幼馴染が主人公っぽかったので俺はライバル枠に収まることにする 作:アウグスティン
1話
「俺とお前。バッジを8個集めた同士、ここに立っているわけだ」
と、俺は言った。指の上でモンスターボールを回す。練習した甲斐もあって、様になっていることだろう。
日々の鍛錬の合間を縫い、続けてきた成果といえよう。
ここはポケモンリーグの正面だ。旅の果てにここ、パルデア地方の隅っこまで行かなきゃ無いものだと思っていたら、普通に通っている学園の側にあってビビったものである。
「ここ最近はチャンピオンランクに上がれた奴はいないらしいが……まあ俺もお前も挑めば勝てるだろうぜ」
俺の台詞に誇張はない。
事実として俺は強い。
ことここに至るまで、8つのジムバトルを苦戦することなくくぐり抜けられる程度には。
目の前の化け物じみて強いこの女以外、パルデア地方の誰にも負けないくらいには。
さて。
「だから先にここでケリを付けよう。勝ったほうが先にリーグに挑み、名を刻む」
「負けたら?」
「好きにすればいいさ。俺はただ俺の最強を気分良く証明したいだけだからな」
啖呵は切った。ボールを構える。
手の中のボールが微かに震えていた。戦意はバッチリらしい。
楽しい楽しいライバルごっこの集大成だ。
ストーリー的にはこれが俺のラストバトルだろうよ。
勝てる気はしないが、負けるつもりもない。
トレーナーとしての魂をすべて賭け、この一戦に臨む。
ゲームと違って、俺は勝ったらこのまま進ませてもらうぞ。
「さあ、行くぞネモっ!」
「うん! 楽しいバトルにしよう!」
いつものように、俺は勝負をしかけた。
■◆■
俺がポケモントレーナーとしてどの程度のやつだったかと言えば、ガチ勢のライト層って感じだろうか。
下の上くらい。沼にハマった中では比較的浅瀬という意味で。
ガチ対戦のために孵化厳選をしたり、努力値振ったりして、でもってマスターボール級に上がるくらいを目標にしてプレイしていた。
高順位を狙おうとかしたことはなかったし、やってもできなかったろう。
ぶっちゃけ色違い粘ってた時間のほうが長かったしな。それも気になったのをいくらか、というレベルだが。
俺よりふさわしい人間くらいいくらでもいただろうに、という疑問は生で動くポケモンを見た途端に全部吹き飛んだ。
そんでもってたぶんもう戻ってこない。手違いだろうがなんだろうが、俺はこの幸運を享受するだけである。
サンクス、アルセウス様。
「おっ、おぉ! おぉぉお! 動いてる! すげぇ、生きてるよマジで!」
危ないから草むらに入らないように、という恒例の忠告をさらっと無視して俺は野生のポケモンと戯れにきていた。
知っているポケモン、知らないポケモン。いろんなポケモンが命ある生物として、現実に目の前にいる。
群れを成したヤヤコマが木の枝から飛び立つ。
その下を見ればぶらんと糸の塊みたいなものがぶら下がっていて、中にはポケモンらしき影が覗いていた。
プゴプゴと鼻を鳴らしながら野生の黒毛和牛が地面をほじくり返し、ハネッコが集まって呑気に日向ぼっこをしている。
俺の知らない地方、俺の知らないポケモン。
ああ素晴らしきかな、未知との遭遇!
ふらふらと餌におびき寄せられる虫のように、頭の葉っぱを揺らしているハネッコに近づいてゆく。
「かわえぇ……ピンクだ、葉っぱだ。触っていい? 触っていいのかな?」
比較的安全そうな植物のポケモンを選んだのは理性が働いている証拠だろう。
見るからに捕食生物な毛玉クモとか、怒らせたらヤバそうな火の鳥よりかはハネッコは危険度が低いと思う。
手をワサワサさせながら見つめていると、短い足でてちてちとハネッコが歩いてきた。触られに来たのかな。よーし、撫でてやろう。
「すごい、ほんとに葉っぱだ」
頭の双葉を触ってみる。たんぽぽだ、思った以上にたんぽぽだよこれ。
葉脈というんだっけ。近くで見たプロペラは想像以上に植物だった。
ピンクの胴体にも手を伸ばす。
質感は植物の茎のようで、うっすらと産毛が生えている。そしてなんとそこには生物のような弾力があった。
「生命の神秘ですよこれは」
葉っぱを気持ちよさそうに動かして、すり寄ってくる。なんだこのたんぽぽネコ。甘えるとか覚えてるのか、可愛い奴め。
「あの、危ないですよ」
背後からいきなり声をかけられた。ポケモンワールドは距離感が近くて困るね。
振り返ってみると幼女がいた。俺も幼男だが。
同い年くらいかな。肩より少し下くらいまで伸びた黒髪、特徴的なのは前髪の一部が緑色なところか。
「あ。自分のポケモンを連れてらしたんですね」
「うん? いやこいつは」
そう言いかけたところでハネッコは葉っぱを回転させて飛び立ってしまった。
「あら」
「ごめんなさい、あなたのハネッコを怖がらせてしまったみたいで。わたし探してきますね」
「いいよいいよ。俺のってわけじゃないし。運が良ければまた会えるでしょ」
あの黒豚は序盤ノーマル枠っぽいよなぁ。
次行くならこいつか。
「連れ戻さなくていいんですか?」
「うん。野生のポケモンだし」
「え?」
「とりあえずありがとね。心配してくれたんでしょ。じゃ」
お嬢様の幼体みたいな子に会釈して、俺は黒豚を構いに行くことにした。
あ、なんかハーブの匂いする。ごくり。