【本編完結】慟哭の龍【挿絵有り】   作:ロウシ

110 / 112
6/23 誤字修正 報告ありがとうございます


第二話:小春日和

 

 

 

1.

 

 

 獅子尾龍刃と向き合う時間というものを、羽柴彦六は極力、減らそうとしていた。

 それは、物理的な意味で、である。

 獅子尾龍刃が間合いを──この巨体にして、なんと静かに──詰めるたびに、彦六の足がするりするりと龍刃に向かって、斜めの角度に逃げていく。

 死角となる角度に入ると、彦六は容赦なく龍刃の身体を打った。

 龍刃は、自らの太すぎる肩や腕のせいで彦六を見失っているのか、全く防御ができない。

 ようやくパンチを出した時には、羽柴彦六は既に逆サイドに滑り込んでおり、龍刃のふくらはぎにつま先を固めた蹴りを打ち込んでいた。

 

 硬い──

 というのが、打つたびに、蹴るたびに、彦六の手足が伝えてくる。

 弾力のある硬さであった。

 打った部分が、打たれる瞬間に盛り上がって、強い熱を放ちながら、手足を押し返してくる。

 獅子尾龍刃の肉体は、分厚い岩に、バカでかいゴムを被せて圧縮したような重さがある。

 間違いなく、プロレスラーの肉付きであった。

 獅子尾龍刃。

 幼い頃から力剛山の下で鍛錬を積み、その過程で殴られ蹴られ、肉を分厚くしていった男だ。

 全身が『殴られる』ということへの耐性を付けた肉である。

 普通に鍛えたら筋肉がつかない場所でさえも、分厚い肉が、かさぶたのように被さっている。

 無類の打撃耐性であった。

 それは、内臓にも及んでいる。

 羽柴彦六は、なん度かは浸透系の打撃も当てているのだが、やはり、打を当てた瞬間に、龍刃の体内の『熱』が盛り上がって、彦六の発勁を押し返してくる。

 肉が強靭。

 内臓も強靭。

 骨も、この骨太さだ。

 ほれぼれするような強靭さ(タフネス)であった。

 

 ぶおん、

 なんの音か?

 パンチの音だ。

 無造作に、顔に向かって振り抜かれた、見え見えのテレフォンパンチ。

 巨大な石のような拳が、彦六の顔を横切る。

 彦六の髪の毛先がぢりぢりと焦げている。

 当たってすらいないというのに、姿勢を崩しそうになる大迫力である。

 覚悟を持って対峙しなければ、このパンチの雨あられに筋肉が知らずと緊張して、次の行動が半歩分遅れてしまうだろう。

 まっすぐに向かってくる、山のような圧力を、彦六は受け流す。

 心臓が激しく動悸していた。

 スリルに溢れすぎている。

 あの一発、どれが、どこに当たっても、悶絶してのたうち回る予感がある。

 鉄壁のタフネス。

 無双の怪力。

 それが、己の力を自覚して、適度な距離感とタイミングを測りながら、じりじりと迫ってきている。

 どうすればいいのか?

 こうする。

 獅子尾龍刃の前足に、ほんのわずかに力が込められた瞬間に、自分の足を外側から引っ掛ける。

 自分の足と、龍刃の足のが触れ合う。

 龍刃の足は、太い幹のように動かない。

 それを利用するのだ。

 そこを起点に、肩から龍刃の側面に入っていく。

 龍刃のパンチが肩の上を走る。

 空気を焦がし、彦六の頭のあった部分に拳が届く。

 その時に、伸ばされた腕を自らと龍刃を隔てる壁として扱い、脇の下、肋骨と脇腹を側面から強く打つ。

 龍刃の足を崩すのは無理だった。

 ふくらはぎを上から強く踏んでみたのだが、普通は足の筋骨の構造上、それで人間は絶対に膝をつくはずなのに、龍刃の足はビクともしなかった。

 手が伸びてくる。

 開手している。

 掴みにきた、左手だ。

 これを、ぐるりと身体を回して避ける。

 と、

 

「そう、いつまでも逃げられないぜ」

 

