【本編完結】慟哭の龍【挿絵有り】   作:ロウシ

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第三話:絆

1.

 

 

 刃牙の後頭部に伽羅の蹴りが落ちる。

 刃牙は身を捩りながら立ち上がり、かろうじてそれを躱した。

 体勢を整えて向き直るが、その正面すぐに、伽羅の威圧的な顔がある。

 踏み込みがそのまま震脚になっている。

 刃牙が胸の前で腕をクロスした。

 そこを、伽羅の裡門頂肘が撃ち抜いた。

 刃牙がガハッ、と詰めていた息を吐く。

 防御を貫く一撃だった。

 伽羅は止まらない。

 左右のパンチの乱打、狙いは全て急所である。刃牙は最初、後退(さが)りながらもそれに応対した。

 防御に全力を注ぐ。刃牙の意気を挫かんと、伽羅の攻撃はさらに激しくなっていった。

 

「刃牙ィィッッ!!」

 

 観客の声援には、歓声と悲鳴が混じっている。

 地下闘技場チャンピオンがこうも見事に追い詰められるとは。

 その声に応えるように、あるいは心配を吹き飛ばすかのように、伽羅の間隙を突いた刃牙のハイキックが伽羅の側頭部に炸裂した。

 が──

 

「ま、また『消力(シャオリー)』かよッッ!!」

 

 加藤がぼやいた。

 刃牙のハイキックで、伽羅は大袈裟に吹き飛んだ。

 しかして、その宙空姿勢はまろやかさを発する見事な脱力が為されていて、刃牙の反撃が一切の効果を失わされていることが容易に見てとれた。

 

「イヤ、あれはワザとだよ」

 

 獅子尾龍刃が言った。

 本部以蔵がうん、と頷く。

 どういうことかと加藤が尋ねたので、龍刃は説明を続けた。

 

「刃牙くんは伽羅に消力をやらせることで、勢いを削いだんだ。だから、ワザとってぐらい強く打った」

 

 あわよくば、消力に失敗したならそのままKOすることすら狙っていた、刃牙の強かな反撃だと、獅子尾龍刃は嬉しそうに言う。

 加藤が闘技場を見る。

 伽羅は大袈裟に跳んだ分、刃牙との距離が空いている。

 その間を利用して、刃牙はふた呼吸半身体を整えることに成功していた。

 刃牙の体内、肺に酸素が送り込まれ、血流がしなやかに全身をめぐり、痛みとともに逸る気持ちを抑えているのが加藤にも理解(ワカ)った。

 

 伽羅は攻撃の手を止めた。

 また、ハンドポケットの状態で立っている。

 

 さて、どうするか、範馬刃牙。

 加藤は考えていた。

 自分だったら、アレをどう破るか?

 アレが、居合術と同じ技術による後の先であることは、先ほどサラリと本部以蔵が解説していた。

 つまり、あの姿勢で『待ち』に徹されると、そう簡単に崩すことはできない。

 かといって、力づくで破ろうにも、伽羅には『消力(シャオリー)』がある。だから単に力を込めただけのビッグ・パンチはなんら意味がない。

 なら──音速拳か。

 加藤の脳裏によぎる回答は、愚地克巳の必殺技であり、今隣に突っ立っているキー坊が、一回戦でさんざ披露したワザだった。

 だが、アレはおれには打てない。

 もちろん、刃牙にも打てないだろう。

 では、どうするのか──?

