【本編完結】慟哭の龍【挿絵有り】   作:ロウシ

77 / 102
第二話:エリートだから

 

0.

 

 

 黄金時代であった。

 日本の柔道界は、この三〇年、戦後最大の最盛期を迎えていた。

 畑中公平、立脇如水、船村弓彦、加納剛次、宇賀島天一郎、岩神京太、関修一郎、嵐山十郎太。そして、井野康生……。

 いずれも、柔道を始めたばかりの青い頃から、オリンピック出場を確実視されていた男たちであった。

 それぞれの全盛期には、この中の誰が出場(でて)も、メダルは確実と謳われていた。

 極東プロレスの『番犬(ポリスマン)』、町田隼人も元々は柔道のオリンピック候補生である。ざっと並べるだけでも、ここ三〇年の柔道史には、これだけの強者が並ぶ。異次元の豊作ぶりであった。

 しかし、皆が皆、すんなりとオリンピックに向かっていたわけではない。

 様々な理由があり、多くが華やかなる道を降りていた。結果的には格闘界の表裏で有名になった者もいるが──わずかな例外をのぞいて──誰もが柔道一本で、それを成したわけではない。

 例えば、立脇如水は松尾象山に負け、象山にほれこみ、北辰館空手へと移った。

 例えば、嵐山十郎太は、表世界から忽然と消えた柔道家、『少年M』の元に向かうために、ある日突然表格闘界から姿を消した。

 船村弓彦や町田隼人は言うまでもない。街頭で乱闘騒ぎを起こして柔道界を去り、プロレスに移っていった。

 この中で、必然と勝ち上がって金メダルを取ったのが、井野康生なのである。

 まず、一〇〇キロ級でオリンピック候補生と勝ち上がったのが、宇賀島天一郎と井野康生であった。

 その宇賀島に、公式試合にて、井野康生は勝っている。

 もちろん一本勝ちであった。

 その宇賀島が敵わなかった、岩神京太にも──練習試合とはいえ、井野康生は勝っているのである。

 

 とはいえ、宇賀島も岩神も、井野と組んだ時には肉体の全盛期はすぎていた。

 井野が日本代表として仕上がっていた頃には、本来、井野()ライバルになると言われていた、井野のひとつ前の世代の最強──嵐山十郎太は、前述の通り『少年M』を追い、輝かしい実績を捨ててどこかへと消えていた。

 井野は三〇年の柔道全盛期に、ぽっかり穴が空いた位置にいたのである。

 井野の戦績(キャリア)の中で、真に柔道強者と呼べる相手はいなかった。

 井野は、空白の玉座に()()()()座っただけ──運が良かっただけとも言えた。

 

 強さを証明したい。

 そういう想いが、あるいはずっと、井野の中で燻っていたのかもしれない。

 長田弘に負けて、柔道界の内外から非難されて、他人(ひと)に強さを疑われるようになってから、はじめて、自分が、自分の強さのことを、あんがい好きだったのだと気づいた。

 

 丹波文七の話を聞いたのは──

 丹波文吉の話を聞いたのは、そんな折だった。

 井野は、すぐに、丹波文七に会いたくなった。

 会ってどうするのか、なんのプランも考えず、ただ無性に会いたくなったのである。

 そこからは怒涛の展開であった。

 丹波文七が北辰館トーナメントの上位成績者に道場破りを仕掛けていたことを──それを知るや否や、井野康生は「丹波」と講道館の奇妙な因縁に魅了されていく。

 嘉納治五郎が、丹波文吉の父を、生涯の強敵と語ったことを知った。

 前田光世が日本の武術者に殺される前、その丹波文吉と闘争(たた)かって、既に重体の身であったことも聞いた。

 

 井野の好奇心は瞬く間に膨れ上がった。

 ときめいていた。

 もはや止められなかった。

 やってみたい。

 確かめてみたい。

 強く、そう思った。

 強いのかな?

