ひとりちゃん法廷に立つ   作:あるいてごろりと

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探偵パート3

空条さんは、写真の男を見て花京院と言った。

その男が、今回の事件の根幹に関わる人物である。

 

「空条さん、その・・・花京院という人とはお知り合い何ですか?」

 

空条さんは、指先で帽子のつばをつまみ少し下げた。

目もとの見えない彼が今何を考えているのか、僕には想像がつかなかった。

 

「花京院とは・・・、共に日本を旅立ちエジプトまで行った仲間だ。

俺たちの目的は、とある男を屠ることだった。

目的は辛くも達成できたが、その最中に花京院は・・・死んだ。」

 

彼は変わらず帽子を目深にかぶったままだった。

写真の男がすでに死んでいる?

そうなると、後藤さんを通報したのは彼ではないのか?

 

「あの、ご友人のことは何て言えばいいのか・・・。」

 

「気にするな。それより聞きたいことがあるんだろう?」

 

考えはバレているようだ。

こうなっては、率直に聞くしかないだろう。

 

「エジプトの話はいつ頃なんでしょうか。

それと・・・、花京院という男は本当に亡くなったのでしょうか?

生きているのであれば、それはどうして・・・。」

 

少し動揺して矢継ぎ早に質問してしまった。

ただ、空条さんは1つ1つの質問に答えてくれた。

 

「エジプトで戦いを終えたのが、大体半月前だ。

生死については、何とも言えないな。

さっきも説明したが、スタンドは超常現象を引き起こすものだ。

もしかしたら生き返ったのかもしれないし、死んだまま敵に操られているのかもしれない。

スタンドに頼らずとも、ハメたものを吸血鬼に変える仮面も昔あったとジジイから聞いたことがあるし、何が花京院に起きたのか断言できないな。」

 

後藤さんが通報されたのは当然、花京院が亡くなったもっと後の話だ。

その矛盾点を無理やり解決に導く1つの方法がスタンド・・・か。

それについては、まだまだ知らないことが多い。

ひとまず、他の話を聞いてみようかな。

花京院は、学ラン姿でまだ若い。

であれば、彼と住まいを同じとする両親が何か知っているかもしれない。

 

「彼のご両親は亡くなったことを知っているのでしょうか?」

 

「花京院の死についての報告は、SPW財団が担当したはずだが・・・。」

 

SPW財団。

アメリカに本部を置く、世界でも有数の総合研究機関だ。

活動内容は、世界の国々で医療機関設立のための寄付金を出したり、自然動植物の保護活動もしていると聞いたことがある。

実は、日本の目黒区にもその財団の支部があるそうだ。

 

現在、花京院の行方不明は何を示しているのだろうか?

彼の両親は日本へ帰ってきた彼と無事に対面を果たしたのだろうか?

それとも、両親とは会わずに行方をくらましたのか。

うーん、考えても分からないな。

ふと見ると、空条さんはイトノコ刑事へと顔を向けていた。

 

「おい、そこの刑事。」

 

「なんスか?」

 

「その写真の男は当然、通報後の聞き取り時に『花京院 典明(かきょういん のりあき)』と名乗ったはずだ。

それとあいつの住所は聞いたのか?」

 

イトノコ刑事は、メモ帳を取り出して確認し始めた。

合点がいったように、ふむふむと頷いている。

 

「そうッスね。名前は先ほどアンタが言った『花京院 典明』で間違いないッス。

住所は聞いたんスけど、これがデタラメだったッス。」

 

イトノコ刑事は肩を落とした。

多分、花京院に聞き取り調査をしたのも彼なのだろう。

 

「あいつは家に黙ってエジプトまで旅立ったからな。

干渉してほしくないから、住所はテキトーに伝えたとしてもおかしくはない・・・か。

刑事、あんたにはSPW財団の連絡先を伝えておく。

そこにかけて、花京院の実家の住所を聞けばわかるはずだ。

先に『ジョースター家より依頼』とでも言えば、すぐに取っかかるだろうさ。」

 

空条さんはイトノコ刑事から借りたメモ帳にサラサラと数字を書き込み返した。

 

「ご協力感謝するッス!

それとここまでして頂いてすまないんスけど、アンタの知る『花京院』について詳しく教えてくれないッスか?

できれば、署までご同行願いたいんスけど。」

 

「・・・分かった。」

 

「感謝するッス。」

 

どうやら空条さんはこのまま事情聴取に向かわなければならないらしい。

大変だろうが、次の裁判までに花京院が見つからないと脅迫の件は中止になりかねないかもしれない。

そうなると、後藤さんの死刑は確定してしまうだろう。

どうかうまく事が進んでほしいが・・・。

あと、写真は証拠品として提供してもらうかな。

 

「イトノコ刑事。」

 

「なんスか?」

 

「その写真を頂けないでしょうか?」

 

「いいっスよ。コピーしたものッスから。」

 

「ありがとうございます。」

 

「気にしなくていいッス。

今回の件、御剣検事も思うところがあるのか被告人のために働きかけてるッスから、アンタにも頑張ってほしいッス。それじゃッス。」

 

