【本編完結】慟哭の龍【挿絵有り】   作:ロウシ

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転章、はじまりはじまり〜
4/6 誤字修正 報告ありがとうございます(てかマッチをマッチョに書いてたの恥ずかしすぎる…!)


転章:『昭和の巌流島』
第一話:肥大化する怪物/プロレス


 

0.

 

 

 プロレスメーンエベンター、久隅公平は語る。

 

 

 それで、なんでしょう?

 取材ですよね。

 いや、聞いてますよ。

 それはわかってます。

 ただ、自分は、なんで()()()取材されるのか、わからなくてですね。

 

 だって、プロレスの話。

 プロレスの歴史について取材するなら、社長──アントニオ猪狩にしますよね、普通。

 確かに、おれは力剛山先生が生きてる時からプロレスやってるし、社長や斗羽さんに直々に鍛えられましたけど。

 なんでも、社長が言うには、今際の際の力剛山自身が、おれを鍛えるように、社長と斗羽さんに命令したらしいンですけどね。

 

 これ、世間じゃあアングルだと思われてるけど、事実ですよ。

 まあ、誰も信じちゃくれないですけどね。

 

 え?

 おれが、プロレスやり始めたきっかけ?

 それが聞きたいんですか。

 ン〜……

 いや、恥ずかしいことですよ。ホントに。

 でも、確かにそれなら、社長よりおれに聞いた方がいいかア。

 

 道場破りですよ。  

 あの頃、テレビでプロレス観た、自分が強いと思ってるガキの考えることなんて単純ですよ。

  

 プロレスに入門するか、

 プロレスをぶっ倒すか、

 

 いつの時代も変わらないンですよね。

 力ばっかり強い、乱暴者の考えって。

 

 『力剛山なんて、プロレスラーなんて、テレビで見せられる程度の戦いしかできない偽物だ。おれが、本当の戦いってモンを、力剛山に教えてやるぜ!!』

 

 って。

 バカですよね、ホント。

 力剛山が、プロレスをテレビに持ち込むまでに、一体どれほどの血と汗とカネが流れて、積み上がってたのか、ぜんぜん理解してないんですもん。

 

 有名どころで言うなら、毎朝新聞の子集院さん。力剛山がプロレスを立ち上げて、『昭和の巌流島』をやるまで、力剛を贔屓にしていた記者ですよ。

 ご存知でしょうけど、あのひと、自殺しましたからね。

 自宅で割腹したんですよ、日本刀で。

 力剛山に捨てられて、何もかも失っちゃったから。

 力剛にすごい額の金貸して、だけど返してもらえなくて、会社の損失の責任とか、全部背負わされちゃって、死んだんですよ。

 もちろんそれ、力剛山は見て見ぬふりですからね。

 葬式……行ったのかなぁ?

 そのレベルですよ。

 ()()()がなくなったから、力剛山、大恩あるはずの子集院さんを、あっさり捨てたんです。ヤバいでしょ?

 

 そんなヤバいやつに、腕っぷししか取り柄のない、頭の悪いガキが、敵うと思ってるんですからね。

 全部知ってる今となっちゃ、お笑い話ですよ。

 はは……

 

 と、すみません。

 話題がズレちゃいましたね。

 ああいや、まあ、おれもそんなバカなガキのひとりだったから、ズレてはいないのかな?

 

 まあ、言わなくてもわかるでしょうけど、おれ、ボコボコにされました。

 「何が起こっても責任は問わない」って、その場で誓約書書かされて、リングに上げられて、めっちゃくちゃにされましたね。

 投げられて、殴られて、挙句、腕壊されかけて。

 自分でも聞いたことない悲鳴上げた顔にローキック喰らって失神ですよ。

 ボロ雑巾にされて、でもおれ、悔しくて。

 でも、なんか、すげェ感動しちゃって。

 グッチャグチャの顔で泣きながら、その日に入門決めたんですよ。

 

 その時、相手してくれたのが"アジアン・ドラゴン"ですよ。

 そう、リュウさんです。獅子尾龍刃。

 よくご存知で。

 あのひと、あの時力剛山のとこで、『番犬(ポリスマン)』やってましたからね。

 

 リュウさん、もう、めっちゃくちゃ強かったです。 

 後々社長に聞いたんですけど、リュウさんの初試合──前座なのに、テレビ放送されたアレですよ。

 もう、あの試合のビデオ、どこにもないでしょうけど。あるとしたら……相当ヤバい連中が持ってるんでしょうね。

 まあとにかく、後で社長に聞いたんですけど、あの試合、プロレスじゃなかったらしいんですよ。

 真剣勝負です。なんせ、相手はヤクザお抱えの『壊し屋』だったらしくて、相当ヤバいやつだったんですわ。

 創作(アングル)だと思うでしょ?

