シン・ウルトラマン  夕陽に咲く花   作:へびのあし

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ドラキュラス・プリズ魔

 

「それにしても、星間外交担当の後藤さんはともかく、山田龍之介総理も眉一つ動かさずにあの部屋へ……。勇気があるというか大胆というか、とにかくすごいですね…。」

「当然じゃねーの?日本のトップだぜ。」

 

ミツオと雅武は、とある密室の外のベンチに座ってのんびりと話をしていた。

現在、ドラキュラス、山田総理、宗像室長、後藤外交官、ヒナの五名による会談が行われている。通常ならば、いくら何でももっと人数を増やした状態で行うものだが、ヒナはこれ以上の部外者の在席を断固拒否した。よって、政治に直接関わる人間に限定すれば、総理大臣のみしか入室を許可されていないということになる。

 

…とは言え、そうして当然のリスクがある。

 

ドラキュラスは地球人と友好的に接するためにここを訪れたのではない。そのようなまともな思考を持つ外星人は、もはや安全とは言えない地球を訪問しない。

確かに太陽系のタイムリミットはこのまま行けばあと半年はあるところだが、それは絶対を意味しない。不確定要素の危険は常にあり続ける。

 

いつ次元の外で木っ端微塵に破壊されてもおかしくないと言われて、それでもなおドラキュラスはここへ来ている。故郷の星を救うため、人間を使った生物兵器を調達するために。

 

 

 

もしも。もしもだ。

ドラキュラスの目論見が成功してしまったら、どうなるか?

 

……第二のゼットンの派遣。

宇宙に危険な生物兵器を増産させないため、惑星ごと人類を滅亡させる。

今度こそ、地球の完全なる終わり。詰み。

 

であるが故、そんな相手と取引をしたことが知れれば、一体どんな面倒が起こるだろうか。日本のマスコミ、海外のスパイ、常に政治に目を光らせる民衆。この危機的な状況で広がる暴徒的な混乱など想像したくもない。

 

と、いうわけで。

 

「ヒイさんの話だと、ドラキュラスの故郷の星間戦争は、生物兵器による干渉にとどまっているために光の星は手が出せない………だけど起こってしまった戦争の根本の問題を解決するために、“他生物からではなく、大気から体液物質の生成を行う方法“ を伝授するのですよね。」

「あぁ。あとは、互いの星の責任者に恩を売ってる仲間がいるから手回しして、こっそり影で戦争を止めやすくしておくんだったか。」

「いくら寿命が短いからって、忙しくしすぎです。私たちにはまだ家族がいますけど、ヒイさんにはもう誰もいないから気を遣うこともないって、そんな思いでもあるんでしょうか。」

「あるかもしれねーな。」

「本当、心配になりますよねぇ。」

「…………ハア、アンタもな。」

「え?」

 

突然にため息をついた雅武。彼は、飛行機模型の修理をしながら、くいっと戸惑うミツオの方を見た。

 

「ウルトラマン化計画とか言われて、よく考えもせずに即答で了承するやつがあるか。」

「………いや、まあ。あの時は半ば自棄(ヤケ)だったっていいますか……」

「せめて計画書を読んでから返事しろよ。俺はそうしたぜ。」

「は、はい……。」

 

雅武の呆れたような言葉通り。

ミツオは案外むこうみずなところがある。

 

まあ、結局考えた時間の違いがあれど、二人が出した結論は同じだった。

 

“ウルトラマンになってみる”

 

そして、なってしまった。

もっと正確に言えば、“一度だけウルトラマンに変身できる体になってしまった”。

 

遺伝子レベルでベータカプセルの情報を刻み込み、細胞の組成はほとんど“ウルトリウム”と呼ばれる地球にはない素材に交換されている。ここにとある衝撃を与えると、無事に変身し—————

 

—————そして異世界へ飛ばされる。

 

は?と思うかもしれない。

しかし事実だ。

刻み込んだ情報に約10億分の1のズレを組み込むことで、彼らは一度変身すればもうこの世界自体には戻ってこない仕組みになっている。故に、そうホイホイと変身することはできないのだ。

 

しかも、もう一つ問題がある。

異世界に飛ばされたあと。彼らは情報の波として漂うのみで、再結晶化、すなわち人間の形を取り戻すことができない。何か粒子レベルでのエネルギーの衝突刺激が起こるなどという奇跡がない限り、彼らの思念も体の情報も、元通りに集まることができないのだ。

 

 

 

『実験は半分成功。半分失敗。』

 

 

 

……それが分析の結果だった。

彼らは一度変身しただけで、異世界に飛ばされ、しかも再びその地で生きる可能性すらほとんどゼロ。

 

ただ、希望はある。

彼らにとっての、ではないが。

 