 そう思った。

 純朴な、透き通った疑問であった。

 その答えを求める法論を、井野康生はひとつしかしらない。

 丹波文七とやればいい。

 やってみたい──と。

 

 そうすれば、きっと、答えが出る。

 丹波文七は強いのか。

 講道館よりも、強いのか。

 

 井野の元にも、徳川光成の使者は訪れていたが、井野は二つ返事で辞退を表明した。

 最大トーナメントは、すでに眼中になかったのであった。

 井野の純粋さはまっすぐであった。

 

 

1.

 

 

 そうして、泉宗一郎の道場の中で、丹波文七と井野康生は対峙していた。

 立会人は、当然、泉宗一郎である。

 泉は井野を止めなかった。

 最大トーナメントを、ひと月後に控えてなお、丹波文七を止めなかった。

 

 文七は構えている。

 オーソドックスな空手の構えだ。

 腰を落とし、足は、母指球に重心を乗せて、心なしか背を丸め、脱力の効かせた腕を、適度な位置に持ち上げている。

 重心がやや前にある。

 防御も考えつつ、攻撃的な──動いて、()()()()()()ための構えであった。

 腕と腕の間から、睨め上げるように井野を見ていた。

 井野康生は、ゆたりとした体の構えであった。両腕を適度に緩ませて、丹波に向けて伸ばしていた。

 膝を軽く曲げているだけで、腰も落としていない。

 背は伸びているし、自然な、立ち姿勢と言える構えである。

 ただ、それでいて、重心が真下に落ちていた。

 戦うための構えというには、あまりにも融通無碍がすぎる。

 だが、文七は侮らない。

 オリンピックでも、北辰館オープントーナメントでも、井野康生はこうだった。

 ほとんど立ち姿勢の状態から、相手に接触するや否や、井野は鋭い投げに移行できる。

 一見、地に足のついていない構えだから、相手から見れば井野は隙だらけだし、手を出せば簡単に当てられるし、簡単に足を引っこ抜いて投げれると思わせてしまうのだ。 

 そこからの鋭い投げの落差が、井野康生の柔道の魅力でもある。

 本人にそのつもりがあるのかは分からないが、これもある種の擬態……と言うことなのだろうか。

 

「井野さん」

 

 文七は構えを解かず、言った。

 井野は、変わらずの雰囲気で、静かに耳を傾けていた。

 

「一応聞いておきたいンだが……あんたは今、たたひとりの格闘士の井野康生として、ここに立ってンのかい? それとも……講道館の井野康生として、ここにいるのかい?」

 

 文七は揚々と顎をしゃくった。

 井野は、口角を緩めた。

 

「どっちもですよ」

「どっちも?」

「分ける必要あります、それ?」

 

 自分は、講道館柔道を学んで強くなった。

 だから、立ち合いを行うなら、使用(つか)う技はすべからく講道館の柔道である。

 それでありつつも、井野康生という男は、ひとりの格闘士として丹波文七という男に挑んでいる。

 井野康生が、黒帯を締めて他所の道場に上がり込んだ以上、講道館の看板を背負うというのは当然であるが、井野康生の心地としては、あくまでひとりの男としてここに立っている──という両論は、理屈として並び立つのである。

 

「逃げてもいいンすよ」

 

 挑発的な口調であった。

 しかし、井野の言葉は文七を侮るものではない。

 もし、自分のことが信用できないから──

 もし、自分に勝って、講道館そのものと生涯戦争をする立場になると思っているのなら──逃げてもいい。

 逃げるなら、追わない。

 それで、講道館と丹波の話は終わりでいい。

 そういう言い方をしている。

 

「ヘぇ……」

 

 文七は感嘆した。

 うまいじゃないか、井野康生。

 笑った。

 ヤるしかなくなった。

 これで、丹波文七は、己の格闘士のプライドにかけて、ヤるしかなくなったじゃないか。

 ウマいもんだ、井野康生。 

 エリートの坊ちゃん(ボンボン)と思っていたが、なかなかどうしてケンカがウマい。

 

「しいっ」

 

 文七の虚を突いて、踏み出したのは井野であった。

 これには、さしもの文七も驚いた。

 

 先に動──?

