ひとりちゃん法廷に立つ   作:あるいてごろりと

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綾里千尋は、弁護士だ。
綾里本家に長女として産まれ、10歳年下の真宵の姉である彼女は霊媒師として高い能力を有していた。
しかし、霊媒師への道には進まなかった。
身内に関わる出来事が原因で、彼女はとある弁護士の事務所に入りのちに独立する。
独立した事務所の名前は、『綾里法律事務所』。
成歩堂龍一が新米弁護士として所属した弁護士事務所で、また『成歩堂法律事務所』の前身でもある。
彼女は、長年追ってきた事件の真相に気づき、その犯人にたどり着くも殺されてしまう。
その仇は、のちに成歩堂龍一が法廷でとる。



法廷パート4

 

 

「裁判長、成歩堂弁護士は怪我のために立ちくらみをした様子です。

少しだけ、休憩する時間を頂けないでしょうか?」

 

千尋さんは裁判長に要望する。

 

「分かりました。

休憩を10分だけ挟みましょう。

成歩堂くんは、しっかりと休むように。」

 

「はい・・・。」

 

僕は、力ない声で返答した。

 

 

 

 

9月18日 午後2時46分

地方裁判所 被告人第1控え室

 

 

 

 

「大丈夫かしら?」

 

千尋さんは、僕に心配の声をかけてくれた。

 

「すみません、大分落ち着きました。」

 

目の前にいる千尋さんは、真宵ちゃんの髪や服装だ。

霊媒師である真宵ちゃんは、その身に死者の魂を宿すとその人物の姿となる。

故に、真宵ちゃんが降霊して千尋さんが現れる時には、彼女の姿は見えなくなる。

 

「・・・真宵ちゃんが千尋さんを呼んだのですか?」

 

言葉を口にしたあとに、自分が不満を抱えていることに気づいた。

そんな幼稚なことを考えている場合ではないのに。

千尋さんは両の腕を組んだ姿勢で首を横に振った。

 

「いいえ、私が無理やり真宵の身体に入りました。」

 

「それは、どういう・・・。」

 

千尋さんの僕を見る目には、わずかに憐れみの情が込められていた。

 

「なるほどくん、真宵はね。

狼狽したあなたを見て、ひどく当惑していたわ。

心と精神にとても大きな隙ができていた・・・。

霊媒師としても危険な状態だったわ。

私は、真宵が他にとって代わられないようにするため、強制的に乗り移ったのよ。」

 

勾玉が受理されなかった後の話だとすぐに分かった。

けれども、その時の真宵ちゃんの様子を思い出せなかった。

胸の内で後藤さんや空条さんに謝罪をし、真宵ちゃんにもその思いを抱いていたはずなのに・・・。

隣にいる彼女のことを少しも見ていなかった。

 

普段から一緒に行動し、弁護側に立つ彼女と話し合って何度も勝訴をつかみ取ってきたはずなのにな。

自分が窮地に立った途端、視野がここまで狭くなるなんて・・・。

 

「・・・すみません。

千尋さんからは、真宵ちゃんを任されていたのに。

僕は・・・彼女のことを見ていなかったです。

本当に・・・何と言えばいいのか。」

 

千尋さんは少し困った顔のまま薄く苦笑した。

 

「さっきの言葉は、真宵の様子と私が憑依した経緯を伝えたかったからです。

私に謝ってほしいわけではありません。

突然、あなた達に事務所を任せる形を取った私がどうこう言えることではないですし。

それについては、あとで当人同士で話し合ってください。

 

真宵の様子を伝えたのはね、なるほどくん。

あの子の意志で私を降霊した訳じゃないと理解してほしかったのよ。

 

最近、なるほどくんは私の降霊をさせないよう真宵に伝えているみたいね。

それはどうしてかしら?」

 

急な質問にドキリとする。

恐る恐る千尋さんの表情をうかがう。

・・・彼女は、怒っている様子ではないように見える。

それは、純粋な疑問なのだろう。

僕は襟もとをただす思いで彼女の質問に答えた。

 

「千尋さんには感謝しています。

これまで、何度も僕や真宵ちゃんの危機を救ってくださいました。

先のことだってそうです。

本当に・・・、感謝しています。

 

けれどある日、それが千尋さんにとって大きな負担をかけているんじゃないかと思いました。

あなたはもう安らかに眠っているはずの身です。

千尋さんは、突然僕に独り立ちしなきゃならない立場を強いてしまったことを気にされているようですが、もう十分な助力をしていただいたと思っています。

・・・恥ずかしい話、今回の裁判ではそうは思えなかったでしょうが。

 

それに、あなたの力で成り立つ『成歩堂法律事務所』は必要なのでしょうか?

