シン・ウルトラマン  夕陽に咲く花   作:へびのあし

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夕陽に咲く花

 

夕陽は美しい。

落ちていく日は、一度死ぬ。真っ暗闇に包まれ、月と星へ舞台を譲る。

明日の朝には日が再誕し、何事もなかったかのように世界は回り続けることを知っているから。人類は安心してベッドへもぐる。

 

……しかし、明日の朝がもう来ないとしたら?

全てが終わる、この一日。

希望はどこを探せばいい?

 

根を張る花は、ただ花を咲かせるだろう。

明日がないからと、それだけの理由で。花を咲かせ、種子を作り、子孫を残すための努力を決してやめはしない。

 

地球の落ち日に花は咲き、大地滅亡を前に人類は足掻いた。

 

それが生命。

受け継ぎ、繋いでゆく命たちの本質だから。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

「……わかった。」

 

助けるのは、人類だけ。そういうプログラムをギリギリで完成させたジャックたちに、犬を飛ばす余力はない。どんなに頑張って例外を作るとしても、その事実は変わらない。つまり、犬のままではダメだろう。犬のスミヨは、人間のスミヨとなって別宇宙へ渡るしかない。

たとえスミヨという生命は守れても、スミヨをスミヨとして送ることはできない。

それを充分に理解していながら、ヒナはこれをジャックに頼んだ。

 

「……スミヨは生まれ変わる。人間に。」

「そうだね。」

「光の星では、誕生第一声を解析して名付けるって、神永さんから聞いた。」

「その方法で名前をつけて欲しいのかい?」

「うん。」

 

これらはジャックとの取り引き、そしてヒナの両親の強い願いの結果、生まれた会話。

 

「今さらだけど、色々ありがとう。」

「いいんだよ。これからもドンと頼っちゃいな。大船に乗ったような気持ちでね。」

「……うん、よろしく。」

 

ヒナ、最後のわがまま。

明日も花咲く権利を与えられた命を、一つ、増やすこと。

 

 

 

 

 

 

ヒナは、黒い羽織を脱いで空に舞わせた。崖を駆け上った風が、それを掴んで去ってゆく。

目の醒めるような、鮮やかな夕陽の色の浴衣が姿を現す。ジャックの、思いやりとも言えないような好奇心に振り回された、ほろ苦いような優しい思い出。

 

「ごめんなさい。そして、ありがとう。泣いても笑っても、今日で終わり。……いや、始まりかな。」

 

ヒナは、晴々とした表情で、ゆっくりとブレスレットを掲げた。

 

「今こそ、『全人類ウルトラマン化計画』を実行する時。」

 

スイッチを、押す。

光が、溢れる。

 

「必要なのは、想像力のみ。私たちの脳味噌が、理論を承知していればいい。それだけ。」

 

“ジャックのブレスレット”

ベータカプセルであると同時に、有用な武器となる。それは自由自在に変形し、武器にも防具にも爆弾にも光線にも、やろうと思えば鏡や歯ブラシやコップにも、使用者の念じたとおりのものになる。

 

—————人類を別宇宙へ飛ばす媒体にはピッタリの道具である。

 

二つの思考回路が、それぞれ分割された領域においてフル回転を発揮する。

ジャックは、次元を超えた空間転送。

ヒナは、人類のウルトラマン化。

 

使えるのは一度だけ。ジャックがエネルギーを使い果たすからだ。そして。

 

「今です!師匠!」

「ったく、無茶をする!これが終わったら、また恒星に突っ込んでやるからな!」

 

かつて宇宙で再会したウルトラセブンが、不思議な機械と共に、まるで銀の月のようにふんわりと夜空へ浮かんでいた。距離を超えた会話が成立しているのは、彼らが人間でない証。

それももう、これから人間が人間でなくなるために、無意味な言い回しとなるだろうが。

 

「恒星はご勘弁を!」

「ならば自身の覚悟を証明してみせよ!」

 

これの応答が、ブレスレットの起動以外に割く、最後の思考となるだろう。カンマ0.2秒。ジャックたちの渾身の冗談が炸裂した。

 

「ゼットンが火球を発射する際、火球との接触面に時空的なズレが生じます!それを利用して、万が一ボクが離脱を失敗したとしても、師匠だけは安全に離脱できる設定を独自に組み込んでおきました!安心して石化装置を操作してください!」

「私が要求したのは覚悟であって、媚びではない!」

「大変失礼致しました!」

 

今宵は、闇だ。

闇の中に、光を求めなくてはならない。

 

当たり前のように光だけを求めて生きてきた人間は、絶望するだろう。

数えきれない罵倒と涙を、彼らはぶつけようとするだろう。

悲嘆の、憎悪の、怨嗟の声を、受け止める準備のあるものがあるだろうか。

 

ただ—————

 

「火球が発射されるまで、三秒、二秒、一秒………今。」

 

運命は、すでに決された。

 

