幼馴染が主人公っぽかったので俺はライバル枠に収まることにする   作:アウグスティン

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とうとうポケカもSVに突入しましたね。
ありがとうDレギュ! ありがとうクイボ!


9話

 屈んだ俺の頭上を氷柱が高速で通り抜けていく。

 着弾地点を見れば深々と氷柱が突き刺さっていた。掠めるだけでも人間にとって致命的なダメージになることは間違いない。

 ヤバいって。まじ死んじゃうって。

 ポケモン勝負とは違う手加減のない暴力に背筋が寒くなる。

 人体を軽々と木っ端微塵にできる破壊力に戦々恐々。それと同時に、まったく正反対の印象をその攻撃から受けていた。

 

 粗い。これなら増援が来るまでやれる。

 素早く辺りを見渡す。物理はダメだ、距離を取りながら攻撃できる子じゃないと。

 それが出来そうなのは。

 

「ハネッコおいで!」

 

 ふわふわと浮いていたハネッコを呼び寄せ、抱きかかえる。ハネッコの飛行は風に依存している部分が大きい。

 俺が抱えて走ったほうがこの状況では安全だろう。

 いや。

 いやいや。

 何を考えているんだ、俺は。頭おかしくなったのか。バカ? バカなの? 

 我ながら自殺願望があるとしか思えないが、それでも今はこのまま突き進むしかない! 

 

「『すいとる』攻撃! 加減はいらない、思いっきりやっちゃって!」

 

 ヒュポポポと軽い音を立てながら緑色の光がセグレイブの体から放出される。まるで効いていない、だがうっとおしそうにしていた。

 セグレイブ本来のタイプはドラゴン、こおり。くさタイプのわざの効力は半減されてしまう。しかしその前提をテラスタルがひっくり返す。

 

 へんげんじざいやリベロのように、自らのタイプを変更するという単純にして強力なパルデア地方特有の現象。

 

 黒竜の頭上に浮かぶのは一見何のタイプか判別しづらい地球儀のような結晶。奇しくも俺が初めて見たものと同じ、じめんタイプの輝きである。

 黄色い眼光がこちらを睨めつけ、低く唸り声をあげた。

 踵を返し、すいとるの射程から出ない程度に間合いを開ける。セグレイブの攻撃を避けながらグルトンへ指示を飛ばした。

 

「隠れて『チャームボイス』。周りの音に合わせて見つからないように」

 

 全能感とでも言うのだろう。手に取るようにポケモンたちの動きを把握できる。考えるよりも先にどうすればいいのかが浮かんでくる。

 まるで別の何かに操られているようでさえあるが、そこに不快さはない。

 普段ポケモンたちと接している時の延長線上。あたかも意思が伝わってくるかのような感覚を煮詰めたこの感じ。

 

 セグレイブがどうしたいのかがわかる。どうして欲しいのかがわかる。どうされたくないのかがわかる。

 発射の直前に位置をずれて氷柱を避ける。

 跳び上がる前に妨害をしていたタマンチュラに警告を飛ばし、ボディプレスの範囲から逃れさせる。

 苛立ち紛れに尻尾を振り回すのは何も起きな──いわけないって! 

 

 ──ドゴンッッ! 

 筋肉質な尾で勢いよく叩かれた木は粉々に砕け、小さく鋭い木片となって俺に向かって飛んでくる。

 これは間に合わない。咄嗟に抱えたハネッコを庇う。

 バチバチと破裂音が背後で鳴った。予想していた衝撃は来ない。

 

「パモパーモ?」

「お前……ありがとう! ほんと助かった!」

 

 呼ばれて振り向くといつかのパモがいた。側には焦げた木片が落ちている。この子に助けられたのだろう。

 もう抱き締めてキスしてやりたい気持ちでいっぱいだが、そんな余裕のある場ではないので我慢する。

 秒で期待を裏切ってくれたポンコツ第六感に比べてなんて頼もしいんだ。

 

