幼馴染が主人公っぽかったので俺はライバル枠に収まることにする   作:アウグスティン

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未来のお話

「キタカミの里での林間学校です」
「ワクワク」
「レトさんは出禁ですよ」
「え……?」


16話

 ゲームならば絶対に取らないような選択肢に、選ばれるとは思っていなかったのだろう、ミニーブが口をモニャモニャさせている。

 相手のタマンチュラはタマンチュラで、眠たげな目をしているし、絵面がとっても呑気だ。

 しかし愛くるしい容姿に絆されている暇もなく、タマンチュラたちは先制攻撃を仕掛けようとする。

 

「オリーブオイル出して」

「タマンチュラちゃん、むしくい」

 

 くわっ、と小さな牙を剥いて飛び掛かってくるタマンチュラ。ビクンと震えたミニーブは俺の指示に従い、頭部の実からバシャアと油を浴びせる。

 大口を開けていたタマンチュラはモロにそれを食らって顔を真っ青にしてひっくり返った。

 

 ミニーブ系列の進化形たちは香り高く、美味しいオイルを出すことで知られているが、実はミニーブだけは違う。

 図鑑によると『とびあがるほど苦くて渋い』オイルを飲んでしまい、ペッペッとオイルを吐き出しながら悶えるタマンチュラ。

 ごめんよ。心の中で謝りながら、ミニーブに攻撃を指示する。

 

「ミニーブ『たいあたり』!」

「あぁ! タマンチュラちゃん!」

 

 体全体でぶつかりにいったミニーブ。オイルに塗れたタマンチュラは踏みとどまることが出来ずに吹き飛ばされる。

 

「よぉし、もう一発!」

「……っ! あっちの柵に『いとをはく』よ〜」

 

 滑る足元でふらふらになっていたタマンチュラに動揺が見えた。

 それでも足の遅いミニーブの体当たりが届くよりも早く、タマンチュラはフィールドを囲む柵に糸を吹き付け、それを引っ張るようにして攻撃から逃れる。

 距離を取ることに成功したタマンチュラは体を揺すってオイルを落とし、再び戦闘態勢に入った。

 

「カエデさん、今ジムリーダー的なルール違反しました?」

 

 やらないはずのことをやれ、って指示されてびっくりしたように見えたのだが。

 

「うふふ〜、なんのことかしら〜。わたしがリーグから言われているのは〜、トレーナーさんに実力を合わせることだけですよ〜」

「なるほどなるほど」

 

 穏やかな人だと思っていたけれども撤回だ。

 ネモと同じ、ポケモン勝負大好き人間の気配。

 

「じゃあ続けましょうか。思いっきりやりますね」

 

 ■◆■

 

 手加減を緩めたカエデに対し、そのままタマンチュラを撃破。

 続く三番手にしてエースのヒメグマ。

 

 むしタイプへとテラスタルしたヒメグマに対し、動きは変わらず読めていたもののミニーブではレベルが足りず敗北。

 記念すべき初黒星を付けられてしまったが、その後無事にパモとのコンビネーションでヒメグマを打倒した。

 触角のような結晶が砕けて、ヒメグマが倒れ伏す。

 

 これで終わり。

 初めてのジムバトルは大勝利。

 日課のようにネモをぼこぼこにしていたあの戦いとはまた違う、達成感で胸がいっぱいになる。

 あぁ、楽しいな。ポケモン勝負。

 

「わたしのポケモンたち、み〜んなむしの息です〜」

 

 とんだブラックジョークだった。

 勝利の余韻の中に突然投げ込まれた小ボケに苦笑する。

 

「あなたの強さ、勝負の最中でもパンケーキみたいにふくらんでいきました〜。わたしもも〜っと進化しないと! ですね〜」

「それは楽しみですね。また戦りましょう。……チャンピオンになった後とかに」

 

 気の長い話ですね〜、と微笑むカエデ。

 

「改めまして合格で〜す! ジムリーダーに勝った証としてジムバッジをさしあげます〜。カエデ特製手作りケーキも一緒にたーんとめしあがれ〜」

 

 バッジをカエデから受け取り、裏から出てきたスタッフがカップケーキを持ってくる。

 キラキラと目を輝かせたパモがもぎ取ろうとするのを制止して、ミニーブにげんきのかけらを使い復活させる。

 カエデに宝探しのレポート作りのために記念撮影を依頼すると快く引き受けてくれた。事前にジム挑戦を課題に選んだ人はそうすることが多いらしい、とは聞いていたのだが手慣れた様子である。

 

 思わぬ形でのおかわりとなったケーキを食べ終えて、これで本当に初のジムは終わりだ。

 カップケーキを食べている間に観客たちも捌けている。

 舞台を降りる前にカエデは言葉をくれた。

 

「これからあなたの進む道が甘く優しくありますように〜。それではまたお会いしましょ〜」

 

 ひらひらと楽しそうに手を振る。

 俺も軽く頭を下げてからバトルコートを去った。

 

 ■◆■

 

 ポケモンセンターでの治療を受けて、ようやくほっとため息をつく。

 ジム戦は終わった。勝ち抜いた。

 今やるべきことを全て終えた。

 つまり草むらに飛び出していいということだ。

 

 オリーブころがしの時、会場周りにいっぱい可愛い子たちがいたんだよね! 

