シン・ウルトラマン  夕陽に咲く花   作:へびのあし

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破滅の予測

 

 

ヒナがナックルに立ち向かってから、およそ一日後。

海のほとりの、大学病院にて。

 

「——————地球は滅亡の危機にある。」

 

目覚めて一番放たれたヒナの言葉に、禍特隊のメンバーは、ピシリと固まった。

一番近くに擦り寄っていた犬のスミヨでさえ、一転した空気に戸惑って首を傾げた。

何せ、病室である。

気を失った状態で宇宙から落ちてきて、海へ墜落。それを回収して緊急搬送され、やっと目を覚ましたと思った矢先。

 

「はい…?」

「いや、今更別に驚きはしないけど、もうちょっと説明が欲しいかも。」

 

よかった!目が開いた!という感動のテンプレートはどこへやら。

真っ白な部屋でベッドを囲む禍特隊員たちは、微妙に乾いた表情でヒナに向き合った。

ヒナは、はっと気づいてガバッと起き上がった。ようやく頭がはっきりしたのだろう、自分が言ったことを思い出し、あわあわと口を覆う。

 

「そ、そのう…これはあんまりはっきりしていないことっていうか?もうちょっと調査が必要だって、釘を刺されてまして…!」

「わけがあるのだろう?地球滅亡、と言い切ったからには。」

「あぁ…はい…。」

 

ヒナは、説明のための口を開きながら、静かに思いを巡らせる。

 

——————いったい、どうしてこんな突拍子もない時代に生まれてしまったのだろうか、と。

 

 

あの後聞かされた、ウルトラセブンの話を要約して終えば、簡単だ。

“地球は滅亡の危機にある“

問題は、なぜ、というところ。

 

彼によれば、太陽系の周辺は、時空が歪んでいる。そして、ある特徴を持つ物質が全て消滅……いや、異空間へ流れ出しているのではないか、という。

ある特徴を持つ物質。

それこそが肉体をエネルギーへ、ひいては分子間距離の限りなくゼロに近い超硬度・かつ超流動の元素への変換を可能にするもの。異世界であるプランクブレーンの扉を開くための、トリガーともなる物質。

これは宇宙のどこでも採掘できるが、取り出し精錬するのには少々苦労があるため、外星人は例外なく己の星からそれを補給していた。地球には、それがない。技術云々以前に、それが存在しない。

 

故に、呼び名もない。

地球上では、この物質の概念がなく、想像されることも、存在の可能性を示唆されることすらなかった。

ウルトラマン(リピアー)がその技術を伝えてから、それは概念上の存在として“ウルトリウム“などと安直な名で呼称されている。

しかし、いまだに技術を現実世界で実現することは出来ていない。

島一つを使って何とかプランクブレーンを発生させることには成功したが、いかんせんそこへアクセスすることもできない。巨大化した人間を作ることも、強度の高い細胞を作ることも、何もかもが実用化以前の問題だ。

人類がそこまで停滞している、その理由、それは。

 

“太陽系が、歪んでいるから“

 

ここまで、ウルトラセブンはかなりの確信を持って語った。

ジャックも真剣に聞いていた。彼女自身、薄々気づいていたことでもあったらしい。

この状況はどう考えてもおかしい。人体にウルトリウムが適合しないなどといった事情ならまだしも、全く作ることができないなんて。調べてみようにも、材料が見つからないと知った時は驚いた。

どこかに流れていってしまったとしか、考えようがない。

 

そして、ここからは完全に憶測。

 

これを引き起こしているのは、時空の歪み。わかりやすくいえば、中心に特定の物質を吸い込む穴が空いている。

なぜそんなことが起こり得るのか。

その答えは、“生命体“ではないか。惑星一つ取り込めるほどの莫大なエネルギーを抱える生命体の存在は、すでに認知されている。その支配に対抗しようとしたナニカによって歪みに歪み、その結果、マイナスエネルギー、すなわち強力な崩壊を呼ぶエントロピーの現象が加速しようとしている。

時が経つほどバランスは危うさを増し、いつの間にやら地球、ひいては太陽系の完全崩壊が確定されている。

 

「—————もはや、いつ地球は穴に飲み込まれてもおかしくない。せいぜい注意を怠るな。」

 

…ウルトラセブンは、そう言い残して去っていった。

 

 

 

「……えっと……本当に、彼はそれだけで去っていったんですか?」

 

場面は再び病室。

船縁由美が恐る恐る尋ねると、ヒナはあっさり首を横に振った。

 