 龍刃の右手が、彦六の逃げる先を襲った。

 こちらも開手している。

 掴み手だ。

 今の彦六は上半身裸である。

 彦六の顔を、龍刃の手が掴んだ。

 

「おいしょおっ」

 

 体落とし。

 右手だけでやった。

 彦六は空中で素早く身体を回転させ、龍刃の腕から逃れる。

 

 両足で着地し、距離を取る。

 確信できた。

 龍刃の右腕は、やはり、力が入らないのだと。

 掴むとか、牽制のジャブを打つとか、そういうことはできるが、逃げられないほど強く掴むとか、決定打になるほどのパンチは打てないのだ。

 

「フフ……」

 

 龍刃が笑った。

 太い笑みであった。

 

「バレちまったみたいだね……」

 

 怖い口調であった。

 自らの弱点を知られた、敵に対して向ける表情ではない。

 眼が釣り上がっている。

 強がりには到底見えない。

 ぞくりとしたものが、彦六の肚(はら)を撫でた。

 

 

2.

 

 

「問題はなさそうだな」

 

 加藤清澄の言葉であった。

 安堵の意気があった。

 範馬刃牙が頷いた。

 ふたりともに、獅子尾龍刃の右腕を心配していたが、目の前の光景を見るに、まるで無用だったと悟った。

 しかし、恐ろしい強さである。

 獅子尾龍刃は、特別なことは何もしていない。

 ただパンチを出して、掴んで投げている。

 それだけだ。

 複雑なワザのやりとりなど全く挟まらない。己の肉体の頑強さを十全に活かした闘法だ。

 あれは、おれにはできない。

 生まれついて肉体に恵まれた者だから、ああいう闘い方ができる。

 なればこそ、加藤清澄の意識は羽柴彦六に向けられる。

 次の試合、加藤の相手はあの花山薫である。

 花山薫もまた、獅子尾龍刃同様の怪力とタフネスを誇る、同タイプのファイターだ。

 そして、羽柴彦六は身体も小さく小技から攻め入る、自身と同タイプのように見える。

 ならば、ここで羽柴彦六が獅子尾龍刃をどう崩すか──というのは、参考になるはずだ。

 

「刃牙よ、おめえだったら、オッサンをどうするよ?」

「…………そうだなあ」

 

 らしくもなく、刃牙は悩んでいるようだった。

 対巨人となれば、かつてマウント斗羽に仕掛けたような、膝を狙って壊す戦法がセオリーではある。

 しかし、獅子尾龍刃は打撃力も超一流のそれだ。

 松尾象山と真っ向から殴り合いができる男なのである。

 オマケに龍刃は組み技、寝技もできる。あの体躯に、あのパワーだ。掴まれて寝技に移られたら、もうどうしようもない。

 羽柴彦六が常に死角に動き回り、急所を狙いながらも、打撃を一、二発で終わらせるヒット・アンド・アウェイをやっている理由がまさに、龍刃に掴まれないためであった。

 

「楽しいね、加藤さん」

 

 刃牙が言った。

 自分だったらどうするか?

 それを考えられるのは、余裕が生まれているということ。

 攻略のしがいがあればあるほど、対策を練るのは楽しい。

 この高い壁を、もし自分が打ち崩した時に、見える景色はどんなものであろうか?

 

「まあ、おれたちは、まずは自分の相手のことを考えなきゃね」

 

 刃牙の戒めの言葉に、ああ、と加藤は頷いた。

 

 わあっ、と闘技場が湧いた。

 ふたりが視線を移す。

 

 ふたりの視線の先、羽柴彦六を目の前に立たせた獅子尾龍刃が、膝と手をついて、崩れているのだった。

 

 

3.

 

 

 ダウンの一撃は、顎だった。

 拳ではない。

 打ち抜くでもない。

 顎先を掠める掌打である。

 

 羽柴彦六の右腕を、獅子尾龍刃の左手がとうとう掴んだ。

 力を込めていた。

 ガッチリとホールドされて、到底逃げられない。

 龍刃が投げに移行する刹那の瞬間、彦六の身体は龍刃の懐に潜り、コンパクトにまとめた左の掌打を顎に打ったのである。

 それで、崩れた。

 龍刃の脳は、今、ぐらぐらに揺れている。

 視界に入るものが、うねうねと蛇やミミズの歩みのように歪んで見えていた。

 

 目の前で、彦六は地面を蹴った。

 余力を持って、体内の力の流れを整えてから、龍刃がさせまいと膝立ちのまま飛び跳ねてかかってきたその顔を、左右から手で挟み込んだ。

 

 双勁──!!

