【本編完結】慟哭の龍【挿絵有り】   作:ロウシ

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第四話:黙示録の終わり

 

1.

 

 

 マリア。

 キミを愛している。

 

 今日ほど、

 今日ほどそれを感じたこともない。

 リュージン・シシオ。

 強い。

 初めて出会う、わたしに匹敵する肉体。

 初めて味わう、わたしに比肩する剛力。

 初めて感じる、繰り返される意識の喪失と再起。

 わたしの"初めて"を、これほど奪い尽くした男が、かつていただろうか?

 

 もう何度、意識が飛びかけただろう。

 マリア、愛しいひとよ。

 ここまでわたしを翻弄する力に、わたしは震えている。

 この膝の震えは、悔しいが、キミに愛の言葉を囁かれた時に、あるいは匹敵するかもしれない。

 認めたくない事実ではあるがね。

 しかし、崩れ落ちるわたしを──

 しかし! わたしの心の中にいるキミが、繋ぎ止めるのだ。

 

 ──しっかりおし!

 

 その、たったひと言で、わたしは何度だって立ち上がれる。 

 そして、さっきまでで限界だと感じていた拳に、それまで以上の力が籠り、Mr.リュージンを穿てるのだ。

 

 ──さあ、ブチのめしてらっしゃい!

 

 ああ、なんと。

 キミは、わたしを立ち上がらせるだけでなく。

 わたしの背中まで押してくれると言うのか。

 なら、なおさら、負けるわけにはいかないな。

 

 Mr.リュージンの顔面に、わたしの拳が沈む。

 また、彼は、わたしの拳で血に伏せる。

 勝った──

 しかし、ヤツは立ち上がる。

 わたしは、信じられるかい、マリア。

 そのたびに、わたしは笑っているのだよ。

 もう立つなと、心のどこかで思っているのに。

 まだ立てるだろう? と、心のどこかで思っているのだよ。

 

 ああ、わたしにはもう、わかっているとも。

 リュージン・シシオもまた、愛の力で立ち上がっているのだと。 

 その拳に宿っているものは、愛なのだと。

 たったひとり。

 その心に、たったひとりしかいないなら、もう、とっくに、リュージン・シシオは立てなくなっているさ。

 なんたって、パワーはわたしの方が上なんだからネ。

 誰かのために。

 誰かを愛するために、リュージン・シシオは自らを奮い立たせ、立ち上がり、拳を握るのだ。

 紛れもなく愛の力だ。

 惚れ惚れする。

 

 わたしと、同種の肉を持つだけではない。

 わたしと、同種の力をも宿しているのだ。

 わたしと全く同じ舞台で戦っているのだ。

 だから、この漢は、わたしと全く真正面から向かい合えるのだ。

 

 ならば、わたしは負けるわけにはいかない。

 アメリカで最強だからではない。

 世界最自由だからではない。

 リュージン・シシオに、わたしは負けられない。

 これが愛の競い合いならば。

 わたしのマリアへの愛は、アメリカにすら奪えないのだからッッ!!

 

 ──マリア。

 肥大化したキミの身体を持ち上げるために、わたしはこの身体を作り上げた。

 ──マリア。

 その身体が醜く肥大してなお、真実の美しさを貫くキミと歩むために、わたしは強くなったのだ。

 ──マリア。

 勝つことで、キミを持ち上げて歩けなくなるなら、わたしはケンカに負けたっていい。

 キミの身体を愛せないのなら、わたしは自由などいらないのかもしれない。

 だが、ああ──マリアよ。

 キミがいなければ、愛がなければ、わたしはわたしでいる価値すらないのだ。

 キミを愛するために、わたしは『世界最自由(ミスター・アンチェイン)』でなければならないのだからッッ。

 