 その時は流石にジムを優先しなくてはいけなかったけれど、もう関係ない。俺は自由だ。街の外を目指して駆け出す。

 

 若干奇異の目を受けた気がするがそんなことも関係ない。

 草原までやって来た俺は早速とことこのんびり歩いていたパピモッチに駆け寄る。

 近づくとよだれの出そうなパンの香りが漂ってきた。

 黄色の渦巻パンみたいな耳、つぶらな瞳。家と学校の間にもいたけれど、相変わらず凄い見た目だ。マジでこれ生き物なのか? ってポケモンはいっぱいいるけれども、まさかパンとは。

 

「わんわん」

「いい匂い……お腹鳴りそ。さっきケーキ食べたのに」

 

 両手で抱え上げて膝の上に乗せた。ペロペロと顔を舐めてくるパピモッチ。唾液もパンの香りがしてる。

 ぎゅうっと抱き締めてみると沈むようにもちもちで、まるで骨がないかのように柔らかい。

 

 むにむにとパピモッチを揉んでいたら、そのお仲間なのだろう。二匹、三匹と集まってくる。

 パッピパピでモッチモチ。これはもう何かの法に触れてしまうのではなかろうか。弾力過剰罪みたいな。

 ああ、生きてるって感じるわ。この時間が一番楽しい。勝った時より楽しい。

 

 そうやってじゃれ合っていると、ひょこひょことやって来たプリンが俺達の前に陣取る。

 

「やぁ、プリン。どうしたんだい」

「プ、プリ〜」

 

 大勢集まっているこの状況を好機と捉えたらしいプリンはどこからともなくマイクを取り出すと唄い始めた。

 

「プ〜プリル〜プ〜プル〜」

 

 ピンク色の身体をゆっくりと揺らしながら愛らしい声で唄う。

 流石はプリン。とっても綺麗な歌声でグゥ……。

 

 ■◆■

 

「レトー、レトー。ほら起きてー」

 

 体を揺すられている。ネモの声がする。

 起こしてなんて頼んだ覚えはないんだけれど。

 

「……う、あと五回」

「一回で起きてよ」

「くぁ……おはよ、ネモ。今何時? なんか用事とかあったっけ」

 

 寝ぼけ眼をこすりながら上体を起こした。

 

「ポケモン勝負……の前に顔洗おっか。なんかすごいことになってるよ」

 

 そう言いながら手鏡を渡される。なんだろうと思いながら手鏡を覗き込んでみると、俺の顔は無残な落書きに塗れていた。

 

「あー、そうだ。プリンの歌を聴いてて寝ちゃったんだった」

「気をつけないとだめだよ。草むらで無防備に寝てるなんて危ないんだから」

「俺なら大丈夫」

「そう言って何度もゴーストポケモンに連れて行かれそうになってるんじゃん」

 

 バッグから水とタオルを取り出し、湿らせたタオルで顔をゴシゴシと擦り落書きを消していく。

 これ油性だ。落ちねぇ。

 

「しゃーない。せっかく描いてもらったんだ。落ちるまで残しとこ」

「レトがいいならそれでいいけど……」

 

 スマホロトムを取り出して記念にパシャリ。

 写真をお気に入り登録してからネモに聞く。

 

「ところでネモ。ジムはもう行った?」

「ふふ、じゃじゃーん! セルクルバッジ!」

「やるなネモ。じゃあバッジ一個同士、戦うか」

「レトから言い出してくれるなんて。いいよ戦ろうか!」

 

 楽しそうにボールを構えるネモ。

 俺もミニーブを繰り出して戦いの準備をする。

 

「任せたよ、カイデン!」

 

 

 

 ■◆■

 

 オマケ

 

「カイデン可愛いなぁ」

「レトがくさタイプやみずタイプを連れてくると思って。……あとジム戦の対策にもなるし」

「特性もちくでんだしね」

「それは見た目じゃわからないはずなんだけど」

 

 オマケ2

 

「ぶいっ!」

「イーブイ? イーブイだ! 本物のイーブイだよ、もう感激!」

 

 じゃれ合った後、イーブイをバッグにしまう。

 ネモがバッグからイーブイを解き放つ。




パシオで余計なことを学んだネモ

「わたしは間違ってたんだ。ずっと相手に実力を合わせて戦うのがいいことだと思ってた。でも違ったの。これからは全力でやるね!誰が相手でも!」
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