 でも、おれは事実だと思ってます。というか、確信してます。

 なんせ社長。その縁がなんでか巡り巡って──その『壊し屋』の弟さんと、面識あるんですよ。

 

 おれも、社長に連れられて、何回か顔は見たことありますよ。

 一般知名度は無いですけど、格闘家の間じゃあ、結構有名な人で……

 え? 知ってる?

 そう、そうです。黒い男です。

 名前まで知ってるんですか?

 物知りですね。怖いですよ、ちょっと。

 そうそう。弟の方は、名前、久我重明っていうんですよ。

 兄貴の方……リュウさんの相手したのは、久我伊吉……だったかな?

 

 とにかく、あの男のヤバさときたら、半端ないですよ。

 おれは、兄貴の方には会ったことないんですけど、弟がアレなら、久我伊吉の方も相当ヤバいやつなのは間違いないです。

 

 ご存知かもしれないですけど、今、社長エラクってとこに行って、プロレスやってるんですよ。

 エラクレスリングのペールワンってのに、挑戦状叩きつけられたんです。

 真の格闘技ナンバーワンを決めるとかなんとかで。

 

 とにかく、社長が帰ってきたら、おれから話通しときますんで、また取材に来てくださいよ。

 

 おれ個人としても、リュウさんが今、どうしてるのか……気になってますからね。

 

 

1.

 

 

 夜であった。

 星の粒をたらふく飲み込んだ、闇の天幕が世界を包み、そこに包括されるふたりの男を平等に照らしている。

 男たちは向かい合っていた。

 ふたりとも、大きな男であった。

 

 場所は、神社である。

 そこは、戦後復興が進み、すっかり近代的な趣きを並べ始めた都心の片隅に、ひっそりと息を潜めるように存在していた。

 この場所は、時間に取り残されている。

 戦後一〇年を迎えんとする今日、日進月歩で騒がしくなっていく世俗に、染まることなくここにある。

 風が吹いている。涼しく、心に吹きかける風だ。

 リーン、リーンと虫の囁く音がする。男たちが向き合ってしばらくたち、思い出したように鳴き出した。どこか、遠い世界のことのように。

 この社を根城とする、忘れられた神だけが、あるいは、ふたりの男の行く末を見届けんとしているのかもしれない。

 

 

 ひとりは、大きな男であった。

 およそ、日本人の規格ではない。

 肉の塊──顔も、首も、肩も、腕も、手も、脚も、足も、指も、太い。

 唇も、髪すらも、吐く息すらも、太い。

 耳に掛かる程度に伸びた黒髪、ごろりとした双眸()が、闇に紛れる男の姿を捉えて離さない。

 黒く、強い眼である。

 命の力に溢れている。

 腰を落として、重心を前に、顔には獰猛な笑みを貼り付けている。

 戦う姿勢であり、これから戦うことを、喜んでいる顔であった。

 まだ若い。二十代にもならないだろう。

 タンクトップに、ゆとりのある白長ズボン。

 サンダルを脱ぎ、石畳の上で、裸足である。

 

 獅子尾龍刃であった。

 

 対する男は中肉中背──

 一見、肥満体に見える、ずんぐりとした体型である。

 しかし、ただの肥満(デブ)ではない。

 耳の下から顎のラインまでに、肉がついていない。顔立ちは、どちらかというと岩のような、角のある荘厳さを持っている印象があった。

 厳しい目が光っている。

 つまり、男が身にまとう空気──そしてワザとらしい脂肪は、磨き抜かれた筋肉の、その緩衝材として被せているものであろう。

 身長、体型、そして雰囲気。

 どことなく、シルエットが久我伊吉に似ている。

 ならば、当然見せかけだけの身体ではないし、見た目に騙されていい存在でもない。

 

 男は和服であった、袴を穿いている。

 鳶職の人間が身につける、いわゆる忍者ソックスに草履を履いていた。

 仁王立ちしている、それが、よく似合う男であった。

 

 名を、泉宗一郎と言った。

 

 古武術竹宮流を遣う、掛け値無しの達人である。

 

 このふたりが、この時、この瞬間に、なぜ立ち会っているのか──因果関係を遡るためには、いくつかのきっかけを知る必要がある。

 

 

2.