 ああ──Mr.リュージン。

 キミの拳からは、キミ以上の何かを感じる。 

 わたしが、この筋肉をどれだけ剥ぎ取られても、その心の底に根付くマリアへの想いを、たとえ何者であろうと奪い去ることはできないように。

 Mr.リュージン。

 キミの中にも、同種の愛があるのだろうね。

 素晴らしいファイターだ。

 だからこそ、負けられない。

 これは、『怪力比較(ちからくらべ)』でも、『益荒男比較(おとこくらべ)』でもない。

 

 これは、『愛情比較(あいのくらべっこ)』なのだから。

 

 しかし、

 拳と、拳。

 愛と、愛。

 なんと漢らしいんだろうか。

 この肉体に、わたしは限りない感謝と祝福を与えたいよ。

 わたしより、チョッピリ弱い、この肉体にネッ。

 

 ああ、マリア。

 できればキミに、ここにいて欲しかった。

 この漢に勝つわたしの勇姿を、その眼で見ていて欲しかったよ。

 

 

2.

 

 

 勇一郎さん。

 力剛山先生。

 こいつ、すげえヤツだよ。

 ビスケット・オリバ。

 アメリカで、イチバン喧嘩が強えんだってさ。

 世界で、誰も、この漢を縛れないんだってさ。

 そりゃそうだ。

 壁を、紙屑みたいに吹き飛ばすんだもん。

 金属製の接合部を、粘土みたいに引きちぎるんだもん。

 どこにも、こいつを収められる部屋なんてないだろうさ。

 

 でも、勇一郎さん。

 でも、力剛山先生。

 おれ、こいつと真っ向から殴り合えてるんです。

 先生たちのおかげです。

 この、すげえ、筋肉の塊と。

 戦えてるんです。

 笑えてるんです。

 楽しいんです。

 

 こいつは、今までヤってきた、誰とも違う。

 松尾象山とも──

 久我伊吉とも──

 天城六郎とも──

 泉宗一郎とも──

 サクラとも──

 愚地独歩とも──

 御輿柴先生とも──

 渋川剛気とも──

 龍金剛とすら、違うんです。

 

 強いて言うなら、ビスケット・オリバに近いのは、力剛山先生や、勇一郎さんなんです。

 圧倒的な、力。

 パワーとか、スピードとか、テクニックとか──

 そう言うんじゃないんです。

 そんなんじゃないんです。

 まず、力なんです。

 全て、力なんです。

 ビスケット・オリバを構成するものは、巨大な、バカバカしいほどの、力なんです。

 

 これは、力剛山先生とおんなじなんです。

 これは、勇一郎さんと、おんなじなんです。

 

 すごいんです、こいつ。

 もう、何発もいいのが入ってるんです。

 何人も、これで殺しました。

 頭砕いて、腹を吹っ飛ばして、殺しました。

 でも、オリバ、それじゃあ立ってくるんです。

 笑ってるんです。

 おれの中で、ニセモノの勇一郎さんや、ニセモノの力剛山先生が、そのたびに悟りかけてくるんです。

 

 『もういいぞ、リュウ』

 『よくやったぞ、リュウちゃん』

 

 オリバのパンチで地面にぶっ飛ばされるたびに、甘い声で、ニセモノが、おれの耳もとで囁くんです。

 でも、おれ、知ってます。

 おふたりなら、こんな甘ったれたこと、絶対に言わないって。

 おれが血反吐撒き散らして、ションベン垂れ流して失禁して、たとえ脱糞してても、おふたりはこう言うでしょう?

 

 ──まだ、やれるだろう?

 ──立て! 龍刃!!

 ──それでも、おれの弟子かい?

