幼馴染が主人公っぽかったので俺はライバル枠に収まることにする 作:アウグスティン
たんぱんこぞう:ロホ
むしとりしょうねん:ベルデ
ポケモンごっこ:アスル
曇り空である。まだこちらの雲は薄いが、遠くの方は暗い色をしていた。そう長時間はいられないな。
ハネッコたちも今日はおとなしめだ。光が足りなくて元気が出ないのだろう。
いつもならぴょんぴょん跳ね回っているのだが、頭の葉っぱをぺたんと垂らして寝そべっている。
周りからわかりやすいところで適当に図鑑を開いて待ってようか。と、うろついていたところ、タマンチュラが糸玉を補強しているところに出くわした。
他にやることもないし、とても興味を惹かれるのでこれを眺めて待つことにする。
古くなった糸を取っ払い、新たに吐き出した糸を器用に背中へ巻き付けていく。
普段はそんなでもないんだけど、こういうのを見ているとスマホロトムが欲しくなってくるな。撮影したい。
「あっ、いた!」
ぼんやり過ごしていると横から呼びかけられた。
「ん? おぉ、来たのか」
振り向くと待ち合わせていた三人である。
「こんちは、なにみてるんだ?」
と、短パンが聞いてきた。俺はその場を退いて、彼らから見えるようにして答える。
「タマンチュラの衣替えだよ」
「うぉぉ〜、すげぇー!」
虫取り少年が食いついた。目をキラキラさせてタマンチュラを見つめる。
「あっ、おいベルデ。もー、あめふるからうちであそばないっていいにきたのに」
「まあまあ、そんなに時間のかかるものでもないだろうし、待ってあげたら」
短パン君にそう言って、俺も観賞に戻る。
ベルデ、ベルデ……。話の流れ的に虫取り少年の名前だよな。会うのは数回目だけど、名前ぜんぜん頭に入らん。
他の二人も思い出せない。あ〜……タマンチュラかわいいな。進化すると見た目すごくなるけど。
「このあとどうする?」
「ゲームしようよ、よにんいるし」
「だな。レト、スイッチもってる?」
「持ってなーい」
そこまでタマンチュラには興味がないのだろう、予定を立てていた二人に返す。
数分してタマンチュラが糸玉を巻き終わり、自慢げに足を伸ばして見せびらかしてきた。
潰してしまわないよう気をつけながら頭を指でなぞってやる。
「よしおわったな! じゃあかえろうぜ」
「んじゃまた」
見送るべく俺は手を振った。
ポケモンごっこが不思議そうに首を傾げる。
「レトくん、こないの?」
「俺も付いてく感じなのか?」
外で遊ぶって話だったし、このまま降り始める限界までぶらついてから帰るつもりだったんだけど。
「ゲームもたのしいよ」
「あ〜、ほら。ゲームはいつでもできるじゃん?」
「いつでもやってるの?」
「やってないけど」
「ならやろうよ」
しまった。幼女に論破されてしまった。ぐぬぬ。
ポケモンの世界のゲームとか興味あるっちゃあるんだけど、ポケモンのいない場で三対一は心細い。
言葉を探して目を泳がせると所在なげに佇むネモの姿を発見した。いいところに、こいつ巻き込もう。
「おーいネモ!」
手招きをすると困った顔をしながらネモが歩いてきた。
「えぇと、お邪魔じゃないでしょうか?」
「ぜんぜん」
「だれ?」
「あ。わたしネモって言います。はじめまして」
「はじめまして! おれはロホ」
「わたしアスル」
「オレはベルデ、よろしく」
ぺこんとお辞儀して互いに自己紹介をすると、ネモはさらりと打ち解けていく。
明るいし可愛いしさもありなんといった感じではあるのだが、状況が悪化したのではないだろうか。いや、俺以外で四人揃ったことでむしろ立ち去る理由ができたのでは。
しれっと無言でいなくなってみようか。
「?」
ふいに談笑していたネモがあらぬ方向へ視線を向ける。
「どうし──」
視線の先に俺も顔を向ける。何もない。いつも通りの林が広がるばかりだ。
だが、これは。このプレッシャーはよくない感じだ。
「なんでしょう。急に寒気が」
「それはいけないな、ネモ。ほら解散解散。みんな帰るよ」
「え〜、ゲーム」
「付き合う付き合う。一緒にやろうぜ。ネモも連れてっていいか?」
「もうちょっとタマンチュラみてたいんだけど」
「大丈夫大丈夫。明日も明後日もその辺にいるから。だから早く」
ザァッ、とヤヤコマの群れが飛び立った。
さあどうしようか。走って逃げる? ネモは異変に気づいているようだが、他三人は違う。脅威を目の当たりにするまでは逃げ出せないだろう。それはそれで走れないかもだが。
競争だ、とか言えばワンチャンいけるかもしれないが、それでついてこなかった場合が不味い。
「ごめん、手ぇ貸して!」
「ふぇ? て? なんで?」
近くにいた子らに呼びかける。アスルが困惑していたがひとまず放置だ。
静かに気配の方を見据える。
木々の隙間から光の粒が舞っていた。
「あっ、あのポケモン知ってる!」
そうして、そいつは静かに姿を現す。
全体的に黒い体躯、太く靭やかな尾、とりわけ特徴的な大きな背びれ。
結晶を纏っていて分かりづらくなっているがあのポケモンは。
「あいつセグレイブって──」
──SeグラァァAAAアアアァァァ──ッッ!!
「ひっ……あ、ぁ」
ビリビリと空気が震える。冷たい風が叩きつけられた。思わず目を覆う。
ネモはまだ大丈夫そうだったが、ロホたちはやはり無理そうだ。仕方がない、一旦彼らを落ち着かせてからにしよう。
たぶん通じるのは最初の一回だけだろうな。
「タマンチュラ、奴を捕まえるぞ。糸を用意していてくれ。ヤヤコマ、周囲を飛び回りながら『なきごえ』!」
俺の頼みを聞いてくれたヤヤコマがセグレイブの周りを飛翔し、声を上げて気を引く。
セグレイブの視線から俺が外れたところで土を掬って駆け出した。苛立たしそうにヤヤコマを追い回し、冷気を吐き出すセグレイブに近づく。
ここで投げれば当たる。
直感に従い土をぶん投げた。と同時にセグレイブがヤヤコマを追ってこちらに振り向く。
「ギッ、ァア」
土が目に入ったのだろう。セグレイブは顔を押さえて暴れ始める。
「よし、タマンチュラ! 糸を!」
捕縛用の糸がセグレイブの全身に吹きかけられる。
高い強度に加え、粘着くクモの糸はあっという間にセグレイブを覆い尽くした。
勝った、という理性に反して、勘は未だ危機を知らせている。声を荒げないように、余裕を演出しながら避難を促す。
「ここは俺たちで抑えておくから大人呼んできて大人。ポケモントレーナーだと嬉しい。ほら行った行った、巻き込むぞ」
持ち直したちびっ子たちを追い払う。ネモも連れて行く手伝いをしてくれて助かった。本当に居てくれてありがたい。
さて。
深呼吸をする。
モゾモゾと蠢く糸の塊から、光が溢れ出た。
轟ッ!
と結晶を撒き散らしながら糸が引き裂かれる。
うわぁ器用。テラスタルってそんな使い方できるのか。
セグレイブは散り散りに焼き切った糸を振り払う。そうして初めて俺と目が合った。
さあてどうするかなぁ。