 

 加藤の考えがまとまらない中で、刃牙は深く身を沈めた。

 前屈みになり、頭を肩より下に置き、両手を地面に着けて、そこから伽羅を睨め上げている。

 陸上のアレだ。

 クラウチング・スタート。

 だが、この場は陸上競技ではない。

 ならば、刃牙のやろうとしていることは、タックルだ。

 なるほど、と加藤は膝を打った。

 刃牙はかつて、神心会トーナメントで末堂と戦った時、全身で思い切りぶつかり顔面を打たせることで、逆に末堂の拳を破壊していたことがある。

 アレをやろうとしているのか。

 流石だぜ、範馬刃牙。

 讃嘆の想いと共に、嫉妬心が湧く。

 どうしておれは、アレを考えなかったのか、と。

 

 加藤の考えと同じことを、伽羅は察していた。

 全身でぶつかる。

 拳で迎撃されても、構わずそのまま突っ込んでいく。

 あわよくばそのままマウント・ポジションに移行して、有利を取る。

 そんなとこだろうと。

 甘い──

 伽羅は内心で吐き捨てた。

 自分は、抜拳術から、相手に触れた瞬間に浸透勁を撃てる。

 それを、カウンターで頭に打ち込めばどうなるか?

 もちろん伽羅の手は無事では済まないかも知れない。

 だが、それは伽羅が刃牙の脳を、直接殴れるも同然だ。

 一撃で終わらせられる。

 そして、範馬刃牙を倒するための代償が拳ひとつと言うのなら、それは破格のリターンだ。

 こい、範馬刃牙。

 伽羅の集中力は、殺気は、さらに鋭敏に研ぎ澄まされていった。

 

 刃牙がスタートを切った。

 強い蹴り足で、闘技場の砂が塊となって激しく跳んだ。

 速い!

 ──が、頭を打ち抜くのに問題はない。

 刃牙の頭上に向かって、伽羅の抜拳術が奔った。

 伽羅の拳は、刃牙の身体をすり抜けた。

 

「──!!」

 

 伽羅はすぐさま見上げた。

 刃牙が宙空に跳び上がっていた。

 すぐさま、刃牙の真の狙いを伽羅は見抜いた。

 チッ、と舌打ち、伽羅は拳を戻しポケットから手を抜き、頭上に腕をクロスさせた。

 刃牙が右拳を振り抜いた。

 伽羅の防御に吸い込まれるように、鬼の一撃が放たれた。

 伽羅の腕の骨が軋む。

 筋肉がすり潰される感覚があった。

 だが、防御(ふせ)いだ──

 いや、刃牙の攻撃は終わっていないッッ!!

 刃牙は、右拳を戻さず開き、伽羅のクロスした腕に引っ掛けた。

 それを支点に身体をぐるりと遠心力を持たせて伽羅の懐の奥に滑り込み、そのまま右腕をつかえにして伽羅の両腕を遮った。

 着地から充分に態勢を整えて、呼気を強く吸い、ガラ空きのボディに左拳を身体ごと突っ込ませた。

 どんっ、と重い音がした。

 抜拳術も意味を成さず、消力も使えない状態にした上での渾身の一撃。

 たまらず、伽羅の身体がくの字に曲がって後方に飛び、呻いた。

 刃牙の顔には、小憎たらしいほどの童心の笑みが浮かんでいた。

 

 

2.

 

 

 刃牙の攻勢が開始(はじ)まった。

 刃牙は、伽羅の肉体の中心線へと潜るように踏み込んでいく。

 伽羅が迎撃のために拳を出すも、それが肩口を過ぎる出鼻には刃牙の手に外受けで捌かれ、開いたボディに刃牙のコンパクトにまとめられた左ジャブが突き刺さる。

 拳を引きつつ打ち込まれたコンビネーション。二打目の、右のショートアッパーには庇い手が間に合うものの勢いを殺しきれず、顎にダメージが通っていた。

 つまり、脳が激しく揺れてしまっている。

 

「バ・キ・!」

「バッ・キ・!!」

「バッ・キッ・!!!」

 

 刃牙の攻めに呼応して、観客が名を叫んで騒ぎ立てる。

 それほどに、刃牙の優勢は明白であった。

 声援を受けて、刃牙の肉体はさらに脈動していた。

 伽羅の右ストレートを、刃牙が高く飛び上がって躱した。

 身体を捻っている。

 伽羅の顔に、刃牙の飛び後ろ回し蹴りが突き刺さった。

 

 加藤が思わず「よぉしッッ!」とガッツポーズを取った。

 キメのシーンに観客が立ち上がって足踏みした。

 

 しかし、本部以蔵と獅子尾龍刃。 

 控室の愚地独歩は暗い顔であった。

 

 

3.

