実は浦原喜助から、罪人である銀城空吾と月島秀九郎の引き渡しを提案されたらしい。」
「な…!」
逃げた先で取り押さえられ、尸魂界へと突っ返される銀城達の心情やいかに。
「引き渡しは二週間後…。浦原喜助は現世へと来れないから、我々の側から現世へ赴くことになる。」
「なぜ、そんなに引き渡しまでの期間が長いのに承諾したんですか?」
「単純な話だ。浦原喜助は怪しい。もし、彼が尸魂界を恨んでいて、復讐したいと思ってるとしたら、どんな罠を仕掛けているかもわからない。我々からしても浦原喜助を研究し、もしものことに対して対策する必要がある。」
信用がない浦原喜助だが、秀忠からしたら当然であった。
此処で一つ、秀忠は思い出した。
「そういえば、俺の身体に浦原喜助から取り付けられた盗聴器があったような…。」
「何!?それは本当か!」
「卍解の修行をつけてもらった折に仕込まれたみたいで…。」
「早速調査のために涅隊長の元へゆくぞ!いいな!」
「は、はい!わかりました!」
秀忠と砕蜂は涅マユリの居城である十二番隊隊舎へと急ぐ。
「お、おれの存在って…。」
放っておかれる大前田であった。
誤字報告、ありがとうございました。
誤: 今回発動した影送りは、自身と相手に影【の】で出来た残像が見えるようになる能力である。
正: 今回発動した影送りは、自身と相手に影で出来た残像が見えるようになる能力である。
現在は修正済みです。