いつまでも未熟な弁護士は、あなたの力なしではいつか痛い思いをするときも来るかもしれません。

ですが、出来るだけのことは尽くすつもりです。

・・・すみません、これは僕のわがままです。」

 

言っている最中に、僕は自分を笑いたくなる。

今回の裁判はずっと劣勢だ。

その原因は、僕の調査不足にある。

 

もっと、視野を広げて監視カメラを見ていれば共犯者の可能性に気づけたかもしれない。

ゴミ箱でもあさる思いで店内を調べておけば、『ガラスの破片』や『ライブチケット』も見つけられたかもしれない。

矢張にしっかり話を聞いておけば、金庫のことも事前に準備ができたかもしれない。

何が『出来るだけのことは尽くす』だろうか。

自分の不甲斐なさが嫌になる。

その不甲斐ない能力不足の自分が、いつかまた真宵ちゃんを傷つけてしまうことも予想はつく。

しかし、このまま手助けしてもらっている状態で・・・、おんぶにだっこのままでいいのだろうか。

 

千尋さんには、ゆっくり眠っていてほしい。

真宵ちゃんとは、うまくやっていきたい。

望んでもどちらもできない力のない自分が、つくづく嫌になる。

 

「だから、その・・・・・・。」

 

またどうしていいか分からなくなってしまう。

逡巡していると、千尋さんが口を開いた。

 

「なるほどくん。

先ほどの言葉と今の顔を見ればなんとなく予想はつくけども、あなたは一刻も早く自分で何とかできる一人前になりたいのかしら?

思い違いをしないでほしいわ。」

 

千尋さんの目が厳しいものに変わった。

 

「人の力は・・・、とてもちっぽけなものなのよ。

人一人にできることは低い所に限界があります。

人の最大の長所は、『集団の力』です。

弁護士だって、だた1人で仕事をしているわけではありません。

 

誰かを見て、話を聞いて、その力に頼ることでより”真実を追及”することができます。

一人前というのはね、なるほどくん。

何でも1人でできることを指す言葉じゃないと、私は思うのよ。

だって、完璧な人はいないのですからね。

 

その言葉は、自分にできることとできないことを見極めて事にあたり、いざという時に誰かを頼る人脈を作れる人の事じゃないかしら。

実力が足りないと感じていながらも、あなただけで何とかやろうとするならば、いつまでたっても状況は変わらないでしょう。

それどころか下手をすれば、心がやさぐれていずれ周囲の人が離れていくかもしれないわ。

 

失敗をしたっていいんです。

どうやってもどうにもならないことだってあります。

けれど、周りの人に意固地な態度をとるのは止めなさい。

行き過ぎて人を当てにするのも良くないけれども、今のなるほどくんにはそれが全くないように見えるわ。」

 

正直、自分自身の考えを否定されるような胸にかなり応えるきつい言葉だった。

僕はいつの間にか理想の弁護士像を思い描いていたらしい。

それはきっと、無敵のヒーローのようなものだったのだろう。

彼女の言葉は、それが叶わない現実の僕を見るのに十分な効果を発揮した。

 

「厳しい事を言ったけど、なるほどくん。」

 

彼女は僕の手を引き、両手で優しく包み込んだ。

 

「あなたの私を労わる想いは素直に嬉しいわ。

ありがとう。

なるほどくんは、『真宵のことを見ていなかった』と言っていたけども、そうは思えません。

本当にそんな態度を取っていたのなら、今のように真宵はあなたを慕うはずがありませんから。

きっと、痛めた心が見方をゆがめたのでしょう。

 

だからね、なるほどくん。

そういうときには、頼ってください。

聞きたいのだけれど、なるほどくんがいま成し遂げたいことは何かしら?」

 

僕は控え室の隅で椅子に座り、不安げにこちらを見る後藤さんを一瞥する。

 

「彼女の・・・、後藤さんの無罪を立証することです。」

 

千尋さんは、いつの間にか穏やかな表情になっていた。

 

