【本編完結】慟哭の龍【挿絵有り】   作:ロウシ

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一回戦第四試合:本部以蔵vs葛城無門
第一話:卑怯とは言うまいね?


 

1.

 

 

 アントニオ猪狩が担架で運ばれるのを見届けて、本部以蔵はふ、と息を吐いた。

 それは諦めの色が混ざっており、湿り気を帯びていた。

 言うなれば、それは、本部の心情の吐露でもあった。

 もっと率直に言うならば、それは弱音であった。

 第三試合までを終えた今、もはや疑うこともない。最大トーナメントは現在考えられる格闘トーナメントとしては、地上最大、史上最強規模である。

 ここまでの三試合、全ての試合が既存の格闘大会とは一線を画す、次元違いの戦いであった。

 参加者の一覧を見た時、徳川光成のご贔屓の愚地独歩ですらが、いち参加者でしかないのを確認した時に生じた疑念は、たった今、本部の中で確信に成っていた。

 本部以蔵は根っからの武術家である。

 培われた経験が導き出す、彼我の戦力差を読み取る能力は、並の武術家とは雲泥の差であった。

 その本部が、思う。

 超実戦柔術の名が示す通り、武が本来の力を発揮する場面においては、自分はここに立つ誰と比べても、前を譲る気はない。

 しかし、こと最大トーナメントルール。

 武器の持ち込み、使用が反則と断じられ、武器として使用(つか)えるものが極端に限られる地下闘技場の環境において、徒手の本部以蔵に限定するならば、三試合を終えた選手の誰と比べても、自身は見劣りするだろう。

 本部以蔵は音速でパンチを出せない。

 残像を残すほどの速度で動けない。

 相撲取りを真っ向から潰す馬力はない。

 覚悟を持ったからと言って、あらゆる攻撃に耐え切ることもできない。

 わかりきったことである。

 彼らとのスペックの差、肉体の才能の差を測るには、ヤるまでもない。

 

 しかし──それでも、ヤらなければなるまい。武術家として、参加選手に名を連ねた以上、『闘争(たたか)えない』とは腹を切っても言えなかった。

 

「ここが、武術家の辛いところよ」

 

 本部以蔵はつぶやいた。

 自身のセコンドを務める花田は、能天気に「今、何か言ったかい、オヤジ?」と顔を振り向かせて聞き返している。

 きょとんとしたその顔を見て、本部は笑みを深めた。

 自嘲するかのようであった。

 この男──花田純一は、徒手空拳に限定するならば、自身の才覚を大きく上回る弟子である。

 本部流柔術が排出した最強の古流柔術家でありながら、お調子者で、図に乗りやすく、自惚れが激しく、剽軽さとナマイキな態度のせいで周囲に煙たがられ、ついこの間、そのせいでマウント斗羽に苦杯を飲まされたと言うのに。

 何も変わらんのか、この男は。

 あの、恐ろしい十六文キックをくらっても、反省のそぶりもない。

 本部は半ば呆れながらも、花田の能天気さに救われた気持ちであった。

 この能天気なナマイキさこそが、花田の格闘士(グラップラー)としての欠点であり、それこそが、花田の人間的強さである。

 この業界、ある段階までは、自惚れは身を滅ぼすものだが──ある段階を過ぎると、自惚れが強い人間こそ、この世界では強くなる。 

 自分に自信を持てるからだ。

 少なくとも闘争(たたか)いが始まるまでは、いつ、いかなる時でも、自分は強いという自負を持てるからだ。

 濁りのない自負心は、拳に力を呼ぶ。

 自らに疑念を持たない男の拳こそは、真っ直ぐに力強く伸びるのである。

 残念ながら、花田は今大会の参加者ではない。

 しかし、この男が参加者ならば、きっと、あの三試合を見ても、「アイツらもスゲェけど、やり合えばおれが勝つし」と簡単に言い放つだろう。

 

「救われる」

 

 と、本部が言った。

 花田は変わらず、きょとんとした顔である。

 

「……オヤジィ、大丈夫かよ? ボケるにゃまだ早すぎるゼ」

「わーっとるわいこのバカ」

 

 本部の口調が柔らかくなっていた。

 花田はにぃ……と笑った。

 この男。

 まさか、これを計算してやってはいないだろうな?