 当て身──ッッ?

 井野康生が!?

 

 それは、ジャブであった。

 引きを意識してスピードのある、いかにもボクシング的な左ジャブ。

 

「しえやっ」

 

 文七は慌てることなく身を捩って拳を躱した。

 そのまま、井野に向かって踏み出した。

 あまいぜ、井野。

 なかなかサマになってるジャブだが──あんたのジャブは怖くない。

 なるほど、確かに柔道にだって当て身ぐらいある。

 だが、公然とした試合の場で、井野康生が投げ以外を使用(つか)った例はない。

 虚を突いたつもりだろう。

 こういう時のために、とっていたのだろう。

 よく伸びるジャブだ。

 スナップが効いている。

 手首が相当強い。

 それはあたりまえか。

 柔道家の握力と手首の強さは疑う余地はない。

 サマになっている打ち方なのは、相当に練習して身についたジャブだからなのがわかる。

 腰が入ってる。

 これは、一石一丁で身につかない。

 だが──当然の話、打撃を専門とする格闘士ほどの威力じゃないぜ。

 打撃は、むしろ、おれの得意分野だ。

 あんたの怖いところは、投げだよ。

 投げに来ない井野康生なんて、恐るるに足りんぜ。

 

 文七は、慣れた動きで井野の懐に潜り込んだ。

 井野の足は肩幅より少し開いて、打撃のために前後わずかに開いているだけだが、文七からすれば身体を滑り込ませて鎮座し、効果的な打撃を打ち込むには十分すぎるスペースである。

 ガラ空きだぜ、井野。

 文七は自分の足が、つま先から井野の正中線に重なるように踏み込んだ。

 腕を折りたたみ、身を縮こませ、肩をいれる。

 そこからボディブローを──

 

 ──ッッ!?

 

 不意に、文七の顔が沈んだ。

 首の裏を掴まれていた。

 井野の左ジャブが戻っていなかった。

 井野は、左手を戻さずに文七の首の裏を掴んでいた。

 そのまま、自分の胸に向かって引き寄せたのである。

 ものすごい力であった。

 オリンピック金メダリストの、本気の引き込みであった。

 井野はそのまま、文七の首根っこを自身の右脇に押し込めた。

 井野の脇の間から、文七の顔が背中より前に突き出して、道場の床に向けられている。

 井野の右腕が文七の首に巻きつき、固定した。

 

「しよっと」

 

 そのまま、井野は床に向かって背中から跳んだ。

 文七は慌てて顔の前に掌を並べた。

 凄まじい勢いで床が迫り上がってきた──

 

 どぎゃっ、と音がした。

 文七は顔から床に突っ込んだ。

 井野と文七の体重、合計およそ二〇〇キロの重さが文七の顔と首にぶち当たった。

 

 井野は素早く手を解き、一分の隙もなく立ち上がった。文七は、井野に半歩遅れて前転して顔を上げた。

 

 ──ッッ!?

 

 いない。

 文七の正面。

 そこに、井野はいなかった。

 ぞくりと、悪寒が走った。

 

 井野は上だった。

 文七の背に、上からのしかかってきた。

 文七の動きに合わせて死角に跳んでいたのだ。

 腕が、首に回っていた。

 裸締め──それが形になる寸前に、文七は左腕を挟むことに成功した。

 

 しかし、

 

「……〜〜ッッ!!」

 

 井野は、構わず締めてきた。

 凄まじい力であった。

 文七は残った右腕で井野の腕を掴んだが、びくともしない。

 

 構わずキメる気かッッ!?

 キメられちまうのか、このおれがッッ!?

 何もできずに、やられちまう──!?

 

 途端に息ができなくなっていた。

 意識が、ずんぐりと重たくなっていく。

 

 負けるのか、おれが。

 こんなに簡単に?

