シン・ウルトラマン  夕陽に咲く花   作:へびのあし

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融合

花火祭り。

海辺の街で、これは別に珍しくもない。

夕方の海で、小舟が幾艘か沖へ出て、小さな黒い陰をつくっている。潮風に吹き付けられながら、神輿が行ったり来たりする。笛や太鼓の囃子が浴衣姿の民衆の調子を上げ、陸に近い砂浜では夏の暑さを和らげるようにラムネやかき氷の屋台が立っている。

だんだんと夜の闇が覆い始めているが、西の空をまだ夕焼けの茜が彩っており、打ち上げは始まっていない。

 

禍威獣が来ても、外星人が来ても、危うく太陽系ごと滅ぶ危機が襲っても。変わらない営みがここにはある。

 

「…呑気なものね。」

 

—————少女が、呟いた。

 

花火祭りを開催している海岸から遥か5kmほど離れた山の中。それは十五、六の若い少女だった。一枚の海苔のように真っ黒なセーラー服を着て、胸にギュッとラブラドール・レトリバーの仔犬を抱いている。

びゅうびゅうと風に吹かれながら、遥か遠くで揺れる祭りの灯を眺めている。どうしてわざわざそんな場所へ登ってきたのか、推し量ろうにもよく分からないが、ここは旅行客がよく訪れるような展望台であった。

 

「みんな。みんな。誰かに守ってもらえるからって、運命の神さまに祈ることしかしない人たちよ。いったいこの中の何人が、地球の将来を本気で憂いているのかしら。」

 

くうーん、と少女の胸の中で仔犬が鳴いた。

 

「……祭りに?私は行かないわよ。」

 

まるで仔犬と会話するかのように少女は語る。まあ、ただ自分が話したいだけなのかもしれない。

 

くうーん。

 

「わかってるでしょう。私にあんなことしてる暇なんかないのよ。」

 

強気な言葉遣いの割に、少女の声はか細いようだった。まるで何かを堪えるために、無理矢理に胸を張っているかのように。

お腹が減ったのか、仔犬がうるさく鳴いている。もがいて暴れるそれを少女は無視して、祭りを眺め続ける。

 

その表情は、紛れもない憧憬だった。

 

くうーん。きゅんきゅん。

 

「どうしたのよスミヨ…今日はうるさいわよ。」

 

くうーん。

くうーん。

くんくんくーん。

仔犬がバタバタ暴れて、少女の腕を思い切り引っ掻こうとする。さすがに少女も無視できなくなって、それを抱き直しにかかった。しかしどうしてなかなか仔犬の力も馬鹿にならない。あっと思う間にするりと抜け出してしまった。

 

「いやいや待ってったらスミ…!え、…ちょっ…!?」

 

脱兎の如く走っていって、飛び出した。

ここがどこか思い出してほしい。野外の展望台である。見晴らしが良いように側面は切り立った崖である。

さあっと少女の顔が青くなった。

 

「わん!」

 

仔犬が、宙に向かって跳び上がる。牙を剥き出しにして、まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()

しかしそんなものはないのだ。フェンスを軽々飛び越えた犬。空に向かって飛び出した仔犬は、そのまま向こう側に落ちて———

 

————いかなかった。

 

「キャン?!」

 

“空気に捕まった”

無理矢理状況を表現するとすればこうなるだろう。

まるで透明な何かに首をつままれて、宙吊りになっているかのように、仔犬はもがいていた。

 

お化け?上向きの突風?超常現象?

 

いや、違う。

これは。

この、()()は。

 

「スミヨ!」

 

 

あ、と思った時は駆け出していた。

頭が真っ白で、とにかく走ることしか考えていなかった。

失うまじ、それだけが少女を突き動かして。

 

「………スミヨから、その手を離せ…!」

 

気合一発。

宙に繰り出した飛び蹴り。異常に洗練された流麗な回し蹴りが、浮いた仔犬の少し上に炸裂する。何もないはずの空間で、少女の蹴りはガキン!と何かに当たる音がした。

 