 

 だから、おれ、立てるんです。

 もう、足、折れてます。

 指なんて、まともなの、少ないです。

 肋骨も、何本かイってます。

 腕も、たぶん、靭帯が切れてます。

 背骨が歪んでるのがわかるんです。

 でも、立てるんです。

 でも、殴れるんです。

 おれ、ふたりの、弟子ですから。

 おれ、ふたりの、子供ですから。

 なにより──こんなところで倒れてちゃ、ビスケット・オリバに、失礼だから。

 

 だから、立てるんです。

 だから、殴れるんです。

 

 ああ、でも。

 そろそろ限界、近いです。

 おれ、そろそろ、オリバに立つなよ、って、思ってきちゃってます。

 

 でも、立つんだよなあ、この漢。

 あ、ああ。

 笑いが、止まらないんです。

 もう嫌なのに。

 痛くてしょうがないのに。

 おれ、立って、拳を固めちまうんです。

 だって、戦ってる時、その拳の中に、先生も、勇一郎さんも、一緒にいるから。

 

 終わってほしくないんです。

 まだ、立ってきて欲しい。

 まだ、立ち上がりたい。

 

 おれ──楽しいんです。

 

 

3.

 

 

 薬師丸法山の隣に、その漢は立った。

 獣臭を放つ雄であった。

 全身から放つ闘気が世界を歪めている。

 浅黒い肌の漢だった。

 上半身は、裸。

 下半身は、迷彩ズボン。

 裸足──

 ゆらめく紅い髪が、血の揺らぎに見える。

 

 範馬勇次郎であった。

 

「ハロー、ミスター・オーガ。わたしのことはご存知かな?」

「薬師丸法山か……」

「おほう、その通り。以後お見知りおきを」

 

 薬師丸法山は、異様な気配を纏う勇次郎に気さくに話しかけた。

 勇次郎自身、それを嫌がるそぶりも見せず、口元をきつく結んで眼前の戦いを眼に入れている。

 

「ミスター・アンチェインと、獅子尾龍刃か──」

「そうさ、ミスター・オーガ。ふたりとも、()()()()あんたに縁深く関わるだろう男たちだ」

「…………」

()()()のつもりだったかい?」

「……フン、それにしちゃあ上等がすぎる」

「ほほう、かのオーガともあろうものが、極上の餌を前に我慢を覚えているとは、ね」

「挑発のつもりか? 薬師丸法山。戦さ場を知り尽くす漢の煽りにしちゃあ、ちと青臭すぎるぜ」

「ふふん、おれだって男の子だよ。ふたりの戦いを見て、何も感じないほどインポじゃないさ」

「……クスッ」

「どうしたい、ミスター・オーガ?」

 

 範馬勇次郎は、クスクスと笑い出した。

 口の形が半月のような広さとなり、白い歯が剥き出しになる。

 

「このオレを相手に生きがいを感じたいと言うのなら、ウダウダ言わずにかかってくるといいだろう?」

「そう言いなさんな、勇次郎や。あんたがあと三歩向こうに行ってくれりゃあ、言われなくとも斬りかかるつもりだったさ。こうして横並びだと、おまえさん、ちと隙が無さすぎるんでね」

「ほう、抜く気配は全くないが、よく吠える──」

「ウダウダ言うねえ、舌戦しにきたのかい、範馬勇次郎? そういや鬼は二枚舌って聞くし、案外口も上手かったりするのかい?」

「────ッ、ハハハハハハッ!!」

「ウム、怖い(かお)だねえ。じゃ、やろっか」

 

 薬師丸法山の抜刀と、範馬勇次郎が飛び掛かるのは同時であった。

 

 

4.

 

 

 何度目のダウンだろうか。

 パンチが交差する。

 打たれて、吹き飛ぶ。

 床に突っ伏す。

 顎が噛み締められない。

 下顎が砕けたか。

 力が入らない。

 しかし、不思議と立ち上がれる。

 

 起き上がった視線の先に、ビスケット・オリバが立っている。

 血まみれである。

 顔も、身体も。

 服はボロボロに破れたから、途中でオリバ自ら破き、上半身はその圧倒的な逆三角形が剥き出しであった。

 獅子尾龍刃もそうである。

 ただ、プロレスラーとして肉を太くした基礎がある分、龍刃のほうがややあんこ型で、むっちりしたシルエットであった。

 

 よろけながら、オリバの前に向かう。

 真っ直ぐに。

 これでいい。

 歩きながら、龍刃は自分に言い聞かせている。

 見た目のダメージは、龍刃の方がひどい。

 しかし、肉体に刻まれているダメージは、実のところ差はほとんどない。

 オリバ、なんて負けず嫌いなんだろうか。

 悠々と顎をしゃくって、向かいくる龍刃を見下ろしている。

 

