シン・ウルトラマン  夕陽に咲く花   作:へびのあし

6 / 20
———昔の思い出。
ちょっとひたってみるのも、楽しいかもしれない。
雪の舞い散る中ではしゃいでいた、真っ白な自分の心は懐かしく…あったかいものだから。




昔降った雪

 

わあい、と歓声を上げた。

ドアを開けた途端、それは天から舞い降りてきた。キラキラ煌めく銀の綿あめのように、真っ白な雪の結晶が落ちてくる。

 

「雪だ!」

 

12月25日。

これが意味するところは明白だ。

それは、”アカデミー“ という閉じられた空間においても同じだった。

デザインチャイルドが機密のうちに育てられ、国家のために訓練を受ける。特殊な施設だが、子供たちが閉塞感を感じないように最大限の配慮がなされているようだ。窓の外はベランダで、開けた空から明るい光が差し込んでいる。

アカデミーの寮から、ベランダへ飛びだす。六歳のヒナにとって、この日は一年で最もワクワクする、待ちに待った瞬間だった。

 

「みんなぁ!メリークリスマス!今年もホワイトなクリスマスだよ!」

 

窓を外から開けて、中へ呼びかける。まだねむっていたルームメイトが、モゾモゾとベッドから這い出てくる。まるで芋虫みたいで、慌てて眼鏡をかける友達や、くしゃくしゃな髪の毛がさだ子になっている友達がおかしかった。

 

一人の男の子がハックションッ!とくしゃみして、恨めしそうにヒナを見た。見た目で十五歳ほど。

最も年長者の、吉田優である。

 

リーダー格なのだろうか。

それとも、ただ産まれた年が最も早かっただけだろうか。

彼はどこか他の子とは違うように思えた。

彼のパジャマは純白で、それも他とは違う洗練された空気を醸し出している。

 

…とは言っても、まだまだ子供であるのも確かであり。寝癖の跳ねた頭で、眠たげに目を擦っている様はとても可愛らしい。

 

「おい…何もこんな早起きしなくてもいいじゃないか…。」

 

優は口をへの字に曲げ、大欠伸をしながら起き上がった。

 

「別にいいじゃん!ねえねえ、どうせ雪が降ることも、私がこうやって飛び出すことも、全部わかってたんでしょう?優くんも外においでよ!」

「…断る。」

「そんなぁ〜。うーん、じゃあ五分くらいしたら来てよ!約束ね。」

 

そのままパタパタとヒナは外をはしゃぎ回り始めた。はあ、と優はこめかみを抑える。ケタケタとヒナが笑う幸せそうな声が外へ響き渡り、誘われたように何人かのルームメイトが外へ出ていった。

優は、しばらくそのままぼんやりしていたが、ベッドから降りると、スリッパに足を入れて窓の近くへ歩いていった。ぼんやりと、窓枠へ腰掛けて降り積もってゆく雪を見つめる。

 

「優くん!鳥が飛んでるよ!」

 

不意に、ヒナが優を呼ぶ声が聞こえた。

 

「…ん?」

「ほら、あの鳥さん!ねえ、教えてよ、優くんは何もかも知ってるんでしょう?あの子は、一体どこに行こうとしているの?」

「…ああ。」

 

いつの間にか、窓のすぐそばにヒナが駆け寄ってきていた。

優の顔を見つめながら、真っ直ぐに空を指差している。見れば、曇り空を滑空してゆく小さな影があった。よく見つけたな、と思うくらいに小さい、遠くを飛んでいる鳥だった。

 

優は、静かに唇を開いた。

 

「……自分の命を長らえさせてくれる場所へ。」

「へーえ。それって、どういうところ?」

「例えば、暖かい場所。例えば、食べ物がある場所。住む場所すら変えながら、鳥は懸命に生きてるんだよ。」

「すごい!鳥さんって好きなようにお引越しできるの?」

 

ハア、と優はため息をつく。影のある表情は、しかしあまり憂鬱そうに見えるわけではなく、不思議にクールだった。

 

「…ヒナ。野生の生き物は決して自由ではないんだよ。そうしないと死ぬから、やむなく行動しているに過ぎない。特に海を超える旅は非常に危険で、椰子の木が揺れるのどかなイメージのある南の島も決して楽しいことばかりの楽園ではない。この前誰かが花火大会があるから海へ行きたいなどと騒いでたけど、そこだって迷子で泣く子供や泥棒の餌食になる奴がいる危険な場所だ。」

「海に…お祭り?それって、絵本の中だけのお話しとかじゃないの?」

「馬鹿かい?現実にあるものだ。」

「ここからこの足で出て、見に行けるものなの?」

「……条件さえ整えばな。だが、」

「行けるの!?」

「ああ、そうだ。しかし、」

「本当!?」

 

キラキラッと目を輝かせたヒナを見て、優は、こりゃダメだ、と諦めた。十五歳の憂鬱を、六歳の女の子に話してわかってもらおうとするのは無理な話というものだ。

代わりに優は、空を仰ぐヒナの横顔をぼんやり眺めることにした。

 

「それってすごいね!だって、絵本にかいてあるような世界を、テクテク歩いたり電車に乗ったり船に乗ったりロケットに乗ったりして見に行けるってことでしょう?私も見たいなぁ。優くんはもうほとんど大人で、お仕事たくさんしているから、きっとこのお山の外にも行ったことがあるのかもしれないけど、私ったら一度だって出たことないんだよ?」

 

目を輝かせて滅茶苦茶なことを喋り続けるヒナに、優はまたしてもため息をつく。

 

