【本編完結】慟哭の龍【挿絵有り】   作:ロウシ

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第二話:あずかり知らぬ

 

0.

 

 

 豪奢な部屋であった。

 広い空間である。

 床一面は、継ぎ目の薄いタイルが敷き詰められ、照明の光をよく吸った深い朱色に染められている。

 家具のようなものがほとんどない。

 飾りのない机が隅にひとつと、椅子が、中央に一脚あるだけだ。 

 荘厳で威圧感のある円柱が、部屋の中心から外に向かって、空間を広げるように、規則的に並んでいる。

 空間の真ん中のやや後部に、巨大な水槽がゆらりと広がっていて、その中にはまた、巨大な黄金色の鯉が、大蛇のように身をくねらせて泳いでいた。

 

 そこに、ふたりの男がいた。

 ひとりは、神奈村狂太である。

 もうひとりは、この部屋の──屋敷の主である、当代の蘭陵王こと蛟黄金丸であった。

 ふたりの男は、部屋の中心で向き合っていた。

 黄金丸が水槽を背に、椅子に座っている。

 神奈村狂太が黄金丸と水槽を正面に立っている。

 その間には、何もない。 

 神奈村の格好はツィードのスーツに素足の上からローファーを穿いている。ネクタイをきちんと留めて、メガネもいつものものだ。髪を、整髪料で纏めて後ろに流している。普段彼が身につけているものを、そのままである。

 黄金丸こと蘭陵王は、先代の身につけていた舞楽用の、生地の分厚くしっかりした着物を身につけている。顔には黄金丸を蘭陵王をたらしめる、仮面があった。

 

「だいぶ、様になっているじゃないか」

 

 忌憚なく、神奈村は言った。

 黄金丸はくく、と短く笑った。

 

「それで……ぼくに、なんの用なのかな? まさか、また、"ゆうえんち"に参加してほしい──そういう話かな?」

「違いますよ」

「そうなのかい? ぼくとしては、無門くんがいるなら、参加してもいいかなと思っていたんだけどね……」

「意地が悪いですよ、神奈村さん」

 

 冗談が通じたことを自覚し、神奈村は微笑した。

 葛城無門は、今、徳川光成が主催する最大トーナメントへの参戦を決定(きめ)ていた。

 そのトレーニングのためなのか、無門は最近、フラッシュ早田のボクシングジムに通い詰めているという。

 つまり、何をどうやっても、直近に開催される──かもしれないとして──"ゆうえんち"には、無門は出場()るわけもないだろう。

 元々、あの時の葛城無門にとっても、"ゆうえんち"は()()()()松本太山の仇を討つために、柳龍光を倒すために参加していたにすぎない。

 葛城無門の武術家としての素質──その観点から言っても、性根が優しくまっすぐな無門には、正真正銘の()()()()()()な"ゆうえんち"より、ある程度ルールがあって、()()()()()()()()()()()()の方が向いているとも言えるだろう。

 

「ぼくとしては、寂しくもあるけど、嬉しくもあるかな。無門くんは、あまり、積極的に殺し合いができるタイプじゃないからね」

「まあ、ぼくとしては、いずれぼくと戦うためにも、無門くんには"ゆうえんち"には出場()てもらうつもりですけどね」

「職権濫用じゃないかな、それは」

「前回時点で、父ともども散々贔屓してますから、今更ですよ」

 

 仮面の下で、黄金丸は怪しく唇を震わせているのがわかる。

 成人しているにも関わらず、黄金丸の吐き出す息は、少年期に増して甘美な──毒気のような妖気が濃くなっていた。

 

「神奈村さん、ぼくの推薦枠で、最大トーナメントに出場()ませんか?」

 

 ほう、と神奈村の瞳孔が、わずか三ミリ程度、驚きに見開いた。

 最大トーナメント。

 徳川光成が開催を決定した、地下闘技場で行われる最大最強最高の格闘トーナメントである。

 神奈村の下にも、すでに光成の使者は来ていたが、神奈村は丁重にこれを断っていた。

 理由は単純(シンプル)で、神奈村には地下闘技場の、大勢の観客の前で、自分の技を見せるつもりがないからだ。

 "ゆうえんち"にあって、地下闘技場にはないもの。

 "ゆうえんち"になくて、地下闘技場にはあるもの。

 最大の差異は、観客の有無である。

 その機微を、観客の有無で試合に望むか避けるかを選択する格闘士の心象を、蘭陵王となった黄金丸が理解していないとは言い難い……

 

 どういうことかな、と神奈村は聞いた。

 

「神奈村さん。アナタ、狙われていますよ」

 

 ご存知でしょう?