「ええ、その言葉に秘められた想いを確かに感じ取りました。

なるほどくんなら大丈夫です。

 

弁護士がやるべきことはいつだって、

”誰かを守りたい”という想いをもつことなのですから。

 

きっとその気持ちが、より”真実を追及”する力となってくれるでしょう。」

 

 

僕は今まで関わってきた人たちのことを思い出した。

あのお調子者の矢張だって、最初はぎらついていた御剣だってそうだ。

彼らが刑に処されるかもしれないことを知りながら、裁判で手を抜こうなどと思ったことはない。

真実をとにかく求めていた。

真宵ちゃんが誘拐された時もそうだったな。

とにかく必死だった。

御剣やイトノコ刑事が手を貸してくれたから守れた命もある。

そうして、答えは何度も切り開かれてきたんだ。

今回の裁判だって、後藤さんを救いたい。

そのために必要ならば、惜しむことなく協力を頼み込もう。

 

 

千尋さんは、ゆっくりと包んだ手を放す。

僕は一歩下がり、彼女に頭を下げた。

 

「千尋さん、ありがとうございます。

それにすみませんでした。

どうか、力を貸していただけないでしょうか。」

 

「謝る必要はないって言ったのに・・・。」

 

千尋さんは軽くため息をつくが、その表情は柔和なものだった。

 

「よろしい。

可愛い元部下でもある『成歩堂法律事務所』の所長からの頼みですもの。

喜んで誠心誠意、尽くさせていただきます。」

 

彼女は、ニコリと笑った。

 

”所長”か。

千尋さんは僕を一人の弁護士として見てくれている。

それはたぶんまだ一人前ではないかもしれないけれど。

それでも彼女の想いに、

その期待に、応えたい。

 

「それじゃあ、なるほどくんは少し休んでなさい。

私は、彼女と話をしてきます。」

 

「ええ。

・・・どんな話をするんですか?」

 

「女性同士の会話の内容は、むやみに詮索するものではないわ。

なるほどくん。」

 

千尋さんは踵を返し、後藤さんのもとへ向かう。

 

 

「こんにちは、ひとりちゃん。」

 

「え、えっと。

こんにちは。

あの・・・真宵さんなんですか?」

 

後藤ひとりは、綾里千尋の顔や体型を見て不思議に思った。

髪型や恰好は以前のままだが、それ以外は全然違っていたからだ。

 

「いいえ、綾里千尋って言います。

真宵のお姉さんです。」

 

「は、はあ・・・。

わざわざすみません。」

 

「ねぇ、ひとりちゃん。

1つ聞きたいことがあるのだけれども。」

 

「な、なんですか?」

 

「なるほどくんに何か”隠している”ことってあるかしら?」

 

「!!

えっ・・・。」

 

「あなたが事件の日に、何か聞いたり見たものがあるのかと思ったのだけれども。」

 

後藤ひとりはブルブルと震えていた。

明らかな態度である。

綾里千尋は、彼女の両肩に左右の手をそれぞれ置く。

 

「ねぇ、ひとりちゃん。

話したい時で、構わないわ。

ただし、これだけは覚えていてね。

なるほどくんは、ひとりちゃんの話をきっと全て受け止めてくれる。

だから、もし言えることがあったらその時に話して頂戴ね。」

 

綾里千尋は成歩堂の元へと戻ろうとする。

 

「あ、あのっ・・・。」

 

綾里千尋が振り向くと、後藤ひとりは意を決したような表情をしていた。

それを確認した千尋は、成歩堂龍一へ手招きをする。

 

「なるほどくん、いいかしら。」

 

「なんでしょうか、千尋さん。」

 

「彼女から話があるみたいよ。」

 

僕が後藤さんの方を見ると、その視線に気づいた彼女はびくりとして目をそらす。

ピンクのジャージの裾を両手でギュッと掴んでいた。

わなわなと震える口元から言葉が発せられる。

 

「あ、あのっ・・・。

わ、私事件の日見たんです。」

 

「何を見たんだい?」

 

後藤さんがゴクリと生唾を飲む様子が見て取れた。

 

「ス、スタッフルームにある私のバッグに・・・。

た、大量の・・・”お金”が。」

 

「!!

後藤さん!

それはいつ頃の話かな?」

 

「つ、通報されたあとです。

す、すみません。

あれは幻覚かと思っていたので・・・。」

 

「ひとりちゃん、どうして幻覚だと思ったの?