つまりこの結果によって、次はどうすれば良いのかが定まったのだ。もともとマウスによる動物実験である程度の方針は確定していたので、そこに本物の人間を使うとどうなるかがわかった。

一度試せば、次は失敗しない。

何せ、こちらにはリピアーとジャックとセブン(この人は非常に気まぐれなためほとんど頼りにできないが)というスーパーブレーンがついているのだ。

 

必死になって科学者たちが努力を続けている今、この調子で行けば全人類をウルトラマン化するのは決して夢物語ではない。

 

「……ま、俺たちは人類のために生み出された人間だからな。」

「えぇ。その通りです。」

 

こうして彼らが朗らかに会話しているのも、異常といえば異常なのかもしれない。

何せ、人類のために犠牲になったと言っても過言ではない。……いいや、文字通りに彼らは人類生存の人柱となったのだから。

 

 

それでも。

 

彼らは。

 

「これでドラキュラスを仲間にできれば、心強いですよね。」

「そう上手く行くか、ちょっと疑問だぜ?……だけどまあ、ヒナはスパイだしな。相手を掌の上で転がすのは得意だろ。」

「そうですよね!ジャックさんもついてることですし。」

 

明日のため。

諦めないため。

希望を捨てないため。

 

ただ、笑う。

無垢な幸福を唇に浮かべて、笑うのだ。

 

 

 

 

 

後藤洋太。

肩書き:禍特隊・星間外交担当。

 

彼は、とにかく図太い人間として有名だった。どんな時も爽やかに笑い、花言葉を紹介しては無邪気な顔で喋り続ける。誰もに好かれる優しい声と幼いのにどこかクールな顔。ただまあ、その腹はちょっと黒いかもしれないともっぱらの噂。手回しというか上手い立ち回りというか、とにかくそういうものが得意なのだから仕方がない。

 

しかし何というか、外交において外星人と立ち向かおうなどという勇敢な者は、そうそういるわけではない。

リピアーの時代の惨状を鑑みれば、誰でも腰が引けるというものだ。

だというのに、あっさりと仕事を引き受けた。

故に彼は、人類の物差しで測る普通などという領域を、遥かに飛び越した異常な存在とも言えるだろう。少なくとも、周囲にはそう見える。

 

そんな彼も、やはり人間だった。

一人の、心を持つ人なのだった。

 

「…………ハァ。」

 

 

“胃が痛い“

 

…思わずそんな言葉が浮かんでくるような絵面だった。

 

月灯りの差し込む晩、部屋のベッドにうずくまる後藤洋太。一人ぼっちの時、彼はよくこの姿勢で目を閉じたまま、何度も深呼吸していることがある。彼の双肩にかかるプレッシャーは、尋常なものではないのだろう。ただ今回は、いつもよりそれが酷いようだった。

歯を食いしばって、額から汗を垂らしている。

 

「……どうか、この、太陽系を。」

 

ふと、彼はそんなことを呟いた。

ゆっくりと薄目を開けて、窓の外の月を見上げる。上弦の半月だった。

そして、ふふっと自嘲するように苦笑いを浮かべる。

 

「……神頼みか。僕らしくもない。」

 

彼はゆっくりと起き上がって、両手の間に額を埋めた。

 

「きっと大丈夫。僕らが、大丈夫にする。」

 

青年の手指の間から覗いた漆黒の瞳が、強い光を帯びて煌めいた。

 

 

—————生きることを、諦めない。どんなことがあっても。たとえこの地球が、滅びるとしても。

 

 

 

 

 

黄緑色の鹿の子紋様が翻る。団子に結んだ髪の毛は、一糸乱れることなく凛とある。

鏡を覗き込んで化粧をしながら、ヒナは電話をかけていた。

 

「それじゃあ、お願いね。」

「はい。任せてください!」

「ガーくんは研究所に助言に行ってるんだっけ。戻ってきたら交代して休んでね。」

「はい。了解です。」

 

ミツオの声が、携帯越しに響いてくる。

今日から、ドラキュラスは軟禁生活を開始する。その主な監視役がミツオたちだ。何しろ相手は体液を吸う能力を持った外星人。安全スーツの類のものはまだ開発中であるため、世話人の命に関して限りなくリスクを抑えるためには、半分人間の体をやめている彼らが対応するしかない。

 

ヒナは?