 

 

 ふわり、とした感触であった。

 刃牙の感じる手応えが、である。

 

 しまった──ッッ!!

 

 調子に乗って攻めすぎた。

 大ぶりの大ワザ。

 狙われた。

 間違いない。

 伽羅は、

 最小の動きで、

 最小の効率でッッ!

 ()()()()()()()()消力(シャオリー)』を使っているッッ!!

 

 いつのまにか、乱打の中では『消力(シャオリー)』は行使(ツカ)えないと思っていた。

 筋肉が過度に緊張した状態から、脱力に移行する落差、その行程は、伽羅にはできないものだと──それを使用(ツカ)えるなら、とっくに行使(ツカ)っているはずだと──思い込んでいた。

 

「ヤべ……」

 

 という声が、刃牙から溢れた。

 その瞬間には、伽羅の左手に蹴り足の右が巻き取られ、引き寄せられる肉体──顔面に向かって、伽羅の打ち下ろし気味の右拳が撃ち抜かれていた。

 

 

4.

 

 

 強い。

 こうこなくてはならない。

 シンプルなスペック、特に速力の勝負では分が悪い。

 伽羅の肉体は刃牙を打つ度に、刃牙に打たれる度に、溌剌とした歓喜が迸って仕方がなかった。

 範馬刃牙は強い。

 だからこそ、血が熱い。

 滾る。

 沸騰するほどに熱い。

 その熱に突き動かされる。

 殴らないと爆発しそうなほどだから、打たれてなお手が止まらない。

 だが──我慢した。

 打たれても、我慢した。

 渇望と灼熱に身を任せ、真に爆発することだけは我慢した。 

 範馬刃牙は、御しきれない力で殴りつければ、嬉々としてカウンターを振ってくる。

 あの一回戦。

 みごとなカウンターだった。

 宮沢熹一の『幻突』の、カウンターに対するカウンター。

 範馬刃牙に、微かでも冷静さが残っていれば、あの精度で返し技が打たれる。

 だから、調子に乗らせることにした。

 普段なら、こんなことは絶対にやらない。

 多少の計算はあれど、ありのままに力を解放する。

 強者とは耐えぬもの──

 なぜなら、強者とは殺す者であって、殺される者ではないからだ。

 その軸はぶれない。

 バアさん曰く、「それはいずれ自壊する生き方」らしいが、真に強ければそれもないことは、範馬勇次郎が証明している。

 

 だが、俺は耐えた。

 なんのために?

 無論、勝つために。

 だれのために?

 無論、俺のために──

 脳が揺れる。

 強いな、範馬刃牙……

 今のは、効いた。

 膝が笑う。

 腰が砕ける。

 口内に血のにおいと、鉄の味が満ちる。

 俺は、何のために耐えている?

 俺は、誰のために耐えている?

 

 ──伽羅さん。

 

 ああ、そうか。

 オマエか。

 オマエがいたか。

 

 伽羅さん。

 

 もうひとりの『強者』が、俺を呼ぶ。

 そいつは、俺を見ている。

 そいつが、俺を見ている。

 そいつの口が開く。

 意図も純に作られた声で、言う。

 

 俺は、伽羅さんを信じてるから──

 

 嘘喰い。

 

 そんなことは、知ってるよ。

 

 

5.

 

 

 刃牙が頭から崩れていった。

 かろうじて意識はあるようだが、今の刃牙の景色はことごとく歪み、ドロドロになっていることだろう。

 しかし、伽羅が立ちすくみ、追撃しない。

 伽羅もまた、脳にダメージを負っている。

 後ろ回し蹴りを完全に殺しきれていなかったのだ。

 だから、今踏み込めば、そのまま倒れてしまうだろう。動かないのではなく、動けないのである。

 

 ふたりは素早く息を整えていく。

 鼻から太く吸った息を、口から細く吐き出している。

 三鷹花が息を呑んでいる。

 愚地独歩が表情を厳格に引き締めている。

 本部以蔵が冷や汗を垂らしている。

 加藤清澄が固唾を飲んでいる。

 闘技場を俯瞰する、獅子尾龍刃の眼が燃えていた。

 

 斑目貘は、

 静かに、

 ひと言だけ──……

 

 伽羅が動き出した。

 微かに遅れて、刃牙が跳び上がった。

 

 格闘士も観客も、わずか数呼吸分しかない、最後の攻防に見入っていた。

 

 

6.