世界中が、彩られる。

まるで、音楽に包まれているようだったと、後世の人々は語る。

銀色に溶け、すうっと感覚が遠くなり、ぼんやりした霧の中で、気づく。

自身の身体は石となり、穏やかな流線形を象って浮いている。

 

今までに見たことも感じたこともない、不思議な空間を潜ったかと思えば、その先は宇宙だった。

降り立った先は地球であり、地球ではない場所。

そしてこの先は、激動の歴史。その人それぞれの過去と人生があり、少ない文字数でまとめて語るのはむしろ憚られるかもしれない。

 

それでも。

最後に少しだけ。

『彼女たち』の結末を語っても良いだろうか。

 

まずは、御堂ミツオ、駒ヶ谷雅武。

きっと類稀なる幸運、と言えるだろう。ヒナはゼットンの莫大なエネルギーの働きにより生まれた時空の揺れ動きの中で、彼らの意識に出会うことができた。

 

「俺たちは、後悔してないぜ。」

「はい。後悔していません。」

と、彼らは笑った。

 

彼らには、本当に申し訳ないことをした。

様々にこき使い、残り少ない人生を奪った挙句の果てに、信頼を裏切り騙すような真似まで。あらゆる罪悪感につまされたヒナがぎこちない表情を浮かべると、彼らは一層面白そうに笑った。

 

「多分、精神的な情報に還元されるんだぜ。で、俺たちはそのまま、別次元の地球へ溶け込んじまうってわけだ。」

「母なる大地の一部になるって感じです。けっこう楽しそうですよ。」

「ウルトラマン化した以上、人間そのものに戻れる確率は0パーセントかもしれねえけどさ。」

「運が良ければ、また目覚めることができるかもしれません。」

 

うーんと、雅武が頭を掻いて付け加える。

 

()()()()()()()()()()()()()()……みたいなアホ実験を思いつく馬鹿がいたら、またよみがえれるかもな。超頼りにならない確率だけど、ま、可能性がないわけじゃあ、ないんだぜ。」

「そうですよ。簡単に思い付かないだけで、他にも方法はたくさんあるはずですし。私たちも足掻いてみせます。」

 

そうして、彼らはさようならの合図に、手を振った—————そんな気がした。

 

「「それじゃあ。」」

 

彼らは、後に目を覚ます。

ガイアと、アグル。

そう呼ばれることとなる二つの巨人は、襲いかかる苦難を払いのけ、打ち砕き、見事その宇宙での地球を守り抜いてみせた。

……彼らが別の宇宙出身の元人間だと知れば、目を剥いて質問攻めの刑にかけること間違いなしの、天才科学者をそれぞれの相棒に据えて。

 

 

 

 

そして、神永新二。

 

彼は、最も力のある石像戦士として第二の地球に降り立った。

現地人と、故郷を追われた異世界人との間を取り持つ、非常に危険かつ難易度の高い任務をこなした。しかしさすがの彼でも、これは少々荷が重かったらしい。人間同士の不毛な争いに巻き込まれ、『悪の巨人』『闇の使者』など不名誉極まりない称号の数々を背負いながらも、悩み苦しみながら闘い続けて。……しかしとうとう、共に闘っていた仲間ともども、民衆に捕らわれた。

「俺たちは光でありたいと願う。とても難しいことだ。俺は干渉を諦めるべきだったもか、そうではないのか。今でもわからないよ、リピアー。」

意味深に言い残して、石像保存の終身刑に処せられた。

彼は、最後の瞬間まで微笑んで……そして石像になる瞬間に強烈な光に包まれた。それぞれ巨人の姿へ変身したという目撃証言もあるが、とにかく彼らの姿はどこかへ消え去った。

天才科学者ユザレが助けたのだとか、邪神が怒ったとか、奇跡が起こったのだとか、色々な憶測の言い伝えがある。きっと、最初の案が妥当なところだろう。

 

後に再び甦り「ウルトラマンティガ」として残した伝説は、語る必要もないかも知れない。もう、その頃には神永新二の意識は長い年月を経てすりへり、どこか超常的な意思の塊でしかなくなっていたのだった。

「—————人間の選択にまで干渉した光の巨人は、ティガ、君が初めてだ。」と、未来人が巨人を見上げて呟いたのは、果たして、何か深い意図があったのか。

 

 

 

 

次に、浅見弘子。

 

『ウルトラマンダイナ』

そう言ったらわかりやすいだろうか。

一度プランクブレーンを旅した経験(といってもあくまで無意識下の状態であり、その内構造を精密に把握しているわけではなかったが。)のある彼女は、自身の痕跡に引き摺られて時空を少しばかりやり過ごすという失敗をする。

結局。時代を大幅に間違えたが、一応正しい宇宙へ抜け出ることに成功した。すぐにとある無鉄砲な青年と融合したため、自分の意識を前に押し出す余裕はなくなってしまったが。