 強い──ッッ

 いやッ、何言ってんだ、おれは。

 相手はオリンピック金メダリストだぞ?

 弱いハズがないッッ。

 だが、所詮アマチュア柔道だ。

 実戦の場で、このおれが、こうも簡単に……ッ!!

 

 井野が、口を噛み締めた。

 腕の筋肉が、ぐっと硬くなった。

 一気にキメる気だ。

 

 ──強ェ!

 柔道、強ェッッ!!

 いや、井野康生、強ぇよ!!

 この、まんまじゃあ……負ける。

 ち、力を、ふり……しぼれ!!

 はらに、ちからを……ちから……ッッ!!

 

「かああっ!!!」

 

 気合い一閃。

 文七はバックジャンプで飛び上がった。

 宙空で、しかし、井野は離れなかった。

 そのまま、井野を背負ったまま、文七は道場に向かって背面から落ちた。

 二人分の体重が、今度は井野に叩きつけられた。

 

 井野の腕が外れた。

 文七は必死にエスケープをはかった。

 見栄えも何もない、転げ、這いずるように井野から身を離した。

 丹波文七、決死の反撃であった。

 息を吸う。

 それを、細く吐き出す。

 ひと呼吸分、体力を回復できた。

 しかし、安堵するには程遠い。

 腹ばいにうずくまり、呼吸を整える文七の上に、井野は身を投げていた。

 腕をとって、そこを支点に己の身体を文七の上に被せていく。

 寝技だ。

 しまった。

 ここはまだ、井野康生の領域だ。

 なんてことだ。

 立ちも、寝技も、井野の領域だって言うのか!!

 文七の顎に、井野の右の掌が添えられた。

 首の裏──延髄に左肘が乗っている。

 折る気かッ、井野。

 文七は、顔を引っ込めた。

 顎を胸に鎮めるように引いて、井野の掌から逃げていく。

 

 ──ッッ!!

 

 刹那、ぴたりと、文七の動きが止まった。

 つままれていた。

 耳を。

 井野の左手が、耳を上下から挟んでいた。

 

「があッッ!!」

 

 文七は左肘を折りたたんで井野の腹部に当てた。

 く、と井野がうめいて指から力が抜けた。

 

「おおっ」

 

 文七は勢いよく反動をつけて、頭突きを見舞った。

 後頭部で、井野の鼻を潰した。

 みきっ、と鼻の軟骨が潰れた感触があった。

 

 文七は逃げるように前に跳んで、振り返った。

 井野の頭が下がっていた。

 立ちあがろうと中腰になっている。

 そこに、左のローキックを打ち込んだ。

 

「げふっ」

 

 井野が、床に叩きつけられた。

 文七はすかさずマウントを取らんと井野の腹に乗ろうとした。

 マウントが完了する寸前、文七の右足の裾に、井野の人差し指が差し込まれた。

 

「ちぇりやぁあああぁッッ!!」

 

 恐ろしいことをやった。

 なんと、井野は片腕で文七を投げたのである。

 ほとんど寝ている姿勢のまま、文七の重心を崩し、力ずくで振り回した。

 文七の姿勢が沿り崩れて、姿勢を保つために右腕を床に立ててバランスを取ろうとした。

 そこに、井野は膝立ちの状態で向き合い、文七の道着の襟をとった。

 

「くわあああッッ!!」

 

 そして、座ったまま背負い投げた。

 

 

2.

 

 

 実戦で最も強い武術はなにか? 

 そう問われたならば、破壊力においては柔道だろうと筆者は答える。

 柔道は、簡単に人を殺せる。

 コンクリートの上に頭から投げ落とせば、人は簡単に死んでしまう。

 電柱に向かって崩しを仕掛け、後頭部を叩きつければそれだけで死んでしまう。

 だから、たいていの柔道はまず、「受け身」と「正しい投げ方」を教えるのだ。

 それは、柔道こそが、簡単に人を殺せる技だからだ。

 柔道をならって、それを人並みに扱えるようになれば、誰もが人を簡単に殺してしまえるからだ。

 

 投げとは、それだけの必殺性がある。

 拳や蹴りで人を殺すための手間暇や力と比べて、投げの労力は恐ろしいほど軽い。

 

 では、オリンピック金メダリスト、井野康生の投げの威力とは──ッッ?