 目の前で止まる。

 足を広げる。 

 少しでも踏ん張るために。

 お互い、パンチの届く距離。

 蹴りだって、十分威力が乗る位置だ。

 

 くい、とオリバが手で空をかく。

 こい、と言っている。

 先に打たせてやると。

 笑っている。

 に、と龍刃も笑う。

 拳を固める。

 折れた指を、筋肉で無理やり折りたたんでいる。

 振りかぶる。

 オリバは動かない。

 殴る。

 殴る。

 当たる。

 オリバが揺らぐ。

 膝が笑っている。

 しかし、倒れない。

 大袈裟なほど頭をゆすって立ち上がる。

 それを、獅子尾龍刃は待ち受けている。

 胸を、差し出すように手を広げ、上体を前に出す。

 オリバが、龍刃の胸に向かって、パンチを打ち込む。

 相変わらず、素人の打ち方だ。

 しかし、効く。

 否──ッ、効きすぎるッッ!!

 

 しかし、龍刃は倒れなかった。

 今度は吹き飛ばなかった。

 痛みがないわけじゃない。

 だが、倒れたくなかった。

 背中を、誰かに支えられている実感があった。

 それがなんなのか、龍刃自身がわかっていない。

 それはきっと、『全部』だと思っていた。

 この支えは、獅子尾龍刃が今持てる全てだと。

 だから、折れるわけがない。

 だから、これ以上は倒れない。

 だが、腹がくの字に曲がっていたらしい。

 オリバは両拳を掲げ、ハンマーのように龍刃の背に叩きつけた。

 

「げはあっ!!」

 

 血を吐く。

 どろどろの粘液を、鼻から、口から吐く。

 脂汗に、何か異様な臭いが混じっている。

 

 しかし──獅子尾龍刃は上体を持ち上げた。

 倒れなかった。

 

「フフ……」

 

 オリバが笑っている。

 息も絶え絶えである。

 しかし、これだけは音に乗せなければならないと、自らに言い聞かせて、笑っている。

 

「へへ……」

 

 獅子尾龍刃も笑っている。

 笑うたびに、内臓が軋んでいる。

 もう、休みたい。

 しかし、倒れたくない。 

 矛盾する想いが、しかし、ビスケット・オリバの眼を見ろと、そこにおいて意見の一致を見る。

 

「すばらしい……戦いだった。これ、を。マリアに……捧げよう……」

 

 オリバが、力瘤を作った。

 これまででイチバン()っとくて、金属のように硬そうな力瘤だ。

 

 最大最強。

 そして、最後の一撃──

 

 獅子尾龍刃は笑っていた。

 それを、待っていたからだ。

 

 オリバの動きが緩慢であった。

 しかしそれは、溜めた力を一切逃さないためのスローな動きであった。

 獅子尾龍刃の眼がギラついていた。

 最大最強最高の一撃。

 己以上の全てを乗せた一撃。

 それを、ずっとずっと待っていた。

 

 オリバの拳が緩やかに伸びていく。

 獅子尾龍刃には、なんと巨大な拳に見えることか。

 間違いない、これは、歴史上イチバン恐ろしいゲンコツだ。

 目を逸らさない。

 背けない。

 

 

 

 しかし、その拳は止まる。

 

 ふたりの間に、刃が飛んできたからだ。

 くるくると回ってふたりの正面を通過したそれは、恐ろしい切れ味で壁の向こうに突き刺さった。

 

 薬師丸法山の斬馬刀──その刀身であった。

 

 なにが!?

 

 と龍刃、オリバの意識が刀の飛んできた方に向く。

 そこから、ボロボロの薬師丸法山が飛び込んできた。

 

「ほう、ざん……?」

「おふたりとも、いいところに水を刺してすまないがね、ここまでだ」

 

 何があったのか──?