 

 龍刃の頭がぶるりと震えた。

 眼から、耳から、鼻から、口から泡立った血が、ぶくぶくと滲んでこぼれ出てくる。

 龍刃が顔から突っ伏した。

 彦六は後退りする。

 獅子尾龍刃の手が届かない距離まで下がる。

 そして、

 

「しっ」

 

 と気合を入れて、後頭部に蹴りを撃ち落とした。

 

 

4.

 

 

 形成逆転かッツ!?

 観客が声を張り上げる。

 歓喜と称賛の大きさが、この場面がいかに、前評判を覆しているのかを現していた。

 

「彦六さんッッ!!!」

 

 鳴海が彦六の名前を叫んでいた。

 加藤と刃牙が呆然と目を見開いている。

 

 獅子尾龍刃の手がだらしなく伸びていた。

 見るに、全身から力が抜けている。

 

 勝負ありか?

 審判たちがざわついた。

 

 羽柴彦六だけが、表情に不安を織り交ぜて、獅子尾龍刃を見下ろしていた。

 

「獅子尾さん」

 

 言った。

 

「おれを、プロレスに巻き込むつもりですか?」

 

 彦六の言葉は小さく、観客の声にかき消されているも同然であったが、控室で並んでモニターを観る、斗羽正平と猪狩完至だけは、彦六の呟きにニヤリと口角を持ち上げている。

 

 獅子尾龍刃の右腕が伸びる。

 天井に向かって。

 それが折りたたまれて、地面を強く押す。

 左腕も伸びて、曲がって、そのまま龍刃は起き上がった。

 何事もなかったかのように。

 

「いやァ〜……」

 

 眼からも血を流しているし、

 耳からも、口からも、鼻からも血が滴っている。

 それらを流しっぱなしのまま、なんともないように、龍刃が顔を上げて、彦六を見た。

 

「ネタバラシはダメだぜ、彦六くん。お客さんがこんなに盛り上がってるのに、冷めちゃうだろ?」

 

 龍刃は血を拭った。

 健全健康な顔が、血の下から現れた。

 

 観客の騒ぎ方が変わる。

 驚愕と、これはこれで、別種の歓喜が入り混じる。

 彦六は苦笑した。

 

 どうすればいいのか、この男を倒すには。

 

 

5.

 

 