 

 本部以蔵は振り返った。

 

「あれ? オヤジ、どこに行くンだよ? 選手通路はこっちだぜ?」

 

 花田は本部と逆方面を指差した。

 本部は、軽く顔だけを傾けて、

 

「支度だよ」

 

 と言った。

 

 

2.

 

 

「アニキ。まさか、本当にまた会えるとは思ってなかったぜ」

 

 柔軟体操に勤しむ葛城無門に話しかけたのは、愚地克巳であった。

 その後ろに、愚地独歩が付き添っている。

 屈伸をしていた無門がくい、と目線を上げる。

 帽子の下から覗く眼が、おお、と驚きと喜びの色を放ちだす。

 

「……懐かしいね」

 

 瞳の輝きを、しかし、身体の奥に包ませて、無門の言葉はしんみりと空気を震わせた。

 

 愚地克巳と葛城無門は兄弟である。

 元は、ふたりとも『ミズノサーカス』というサーカスで、空中ブランコの担い手であった。

 ふたりの両親も、元々はそうであった。

 愚地克巳の常人ならざる天性の肉体は、サーカスの花形であった実の両親の血が、濃く現れているからである。

 しかし、克巳が幼少の頃、父親は飛び移ったブランコのロープが切れて転落死し、再婚した同サーカスの猛獣使いの男もまた、公演中に、調教していたハズのライオンに襲われて殺されてしまっていた。

 義理の父がライオンに殺された時に、そのライオンをあっさり手玉に取って鎮めて見せたのが愚地克巳であり、ミズノサーカスの団長であった水野に誘われてサーカスを観に来ていた愚地独歩が、その後に愚地克巳を養子にしたのである。

 葛城無門は、その時にはサーカスから出奔しており、行方知れずであった。

 

 無門のその後を簡潔に書くならば、無門は武術の師であり人生の師でもある松本太山(松本梢江の父である)と出会い、紆余曲折をへて『ゆうえんち』にて毒手の柳龍光を破っているのだが、その活躍は『刃牙外伝-ゆうえんち-』にて仔細に語られているため、ここでは割愛する。  

 ただ、その時に身寄りがなかった無門に『ゆうえんち』の入園料五〇〇万を都合したのが愚地独歩であり、『ゆうえんち』の中で龍金剛の脅威から葛城無門を救ったのもまた、愚地独歩であったとだけは記載しておく。

 

「へぇ……」

 

 無門は柔軟をやめて、克巳の前に立った。

 身長は、克巳の方がわずかに高い。

 身体つきは、克巳の方が分厚い。

 肉のつき方が一目瞭然。

 見た目の筋肉の量が違う。 

 克巳は、身長一八六センチメートルで体重は一〇〇キロを超えるが、無門の肉体は身長こそ克己よりやや低い程度だが、体重は一〇〇キロにとても及ばないだろう。

 ともすれば、無門のシルエットは一般人のようにすらりとしており、もちろんガタイはいいが、見目には格闘技者にも武術家にも見えない。

 顔つきも、無門は切れ目が麗しい中性的な整いで、いかにもな無骨さが滲む克巳とはあまり似ていない。

 それでも、目の前にした本人たちは、お互いに違いのない血の繋がりを感じていた。幼き頃の記憶に照らすまでもない。目の前の男は血を分けた兄弟だと、理性や理屈では片付かない領分で感じ取っている。

 

「なんでェ、せっかくの再会だってーのに。もっと感動したらどうなんだ?」

「親父ィ、せっつかないでくれよ」

「愚地先生。お久しぶりです」

 

