シン・ウルトラマン 夕陽に咲く花 作:へびのあし
光。
そこは瞬く輝きで満ちていた。
うっすらと目を開くと、途端にツートンカラーの世界に情報が溢れた。
色。
そこは色彩で溢れる場所だった。
目がチカチカして、目眩がしそうだった。
周囲を渦巻く墨で流したようなぐるぐるの模様は、ここが夢の世界であることの象徴か。それとも次元や空間が捻じ曲がっているのか。
カラフルな赤、黄、青、緑、紫……そして。
銀。
彼はそこに存在していた。
ここでは、彼は主役である。
体の主導権を神永が握っているように、“ここ”は彼の領域だった。
彼の巨大な体躯は、しかしこの世界では対等なものであるようだ。
向き合ううちに、いつの間にか同じ背丈に縮んでいた。
ウルトラマンと、人間。
リピアーと、神永新二。
「……まずはきみに謝りたい。」
初めて聞いたウルトラマンの声には、深い情が篭っていた。
顔は表情をつくることのない仮面なのに、どうしてこれほど人間的なのだろうと、神永は思った。
「私は悪いことをしたと思っている。」
白く輝く眼が、どこか後ろめたさを持って神永を見つめている。
ああ、と神永は思った。
すとんと、何かが腑に落ちた。
————会いたかった。
別に、彼に特別な面識も繋がりも感じたことはなかった。
当然だ。自分は彼に一度殺され、体を乗っ取られて、そして色々好き勝手された挙句、知らぬ間に命と引き換えに人類を救って英雄になっていた。
おまけに目を覚ました神永は、ウルトラマンに憑依されていた数ヶ月の記憶が空っぽになっていたのである。何も覚えていない。ただただ長い夢を見ていたような、現実感のない現実。
————ずっと虚しかった。
それなのに。懐かしむ過去などあるはずもないのに。
蝉の鳴き声を聞いたり、夜空の月の模様を見上げたり。そういうふとした瞬間、無性な寂しさに襲われた。自分が覚えていなくてはならないこと、思い出すべき重要なことを、忘れているような気がした。
それは何かの具体的な出来事のような気もしたし、絆…といった類の心に関する何かであるような気もした。
その正体が、やっとわかった。
そう確信した。
「————僕は。ずっと待っていました。」
「ああ、奇遇だな。私もだよ。」
驚くほど素直に、微笑むことができた。
不思議にすがすがしい気分だった。
「あなたは何も謝る必要はない。」
「そうだろうか。私の力不足で、地球、人類、そして君…神永新二。私は全てに禍いをもたらしてしまった。」
「運命とは、歴史を否応なく動かす大いなる力だと思います。“己の命を、他社の幸福のために使いたい”。いつも抱いていたその願いを、あなたは他の誰にもできない形で叶えてくれました。心から感謝します。」
「なるほど。つまりは、それが『神永新二』という個体の生き様だったのだな。」
「幼い頃より父にそう言い聞かされて育ったので。」
「確かきみの父親は医者だったか。」
「ええ。家業自体は姉が継ぎましたが。」
ウルトラマンと、奇妙な異空間で会話。不思議とリラックスできていたし、話すのは容易かった。
人間相手には『無愛想』『イケメンだけどいつも何考えてるかわかんない男』などさんざん揶揄されてきた自分だが、意外と外星人との相性はいいのかもしれない。奇妙なこともあるものだ、と思った。
それにしても、さっきまで禍特隊のオフィスにいたはずだ。なぜに自分はこんな変てこな場所で、死んだはずのウルトラマンと会話をしているのだろうか。
そんな疑念が湧いた時、目の前のウルトラマンがふっと笑った。
「ここはきみの脳内だ。」
「……?」
「私はただの記憶であり、記録…つまりは情報の塊でしかない。私の体はどこかへ残されているが、思念はすでに消滅している。」
つまりは幽霊だな。
思いついたようにそう言って、ウルトラマンは締めくくった。
「思念を遺す?そんなことが可能だったのですか。」
「可能だ。しかし外星人である私の記憶を全て遺すことは、きみの精神に多大な悪影響を及ぼす。しかし私は諦めきれなかったのだ。私はゾーフィに分離される直前、きみの脳に細工を施した。」
「………細工。」
「そうだ。きみの脳内に、私の記憶の一部だけを封じた。しかしあまりにも時間がなく、私自身この手の技術には不慣れだった。本来ならばより精密に情報の取捨選択を行い、思考によるスイッチの切り替えが容易になる回路を繋げるのだが………要は中途半端なのだ。」
なるほど、と神永は合点した。
自分の脳に何をされたのかは知らないが、地球人の脳科学者では検査漏れする何かであるのは確かだ。そして確かに中途半端。実際神永は何も知らずにここ数ヶ月を過ごしてきたわけであり、『催眠』やら『思考誘導』やら怪しげな名前の検査までをも何度も受けさせられたのにも関わらず、何の変化も起こらなかった。