少女は殺気だった目で宙を睨め付け、鮮やかな手つきでさっと仔犬を奪い返した。

そのままぽいっと放り投げて、フェンスの向こう側へ、つまりは元々立っていた方へ逃がす。着地した仔犬は恐れるようにガタガタ全身を震わせながら、一歩ずつ後ろへ下がっていった。主人を守るか、自分の生命を守るか、その二つの選択の狭間で葛藤するように。しかしとうとう尻尾を下げて蹲る。

 

少女自身の方も、何と対峙しているのかよく分かっていなかった。

ただ、危険である。

今までに向き合った何よりも、大いなる力がそこにある。

なぜなら、そこから漂う“香り”は異常である。

 

冷や汗をかきながら、少女はひとまずフェンスに着地した。相手の出方を見る。対応策を考えるのはそれから。

その瞬間。

ずるり、と滑った。

くるり、と視界が一回転して浮遊感が少女を襲う。

 

「え。」

 

 

逆さまの視界で、少女は理解できなかった。

 

「え、お、落ち……」

 

否、理解したくなかった。

ざり、と土の岩肌を撫でた手が、必死に何かを掴もうとする。

 

「……い、…や…!」

 

 

————死にたくないのですか?

 

(もちろん…っ!)

突然聞こえてきた幻のような響きに、少女は叫び出したいような気持ちで応じた。

 

————助けてほしいですか?

(あっ…当たり前よ!)

 

————あなたには…これからの人生に計り知れない試練や困難を与えてしまうかもしれません。自分の生きたいと思ったようには生きられない、そういう運命に巻き込んでしまうかも……それでも、よろしいですか?

 

(え……もし、だめって言ったら…?)

————最低限、私の責任と誇りにかけてあなたの命を助けるのみです。

 

(じゃあ、なんでこんな変なこと聞くの。)

————あなたが必要だと思ったから。宇宙と、地球と、私自身のために。

 

 

幻の声の言葉は簡潔で、そこに不思議な魔術のような力が篭っていた。少女はまるで恋するように惹かれて、うっすら唇を開く。

……後から省みれば、なぜあんなことを口にしてしまったのか、少女自身にもわからない。しかしその時は、懸命だったのだ。

 

ただ、覚えている。

一つだけ、ずっとはっきりしていたことは。

“星の香りが、私をくるんでいた”

何故だかそれに、運命を託してみたくなってしまったのだ。大いなる冒険の予感に、負けてしまった。そういうことなのかもしれない。

 

「こんな私で良ければ…いくらでも、使ってください。」

『ありがとう。』

 

 

途端に真っ白な光が広がって。ふわり、と落下が止まったような感覚を最後に、少女の意識は夏の空の中へ呑み込まれた。

 

 

 

 

 

 

————夕陽は沈み、夜の帳が降りる。

今年最初の打ち上げ花火が、紫と緑のグラデーションの円環をなして轟いた。

わあっと歓声が上がる。

 

『……これが、地球人…いいえ、人類の文化。』

 

闇に紛れて、それを観賞する存在がいた。

海岸から遥か遠く、人気のない展望台の手摺に座って、足をぶらぶらさせている。すやすや眠る仔犬を抱え、どこか幽霊のように青白い少女。それは無表情にこくんと首を傾げて、漆黒の髪の毛を夜空に靡かせているのだった。

 

 





こんにちは。
映画シン・ウルトラマンに一目惚れしました、へびのあしです。
話の主軸はリピアーの妹とその周囲の生命体たち。


つきましてはこの作品を書くにあたり、登場させたい外星人・禍威獣の募集をしたいと思います。

以下、注意点です。
1、ウルトラマンシリーズに登場するキャラクターであること。
2、必ず「メッセージ機能」を使用しての連絡にすること。
3、選んだアイディアが誰のものになるか等の、個別の連絡はしません。
4、アイディアは作品に合わせて勝手に改変される可能性があります。

また、キャラクターの性格や背景、口癖などを一緒に記載して頂けると有難いです。
読者さんとこのような作品に関わる交流をしたことがないので、ちょっとドキドキしています。回答いただけると嬉しいです。
それではまた次回お会いしましょう。
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