バッグにお金が入っていたのよね。」

 

千尋さんの質問に後藤さんは頷いた。

 

「わ、私・・・。

お金を見たあと、ふらふらとレジに戻ったんです。

きょ、脅迫をされたあとで、もう・・・わけわからなくて。

レ、レジでお客さんの対応したあとに、もう一度バッグを見に行きました。

そしたら・・・、無くなってました。お、お金が。」

 

レジ対応の話は、オインゴが彼女のうろたえる様子を動画撮影していたときものだ。

その動画は、矢張と動画投稿サイトで確認している。

盗まれた金庫の金は後藤さんのバッグに入っていた。

しかし、通報後のレジ対応対応した後にもう一度見るとそのお金は無くなっていた・・・か。

 

「後藤さん、他に気づいたことはなかったかな?」

 

「き、脅迫後ガラスの製品を割ったあとに、何か音を聞いた気がします。」

 

「どんな音だったのかしら?」

 

考えを巡らす後藤さんの返答を穏やかな表情で千尋さんは待つ。

 

「と、扉を閉めるような音が・・・。

『バンッ』だったかと。」

 

「そう・・・。

ありがとう、ひとりちゃん。

頑張ったわね。」

 

「い、いえそんな。

えへへへへへへへへ。」

 

千尋さんから感謝の言葉を聞いて、後藤さんは表情を緩ませた。

褒められた途端、あっという間にお餅みたいな顔に変わったな。

 

「そういえば後藤さん。

通報されたあとに、どうしてスタッフルームに行ったのかな?」

 

「た、たぶんですけどそれはですね~。

ほ、本能的に写真を見て元気をもらおうとしていたからだと思います。」

 

後藤さんは、によによと笑顔のまま答えた。

 

「写真?」

 

「は、はい。

ア、アー写って言うんですけど、

それをバッグの中に常に入れてあるんです。

お、同じのを200枚ぐらい。」

 

「に、にひゃっ・・・!」

 

千尋さんが驚いた声を出す。

僕は言葉すら発することが出来なかった。

何のために同一の写真をそれだけ持っているのだろうか。

どうやって、元気をもらうのだろうか。

これ以上は、裁判には関係なさそうだし、第一怖くて聞けなかった。

とりあえず後藤さんにお礼を言うと、彼女はなおさらによによと笑顔になっていた。

 

 

コンッコンッ

 

 

廊下へと続く控え室の扉がノックされる。

 

「はい。」

 

返事が聞こえたのかガチャリと扉が開く。

そこにはイトノコ刑事が立っていた。

 

「失礼するッス。

もうじき、審理の続きが始まるみたいッスけど、大丈夫ッスか?」

 

心配されっぱなしである。

 

「ありがとうございます。

ご心配をおかけしました。

いつでも大丈夫ですよ。」

 

イトノコ刑事がふんっと鼻を鳴らす。

 

「さっきのあんたは一時、どうなるかとひやひやしたッスよ。

無事ならそれでいいッスけど。

自分は被告人の後をついて、こっち側から入廷するッス。」

 

「それは御剣が何か言ったからですか?

ってか、今あいつはあの証人と一緒なんですか?」

 

「御剣検事は自分に、被告人のそばにいて護衛をするように言われたッス。

そのあと、『目の前の人物を常に見ておくのだ。』とも言われたッス。

証人と御剣検事は、別の控え室で複数名の係官と一緒ッス。

そうそう、あの学生も一緒ッスよ。」

 

警察官に変装して内部に入り込まれたため、一応後藤さんの身の保証を優先したようだ。

それに、空条さんが証人の近くにいるなら大丈夫だろう。

・・・殴り合いとかしていなきゃいいけど。

 

 

 

 

「間もなく始まります。

関係者は入廷してください。」

 

係官の声に僕らは気を引き締めた。

 

 

 

 

9月18日 午後2時56分

地方裁判所 第1法廷

 

 

 

 

カッ!