 

 

 まず、力剛山のプロレスチャンピオンリーグは大盛況で終わった。

 

 『プロレスチャンピオンベープ兄弟敗れる!』

 『新たなるスター誕生!! その名は"力剛山"』

 

 チャンピオンリーグ終了翌日の朝刊。

 多くの号外と共に散布された毎朝新聞の一面に、こんな見出しが掲載された。

 力剛と勇一郎がリングで並び、笑顔の力剛がチャンピオンベルトを掲げる写真も添えられている。

 朝目、日高のビッグネームも案の定プロレス記事で紙面を埋め尽くし、各社の新聞は飛ぶように売れた。

 MHK国営放送の視聴率は、なんと初回から七〇パーセントを超えていたという。

 興行利益として机の上を埋め尽くす札束を見て、興行師の永井筆夫は笑いが止まらなかった。

 

 たった十四戦。

 実質一回の興行(イベント)で、これだけ稼げるとは──

 MHKに払わせた放送料一七万、地方TV局に払わせた一〇万。あれは失敗だった!

 惜しいことをした。もっと高く売れたな……!!

 

 銭勘定をする時、永井筆夫は純然たる商売人の顔をしていた。

 次の放送は、値を倍に釣り上げようか──

 

 ともかく、力剛山のプロレスは、興行的に大成功を収めたのだった。

 力剛山と範馬勇一郎のプロレススタイルは、まず、範馬勇一郎が先陣を切り、ベープ兄弟と組み合う。

 最初は互角か、勇一郎がやや、やられている。

 事態を重く見たベープ兄弟は、卑劣にもリング外から勇一郎に不意打ちを入れ、乱入する。

 二対一となり範馬勇一郎は窮地に陥るのだ。

 しかし、力剛山はすぐにリングに飛び込んだりしない。

 勇一郎がさんざんやられて、這うようにコーナーに辿り着き、交代のタッチをもらってから、正々堂々とリングに入るのである。

 そして、勇一郎と共にベープ兄弟をぶん殴り、投げ飛ばして勝利する。

 

 汚い手を使うベープ兄弟。

 追い詰められる範馬勇一郎。

 しかし、力剛山は怒りを噛み殺し、正々堂々フェアプレイに臨む。

 ついにリングに降臨した力剛山は、パートナーがやられた怒りを爆発させ、圧倒的な力でベープ兄弟を丸ごと叩き潰す。

 

 実に、わかりやすい勧善懲悪であった。

 勇一郎がやられ、力剛に見せ場を作り、それをまんまと平らげる。

 リングにいる全員が協力し、力剛山が見事なフィニッシュを飾る。

 まさしく、真剣なプロレスであった。

 

 かくして、力剛山はたったひとつの興行で、大衆のヒーローに成り上がったのだ。

 

 当然、これを面白く思わない者たちがいる。

 久我伊吉を派遣した、日本最初のプロレスラーたる山伏達夫と青龍組は、すぐさま力剛山に会合を求めた。

 力剛山は、意外にも、即応する。

 永井筆夫と範馬勇一郎を連れて、これに相対した。

 

 高級料亭の一室で、その話し合いは行われた。山伏と青龍組の言い分は、

 

『日本最初のプロレスラーである山伏を差し置くとは何事だ!』

『山伏もワシらもメンツを潰された。どうオトシマエをつける気だ!?』

 

 であった。

 青龍組は、久我伊吉のことなど一切口にしなかった。久我伊吉がプロレス会場に赴いて、興行を潰そうとしたのは伊吉が勝手にやったこと──青龍組は、一切関与していない。

 そういう態度を貫いた。

 力剛山も、それについて問い詰めることはしない。久我伊吉が、青龍組に頼まれて興行潰しを行ったのは知っているにも関わらず。

 

 伊吉が結果として、猪狩の機転と龍刃のパフォーマンスによって、立派な前座としてプロレスをやってくれたからだ。

 そもそも襲われたのだから、正当性はどう考えても力剛にあるのだが、力剛はアレを「なかったこと」にする流れに乗った。

 

 相手はヤクザである。

 青龍組は、全国最大の山王組ほどの規模はないが、地方では絶大な影響力を持っている。

 ヤクザとは、例え正論を持って叩いたとしても、自らの利益のためには理屈や道理を捻じ曲げ、屁理屈と暴力をチラつかせてカネを奪っていく連中であることを、力剛山はよく知っていた。