 彦六からつっかけた。

 パンチにもキックにも、細かいフェイントを入れている。

 龍刃の受けを、意識を、ほんのわずかにズラすためだ。

 まともにやったらダメージが通らない。

 わずかでもダメージを累積させる。

 見た目には効いていないようだが、双勁を頭に受けたのだ。

 衝撃は脳を揺らし、まだ、体勢が整っていないのは間違いない。

 休ませない。

 ここで怯んで時間を与えれば、もう、勝ち目はないだろう。

 追い詰められてから──逆転。

 それがプロレスだ。

 獅子尾龍刃の、力剛山系譜のプロレスラーだ。

 惑わされてはいけない。

 相手にターンを渡してはいけない。

 打つのだ。

 ほんの少し、タイミングをずらす。

 ほんの少し、角度をつける。

 パンチが目の前を切る。

 ぶわりと汗が吹き出した。

 なんと恐ろしい。

 だが、恐ろしいからって、足を止めちゃいけない。

 この恐ろしさを、武術家とは、楽しまなければならない。

 ギリギリのやりとりを楽しむ。

 思い出す。

 脳裏をよぎる。

 久我重明との死闘だ。

 お互いがそうなってもいい──

 そういう想いでいるから、相手のいちばん恐ろしい部分を受け止める。

 その覚悟でやる。

 自分では、獅子尾龍刃の命を脅かす存在にはなれないだろう。

 だが、勝ち負けを競う相手にはなれる。

 重明とだってそうだった。

 相手を殺すとか、殺されるとかは、結果論に過ぎない。

 相手に負けたくないから、武術をやっている。

 相手をやっつけたいから、武術をやっている。

 どんなに取り繕っても、自分は、羽柴彦六は、そっちの側だ。

 だが、獅子尾龍刃は、違う。

 たぶんだけど、違う側にいる。

 その違いが、うまく言えない。

 殺すか、殺されるかという次元じゃない。

 勝ちたいとか、負けたくないとか、そういう領域でもない。

 かといって──範馬勇次郎的な、純度が高いワケでもない。

 不思議な男だな、獅子尾龍刃。

 そういう男と繋がれるのが武術だとすれば、武術はやっぱり、悪くないんじゃないか?

 

 今の世に殺人術など必要なのか──?

 

 そういう問いが、ずっとあった。

 いつしか、そういう考えが芽生えていた。

 武術は、スポーツへと進化を遂げた。

 ボクシングや柔道や空手となり、殺しワザを削ぎ落として、テレビで流せるようなモノに、変化していった。

 それでいい。

 彦六はそう思っている。

 それは進化だからだ。 

 ひとの世で、必要なものが残り、研ぎ澄まされていく。

 古いものは、新しいものによって、だんだんと消えていく──

 それは、世の理だ。

 社会というシステムが、アップデートされていくために、必要なことだ。

 使われない技術があっていい。

 忘れ去られて当然だ。

 

 そういう想いが、今、獅子尾龍刃の肉を打つたびに、掠れていく。

 消えていく。

 

 あのワザを使っていい──

 彦六の鉄槌が、龍刃の太ももの内側を強く打った。

 このワザはどうだ、効くでしょう?

 彦六のアッパーが、体内を巡るエネルギーの全てを掌に集約させて、龍刃の顎を打ち上げる。

 常人なら顎が砕け、首の骨が外れて、内在筋がちぎれてしまうものだ。

 しかし、獅子尾龍刃!

 受けきっている。

 そして、返しの一撃を、ボディに貰う。

 無造作な左フックだった。

 重い──ッッ!!

 重すぎるッッ!!

 身体を捻って幾分か衝撃を逃したはずなのに、胴体を内臓ごと、ごっそり剥ぎ取られた錯覚を覚える。

 悶えながら、左手首を掴んでひねりながら、歩を前に進める。

 大きく踏み出して、龍刃の重心を地面から引き剥がす。

 柔法であった。

 そのまま、ひっくり返る姿勢のまま、後頭部から地面に叩き落とす。

 加減しても、ひとが死ぬワザだ。

 だが、受け身も取らない獅子尾龍刃の眼が、下から、照明の光を跳ね返してギラリと光っている。

 

 気を使う必要などない──超絶の肉体。

 

 彦六の身体のなかで、風車が回っている。

 彦六から生まれる熱に誘われて、風車が廻っている。

 力が、どんどんみなぎっていく。

 その力を、どんどん解き放つ。

 羽柴彦六の肉体が、輝いているようだった。

 これは、小周天の法ではない。

 だが、それに限りなく近い錬功が、自然と彦六の体内で練り上がり、肉体のポテンシャルをどんどん引き出しているのだ。

 

 そして、獅子尾龍刃は、それを受けきっている。

 なんという包容力なのか、獅子尾龍刃。

 

 見てるか、鳴海。

 見てるか、完さん。

 見てるか──重明。

 

 こういう男がいるんだ。

 奇跡のような男が。

 前は、武術をやっていて、おれは死に様しか見せられなかった。

 虚しくとも、そうするしかないと思っていた。

 だが、こういう男が、いる。

 生きていれば、こういう男に出会えるんだと、おれ自身が、今、教わっている。

 己の全てを使って、相手──強くなるための努力とか、我慢したこととか、人生とかを──否定するはずの武術の中で、ヒステリックな彼女を諌め、抱きしめ、愛し抜くような男がいるんだと。