 

 

 刃牙が跳び上がり、そのままハイキックを放った。

 伽羅がそれを掌で受けた。

 蹴り足を素早く戻した刃牙が、肩を大きくいれた。

 鞭打──!!

 伽羅は、最速の左の縦拳で刃牙の顔を狙い撃った。

 大きく弧を描く鞭打と、最短距離をまっすぐ走る縦拳では、僅かに後出ししても、後者が先に当たる。

 伽羅の目論見は最適解を踏んでいた。

 

 しかし、今宵の相手は天才。

 範馬刃牙であった。

 

 刃牙の、極端に()()()()()()手が、腰や足を介さずに、波打ってから鋭く伸びた。

 速い。 

 あまりにも超速の拳であるからに、相対する伽羅には何も見えなかっただろう。

 それは、一回戦で宮沢熹一が散々刃牙に奮ったものだった。

 刃牙が己の身体で味わい、覚えた音速拳であった。

 

 それは灘神影流の打ち方である。

 その名を『超鞭打ち』という。

 

 それが、伽羅の顎を跳ね上げた。

 脱力など間に合うはずもない。

 しかし、伽羅の拳が止まっていない。

 恐ろしいことに、伽羅の意識は踏み堪えていた。

 

 伸び切った刃牙の腕。

 ガラ空きになった胴体。

 伽羅に極度の緊張が走った。

 返しの右拳で心臓と顎を打つ。

 接地したまま、強く地面を踏んだ。

 意識が飛んだと思っているだろう、刃牙の隙をつく、必ず当たるはずの一撃──!!

 

 しかし、伽羅は見た。

 刃牙の、身体の後方に控える握り拳を。

 その拳が、また、マッハの速力で向かってきているのを。

 そして、覚った。

 しまったと思った。

 己の肉体は、今、過度の緊張によって固まってしまっている!!

 時間が果てしなく緩やかに感じていた。

 それは、伽羅の覚悟故の時間の弛緩であった。

 これに耐えれば、この拳が返しの一撃となり、カウンターになる。

 耐える。

 頭の中に嘘喰いがいる。

 嘘喰いが微笑(わら)っている。

 嘘喰いが隣を空けている。

 俺の場所を──

 

 俺は確信する。

 耐える。

 何があろうと、これには耐える。

 耐える。

 耐え──……

 

 

7.

 

 

 その拳は音速拳であった。

 だが、それだけなら、伽羅はきっと耐えていただろう。

 刃牙の身体が、刃牙の拳が、伽羅の胸を穿った瞬間に、ピタリと静止した。

 マッハの勢いが、急ブレーキという表現でも追いつかないほどに、ピタリと止まった。

 刃牙を知るものは、このワザを知る。

 

 剛体術──

 

 かつて、鎬紅葉の筋肉の防御を破った技。

 インパクトの瞬間、肉体の全関節を同時に静止させ、拳の破壊力に己の体重をそのまま上乗せする絶技。

 それを、刃牙はマッハの力を基盤に振るったのである。

 

 超絶の破壊力が伽羅の胸を貫いた。

 打たれた瞬間に、内臓はこぞって暴れ出し、血流は爆発するほど乱れ、伽羅の意識は遥か遠方に飛んでいることだろう。

 

 誰もが刃牙の勝利を確信した。

 ただ、ひとりの男を除いて。

 

 その男の声に誘われるように、伽羅が動いていた。

 信じられない光景だった。

 血を吐きながら、きちんと焦点の合った眼で、伽羅の肘が固まった状態の刃牙の心臓を強く打った。

 刃牙はたまらず吹き飛び、倒れた。

 

 にこりと、誰かが笑っていた。

 

 

8.