 触らぬ神に祟りなし。

 下手に拗れるより、水に流した方が損がない。

 力剛の判断能力も、実にヤクザ的であった。

 

 範馬勇一郎は、そもそもこの会合自体に興味もなさそうに、料理に酒に箸と手を伸ばしていた。

 それにしても、豪快に食べる。

 勇一郎の前には、あっという間に空の皿が積み上がっていた。

 

 青龍組のメンツなど知ったことではない力剛であったが、永井の仲介を頼み、「リベンジマッチ」を提案した。

 

 筋書きはこうだ。

 敗北したベープ兄弟は、ベルトを失ったまま国に帰れない。

 しかし、力剛山と範馬勇一郎のタッグは強い。二人だけではとても敵わないのは身に沁みている。

 だから、三人目の兄弟を本国から呼び、三対三の変則マッチを行おうと提案する。

 力剛山と範馬勇一郎に並び立てる、日本のプロレスラーといえば、山伏達夫しかいない。

 力剛山は山伏達夫に頼み、山伏は快くこれを承知。

 山伏達夫を新たにチームに加え、ベープ兄弟を迎え撃つ!!

 

 これならば、山伏の顔は立つ。

 おまけに、力剛は山伏に『台本(ブック)』を用意しないと言った。

 すなわち、好きにプロレスをやってほしい、と。

 山伏がリングで何をしようが、こちらがそちらに合わせるのだと。

 

 山伏と、青龍組若頭の鬼頭は満足気な顔で契約を交わした。

 山伏の実力ならば、力剛に代わってベープ兄弟をぶちのめし、新たなるヒーローになれる!

 鬼頭も山伏もそう確信していたし、なんならその未来をもう、夢想していたのだろう。

 ふたりは契約を交わして以降、ニヤニヤと粘つくような、下卑た笑みを浮かべていたが……

 

 

 その実、腹の底で深く笑っていたのは、力剛山であった。

 

 

3.

 

 

 ベープ兄弟のリベンジマッチ。

 リング中央で、最後にスポットライトに照らされ、観客の愛と拍手を一心に受けていたのは山伏達夫ではなく、力剛山であった。

 

 山伏と勇一郎は、リングサイトでそれを見ていた。

 

 試合の流れは終始、力剛山が支配していた。

 山伏は先方を務めた。

 山伏の、この試合の目的は「自分を見せつけること」である。

 一番槍にリングに上がり、終始ベープ兄弟を圧倒し続けて、力剛山と範馬勇一郎にいいとこを見せることなく試合を運ぶ。

 あの力剛山と範馬勇一郎ですら苦戦したベープ兄弟を、自分ひとりで平らげる。

 観客は気づくはずだ、真に強いプロレスラーは力剛山ではないと。

 観客に気づかせるのだ、真のプロレスヒーローは、日本最初のプロレスラーだと。

 つまり、愚鈍な観客に、真のヒーローは山伏達夫であると思い知らせてやれるのだと。

 

 山伏は、力剛のスケールの大きいプロレスに、無意識に嫉妬していた。

 山伏は地元では名の通ったレスラーだが、全国的な知名度は無いに等しい。

 山伏とて、その現状に満足していたワケではない。青龍組に、たびたび、全国規模の興行をやりたいと訴えていたが、所詮は一地方で幅を効かせるに過ぎない青龍組にそれを実現させる力があるはずもなく、全国興行など叶わぬ夢物語であった。

 

 だが、力剛山は、日本に帰ってきてわずか一年で、プロレスを全国に知らしめた。

 プロレスの強さを、面白さを──『力剛山の』と前置くにせよ──満天下に示したのだ。

 前座試合からテレビ放送という、前代未聞のスケールだ。

 テレビの前で、山伏は嫉妬と羨望で気が狂う思いであった。

 

 だからこそ、試合における山伏のコンディションは良くない。肩に力が入り過ぎていた。自分の強さと存在感をアピールすることしか頭になかった。

 

 試合は、山伏の思うようにいかない。

 ベープ兄弟は弱小(マイナー)団体とはいえ、本場のアメリカンプロレス王者である。

 ガチンコで強かったかどうかはともかく、プロレスの巧さはかなりのものであった。

 山伏は終始、ベープ兄弟にいいように翻弄された。

 投げられ、打たれ、極められ、倒された。

 