と思うかもしれないが、ヒナは完全なる人間の体のままほとんど変化しておらず、背後から刺されれば当然に死ぬ。もちろん血液を抜かれても死ぬ。

……いや、正確には、『死なないけれどジャックの負担が増す』だ。

人間の細胞が死滅すれば、ジャックはそれを外星人としての力で再生し、制御することになる。そして生物の生命維持の情報は膨大だ。それを管理することは膨大なエネルギーの損耗に繋がり、ジャックはもはや最大の切り札であるウルトラブレスレットすら使用不可能な事態に陥る。それは色々困る。

であるから、ヒナは元スパイとしての能力を十全に活用して命の危機を回避している。今日も禍特隊本部から離れてこのホテルに入るまで、怪しい人影の追跡を撒くのにかなりの時間をとったくらいだ。

ただ情報が欲しいだけの追跡人かもしれないし、ヒナの計画を阻止したい人々かもしれないし、命を狙う暗殺者かもしれない。ただ、風に乗ってふんわり“興味深々“の匂いがしたとだけ言っておこう。やけに追跡が上手くて驚いたが……まあ問題ない。これくらいは日常茶飯事だ。

 

「……よっし。今日も頑張りますか。」

「ワン!」

 

スミヨも大分大きくなった。すっかり成犬だ。

年月が経つのは早い。そしてヒナに残された時間は残り半年。

まあ、色々な不安要素はあるが、ドラキュラスについては問題ないだろう。利害関係は一致させたので、後は光の星が彼の故郷である惑星カミーラを救ったという情報を待つだけだ。

一応、そう言って周囲を納得させている。

気合いを入れたヒナが禍特隊へ出勤しようとした時、仕舞いかけた携帯がけたたましく鳴った。

ん?と携帯の文字を見て、ヒナはすっと目を細める。

 

『緊急連絡』

 

赤い画面がチカチカしている。ヒナがパッと携帯に出た瞬間、「今すぐ来てくれ!」と班長の田村の切羽詰まった声が届いた。

 

「…え?」

「他の隊員にも片っ端から連絡している!詳しい話はメールで確認してくれ!悪いが一旦切る!」

「…………はい。」

 

あっという間に電話が切れ、ツーツーと通信終了を示す音が鳴る。ヒナが急いでメールボックスを開くと、そこには『緊急連絡:プリズ魔被害の件』というよく分からないタイトルのメールが届いていた。“集合場所“を示す地図と住所が添付されていたために、ひとまずヒナはそこに向かうことにして部屋を出る。

 

一刻を争うような事態であればテレポートも視野に入れるが、出来る限りエネルギーの消耗は抑えたい。そんな思いの中、ヒナはとりあえずタクシー乗り場へと急ぎながらメールの続きに目を落とした。

 

 

以下の被害の原因は一匹に禍威獣によるものと推察される。

 

・オホーツク海周辺で行方不明者発生

・北海道付近の灯台が原因不明の停電

・三陸海岸で漁に出た漁師が行方不明に

 

…………

…………

 

海にて起こったちょっとした事故や事件。それが日付と一緒に箇条書きになっている。

やけに“灯台の停電”が並んでいるのが気になるものの、全くもって取るに足らない事件の集合であるそれらが長いリストとなっている。

ざっと目を通したヒナは、括弧書きにされた最後の一行に目を止めた。

 

《・東京湾にて、松明を捧げた祭り行列が謎の禍威獣に襲われ全滅。クリスタルに覆われた巨体を持ち、光線を放って人を結晶化、その後光の粒子へ変質させて吸収。以降この生物を『プリズ魔』と呼称することとなる。》

 

「……は?」

 

思考が止まった。

こんな禍威獣は見たことも聞いたこともない。ちょっとでも類似のものがなかったか思いを巡らすが、やはり心当たりはない。

その時、頭の中のジャックがヒナに語りかけた。

 

——————ふむ。これ、生物兵器の一種だね。

 

「……何ですって?」

 

——————多分、メフィラスが中途半端に起動したんだよ。でも、危なすぎるからって手を引いたんだろうね。時空の歪みのせいか、最近の太陽の黒点活動は異常気象気味だからさ、刺激しちゃったんだろう。ま、最後の仕上げはおてんと様ってヤツさ。

 

「…これを倒す方法は?」

 

—————凍らせること。できれば冷却光線だけで死滅させたいところだけど、多分無理だろう。奴が苦手な超低温で動きを封じて、それからスペシウム光線の一斉放射で熱膨張による破壊を試みる。この辺りが妥当な解決策かな。

 

「…爆散させると被害が大きい。」

 

—————人払いをするしかないよ。むしろ、この他の方法はリスクが高いから、ボクが死ぬかもしれない。

 

「冗談抜きに?」

 

—————冗談抜きに。

 

ヒナは押し黙った。そして、次の瞬間、よくわかった、と呟いた。そして最寄りのタクシー乗り場へ向かって、風のような速さで走り出した。

 

「……ワフッ!」

 

 

 




ウルトラマンジャックの原作では、プリズ魔対決は二度に渡ります。
この作品ではどうなるか……。とにかく、すっきり解決して日常のんびりシーンへ移行!にはしないつもりとだけ。
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