 龍刃は、声にならない声で、法山に尋ねた。

 

「国連軍の一部隊がこっちに向かっている。この建物ごと吹き飛ばす気だ」

 

 

5.

 

 

 国連軍の戦車が並ぶ。

 銃火器を構えた兵士が居並ぶ。

 建物を完全に包囲していた。

 

 言うまでもない。

 この仮設本部ごと吹き飛ばす気である。

 ジェーンこと、ダイアン・ニールによる範馬勇次郎抹殺作戦は失敗した。

 部隊は壊滅。

 しかし、情報によれば範馬勇次郎は激しく消耗しているということだった。

 この機を逃せば、範馬勇次郎を抹殺する機会は巡ってこない──

 国連軍の総意は、なんとしてでもベトナム国内で範馬勇次郎を抹殺することに決定した。

 

 範馬勇次郎は誘われるようにこの⚪︎⚪︎仮設基地に入ったと情報があった。

 しかし、もはや国連軍にとって、情報の是非は関係がなくなっている。

 部隊を壊滅させたにっくき敵をぶち殺す。

 その憎しみが、奇しくも兵士たちの心をひとつにしていた。

 

「まて、まてまてーッッ!!」

 

 しかし、攻撃命令を待つに至った部隊は、仮設本部から出てきた男を見て、我に返る。

 

「あれ、誰ですッッ!?」

「あれがオーガッ!?」

「バカモンッッ!! あれはミスター・アンチェインだッッ!!」

 

 仮設基地の正面玄関から、ビスケット・オリバは堂々と国連軍の元に歩いて行った。

 上半身は、裸。

 血まみれの、傷だらけ。

 恐るべき戦いをやり遂げた後なのが、誰の目にも理解(ワカ)った。

 

「み、ミスター・オリバッッ! そ、その身体はッッ!?」

 

 国連軍指揮官が慌てて駆け寄った。

 オリバはぎょろりと目玉を転がして、労うように、彼の肩を叩いた。

 

「ハハ、階段で、チョット転んでしまってね……」

「か、階段……ですかッッ!?」

「ああ。わたしが手すりに体重を乗せたら、一気にバキッ! といってしまってね。困ったものだよ」

「イヤッ、しかし、そのお身体は〜ッッ!!」

「わたしの身体が、どうかしたかね?」

「──ッッ! いえッ! なんでもアリマセンッッ!!」

「ここに範馬勇次郎はいなかったよ」

「えッ!?」

 

 オリバは、兵士たちの心を見透かして、ステキな笑顔を浮かべて言った。

 

「だから、もう撤退しなさい。戦車まで出動させて、全く、国民の血税をムダに使うのは良くないなァ」

 

 オリバは言うだけ言うと、悠々と歩き出した。

 誰の手も借りず──フラつくこともなく。

 真っ直ぐに、爽やかな、満足気な顔であった。

 

 

6.

 

 

 獅子尾龍刃と薬師丸法山は、仮設基地を裏から抜けて、そこを俯瞰できる位置まで移動していた。

 

 お互いにズタボロであった。

 

「いやあ、お互い無事でよかったよかった」

 

 わははと陽気に笑う法山に対し、龍刃は今ひとつすっきりしない顔である。

 

『わたしが出よう』

 

 と、あの時オリバは言った。

 戦闘の緊張感はものの見事に崩れ去り、もはや三人ともフラフラであった。

 これ以上の戦闘は不可能だった。

 

 決着がつかなかった。

 オリバは別れ際に、それでも笑っていた。

 

 振り返りながら、獅子尾龍刃に言った。

 

「Mr.リュージン、勝負は預けよう」

 

 頷くしかなかった。

 それが、悔しかった。

 

「今度、ブラック・ペンタゴンにキミを招待しよう。フフ……とびきりのもてなしをすると、約束しておこうか」

 

 そうしてオリバが正面から出向いて、その隙にふたりは裏から抜け出したのである。

 




第六章完結。次回から最終章、慟哭の龍 開始
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