 頭を下げ──ながらも、一部の隙も見せない──る無門に、独歩はにこやかに笑って応えた。

 太い笑みであった。

 メガネのレンズ越しでも、独歩の眼が喜びに曲がり、心が弾んでいるのが見える。

 

「無門くん、ぜひ聞いてくれよ。コイツ、今はこんなスました(ツラ)ァしてるけどよ。コイツときたら、今日、無門くんに会えるって聞いて、朝っぱらからソワソワしてたンだぜ?」

「親父ィ! それは言わない約束だろ!?」

「だったらもっと素直に喜べやい」

「喜んでるよ。ただ、リアクションに困ってンだっつーの!」

 

 眉を八の字にしながら、克巳は独歩に訴えた。 

 仲睦まじい光景に、無門は頬肉が緩くなった。

 同時に、少し目を伏せた。  

 羨ましくもあった。

 

「そういえば、克巳は参加してないんだね」

「ああ、おれは予選落ちしちまった」

「予選落ち……?」

 

 最大トーナメントに、予選はない。

 ということは、克巳のこれは多分な意味を孕んでいる。

 無門の考えがまとまる前に、克巳が言った。

 

「もったいないことしたぜ。アニキと戦えるってわかってたら、おれも、初っ端から本気でやってたんだけどなあ」

「バカヤロウ」

「わかってるよ、親父。結果は結果さ。あれは、負けちまったおれが悪い」

 

 やはり、愚地克巳は負けているのだ。

 最大トーナメントの参加権を賭けて、誰かと戦い、そして敗れている。

 ぞく、と無門の背を好奇心が昇ってきた。

 愚地克巳は天才である。

 サーカスにいた頃から、自身に負けず劣らずの運動能力を持っていた。

 それが、武神、愚地独歩に鍛えられて、今や『空手界の最終兵器(リーサル・ウエポン)』と呼ばれているのを無門は知っている。

 その克己を、おそらく、尋常の勝負で破った猛者が、参加者にいるのだ。 

 ぞくぞくとしたものが、無門の心を揺さぶっていた。

 やってみたいな、と思っていた。

 

「無門くん」

 

 愚地独歩の声だった。

 

「今は、目の前の相手に集中しなさい」

 

 あれは、ただものではないよ。

 と愚地独歩は続けた。

 無門は目をく、と広げた。

 本部以蔵──

 超実戦柔術の使い手。

 幾人もの空手家を破壊した実績は本物だ。

 並みの相手ではない。

 尤も、このトーナメントの参加者に、並の男などいるハズもないのだが。

 

「──ありがとうございます、愚地先生」

 

 無門は軽く頭を下げた。

 キャップを深く被り、振り返った。

 

 克巳にとって、大きな背中が見えた。

 その背中が、ゆっくりと、遠ざかっていった。

 

 

3.

 

 

 会場が湧いていた。

 入場したふたりの男の格好に、意味を見出そうと考察を重ねていた。

 

 先入場者は無門だった。

 彼は、鍔付きの赤いキャップを被り、チェック柄のシャツを着て、ジーンズにスニーカーであった。

 誰の目から見ても、普段着であることが明白である。

 だが、これはさしておかしい話ではない。

 葛城無門は無所属の格闘士だ。

 つまり、何かしらの宣伝用道着などは持っていなくとも不思議ではない。

 着の身着のまま──それが、葛城無門の闘争(たたか)いに赴く際の、正装なのだ。

 

 だが、後入場者の、本部以蔵はどう言うことか?

 本部以蔵もまた、背広──普段着であったのだ。

 なんてことはない合わせられた上下。

 ジャケットの下は無地のシャツである。

 靴はローファーだ。なんの変哲もない。

 タバコまで咥えているではないか。

 

 会場がざわついた。

 柔術家といえば、戦闘のための正装とは袴に道着だろう。

 何を考えている、本部以蔵?

 

 モニター越しに、入場した本部を見て、にこやかに笑っているのが渋川剛気であった。

 そうきたか!