 と黄金丸は続けた。

 

 あの、アメリカン・ハイスクールでの一幕。

 学校に乗り込んできたテロリストを、あなたが鎮圧した件──

 軍人崩れのそのテロリストたちが、実は、恐ろしい組織の子飼いの部隊だった──……

 

 黄金丸が言い切る前に、神奈村はまいったなと肩をすかせた。

 

「ああそうさ。よく調べているね。……実は、どうもそうらしくてね。今、わたしもね、わたしが教えていた時の同期──()()()()()()()()()のツテを使って、彼らのことを調べて、なんとか手を打とうとしているところなんだ」

 

 神奈村は、恐ろしいことを、表情を変えずにつらつらと述べ始めた。

 この数ヶ月、自分は狙われている、と。

 夜道を歩く──ワザと、人気のない方に向かうと、刃物を持った男に囲まれて、襲われる。

 そう言うことが、不自然なほどに何度もあった。

 警察に届けても、果たして神奈村の訴えは虚空にでものまれているのか、全く音沙汰がないし、次第に相手にもされなくなっていった。

 そこで、神奈村自身が思い当たる節を、手当たり次第に当たってみた。

 武の世界の怨恨の数々に近しい神奈村であったが、該当するケースにはすぐに行き当たった。

 

 それが、過去にアメリカン・ハイスクールで教鞭を振るっていた時代に起きた、テロリスト退治であった。

 

「どうもあのテロリストたち──()()()には、そうとうヤバい連中の子飼いだったようでね」

「ルシフェル教団──」

「──なんだって?」

「正確には、教団に出資している『ケルビム』の子飼いの戦闘部隊──でしたね」

「まいったな、きみは。いったいどこからそういう話をつまんでくるんだか……」

 

 神奈村がやれやれと、彼には珍しい苦笑を浮かべていた。

 

「神奈村さん。徳川さんの開催する最大トーナメントには、()()ビスケット・オリバが参戦するそうですよ。彼だけじゃない。あれほどの強者が集まるとなれば、まず間違いなく、『蟲』が関与してくると思います」

「『繋がる者』が、来るかもしれない……そういう話かい?」

「そういう話です、神奈村さん」

 

 神奈村は視線を足下に落とした。

 何かを、深く考えているそぶりであった。

 そこに、黄金丸はもうひと言付け加えた。

 

「うまくいけば、すべての因果がまるく収まるかもしれませんよ」

「失敗したら、未曾有の大災害だろうね」

「大丈夫ですよ」

 

 ()()()は、仮面の下で笑っていた。

 そうなったらそうなったで──面白いじゃないですか。

 待ち受ける混沌を夢想し、その到来に喜びを隠しきれず、不敵に、そう、笑っているのだ。

 神奈村は視線を上げた。

 

「ぼくが、優勝しちゃってもいいんだよね?」

「それはもちろん。()()()()()()()()()()()ですからね。ぼくももちろんだけど……徳川さんも大概、そういう意味では()()()()ですから、大興奮だと思いますよ」

 

 ふふ、と神奈村は微笑した。

 口角がかすかに持ち上がる。 

 それに合わせたように、黄金丸もまた、仮面の下で微笑している。

 

「それじゃあ仕方ない。給料にはならないが、自分の身を守護(まも)るためにも、ひと汗かくとしようかな」

 

 こうして、蘭陵王の推薦として、神奈村狂太は最大トーナメントのチケットを握ったのであった。

 

 

1.