つまりは細工をちょっと失敗したのだろう。
完成する前に彼は死んでしまった。
しかし今、彼はこうやってウルトラマンと会話している。
何かがトリガーとなったのだ。ここへ来る直前。神永はどこにいたか。そして何をしていたのか。
(禍特隊のオフィスで、僕はニュースを聞いていたはずだ。…三次元のホログラムが外星人の少女を映していて、それは、……………あぁ、なるほど。)
「…なるほど。」
意外だ、と思った。お兄さんだったとは。
「あなたに、妹がいたのか。」
「ああそうだ。妹も弟もいる。最期に光粒子サイン……その、遺書を送るために、彼らの記憶を直前で慌てて残す方のへとカテゴライズしたのだが……、思いがけず役に立ったみたいだな。あれの記憶の刺激のお陰で、今完全に神経回路がつながった。」
「……人類は、彼女を信頼していいのだろうか。」
「時と場合による。しかしきみたちに仇なす存在とはならないはずだ。彼女は昔から、原生生命体が好きだから。」
そうか、と納得した。
ウルトラマンを疑う気持ちは露ほども湧かなかった。
彼はすでに神永の一部であり、彼自身の記憶である。本能的に、そう判る。
けれども神永自身がその記憶を覗いたり、追体験するようなことはできない。きっとそのあたりが神永の精神の安全のための枷なのだろう。
つまり知りたいことがあるなら、問答形式でどんどん聞いていけばいい。
「そういえば、あなたの故郷はどういう星なのだろう?銀色の生命体がたくさん住んでいるのだろうか。」
「私の故郷は光の星。きみの想像通り、私たちのような存在が多く活動している。もっとも、多少の容姿や性格の違いはあるし、階級のようなものも存在している。また、私たちはその特性に合った仕事によって宇宙へ散らばるため、本星自体の人口はあまり多くない。」
「なるほど。」
「まあ、私は一介の戦闘員だ。仕事の成績は良い方だったが、あまり特別な存在でもなかった。命令通りに宇宙を旅して厄介ごとを処理するだけの人材だ。」
「………だから光の星は、同族であるのに、あなたを見捨てたのですか?」
「私は掟を破ったのだから、何らかの制裁が与えられるのは当然のことだ。だからこそ私がきみへの命の譲渡を望んだとき、ゾーフィはあまり躊躇わなかった。……だが、今回、妹の場合は事情が異なるかもしれない。彼女は優秀であり、替えが効かない。」
「へえ。」
さすがに少し驚いた。たった一人で地球を武力制圧できる彼が、自分を替えの効く駒だと言ってのけたのである。
不思議な気分だった。
そして当然気になる。替えが効かない、妹とはどんな奴なのか。
「…あなたの妹は、どんな人物なんだろう。」
「一言で言えば……おてんばな奴。」
「え?」
「頭脳に関しては天才なんだがな。ただ、我々戦闘員の訓練場に潜り込んできて次々に勝負を申し込んだり、ふらっと一万光年先の星系に旅に出て土着の生命体と師弟関係つくってきたり、かと思えばベータカプセルの理論を弄ってたった一晩であの機器の更なる小型化に寄与してみせたり……見ていて絶対退屈しない奴だったよ。光の掟を何度もすれすれ掠って———まあたまには越えたかもしれないが———それでも誰も何も言えないくらい優秀な結果を伴ってくるのがお決まりのパターンだ。」
「彼女の本来の名は?」
「この国の言語で発音するなら、ユト、だ。」
「由来とかあるのか?」
「特に意味はない。赤子の第一声の波を解析して名付ける。」
「へえ、光の星の風習は面白いな。」
「ユトとの…彼女の思い出をもっと話そうか?」
「ああ、たのむ。」
嬉しそうにウルトラマンが口を開き、そしてすぐ、残念そうに閉じた。
「…どうやら時間がなさそうだ。神永、きみの仲間たちが心配している。」
目覚めの時だな、とウルトラマンは呟く。
途端、神永は言い知れぬ焦燥に駆られた。例え一時的でも、彼と別れることが不安だった。きっとこれからは、願えばいつでも彼と会えるのだろう、とわかっていた。しかし離れたくない。たった一人で現実世界へ帰るのが、どうしてだか怖かった。
「…目が覚めたら、僕はどうすれば?」
「その答えは、きみ自身のものであるべきだ。」
ウルトラマンは、全てを理解した表情で微笑んだ。
「そして、きみは実行する力を持っている。」
輝く星が火花を散らし、過去が潮を泡立たせて海岸へ押し寄せるとき。
枯れた花から落とされた種が、再び大地に根を張る。
青々と芽吹くそれは、ひどく優しく、温かく。そして……ほろりと苦かった。
……今さらですが、オリジナル設定に注意です。
ちなみに、まだまだ禍威獣たち募集中です。(メッセージのみで受け付ける等、詳しい注意書きは第一話をご参照下さい。)
個性的な外星人も活躍させたいところです。ぜひよろしくお願いします。