 と、感心に手を叩いていた。

 行住坐臥、戦場であれ。

 それが武術家の理想である。

 ならば、戦いの場に普段着であることは、なんら矛盾しない。

 武の本懐──本来の姿は、試合場で、審判と観衆に囲まれて、ヨーイドンでヤるものではない。

 突如として襲いくる警告なしの暴力。

 道を歩いていたら、ふと出くわす非日常的暴力。

 不当に因縁をつけられて開始(はじ)まる暴力。

 それらを即座に鎮圧してみせるのが、武の本番なのだ。

 そのために、心構えは常に。

 だから、本部は私服なのだ。

 逆にいえば、本部はこれを、普段と何も変わらない『実戦』だと認識していると言うこと。

 

 その意図を悟っているのは、闘技場の中央で対峙する、無門もそうであった。

 

 「ズルいなあ、本部さん」

 

 無門の問いに、本部が口角を持ち上げて応える。

 無門は指差した。

 指し先は、本部が吸っているタバコである。

 

「地下闘技場に、武器は持ち込んじゃダメでしょ?」

 

 合間に立つ審判も、後を追うように注意を促した。

 本部はふぅ、と息を吐いた。 

 タバコの煙がもうもうと籠り、闘技場の空気に溶けていく。

 

「すまなかったね」

 

 と本部はタバコを地面に落とした。 

 無門は虚を突かれた。

 てっきり、そのタバコを自分に向けて飛ばしてくると思っていたからだ。 

 狙いは顔面。目の周りに向けて飛ばす。

 もし火のついている方が当たったら、それで、無門の眼は使えなくなる。

 コトを終えた後、審判に注意されようが、観客にブーイングをされようが、知らんぷりを貫く。

 何より──それをやられたところで、自分が続行を促すだろう。

 本部以蔵はそこまで見通している。

 まず間違いない。

 試合が始まる前、控え室で神奈村狂太に言われていた。

 本部以蔵は恐ろしい男だと。

 あの神奈村狂太がそう言い切る男だ。

 

 だが、やけに素直にタバコを手放した。

 

 そう、だから、無門は虚を突かれた。

 

 本部はタバコが地面に落ちる寸前、足先で掬っていた闘技場の砂を、無門に向かって蹴り上げた。

 砂つぶの束が弾丸よろしく、無門の顔に向かって飛ぶ。  

 無門はそれを防御しなかった。

 手で払わない。

 手で払えば、それは動作をひとつ消費してしまう。

 その隙に、打ち込まれる。

 だから、セオリーとして、手で払わず、眼を閉じなかった。

 

 じゅ、と音がした。

 次いで、鋭い、焼けるような痛みが、左眼のすぐ下の部分にあった。

 想定外の痛みに、さしもの無門も首を振って顔を伏せた。背を、わずかだが丸めてしまった。

 伏せきるタイミングに合わせて、本部以蔵の左の回し蹴りが、無門の顔にぶち込まれた。

 

 やられた──ッッ!!

 

 という思いは、無門のものであり、モニター越しに見ている克己のものでもあった。

 本部以蔵は、あの一瞬で、無門の虚の刹那に、理不尽な三択を押し付けた。

 無門にできる三択とは、

 眼を閉じる。

 手で払う。

 そして、どれもしない。

 という三択である。

 いずれも、無門が行動に移った瞬間、本部に有利な状況が生まれるものだ。

 本来なら『どれもしない』という選択が最善ではあるが、本部は『タバコの火』という要素を足すことで、選択の最善性を潰している。

 不利を押し付けられた無門には、そもそもタバコの火が飛ぶことが見えていただろうか?