 

 

 

 

「それでは、審理の続きを再開します。

成歩堂くん、身体の調子はいかがでしょうか?」

 

「心配いりません。

ご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありません。」

 

裁判長は頷いた。

 

「それでは、先ほどの続きですが――ー--」

 

「その前に、裁判長。

少しよろしいかしら。」

 

僕の隣に立つ千尋さんがストップさせた。

 

「ふむ。

少しだけなら構いませんが、あまり時間は取れませんぞ。」

 

「ええ、感謝します。

なるほどくん。

勾玉を貸してもらえないかしら。」

 

千尋さんは僕に手を伸ばす。

僕は彼女の考えが分からなかった。

 

「けど、千尋さん。

勾玉は証拠品として受理してもらうことはできませんよ。」

 

僕の言葉に千尋さんは、微笑んだ。

 

「それは私も見ていましたから、知っています。

今の問題は、ケーブルとスタッフルーム内にない足跡ですね?

そして、それは恐らく彼のスタンドが関係している。」

 

「はい。」

 

「それならば、先にスタンドの正体を明かしましょう。」

 

「・・・え、スタンドをですか?」

 

話が堂々巡りしている気がする。

スタンドの正体を明かすと言ったって、そのアイテムの勾玉は使えない。

つまりは、スタンドの正体は明かせない。

けれど、千尋さんは勾玉を使うらしい。

そして、スタンドの正体を明かすらしい。

けれども、勾玉は受理されないわけで。

・・・なにこれ、これもスタンド能力のせい?

ふと思い出したけど、真宵ちゃんに二度も注意されていながら、スタンドのせいにするの癖になってるな。

 

「大丈夫、私が何とかします。」

 

「・・・分かりました。」

 

僕は勾玉を千尋さんに渡した。

千尋さんは胸元に勾玉を抱えて霊力を込める。

真宵ちゃんの時と同様にして、勾玉は光を帯びていく。

しかし、千尋さんの場合は大きく異なる点が2つあった。

勾玉を帯びる光の色は、真宵ちゃんのときは淡緑色だったが、千尋さんの場合は強い緑色をしている。

そして、その光の大きさが段違いである。

 

「なるほどくん。」

 

千尋さんが霊力を込めながら僕に話しかけた。

 

「はい。」

 

「証言台に立つ彼、プライドが高く見えるのに結構小心者みたいね。」

 

後藤さんは言っていた。

大量の金が後藤さんのバッグの中に、一時入っていたと。

彼女が通報後のレジ対応している最中に、それは無くなっていた。

それに後藤さんが聞いた扉が閉まるような音。

証人はきっと、何かのきっかけで一度逃げだしたのだろう。

 

「僕もそう思います。」

 

お互いにふふっと笑う。

なんだか悪友みたいだ。

 

「そういう相手には、しっかり突き詰めてください。

ハッタリでね。

案外、相手から答えを出してくれるかもしれませんよ。」

 

「分かりました。」

 

千尋さんはわずかに苦悶の表情をしていた。

顔には、少し汗をかいているようだ。

 

「千尋さん・・・。」

 

「これは私の力だけでは足りないです。

真宵の霊力も少し借りますが、私の務めはここまでとなるでしょう。」

 

彼女は僕の考えを見透かしたように答える。

 

「それは・・・。」

 

「少し眠りにつきます。

それは、霊媒してもこの世に来られないような状態です。

なるほどくん、改めて真宵をお願いします。

あなた達なら、きっとひとりちゃんを無罪にすることが出来るはずです。」

 

「・・・・・・。」

 

千尋さんはもう覚悟を決めている。

僕に出来ることはそれを見守ること、そして・・・。

 

「千尋さん。」

 

「はい。」

 

「僕たちは必ずや勝訴を掴んで見せます。

そして、次会う時にはあなたが安心して見ていられるような事務所にしてみせます。

あとは、任せてください。」

 

「ええ、よろしくお願いします。

なるほどくん。」

 

彼女がそういうと、緑色の光がカッと大きくなって法廷所内を包み込んだ。

一瞬、室内は眩い光に照らされたが徐々にそれもおさまっていく。

天上を見上げると、エメラルドの宝石のように輝く緑光の粒子がゆっくりと降り注いでいた。

 

呆けて見ていそうになるが、慌てて千尋さんの方へ顔を向ける。

だが、彼女はすでにそこにはいなかった。

千尋さんがいたそこに立っているのは、真宵ちゃんだった。

真宵ちゃんは、天井から降り注ぐ光の粒子を眺めていた。

 

「・・・真宵ちゃん、君に謝りたいことがあるんだ。」

 