「あー、ウルトラブレスレットの持ち主たるなら当然切り抜けねばならぬ訓練と称して、隕石も切れる刃つきブーメランで追い回し、避けきれずに頭に直撃して失神するまで許してくれませんでしたが。……まあ、そうですね。ブーメラン残していっただけで本人はとっととどこぞへ行ってしまったので。」

「気絶して真っ逆さまに空から落ちてきたのはそれが原因かよ!」

「そうなんです。別にナックルとの戦いだけでエネルギー切れ起こしたわけじゃないんですよ?リピアーさんと違って、生命維持の情報処理は私ヒナの体がそのまま行なっているので。結構スタミナはあるんです。…ただし、セブンさんが開発したウルトラブレスレット(超燃費悪の機械にして超高性能の最終兵器)を使わないならば。」

 

 

禍特隊員たちが呆れたようにため息をつくのを、ヒナは楽しそうに見ていた。

まあ、脳内でジャックがもっと面白がりだしたせいで、すぐに興が醒めてしまったのも事実であるが。

 

外星人が訪れてから、ずいぶんと価値観や常識が変わりつつある。

しかし、驚かされるのに慣れてきてしまっていることもまた事実であり。

 

 

「…で、覚えてますか。“全人類、ウルトラマン化計画”のこと。」

「「「「「「あ………」」」」」」

 

禍特隊のメンバーがやけに淡白な反応しかしなかったのは、もはや麻痺している、と言ってよいのかもしれなかった。

 

 

「……なぜこのタイミングで、『全人類ウルトラマンになっちゃお〜う』…みたいな突拍子もない計画が湧いてきたのか…聞いてもいいかしら?」

 

何とか沈黙を抜け出そうと努力し、唯一それに成功した浅見の発した言葉に、ヒナは犬のスミヨを撫で撫でしながら、首を傾げた。

 

「うーんと、私が説明すると厳密な部分の質問に答えたりできないかもしれないですけど、大丈夫ですか?」

 

ヒナが尋ねると、班長の田村が少しだけ口を挟んだ。

 

「確認するが、ジャックには代われないんだな?」

「はい。ジャックは私の体の治癒にエネルギー使って、疲れたから眠ってるらしいです。」

「…ならば問題ない。今は一刻を争うことだ。」

「それでは。」

 

ヒナは、カバンから白い紙を取り出すと、何やら物凄い勢いで数式をかき出した。意味不明な記号と数の羅列に圧倒されずに見ているのは、物理学者の滝明久くらい。逆に、彼は乗り出すようにして熱心に見つめている。

 

あらかた書き終わった頃、紙上の二箇所にわかりやすく空白が残る。ヒナは最後にその残った空きの場所に、『粒子がバラバラに分解して終わり』『個人が再集合して宇宙で生きることが可能』と二つの文を書いて下線を引っ張った。

 

「———つまりは、地球が崩壊しても人類に生き延びる道を見つけようっていう、そういう話です。今のままの生身では人類は消滅しますが、ウルトラマン化すれば生きられる。だからこそ、多少の無茶をしてでも敢行したいのが、『全人類ウルトラマン化計画』。途中式とか計算とかは複雑すぎて、私なんにもわからないんですけど……わかるところの大まかな理論は書いたので滝さんがわかると思います。」

「……わかるのか、滝?」

「当たり前です。」

「…すまん。」

 

……“知性“の花言葉をもつブルーベリーの花が似合う少女ですねぇヒナさん…などと呟いている外交担当はともかく、神永が滝に突き放されてしゅんとする絵図はなかなか珍しかった。

案外、滝自身も驚愕しているのかもしれない。ヒナという少女の底の見えなさに。外星人であるジャックは眠っている、と言いながらも影響を受け続けているのか、それとも本人の脳味噌の地力なのか。

船縁が、恐る恐るヒナに尋ねた。

 

「…ともかく、地球が滅びるのは前提なんですか?」

「わかりません。」

「そ、そうですよね。」

「さらなる調査が必要だと言った通りなんです。私には、私たちにできる全力を提示することしかできません。」

 

その通りですね…と、船縁が深い思考に沈む。禍特隊のメンバーとはいえ、まだまだ若い乙女の年齢である。地球が滅びる、などと言われて感じるプレッシャーはきっと人一倍。冷静でいられなくても無理はない。

そんな船縁を見て、ヒナは、「しかし」と呟く。

 

「…今までは情報を開示するだけでした。これからは、私自身も動きます。」

「え…?」

「光の星には“他星への干渉は生物兵器に限る”という掟があります。星人が政治に勝手に口を出し、文化の自然な発展を損なうことは禁じられているんです。これは皆さんも知っていますよね?」

