幼馴染が主人公っぽかったので俺はライバル枠に収まることにする 作:アウグスティン
「ただーいまー」
「おかえりなさい」
ハーブの香り、もとい昼になってお腹が減った俺は一旦帰宅していた。
ここパルデア地方の南端に位置している新たな俺の実家は、なんというか日本人の感性としてはかなりいい家だ。
というのもポケモンが生活の前提としてあるこの世界は、ゲームがそうであったようにそこまで人間の数が多くない。それゆえ単純に都会以外の人口密度はとても低く、特別裕福でなくとも大きな家に住めるのだ。土地次第だが。
「手洗っておいで。もうすぐお昼ご飯ができるから」
「やったね。お昼なに」
「サンドイッチよ」
「ママのマイブームなの?」
朝はパン。昼もパン。パンパンパン。
お米が恋しくなってくるな。
「手洗ったら手伝ってくれる?」
「は〜い」
野生のポケモン触ったからな。ちゃんと洗わないと怖い。ポケモンだからじゃなく、野良の生き物だからだ。清潔とは言えないだろう。
自分のポケモンが欲しいなぁ、トレーナーになりたい。好きなポケモンを愛でたい。
妄想を繰り広げながら念入りに石鹸で洗い、サンドイッチ作りに加わった。
食材をカットし、半分に切ったパンの上に綺麗に並べる。そして上半分をもこみちの高さから落とす。
ポケモン世界特有の謎調理法なのかも知れないが、たまに溢れるし意味はわからない。
パルデアの伝統的な調理法とかなんだろう。
「今日はなにをしてたの」
「なんか知らない女の子と遊んでた」
「女の子?」
「そうそう。前髪だけ緑色で他は黒髪な子」
「あぁ、ネモちゃんね。ほら、あっちの方に大きな家があるでしょう。あそこの子よ」
「ほへ〜」
ほんとにお嬢様の幼体だったのか。
サンドイッチにピックを刺しながらネモの顔を思い出そうとする。
うぅん、ポケモンの姿しか思い出せない。そういえばまともに顔見てなかったな。なんなら名前も聞いてないし、名乗ってもない。
「あっきれた。まったくこの子は。いい、今度あったらちゃんと挨拶するのよ」
「は〜い」
会ったらね、会ったら。
■◆■
数日後。
紙の図鑑とフォークを手に、俺は再び草むらへと繰り出していた。
流石にスマホロトムは買ってもらえなかったが、ポケモン図鑑を見たいだけならと、本を買ってもらったのだ。
パルデアに住まう四百近いポケモンたちをみんな載せているだけあって、一つ一つの説明は少ないがこれで十分。
知らないポケモンもわんさかといて、眺めているだけでもめちゃくちゃに楽しい。
「あ。お久しぶりです」
この間の黒豚はグルトン、毛玉はやっぱりクモでタマンチュラ。
今日はグルトンを構うつもりでやってきたが、タマンチュラはなにしたら喜んでくれるのかな。
ヤヤコマはどうなんだろう。餌付けでいけるか?
「あれ? 聞こえてます? もしも〜し」
「うん?」
「よかった、あはは。また会いましたね……探してたわけじゃないですよ」
……、…………? ………………。
あ、前会ったお嬢様か。
「久しぶり。なにしてるんだ」
「いえ特にはなにも。あなたは?」
「ポケモンと遊びに」
俺がそう言うとお嬢様はなにやらそわそわし始める。
母親に名前聞いたと思うんだけど、なんだったかなぁ。
「一緒に来る?」
誘うと簡単に付いてくるお嬢様。
拐われないか心配になるな。
まあいいか。その辺の教育は親とか家庭教師とかがやってくれることだろう。
歩きながらペラペラと図鑑を捲る。
「えーと、なになに。グルトン、ぶたポケモン……安直すぎないか? 一日中餌を探して、鋭い嗅覚はそのためだけに使う」
そう言えば最初見た時もごそごそなにかやっていたな。
あれはどうやら餌を探していたらしい。今も、あの時とは別の個体だが同じように餌を探しているようにみえる。
木の実とか持ってきたほうがよかったかな。
とりあえず試すだけ試すか。俺はフォークを構える。
「? それでなにをするんですか?」
「フォークの使い方も知らないのか? 食ぁべるためさぁ!」
「ぐ、グルトンを食べちゃうんですか?!」
「オレサマ、アイツ、マルカジリ!」
「丸かじりなのにフォークを?」
うるさい。
俺はグルトンの元へとダーッと駆け寄り、騒ぐ俺らに構わず呑気に土を穿っていた彼の背中をフォークで撫でた。
突き立てないよう注意しながら、身体に先端を沿わす。
つつーっと往復させていると、次第に動きが鈍っていき、くてんとへたり込んだ。
ふはは、ポケモンといえど所詮は子豚ちゃんよ。
ここかー、ここがエエのんかー。
眠たそうに目をパチパチとさせて、くぁ、と大きくあくびをするグルトン。目元の涙みたいな模様の上にうっすらと本物の涙が浮かんでいる。
「はい交代」
「いいんですか?」
「どうぞどうぞ。優しくな」
ひとしきり愛でて満足したので、フォークをお嬢様に渡す。
彼女は恐る恐るフォークを寄せていって撫で始めた。
中断されてこちらに顔を向けていたグルトンも再び気持ちよさそうに寝転がる。
「ふわぁ」
グルトン、グルトンね。
グルメと
いつの間にか他のグルトンたちも何匹か近くに集まってきていた。彼らの放つハーブの香りで満ちる。
案外後者なのかもしれないな。ニ○テ○ドー、ブラックジョーク好きだから。
などと考えながら、俺は手近にいた一匹の頭を撫でた。
「……そうだ、挨拶しろって言われてるんだった」
「グルトンにですか?」
「お前にだよ。名前も知らないだろ、お互いに」
俺は聞いたはずだけど、忘れてるから互いだ。
「んじゃ、改めて。俺はレト、よろしく」
「わたしはネモっていいます。よろしくお願いします」
「ネモね、ネモネモ。なんか響き似てるな。覚えやすくていいや。仲良くやろう」
「はい!」
元気がいいな。つられてこっちも楽しくなってくるくらいだ。
これはゲームなら人気になるな。
きっとリーリエ枠とかだ。
というか、うん? あれ、俺は今もしかして。
「まさか俺は今、友達ができたのか?」
ポケモントレーナー、永遠の課題を解決してしまったのか俺は。