 

 

 畑幸吉が攻めていた。

 意外な光景であった。 

 古武術拳心流にも当身技は当然あるが、それは当然、ことボクシングや近代空手のような、激しい打ち合いを想定したものではない。

 しかし、畑の拳はいっぱしの打ち方になっていた。

 一打一打に、腰が、しっかり乗っている。

 それを、神奈村狂太は涼しい顔で捌いていた。

 神奈村には、畑の狙いはわかっていた。

 打ち合いに巻き込む中で、差し出された甘い一打を取る──

 最もスピードがノって、

 最も破壊力があって、

 最も伸びる一打を取り、そのまま関節を折る。

 それは、拳心流の最も基本たる技にして、最も難しいとされる技である。

 拳心流の技は、基本的に攻防の流れの中で、その緻密さが増した時に効果を発揮するものが多い。

 どんな流派の、どんな大技にも言えたことではあるが、いきなり強い大技を放ったところで、防御の仕方を知っている相手には容易く防がれてしまうものだ。

 

 だから、当てるための工夫をする。

 だから、まず、試合の序盤は小さくて細かい技から入っていく。

 もちろん例外はある。

 例えば──堤城平のように、初っ端から全力全開で圧をかけ続け、相手の態勢を崩し、ペースを握り、拳を当てていってそのまま倒してしまうという方法。

 例えば──花山薫。

 全身を投げ出すように放つ、強く、まっすぐな拳は、一見避けることは容易く見えて、実際目の前にすると防ぐことも避けることも不可能だと知る。

 だが、いずれも非凡なる才能──という言葉では片付かない、それぞれの人間性、存在力とも呼べるもの──があって、初めて戦術として花が咲くものである。

 才能で言えば、畑幸吉は凡夫である。

 

 それを承知の上で、神奈村狂太は、畑の動きが()()()()()()に誘導していた。

   

 神奈村の姿勢は待ちの一手だった。

 手を出さない。

 ただ、微笑みを浮かべて、いかにも普通に、畑の前に立っていた。

 それは、武的な意味では、拳は決して差し出さないという攻勢とは決別した構えであった。

 きみのペースには、決して付き合わない──神奈村の手痛い告白であった。

 

 攻めるしかない。

 神奈村に、生半可な煽りは通じない。

 生半な誘いには乗らない()()()()()()()()()()男なのだ。 

 百戦錬磨──見てくれ、なんて、いやらしい顔をしているのだろうかッ。

 この男に、中途半端な気持ちで手を出せば、火傷どころでは済まないだろう。

 だから、本気で手を出していく。

 機を見出すには、本気で手を出すしかない。

 幸い、首くじきのダメージは回復した。

 回復するまで神奈村が待っていたのは、余裕か、驕りか──

 

 どちらでもいい。

 拳を打つ。

 蹴りは、まだ出さない。

 姿勢を崩されやすいからだ。

 投げられたら、今度こそ、そこで終わりかねない。

 だから、戻しを意識した拳を打つ。

 たとえ一打一打に意味はなくとも、一〇〇打放てば微かな光明が見えるかもしれない。

 それを積み重ねる。

 焦ることはない。

 おれは凡人だから。

 たとえ一〇〇打全てが捌かれたとしても、次の一〇〇打を打つ。

 おれに焦りはない。

 耐えることは慣れている。

 なにせ、凡人の畑幸吉。

 この身体は、勝つために、我慢することには慣れているからな──

 

 神奈村が押されていた。

 傍目には。 

 神奈村はずるずると後退して、背中と柵の距離が、もう三〇センチというところまで追い詰められていた。

 しかし、その顔は涼しさを帯びている。

 畑には痛いほどわかっていた。

 誘導されている。

 だが、それでいい。

 勝負は、技を出した瞬間だ。

 神奈村が、技をかける瞬間。

 技をかける時は、技をかけられることに、抵抗できなくなる。

 こちらは、最初から腕一本はヤられてもいい覚悟をしている。

 急所だけは守護(まも)る。

 腕一本を犠牲に、勝利を掴む。

 凡人のおれにしては、少ない犠牲に、十分見合うリターンというわけだ。

 