「ええ、神永さん…ウルトラマンが教えてくれたわ。」

「そう。………しかし、“ジャックが提案し、私が動く“ ならば問題ありません。私は操られているわけではなく、自ら思考する立派な地球人なのですから。」

 

ヒナの目に、強い光が宿った。

 

「故に、私はこの体の影響力と偉大な力を最大限に利用します。ジャックがこの身に宿ったのは、運命のようなもの。与えられた椅子に座って、指を咥えて成り行きを眺めるままで人生を終えていいはずがありません。」

 

外星人が宿っているといえ、まだまだ子供。

しかし、十代の少女に何ができる、などと尋ねようとする者は誰もいなかった。

“できる“

この奇妙な確信が、少女の体全体から溢れ出しているようだった。鳥肌が立つような、空恐ろしさすらを感じる。誰もが、身じろぎもせずに黙っていた。

 

「恥ずかしいです……私自身に、ようやく肝が据わってきたようですね。」

 

ヒナが、はにかむように微笑む。

ぎゅっと握った拳に、一体何を決意したのだろうか。

 

「世界の歴史が、動きます。」

 

 

すでに陽が落ちて、辺りが暗くなっていることに皆が気づいたのは、それからだいぶ後のことだった。

 

 

 

 

 

<おまけ。ジャックから禍特隊メンバーへの、ひみつの指示書。>

※以下、わけがわからない滅茶苦茶であることを覚悟した人のみ読んでください。(作者より)

 

 

 

 

 

 

禍特隊の皆さんへ

 

これはウルトラマンジャックからの愛のメッセージです。

カメラのないところ、例えばお手洗いなどでこっそり読んでください。

 

〜〜〜

 

天の果てまで届く、ボクの想い。

恋を邪魔する者の船は、破壊することができないかもしれない。

しかし、それでいい。

 

本当に大切なことは、想いを届かせることなのだから。

 

あなたがたはきっと、ボクの全てを理解する者。日向に影に、ボクを応援してくれるかな。

田村さん。あなたは素晴らしい班長。

滝さん。あなたは素晴らしい非粒子物理学者。仕事の同時進行はお得意ですか?

船縁さん。あなたは素晴らしい汎用生物学者。

後藤さん。あなたは素晴らしい星間外交官。

浅見さん。あなたは素晴らしい分析官。

神永さん。あなたは私の真の兄です。助言を貴方に願いたい。遺書の届け方を。

 

ボクの恋敵の協力者は、同時にボクの味方。闇を断つものは、闇の根源を産み出すものに他ならない。

 

 

 

〜女子お手洗い〜

 

船縁「……なんじゃこれ?ねえ、意味不明ですよね!」

浅見「………。」

船縁「えっちょっと待って何で浅見さん全てを理解した顔になってるんですか?!」

浅見「暗号解読能力を舐めないでちょうだい。私、もと公安よ。」

船縁「これ暗号ですか?!絶対私たちをからかって遊んでるだけですよね?!」

浅見「………。」

 

〜男子お手洗いその壱〜

 

田村「なるほど。彼女らしい、と言うべきか?」

滝 「……僕、国語が壊滅的にだめなんでさっぱり意味わかんないです。」

田村「うむ。実は私もよくわからない。」

滝 「え……?」

 

 

〜男子お手洗いその弍〜

 

神永「…成る程。つまり、光粒子サインの技術について俺がリピアーに尋ね、それをウルトラセブンに発信すれば作戦は成功。その作戦の撹乱として、滝や俺も含めた全ての隊員が、ナックルの船の破壊をすると見せかければいい、と。面倒だがわかりやすく簡潔な指示書だな………ん、後藤?」

後藤「あはは、この手紙、ニオイスミレのようですねー。奥ゆかしく、幾重もの羽衣に包んで恋を表現している!」

神永「…??何もかも逆では?熱烈な愛情を語ると見せかけた文章の、その裏側にメッセージが隠されているのだから。」

後藤「一重や二重じゃないのですよ。わからないかなぁ〜。」

神永「???」

スミヨ「ワフッ」

 

 





ナックルの処理における戦闘に関しては、ジャックが自分自身のミスに対しての責任を果たしたかたちになります。
じゃあ、これからは……?
以前リピアー兄さんの記憶が話した「光の掟を何度もすれすれ掠って———まあたまには越えたかもしれないが———それでも誰も何も言えないくらい優秀な結果を伴ってくる」という彼女の評価を、物語の中ではっきり納得させられたらいいなと思います。
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