 

 

 ああ、どうなった?

 試合は──

 範馬刃牙が倒れている。

 ……そうか。

 俺の勝ち、か。

 

 なら、もういいな。

 血も、すっかり冷めてやがる。

 なら、もういいか。

 少し……休むとしよう。

 少し休んだら、また、次の試合がある。

 それまでは、腰を下ろして、休むとしよう……

 

 照明が、やけに眩しい……

 

 …………

 ……………………

 

 

9.

 

 

 刃牙が見下ろしていた。

 闘技場の柵に腰掛けて、動かなくなった伽羅を。

 切ない視線であった。

 『勝負あり!!』の太鼓が鳴った。

 伽羅は大急ぎで担架で運ばれた。

 

 その寸前、刃牙は祈るように顔を俯かせていた。

 

 強かった──

 

 そう思う。

 忌憚なく言えば、意外な強さだった。

 最初は、親父のようなタイプだと思っていた。

 醸す雰囲気、過剰な殺気、自負心の強さ。

 どれもが父、範馬勇次郎を想起させうるものだった。

 

 ところが、打ち合ってみて、まるで違うと理解(ワカ)った。

 才能と暴力に溺れた漢の拳ではなかった。

 己の中に、己しかいない漢のタフさではなかった。

 その拳は場数と鍛錬で磨かれた拳で、

 その肉体は、自負心以上のタフさだった。

 ああ、この人もそうなんだ。

 刃牙は確信していた。

 確信しているのだ。

 きっと、伽羅さんにも、強くなる理由があって──

 きっと、それは、誰かのためなんだと。

 愛じゃないかもしれない。

 友情とも違うかもしれない。

 だが、確かな繋がりのために。

 繋がりを保つために。

 誰かとの繋がりが、伽羅の拳と肉体に、本人を超えた力を与えていたんだと──

 だから、渾身の力で比較(くら)べあった。

 

 今回は、おれが勝てた。

 でも、最後の最後、それが理解(ワカ)ってなかったら──きっと、俺が負けていた。

 

 感謝が溢れていた。

 感謝で溢れていた。

 

 刃牙が、静かに闘技場を後にした。

 自らのことのように喜ぶ加藤に、

 

「辛気臭いカオしてんじゃねェーよ!」

 

 とこづかれて、刃牙は微笑を浮かべていた。

 

 

 

 二回戦第一試合:勝者、範馬刃牙!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10.

 

 

 

 よろしかったのですか?

 

 という夜行の問いを、貘は黙って断ち切った。

 夜行の提案は、これから姿を消すだろう伽羅を、立会人たちで追跡……監視することだった。

 実際には三鷹花がもう動き出しているが、あくまで個人の動きであり、それはお屋形様である斑目貘の権威の範疇外の動きである。

 

 貘の瞳を、後ろに立つ夜行はそのままで覗き込んだ。

 微かに潤んでいる……ようには見えるが、それがどういう感情からそう見るのかは推察できない。

 

 ただ、斑目貘が、()()()()()()()()()()ことは確かだった。

 

 夜行の疑念を払拭するように、小さな声で、貘が言った。

 

「大丈夫」

 

 続けた。

 

「俺は、伽羅さんを信じてるから──」

 

 夜行は口を閉ざした。

 軽薄な、自身の振る舞いを密かに恥じた。

 

 貘は、こう言いたいのだと理解したからだ。

 

 俺は、伽羅さんを信じてる。

 伽羅さんは──俺が必要とする時に、必ず隣に立ってくれている。

 

 だから、大丈夫なのだと。

 ここで伽羅が消えても、大丈夫なのだと。

 

 情か、策謀の一環か。

 貘は()()()を見据え、

 夜行は硬く、口を閉ざしていた。

 




次回、二回戦第二試合開始ィィッッ!!
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