「僕だって、ここから出たことはないよ。」

「……え?そうなの?」

「ただし、映像を見ることはできる。基本的に外というのは遠すぎて、自分の足で行くのはとても難しい。僕はいつも部屋の中で映像を映し、カメラを通して外の人と会話し、絶対に安全な環境で仕事をしている。それが僕という人間に求められる生き方なんだ。」

「なんか…つまんないね。」

「少々退屈。しかし、それだけだよ。」

 

優は、冷静にそう言った。

そう。優は自分の置かれている立場というものを、正確に理解していたから。

 

ここの寮に集められている者たちは、ただの子供ではない。実験の結果生まれた、優秀な遺伝子配列の組み合わせ。すなわち、『デザインチャイルド』である。

国家、いや世界に貢献するために作られた、運命の子供たち。

彼らは、個人がそれぞれに特質を持っている。

 

例えば、優は『未来予知』

様々な情報の断片を集めて組み合わせることで、弾き出されるいくつもの可能性。それを束にして、計算を重ね、まさに予言する力を秘めているのではと思わせる高精度の予測をしてみせる。要は、ものすごく頭がいいのだ。幼い頃は未来を絵に描き表して遊んでいたため、「イラストレーター」のあだ名がついたこともある。

 

そして、そこで無邪気に笑っているヒナは、『犬人間』

なんだそれは、と思うかもしれない。ただ、文字通りである。彼女は犬並みに鼻が効き、耳がよく、そしてある程度は犬とのコミュニケーションが取れる。彼女に関しては遺伝子の組み合わせだけでどうにもならない部分が多かったので、頭蓋を開いての手術も何度か行われたらしい。ヒナに期待されているのは、ずばりスパイ能力である。世界転覆を目論むテロリストの存在が本気で不安視された時代があり、彼女と同じようにスパイとして生まれたチャイルドは何人かいる。

 

大抵の子供たちは異常に頭がよく、メンタルも強い。体力に関しては人それぞれだが、一応みんな最低限の戦闘訓練を積んでいる。

彼らは個々の幸せを享受するために生まれてきたのではない。地球全体の幸せのために生まれてきた、選ばれし遺伝子なのだ。

 

「それに、退屈なんてかわいいものだよ。世の中には信じられないくらい惨めな人生を送る人間がたくさんいるんだ。」

「……。」

「そういう不幸を少しでも減らすために、未来予知をし続けること。これが僕の幸せだよ。」

 

そう。だからこそ、優はその環境を恨むことはない。貢献することが自分の使命だと理解しているし、そしてそうでなければ自分の存在価値を見失うことも、彼は理解していた。

 

(…そして、きっと僕はヒナにも同じことを期待している。)

 

同じ枝葉の存在として。親がいない、宙ぶらりんの、チャイルドたち。心を灰色に染め上げて、自分にとって何の利益にもならないつまらないことを懸命に成し遂げる。命を燃やして、突っ走る。自分も世界も、苦しむのも、悩むのも、何もかもを超えた存在として、この宇宙に一輪の花を咲かせる。

 

…そう、自分が世界の一部分を守った、という事実ひとつを。

 

「ねえ優くん、一緒に冒険しない?」

「…何?」

「あのね。私たちだけで、ここを抜け出すの。山を降りて、電車に乗って……海に…行くの。」

 

キラキラした漆黒の瞳。

その輝きが眩しくて、しかし、優には受け入れることができなかった。

 

「…それは無理だよ。」

「そう。」

 

ヒナ。

彼女が一人でそれを実行できる確率はほとんどゼロだ。

それなのに…なぜだろうか。

ヒナの顔を見ていると、砂浜で体を埋めて遊び、海の波の泡に戯れ、拾った貝殻を耳に押し当てて喜ぶ姿が、ありありと浮かんでくる。もしや、本当に決行してしまうのではないだろうか。

 

しかし、ヒナは残念そうに肩を落として、さっさと向こうに行ってしまった。

その顔にはもう先程の目の輝きはない。もう海や、椰子の木のことは考えていないのだろう。

 

優との会話の全部を忘れたかのように、彼女は雪の中、歳の近い友達と一緒に、小さな雪だるまを作り出した。小さな丸の塊は、遠目から見てもとても不恰好だ。けれどもかわいい。

 

優は、寂しげに微笑んだ。不思議に苦くて、しかし何だか暖かい気持ちだった。

ふいのことだった。突然、何の前触れもなく。優は、(将来ヒナちゃんと結婚できたら幸せかもしれない。)という考えが頭へ上った。優の人生で、はじめてのことだった。彼は真っ赤になり、慌てて布団を頭から被った。心臓がドキドキしておさまらない。しかし最も大変なのは、なぜかにやけてしまう唇に必死に力を入れて真っ直ぐにしておくことだった。

 

九つも離れた女の子に対して何を考えているんだ、と己を非難する。非難しながらも、優には未来が見えてしまう。可能性、という意味で、二人の結婚は決して非現実的ではない事実。優はその未来を掴み取るための道筋を、必死になって考え始めている自分がいることを、受け入れざるを得ない。初恋の相手は、ヒナであることを。

 

 

 

…そう、優はまだ気づいていなかった。

 

………彼の願いが叶うことは、絶対にありえないということに。

 

 





今回は、ヒナちゃんの昔の話。
PP(プロメテウス・プロジェクト)など、ウルトラマンネクサスを参考にさせて頂きました。優くん登場。けれどもこの物語では扱いがちょっと異なるようで…?
なんせ、“シン”ウルトラマンなので。
ファンの方がいたら御免なさい。先に謝っておきます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。