 地元における山伏のプロレスは、山伏をヒーローとすることが、()()()()()決められたプロレスである。

 山伏と青龍組が立ち上げる『台本(ブック)』は、常にシンプルだ。

 

『山伏に思うようにプロレスをやらせ、最後には山伏に勝たせろ』

 

 要約すれば、これだけである。

 山伏とて、元は範馬勇一郎とツルみ、ブラジル遠征まで共にする腕の柔道家である。

 しかし、長いこと()()()()、自分本位の試合ばかりやっていたために、勝負勘も、プロレスラーとしてのセンスも、力剛山や範馬勇一郎とは比べものにならないほど劣化していたのだ。

 

 結局、山伏は試合中何度もピンチに陥り、それを勇一郎や力剛山が助ける、という流れが繰り返された。

 

 山伏はそこで、勇一郎はともかく、力剛山の群を抜く人気を、まざまざと見せつけられた。

 力剛山がリングに入るだけで声援が上がり、自分を助けるために空手チョップを繰り出すだけで、会場全体がうねりを上げるのである。

 誰も、自分を見ていない。

 力剛の一挙手一投足は、会場を熱狂させるが、自分は何もできない。

 

 試合終了後に、範馬勇一郎が言った。

 

「食われちまったなぁ、山伏」

 

 全くその通りであった。

 意気消沈する山伏は、その後、自身の団体を縮小させる他なかった。

 青龍組に見限られ、関西を締め出された山伏は、下北沢に本拠地をおき、自身の団体を『フジ・プロレス』と名を改めて、細々と運営することになるのである。

 

 そして、それは全て、力剛山の狙い通りであった。

 

 力剛山は、山伏のプロレスが自分本位で身勝手なものであると知っていたのである。

 力剛山の考えるプロレスとは、自分が相手も客も、全てをコントロールして盛り立てるものだ。

 自分をヒーローとするための勧善懲悪を組み立てるために、引き立て役を用意する重要性、引き立て役のキャラを立たせる重要性を良く理解していた。

 

 山伏のプロレスは、とにかく自分だけを目立たせるものだ。

 おれはこんなにすごいぞ!

 おれはこんなにつよいぞ!

 リングを通して、それを言いたいだけである。

 力剛に言わせれば、そんなものは幼稚で低俗なプロレスもどきであった。

 

 山伏は自滅する。

 ならば、下手に台本を作るより、好き勝手やらせてやる。

 好き勝手やってダメダメになる以上、その責任は力剛山にはない。

 山伏のプロレスが下手くそなだけだ。

 その上で、山伏の幼稚なプロレスを利用して、さらに名を上げてやる。

 

 ライバルを潰すのと、自身の名声を上げる一石二鳥。

 力剛は、またしても、試合の内外全てを思うがままにコントロールしてしまったのだ。

 

 山伏が地方に引っ込み、勇一郎とも別れた。

 

 プロレスの入門者は爆発的に増え、また、道場破りの類もごまんと押し寄せた。

 

 若干の苛立ちはあったものの、それもまた、レスラーの経験値とするために、力剛はアメリカンプロレスの興行師(プロモーター)を習って『番犬(ポリスマン)』の役を作り、道場破りが現れればリアルファイトをやらせていった。

 

 そして、獅子尾龍刃も『番犬(ポリスマン)』のひとりに選ばれたのである。

 

 プロレスという怪物は、力剛山の思うように、あっという間に肥大化していった。

 力剛山という太い男は、その全てをコントロールしていた。

 順調に富と名声を築く力剛山。

 確かな手応えを感じた力剛山は、永井筆夫に借金をして、都心の一区画を丸々買いとり、まだ何も無い土地を見て、誓ったのである。

 

 

 ──ここに、ワシの城を建てる!

 

 

 力剛山の人生は、順調であった。

 ここまでは、である。

 

 

4.

 

 

 そして、神社で泉宗一郎と向き合っているのは、それに関連していることだった。

 

 日本で腕自慢程度の道場破りなど、アメリカで多人数はもちろん、バットやナイフやピストルを相手に喧嘩をやりまくった龍刃の相手にはならなかった。

 

 ただ、何人かは、強いのもいた。

 

 そのひとりが、竹宮流の門下生だったのだ。

 

 既に、竹宮流次代当主と定められていた泉宗一郎は、竹宮流門下生の尻を拭うために、己の看板を守るために、龍刃を付け狙っていたのである。

 

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