「護衛頼めるか?」

「パモっ!」

 

 そう問いかければ力強い返事が返ってくる。

 戦力的には大した違いはないだろう。でも嬉しいな、うん。

 

「ようし! 増援が来るまでみんな……なんだこれ?」

 

 光の波。テラスタルのエネルギーだろう。どこからともなくザァっと集まってきたそれは吸い寄せられるようにセグレイブにまとわりつく。

 オーロラのようなそれが侵入していき、セグレイブは苦しそうな咆哮をあげた。

 結晶が瞬く。

 テラスタイプを象徴する地球儀が噴火する。

 

「全員跳べぇッッ!」

 

 セグレイブが拳を振り下ろした。大地が揺れる。放射状に衝撃波が放たれた。

 警告を発して俺もジャンプする。パモも俺の方に飛びかかってきて胸にしがみついた。上に掲げたハネッコが一生懸命にプロペラを回すが、完全に重量オーバーである。

 なんとか揺れが収まるまでホバリングしてくれていたが、糸が切れたかのように浮遊をやめ、俺たちは投げ出された。

 

 いったぁ。くそう、インチキすんなよお前。さっきまで出来なかっただろうがそんなの。

 爆心地で暴れるセグレイブを睨む。

 地上にいたタマンチュラとグルトンの姿は見えない。ひんしになって小さくなっているのだろう。

 ヤヤコマは無事。

 パモもとりあえずは無事。

 ハネッコも無事だが疲労困憊。

 

 想定外の展開。勝負の最中にいきなり強くなるとか反則にもほどがあるだろう。

 なんとかなるという太鼓判は揺らぎつつある。

 荒れ狂っている今のうちなら逃げ出せるか? 

 でもそれは置いていくことになってしまう。どうする、どうすべきだ。

 

 数秒、迷った。

 ポツリと頭に冷たいものを感じた。ポツポツ。水滴が体を打つ。

 予報されていた雨だ。

 急速に雨脚は強くなってゆく。

 

「……降る前に帰るつもりだったんだけどなぁ」

 

 濡れたことでテラスタルの力が弱まったのだろうか。

 悶えていたセグレイブの声が落ち着く。

 要するに周りが見えないくらいの暴走状態から、目につくものをぶん殴ろうとする暴走状態になったというわけだが。

 

 神はここで死ぬ運命セウスと言っているのか、はたまた逃げずに戦えセウスと言っているのか。どちらにせよ逃走の隙は消えてしまった。

 やるしかないか。雨で暴走が薄れたなら、どうにかしてダメージを与えられれば止まるかもしれない。

 セグレイブが倒立する。

 

「は? ん??」

 

 戦う覚悟を固めたところで奇妙な姿勢になったセグレイブに、思わず変な声が出てしまった。

 え? なに? なんか俺の直感があまりにもシュールすぎる攻撃手段を予期しているんだけど、これ信じていいやつのか? 

 さっき外してたしほんとに信じていいのかこれ!? 

 

「のわぁぁあああっ!」

 

 セグレイブがブレスを吐く直前、パモを掴んで射線から逃れる。

 後先考えずにダイブした俺のすぐ側を、逆立ちして背中を向けたセグレイブがかっ飛んでいった。

 

 え、な、なにその攻撃手段! 

 それはひょっとしてギャグでやっているのか?! 

 

 ブレスを吐き終えたセグレイブがそのまますっ転ぶ。

 そりゃそうだ。どんな体勢で攻撃してるんだお前。というか攻撃なのかそれは? 

 

 しかしふざけきった絵面に反して威力は凶悪そのもの。後隙を補うには十分なパワーである。

 なに食らっても一撃だし関係ないな。

 むしろ残心という概念を知らないかのような攻撃後の無防備さ、そこを殴れば通る、か? 