 こういう生き様を、させてくれる男がいるんだと──

 獅子尾龍刃──

 あなたに感謝している。

 謝りたいと感じている。

 あなたに振るう拳も、蹴りも、全て、ひとを殺しうるシロモノだ。

 あなたの包容力に甘えて、つけ込んで、おれは今、腕の中で暴れ回っている。

 見ろ、鳴海。

 烈海王もそうだった。

 この獅子尾龍刃もそうだ。

 おれより恵まれていて、おれより強い。

 そんな男を相手に、どうだ。

 武術をやってると、こういう風に語り合えるんだぜ。

 武術をやってなきゃ、こういう男とは、出会えなかったんだぜ。

 

 嬉しいよなあ。

 嬉しい。

 楽しいよなあ。

 そうさ、楽しい。

 

 ありがとう、獅子尾さん。

 強い男でいてくれて。

 あんたとやりあえるなら、風だって足を止めちまう。 

 手が、足が止まらない。

 夢中にさせてくれる。

 そうさ、おれたちは繋がっている──

 

 

6.

 

 

 羽柴彦六が、あんなに必死になっているのは初めて見たかもしれない。

 鳴海は夢中だった。

 羽柴彦六という男に、改めて目を、心を奪われていた。

 首を掴んで、膝蹴りを打っている。

 なん度もなん度も、いっぱつごとに獅子尾龍刃の首から下が震えるほどの力で。

 ふりほどかれる。離れる。

 彦六が身体を縮こめて、ものすごい勢いで右拳を出し、突進する。

 胸に、拳がめり込む。

 めり込んだまま、そこからさらに、踏み込む。

 龍刃がぐうっ、とうめく。

 それだけで済ませるのか、この男。

 なんという男だ。

 彦六が全力で打っているのに、それを全て、受け止めている。

 

 控室でアントニオ猪狩が笑っていた。

 マウント斗羽が、笑っていた。

 

 懐かしい──

 獅子尾龍刃の姿形は、まるで変化っていない。

 だからか、そのままでいいんだって、思わせてくれる。

 あの姿を見ると、いつも思う。

 なぜだか、おれたちまで、変わらなくていいんだって、そう言ってくれているように思ってしまう。

 

 いけいけ彦六!!

 おせおせ彦六!!

 オッサン!!

 やれェ!! 龍刃!!

 彦六いけェーッ! 効いてるぞッッ!!

 

 観客が地団駄を踏み鳴らし、夢中になっている。

 会場そのものが、ひとつの大きな生き物のようにうねりをあげていた。

 

 彦六が押している。

 パンチを二発、そのうちの一発が、また、顎に入った。

 崩れる龍刃の身体──

 そこに、迎え入れるようなミドル・キック。

 

 まともに入った。

 すさまじい一撃。

 渾身の力、最善のタイミング。

 これ以上はない一撃!

 しかし──龍刃は動かなかった。

 恐るべき首の力で、彦六の全力の蹴りを受け止めていた。

 鼻血がぶぶりと出ていた。

 不細工な顔で、龍刃は笑った。

 彦六も笑っていた。

 

「イヤアァァアォッッ!!!!!」

 

 獅子尾龍刃の渾身の投げ。

 彦六が身体を丸めることすら許さない、俊敏にして獰猛たる投げ!

 範馬勇一郎直伝の、最強の投げが、決まった。

 

 彦六がごろりと仰向けになった。

 天井を見上げた。

 眼の焦点があっていなかった。

 意識がない──

 

 なのに、彦六の口角が緩やかに広がった。 

 端が、緩やかに持ち上がった。

 口から血が溢れたままになっていた。

 

 龍刃が残心に構えていたが、

 二、三歩と距離を取ると、両腕を持ち上げて勝利を舞った。

 

『勝負ありッッ!!』

 

 そのコールに、誰も文句を言わない。

 龍刃コールが湧き上がっていた。

 中には、"ドラゴン"や"アジアン"というコールも混じっていた。

 

 鳴海が彦六に駆け寄った。

 優しく持ち上げた彦六の顔は、満足そうに、微笑みを浮かべていた。

 

 

 

 二回戦第三試合:勝者、獅子尾龍刃!!

 

 

 

 




次回、二回戦第四試合開始ィィ!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。