一瞬、躊躇するも声をかける。

だが、真宵ちゃんは天井を見上げたままだ。

そのまま彼女は口を開いた。

 

「最初に会った頃に言ったよね。

おねえちゃんは”えげつない”霊力を持っているって。」

 

彼女はなおも光の粒子を見上げている。

 

「うん、すごかったよ。」

 

「あたし、なるほどくんが早く一人前になりたいって気持ち分かるよ。

それで焦ってしまうことだって・・・。」

 

「うん、ごめん・・・。」

 

「ううん、大丈夫だから。」

 

僕の方を見ていなかったが、彼女は穏やかな声色をしていた。

 

「しかしまぁ。

おねえちゃんが、ここまでできるなんて聞いてなかったなぁ。」

 

真宵ちゃんはため息をつく。

僕はついさっきの千尋さんを思い出していた。

一度は諦めてしまった自分と、諦めなかった千尋さん。

かなわないな。

 

・・・”誰かを守りたい”気持ちを持つこと、か。

彼女は、文字通り”死んでも”その気持ちを無くすことはなかった。

今まで霊媒で僕を助けてくれたのだってそうだ。

それは、彼女じゃなければできないことではないかと考える。

そう思うと僕までため息をついてしまう。

 

 

「あたしにとって、おねえちゃんは霊媒師としてー--」

 

 

「僕にとって、千尋さんは弁護士としてー--」

 

 

 

 

「「まだまだ遠いよ。」」

 

 

 

声が重なり、僕らは目が合う。

何だかおかしくて、お互いに苦笑してしまう。

 

一人前ではない、でも僕らならきっと。

 

 

「成歩堂くん、この光は一体・・・。」

 

裁判長が驚きで目をパチパチさせている。

僕は胸を張って答えることにした。

 

「裁判長、お待たせしました。

ここで1つ証明したい事実があります。」

 

「事実ですか?」

 

「真宵ちゃん、勾玉を借りてもいい?」

 

「うん、どうぞ。」

 

僕は真宵ちゃんに催促して勾玉を受け取る。

 

「ええ。

この勾玉ですが、”隠されたものを暴く”効果があります。」

 

裁判長は、再び訝しげに見てくる。

 

「成歩堂くん、先ほども言いましたが、その石を受理することはできません。

あなたの言うその効果だって、1人だけ見えていたって信用できません。」

 

「勾玉を受理する必要はありませんよ。

それに証明は、皆で見てもらいたいものです。」

 

「それはどういう意味でしょうか?」

 

「ご覧ください!

あれが暴かれた事実です!!」

 

僕は証言台に向かって人差し指を突きつけた。

 

「!!

こ、これは・・・!!

しょ、証人の顔が透けています!!」

 

花京院の顔は透けていた。

その奥には、黒髪のいかつい顔が見えている。

 

「私にも彼の顔が透けて見えているな。」

 

御剣が同調する。

 

「裁判長、証人は見ての通り花京院典明ではありません。

彼を名乗る偽物です!!」

 

 

 

 

カッカッカッ!

 

 

 

 

「これはどういうことでしょうか。

2人も花京院と名乗っておきながら、どちらも偽物だったとは。

証人、答えなさい。

あなたは誰ですか!」

 

裁判長の問いに、少しの間ピクリとも動かずに黙っていた証人だったが、

やがて笑い声をあげ始めた。

 

「・・・くくく。」

 

「しょ、証人。

笑っていないで質問に答えてください。」

 

「何をしたのかよくわからねぇが、透けて見えるだって?

やってくれるじゃねぇか。」

 

証人は、裁判長の言葉には耳をかさない様子だ。

その男の口調は、最初に証言台に立ったときとは全然違っていた。

もう隠すつもりもないのだろう。

 

「やっぱりよぉ、こんな三枚目の顔じゃ俺の整った顔からにじみ出てくるオーラは隠し切れねぇってことだよなぁ。

良く見ておきな。」

 

花京院の顔が液状化し、縦に真っ二つに割れる。

中からは、透けて見えていた男の本当の顔が現れた。

 

「これがおれの本体のハンサム顔だ。

そして、耳クソをストローでスコスコ吸い取ってよおーく聞きな。

この俺の名は『ラバーソール』、スタンドは『イエローテンパランス』だ!

ドゥー ユゥー アンダスタンンンンドゥ!」

 

 









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