 

「パモ。あの木、あそこまで誘導していくから準備して待っててくれ」

「……パモぅ」

「行った行った。こっちは平気だから全力で頼むよ」

 

 俺を心配しているのだろうパモを急かす。

 でんこうせっかで消えたパモを尻目に、俺は地面を蹴り、手頃なサイズの凍った土を拾う。

 気を引くためにそれをセグレイブにぶん投げてから俺は逃げ出した。

 

 背を向けて走る。

 怒声が聞こえるが振り向く必要はない。攻撃の予兆はつかめる。

 先の反省を活かし、危機感を覚えない攻撃にだけ視線をやりながらパモの待つ地点まで進む。

 

 指定した箇所、その近くに身を潜めるようにしてパモがいるのが見えた。

 いける、後少し。

 ドンッと強く地を叩く音がした。その場を飛び退く。俺の居たところへセグレイブが落ちてきた。バランスを崩した俺に向けて赤い爪を振り上げる。

 俺は何も持っていない手で投擲するような素振りを見せた。セグレイブが目を庇う。

 

 危ねぇ、殺されるところだった! 

 でもたどり着いた。雨で流されて記憶と場所が変わってしまってるが、そこは位置を調整すればいいだけのこと。

 二歩下がる。背びれタックルの時と同じ距離感。

 セグレイブが攻撃の体勢に入る。

 うまくいく。いく、いくよな。いってくれよ頼むから。もう待ちの姿勢になっちゃったからこれは避けられないぞ。

 巨体が迫ってくる。妙にそれがゆっくりに見えた。

 黒と白の大剣で俺を八つ裂きにせんとばかりに吶喊し、不安定な頭部にタマンチュラが脱ぎ捨てた糸束を巻き込んで盛大にスリップした。

 

「ぶっ飛ばせパモ──っ!」

「パーモパモパモ、パーモ──っ!!」

 

 臨界まで電気を溜め込んだパモがセグレイブに突撃する。

 閃光が走り爆発が起きた。

 

 ■◆■

 

 電撃で瞬時に熱され、水蒸気が立ち昇る。

 衝撃で吹き飛んできたパモを受け止めた。

 視界が悪くセグレイブの姿は見えない。だが俺の勘が告げている。

 

「やったか!?」

 

 煙が晴れた。竜は立っている。

 カシャンと結晶が砕けた。

 背びれが赤く明滅する。

 特性、ねつこうかん。あの背びれは熱を吸い上げて力へと変換する機能を持っている。

 漂っていた高温の水蒸気がたちまちに水に戻され、凍りつく。

 

「セグルゥ」

 

 テラスタルは解けた。パモの電気が効いたのか、それともパワーアップして制御出来るようになったのかは知らないが、ともあれセグレイブの眼差しには理性が戻っているように思える。

 

「あー、体平気? なんか後遺症とかない? 後もう襲ってこないよな?」

「グレェブ」

 

 セグレイブの視線が下がる。パモを見ているのだろう。

 集中力が落ちたのか、神懸かりの予感はなくなっていて行動が読めない。

 このまま第二ラウンド始めたりしないよな。こいつ。

 

 セグレイブが下を向く。大きく口を開くと冷気を吐いた。

 

「んなっ! お前なにするつもりだ!」

 

 もう戦う力なんて残ってないぞ。

 焦る俺を余所にセグレイブは放射の勢いを強めていく。背びれタックルの時のような出力にその巨体が浮いた。

 ロケットのようにセグレイブが飛翔する。

 ぽかんと俺はそれを見送った。

 

「……、…………、……世界って広いんだなぁ」

「ぱーも」

 

 ああやってここまでやってきたのかな、あいつ。

 カクンと足の力が抜けてその場にへたり込む。

 ちょっともう限界だわ。完全に切れた。まぶたが重い。

 腕の中のパモもぐったりとしている。セグレイブはもういなくなったが、後で誰か来るだろうし、このまま落ちちまおう。

 

 そうだ。まだこいつには、パモには聞いてなかったな。

 起きたら、旅に誘ってみよう。

 口元を緩めながら俺は気絶した。




バトル物書いてる人ってすごいなって思いました。
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