 畑の目論見は、しかし、あっさりと砕け散る。

 

 壁際で、神奈村が攻勢に動いた。

 それが、技ではなかった。

 いや、技ではあるが、神奈村のそれは、複雑な経緯の一切を廃した、ごくごくシンプルなローキックだったのである。

 驚きながらも、畑は足を持ち上げて、やすやすと受けた。

 軽い蹴りであった。

 その軽さが畑の脳に情報として届いた瞬間──ぞわっ、と畑の背筋を恐怖が撫であげた。

 

 神奈村の姿が消えた。

 畑の目の前から。

 回り込まれたッッ!!

 神奈村の動きに、理解が二歩、遅れている。

 それが致命的であった。

 畑が振り向くより早く、神奈村は畑の右腕を自身の右腕で巻き取って関節をキめ、左手で畑の背中をぽん、と掌で圧していた。

 ローキックの蹴り足が残っていた。

 だから、畑はそれにつまずき、前のめりになった。

 残った左腕で、柵を掴んだ。

 ぼそり、と神奈村が言った。

 

「これは、痛いよ……」

 

 畑は、左腕で咄嗟に頭を庇った。

 しかし、すぐに神奈村の意図に気づいて、腕を後頭部に回した。

 畑の動きに構わず、神奈村は畑の頭部──額を、柵にぶつけて押し当てた。 

 柵と、畑の手が密着した状態で、神奈村は自身を軸に、畑を振り回していった。

 

 ごりっ、という音が、最初にあった。

 次に、びり、と和紙が破れるような音がした。 

 ごりごりごりっ、と音がする。

 畑の額が、闘技場の柵に擦れて、削られていく音だった。

 

 

2.

 

 

「エゲツねえことしやがるぜ」

 

 愚地独歩が言った。

 言葉に反して、その音は軽快な心地を奏でている。

 葛城無門が、かつて"ゆうえんち"での戦いを思い出してか、引き攣った笑みを浮かべていた。

 

 ダメージを狙った技じゃない。

 額は、というより頭蓋骨とは、人間の骨の中でもことさら硬い部分である。

 その上で、最も傷がつきやすく、出血が多い部位である。

 アントニオ猪狩の繰り広げるプロレスでも、こと出血沙汰といえば、大抵は鼻血か、額からの出血であるほどに、見た目の派手さに対して効果的なダメージはない場所である。

 神奈村の仕掛けている技のいやらしさは、畑の片腕が自由になりつつ、後頭部を叩きやすい部位に自分を置いていることであろうか。

 後頭部、特に首と頭蓋骨の付け根の一帯は、人間の中でも最も危険な急所である。

 素人が素手で喧嘩を起こした場合、相手を致死にたらしめるケースのほとんどが、素手による殴打ではなく、倒れた時に相手が頭を打ったことが原因によるほどである。

 後頭部への衝撃とは、それほど危険なのだ。

 その部分が、この構図では神奈村に剥き出しになっている。

 だから、畑は、自身の自由になっている左腕を、柵と自身を遠ざけるより先に、後頭部を覆うように掴ませていた。

 もし、痛みや出血に耐えかねて後頭部を晒せば、即座にそこを叩く──

 しかし、手出しができなければ、着実なダメージと痛みが増していく。

 

「いやらしいねェ……」

 

 たまらない呼気を、独歩は吐いていた。

 

 

3.

 

 

 この戦法が、しかし、唐突に終わりを使える。

 畑の頭が下に抜けたのである。

 それで、圧していた力に対するつっかえを失って、神奈村がバランスを崩したのである。

 畑は、素早く、神奈村の胸を潜るように背後に抜けた。

 血のしるべを撒き散らしながら、しかし、観客の多くが目を見張ったのは、畑の異形そのものにであった。

 

 畑の頭部が、肩に沈んでいた。

 首が無くなっている。

 まるで亀のようであった。

 振り向いて、それを一瞥した神奈村も、流石にこれには動揺を隠しきれていなかった。

 

「たっ、タートル・ディフェンスやん!?」

 

 狼狽しながら言ったのは、宮沢熹一であった。

 

「なっ、なんであの男が、朝昇のワザをつかえんねん……っ!?」

 

 画面の向こうで、畑が自身の手で、身体に潜り込んだ頭を引っ張り上げていた。

 血に塗れながら目を見開き、したたかに笑うその表情に、キー坊はかつてのライバルを思い出さずにはいられなかった。

 

 

4.