 

 

「ぐはっ!!」

 

 文七は苦悶に顔を歪めていた。

 肩から落ちた。

 肩にぶつかった衝撃が、腰まで突き抜けて爆発し、尻から出ていった。

 息ができないほど、苦しい。

 それでも、警戒を解くわけにはいかなかった。

 よろよろと立ち上がった。

 そこに、井野康生は素早く飛びついた。

 

 大外刈り──

 背中から、文七は叩きつけられた。

 かろうじて受け身が間に合った。 

 それでも、ギリギリ戦闘不能にならなかったにすぎない。

 破壊力をいくらか軽減できたにすぎない。

 

 すげえ。

 文七は立ち上がった。

 井野は、正面に立っていた。

 また、投げられた。

 

 ──すげえッッ。

 

 今度は、背中から落ちた。

 仰向けになって、意識が途切れかけて、文七はぼやけた目で天井を眺めていた。

 

 感じるものは、讃嘆であった。

 

 長田──オマエ、すげえよ。

 

 北辰館オープントーナメントで、この井野康生の投げを、あれだけ喰らってたのか、オマエは。

 あれだけ投げられて、すぐに、なんともなく立ち上がってたのかよ。

 すげェな、長田。

 ワルかったよ、スポーツマンなんて言って……

 プロレスラーって、つええよ。

 忘れてたよ。

 すっかり、忘れてた。

 プロレスラーの中にも、本当に強い奴は、やっぱりいるってことだよ。

 井野康生、強えよ。

 今──おれの顔を踵で踏み抜けば、それで終わる。

 井野がそれをしないのは、井野康生なりの、何かがあるからだ。

 柔道家としての、なにか。

 井野康生としての、なにかに、おれは救われている。

 甘っちょろいゼ……井野。

 そうだ。井野康生は甘っちょろい。

 あの試合も、あと一回か二回投げれば、それで決着はついてただろう?

 わかってて──こいつは長田を投げなかった。

 それが、井野康生の美学なんだろうな。

 

 まぶしいやつだ。

 自分の美学に則って、それで、負けを認められるなんて、おれにはちょっとできそうもない。

 井野。

 おまえ、すごいやつだ。

 井野。

 

「悪かった……」

 

 文七は呟いていた。

 気づけば、立ち上がっていた。

 立ち上がっていてなお、井野は仕掛けてこなかったのだ。

 

 ハハ……

 苦笑していた。

 せざるを得なかった。

 気を使われてるってのか、このおれが。

 いや、違うな。

 それが、井野康生なんだな。

 柔道家の、井野康生。

 かっこいいぜ、井野。

 おれには、そうはできないだろうな……

 おれや、そうだな……松尾象山だって、たぶん、これはできないだろうよ。

 

「全力で、やる……よ」

 

 声がでねえな。

 投げられたばっかりだもんな。 

 まだ、身体の芯が震えてやがる。

 世界一の投げだもんな。

 アリガトウよ、井野。

 ありがとう──

 

 

3.

 

 

 文七は微笑を浮かべていた。

 自然な笑みであった。 

 不気味な笑みでもあった。

 文七の重心が前に寄っていた。

 より攻撃的な姿勢であった。

 

 井野は、唾を飲み込んだ。

 高まる緊張感に、冷や汗が滲んでいた。

 

「すっ、げ……」

 

 井野はつぶやいた。

 文七のゆたりとした雰囲気、臭いが変わっていた。

 大型の肉食獣が、獲物を定めて身体をゆすっている。

 大きくて、分厚くて、真綿のような圧迫感が井野の身体を圧していた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。