 

 それでも無門は無門である。

 かの久我重明をして『受け身の天才』と言わしめる天賦は、自分から派手に跳んで、本部の蹴りの威力を受け流し、綺麗に二本足で着地までしていた。

 

 そこに、本部が詰め掛ける。

 両拳による散打。

 それを、体勢が不十分のまま、無門は軽々と避けていく。

 

「ふっ!」

 

 それどころか、本部の隙を見つけ、打ち返していった。

 本部が左腕を高く上げて、打ち下ろした。

 柔術の当身にはない打撃である。

 無門はバックステップでそれを躱わす。

 本部の拳の軌道から、無門の頭が外れる。

 が──本部の拳は開いていた。打ち下ろす過程で、そのままキャップのツバを摘んでいた。

 ツバが、無門の視界を閉じた。

 本部はその上から、打撃を被せていく。

 と──無門が思い切り跳び退いた。

 

 そのまま二回、三回と跳んで、大きく距離を取った。

 帽子を被り直す。

 本部からの追撃はない。

 

 ──あぶなかった。

 

 と、無門は心中で溢した。

 ああいう方法があるのか。

 総毛立つ、肌がヒリついている。

 虚を突く相手とは、これまで何度も戦ってきたが、本部はまた、彼らとは別格だ。

 武器の持ち込みが不可能が大前提の地下闘技場で、こうも堂々とグレーゾーンの反則を行なってくるのか。

 厳守されるルールと、前の三試合があまりにもクリーンだったために、『武器を持って反則をされる』という前提が、無門の考えから半分抜け落ちていた。

 

 この間、本部は当然審判に詰問されている。

 だが、知らぬ存ぜぬと顔を傾けている。

 それもそうだ。

 本部側の主張とするなら、目潰しに蹴り上げた砂の中に、たまたまタバコが混ざっていた──という話なのだ。

 闘技場の砂を使用(つか)う──それは、武器の使用に当たるか?

 当たらないだろう。

 そりゃ、見るに堂々と手で掬って、相手に投げたりはダメだろう。

 だが、例えば──闘技場に向かって相手を投げるとする。

 闘技場の砂は、闘争(たたか)いの跡として、歴戦の格闘士たちの折れた爪や歯が、大量に混ざっている。

 その歯や爪が、投げ落とした相手の眼球に刺さったとして、それを投げた側の故意とできるかどうか。

 できない。

 なぜなら、それはたまたまに過ぎないからだ。

 なぜなら、条件は投げた側も同じだからだ。

 闘技場の砂は格闘士が持ち込んだものではない。

 たまたま投げ落とした場所に歯のカケラが転がっていた。

 そういう処置で済まされてしまうだろう。

 

 ならば、本部以蔵の主張も通っておかしくない。

 タバコを捨てた時、当然ながら本部の視線は無門にあった。

 タバコを捨てる動きは如何にも喫煙者の普通であった。

 つまり、意識して無門に蹴り上げたとは絶妙に言い難い。

 

 何より──

 

「いいよ、審判さん」

 

 葛城無門という男の心は、これで勝ちが決まるのを良しとしない。

 

「おれが不注意だったんだから。いいよ、それで」

 

 無門はニコリと笑った。

 タバコの火が接触した頬は、小さく黒い点が残っている。

 

 試合が再開した。

 

「ありがとうね、本部さん」

 

 無門は笑っていた。

 心から笑っていた。

 本部の強さに心が震えている。

 

 こんなエゲツないやつがいたのか──

 

 エゲツない技は良い技である。

 久我重明に聞いても、

 磯村露風に聞いても、

 柳龍光に聞いても、

 本部の技は良いものだと、そう答えるだろう。

 松本太山に聞いても、やはり、今の本部の技は良い技だと言うだろう。

 

 ワクワクしていた。

 

「無門くん」

 

 本部が言った。

 

「わたしが思っていたより……どうやら、きみは、だいぶ怖い人のようだね」

 

 本部が両の手を前に出して、腰を落とした。

 

 無門が突っかけた。

 拳を振るった。

 左のパンチ、顔を狙っている。

 

 その拳を、本部以蔵は難なく捉えたのだった。

 

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