まあまあ刺激のある楽しい余生を送れている実感はある、らしい。

 

 

 

そして、犬のスミヨ。

 

ヒナの最後のわがままであり、ジャックが救った唯一の人間以外の生物。

人間以外のすべての動植物、鉱石、建造物その他もろもろを見捨てた大移動の中で、ただ一匹の犬が、別宇宙へ転移されることを許された。

誰も知らない。

ジャックと、ヒナ以外は。

なぜなら、到着時にはとっくに犬の姿ではなく、人間の幼児に改造されてしまっていたからだ。ジャックがヒナのリクエストに応える形で付けた名は、とある一人の人間の名として知れ渡るようになる。

 

その名も、—————『ユザレ』

 

犬並みの嗅覚と聴覚を持ち、視覚はあまりよくなかったらしい。もともと地頭が良かったのか、それともジャックの手心か。向こうの世界で、あっという間に科学者として大成。ホログラムとしてタイムカプセルに自身を登録し、謎多き女性として後世にも影響を及ぼした。

ちなみに彼女は、未来の地球防衛隊イルマ隊長のご先祖さまでもある。

 

 

 

 

その他大勢————の、子孫たち

 

血は薄れても、ウルトラマン化計画に成功した者の子供たち。

ウルトリウムを兵器やら何やらに消費しすぎて、自分たちの体を強化する分が残っていなかった向こう側の宇宙。それでも、何とかかんとか、捻り出す。絞り出す。そういうことを続けていた。

……が、一度文明が滅亡したために、人類は自身がウルトラマン化できることすら忘れたらしい。

それでも。

遠い未来、世界中の子供たちがひとつのウルトラマンの体に融合して闘った、などという微笑ましい記録が残っていたりするらしい。

 

 

 

 

最後に……ヒナ。

 

ジャックと融合。とはいっても、脳内思考は分離されているゆるい結合。ぎりぎりで光の星掟を破ってはいないのでお咎めはなし……らしい。

ただ一人、この宇宙に居残った元地球人。

故郷の太陽系はなくしても、帰る場所はある。

「美しいものを破壊から守り、美しいものを新たに作り出す!」

「ふふふ!原生生命体の考えることは芸術的だねぇ!」

……と、意味不明な独り言を撒き散らす、ノイズで頭お花畑な研究者だと煙たがられた。ウルトラセブンとの師弟関係はまだまだ続ける気満々。

いつか、時空を超えてみんなに会いに行きたい、かもしれない。

 

 

 

 

 

———自分より弱い者のために生命を賭けたウルトラマン。

———自分より弱い者のために人生を賭けるウルトラマンジャック。

 

兄妹の情熱と好奇心は、宇宙の片隅を少しずつ変えていった。

 

真っ青な海は美しい。夕焼けに染まった家々の屋根は美しくて、つららのぶらさがったクリスマスツリーは美しい。公園のブランコで遊ぶ、子供たちは美しい。

本当なら。本当ならば、いつまでも、このまま守っていきたかった。人類の豊さを、損なわずに。

 

……………だけど。

 

宇宙という海では、様々な思惑と権謀が渦巻いているもの。

騙し、騙され。

裏切り、裏切られ。

否応なく波瀾に引き摺り込まれる地球。

 

ずっと今のままの環境に留まり続けることは、誰にもできなかった。

 

それでも人類は明日を信じた。

美しいものを、作り出し続ける未来を夢見る。

それがどんなに難しくとも。

 

今までも。そしてこれからも。

 

 

本当に怖いのは、滅びることじゃない。

—————生き延びることを、諦めることなのだから。

 

(完)





終わりです。
最後は自分の好きにしようと決意して、思う存分暴れました。
本当はまだまだ色々な妄想があったんですが、ちょっと物語の収集がつかなくなりそうだったので捨て原稿に……。最後、散らばった人たちがどんな人生を歩んだのか詳しく知りたかったら、
・「ウルトラマンティガ」…神永新二、スミヨ、その他大勢
・「ウルトラマンダイナ」…浅見弘子
・「ウルトラマンガイア」…御堂ミツオ、駒ヶ谷雅武
を視聴してみて下さい。設定に不備、ズレはありすぎるほどあるかとも思いますが、基本的にどのウルトラシリーズの展開も捻じ曲げないという体で作っています。

そして、ここまで読んで下さった読者の方、本当にありがとうございました。
二次創作など、基本的に作者の自己満足です。
質も量もだめだめな拙作をネットに出しているのは「ヒマがあったらつぶして下さい」という目的に尽きます。一人でも読んで下さる方がいればいい、と自分を戒めながら書いていながら、感想やお気に入り登録にとても心慰められました。
完結まで持っていけたのは、この作品を読んでくれた方々のお陰です。
本当にそう思います。
ありがとうございます。

それでは最後に、「さよならは終わりではなく、新しい思い出の始まりといいます」byウルトラマン80

新しい思い出の中、またどこかで会いましょう♪
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