 

 黒竜寺に赴いた畑幸吉が、朝田昇──朝昇と闘争(たたか)うことになったのは、必然であった。

 畑が、黒竜寺を訪ね、師である茂木正平からの紹介状を住職である雲光(うんこう)に渡した時、当然、雲光は尋ねた。

 畑がなぜ、黒竜寺で修行を積みたいのかをである。

 

「強くなりたいからです」

 

 畑は、座するまま、雲光をまっすぐに見据えて、言った。

 澄んだ眼であった。

 なんの疑いも、迷いもない眼差しで、透き通るほどの声で、畑は雲光を刺し貫いた。

 じろり、と雲光が畑を睨み上げた。

 雲光の『気』が乗った視線は、澄み切った畑の瞳を、その心の中まで見透かさんと覗き込む、黒々とした光があった。

 そして、雲光は見事に畑の狂気を掴み上げた。

 

「最大トーナメントに、参戦するそうだのう」

「はい」

「しかし、トーナメントまではたった三ヶ月しかないぞい。どんなに厳しい鍛錬を積んだところで、三ヶ月では成果はでまい」

 

 雲光の言うことは尤もである。

 黒竜寺の修行は厳しいが、現代スポーツ科学と比較するなら異常とされる行いが多い。

 失神するまで首を締め上げたり、呼吸が続く限り池の中に身を投じてみたり、身動きの取れぬ狭い土の中に入り、一才の食を断じてみたり……等、黒竜寺のそれは、武術の修行というより、仏門に投じるものですら避けかねない苦行そのものである。

 

 そんなものを、今からやり始めたって、三ヶ月後に何が変わるわけもない。

 むしろ、無意味に痛めつけられた身体では、パフォーマンスは著しく低下していることだろう。

 

 畑は、かぶりを振った。

 狂気に被れた聖直な眼が、雲光を見据えていた。

 

「いるんでしょう、いまッッ」

 

 誰のことか──雲光にはすぐにわかった。

 つ、と額に汗が滲んだ。

 

「……確かに、今、あの男はここにおる……おるが、もう、あの男は人と競う段階にはおらんのだよ」

「なら、わたしが襲います」

「──ッ!?」

 

 ギラギラとした眼光が射すくめていた。

 本気でやる──と、言葉ではなく、心で伝えてくる。

 畑幸吉の、狂気が具現化した光であった。

 

「…………」

 

 観念して、雲光は禿頭を撫でた。

 雲光は、仏門に身を沿わせる己だからこそ、このような男を受け入れなければならなかった。

 

「朝昇」

 

 雲光が呼ぶと、その存在はす……と、どこからともなく気配を滲み出した。

 畑がその方を見る。

 雲光の背後であった。

 そこに、静謐な佇まいで頭を垂れる、背の小さい男が膝をついていた。

 

「朝昇、スマンがのう……」

「お話は伺っています」

 

 快刀乱麻を断つが如く、朝昇の構えは早かった。

 立ち上がる。

 慌てて、畑も立ち上がった。

 対峙する。

 朝昇と呼ばれた男は、ごく普通の男の顔であった。

 美丈夫ではない。 

 鼻立ちも、眼の形も、口の縛り方も、ごく普通の日本人男性といったカタチをしている。

 身長も、自分より二〇センチは低いかもしれない。

 

 しかし、ただならぬオーラを纏っていた。

 朝昇は、にこりと、強かに笑みを投げた。

 

「さて……細かい話は後にしましょうか」

 

 やりましょう。

 雄弁に、しかしコンパクトに、朝昇は言った。

 

 話の早い男であった。

 

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