外に出ると、コンビニの駐車場には一台のパトカーが停まっていた。

すぐに車に乗るのかと思ったが、空条さんはクルリとこちらを振り向き、まっすぐ歩いてくる。

な、なんだろう・・・。

 

「さっきも聞いたが、そのバッジ・・・弁護士なんだよな?」

 

僕の胸元で金色に輝くバッジを見て、空条さんは質問してきた。

 

「ええ。成歩堂法律事務所の弁護士、成歩堂龍一です。」

 

「同じく、成歩堂法律事務所の助手の綾里真宵だよ。」

 

真宵ちゃんもここぞとばかりに名乗り出る。

普段からこのタイミングを狙っていたのかもしれないな。

空条さんは、胸ポケットに手を突っ込み何かを取り出した。

 

「そうか。

役に立つかは分からねえが、これを渡しておくぜ。」

 

「これは・・・?」

 

「トイレで見つけたもんだ。店長には掃除がなってねぇ、とクレームを入れといてくれ。」

 

それは小さなガラスの破片だった。

証拠として成立するかは分からないが、あって間もない僕たちに協力してくれることが嬉しい。

 

「ありがとうございます。

空条さん、後藤さんの無罪判決を必ずや勝ち取ってみせます。」

 

無言でこちらを見てくる空条さん。

こういう雰囲気が、何だか粋でかっこいいな。

 

「後藤ってのは、あんたらとここの店長が話していたアルバイトだよな?」

 

おっと、そもそも後藤さんについてよく知らなかったか。

何だか一緒にいて彼の協力的な姿勢を見ていたからか、そんな気がしなかった。

 

「そうです。まだ、初日しか勤めていない女子高生なのですが、不運なことにやんちゃな輩のおこないに巻き込まれてしまいました。」

 

友人に対しての皮肉に聞こえただろうかとも思ったが、空条さんはふっと笑う。

 

「あんたはそのガキのことを信じているんだな。」

 

「はい、それが弁護士ですから。」

 

そろそろ話も終わりだと感じたときに、空条さんはパトカーの方へ歩き出して行った。

空条 承太郎さん。

僕より一回り年下なのに、まるで戦場を生き抜いたように強い意思を持ち、それに負けないぐらいの器が大きな人だったな。

真宵ちゃんとコンビニ入り口付近まで戻り、モニターの確認をしようか考えていた時だった。

 

「あれ?」

 

コンビニの外壁に気になるところを見つけた。

 

「どうしたの?なるほどくん。」

 

真宵ちゃんが不思議そうな顔で尋ねてくる。

 

「ねぇ、真宵ちゃん。この外壁の汚れ?シミ?かは分からないけど、人の手形に見えない?」

 

真宵ちゃんが僕の指差す方を見る。

高さは身長176cmの僕の頭と同じぐらいに位置している。

その壁にあるシミは・・・、ケーブルが切断されていた監視カメラのほぼ真下だった。

以前は気がつかなかったものだ。

 

「あー!!なるほどくん、これ確かに手形だよ。

左手だ。指先にまん丸と指紋が見えているよ!」

 

指紋!?

見ると、大きな丸いシミの少し上に棒状のシミがあるのだが、その先端部にいくつもの丸い線が入り指紋のように見える。

 

「真宵ちゃん!もしかしたら、これは強力な武器になるかもしれないぞ!」

 

僕の言葉を聞いた真宵ちゃんがぱぁっと笑顔になる。

 

「やったね、なるほどくん!あたし、もうひとりちゃんの喜ぶ顔が目に浮かぶようだよ。」

 

それはさすがに気が早いが、気持ちが浮足立つのは僕も同じだ。

そう思っていると、コンビニの店内から矢張の声が聞こえてきた。

 

「成歩堂―――!!すぐにきてくれ―――!!」

 

スタッフルーム内に駆け付けると、矢張がパソコンを凝視していた。

 

「おい・・・、これ見ろよ・・・。」

 

矢張が指差す先にあるのは、パソコンのモニターに映る流行りの動画投稿サイトだった。

サイト名は確か『オーチューブ』だったか。

 

「ひとりちゃんが映ってるよ!」

 

確かに、後藤さんがレジ対応をしている姿が映し出されている。

映像は、後藤さんに商品を渡す女性の後方からカメラで撮ったものと思われる。

 

後藤さんは震えながら、接客をしていた。

手にはお弁当を持っている。

 

「あっ、いらっしゃいませ・・・。ああああたたたたあたたたああ。」

 

挙動不審な態度を取る後藤さんは、お客を相手にする言葉もままならなかった。

動画の紹介分には、

『この店員まったく目合わなくてワロタwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww』

と書かれてある。

 

・・・後藤さんは、通報後に駆け付けたイトノコ刑事に即逮捕されている。

おそらく、この動画は花京院典明に脅迫されてから、パトカーが来るまでの間に撮られたものだろう。

それを撮影したのは恐らく・・・。

 

「なぁ、成歩堂。後輩ちゃんドジで不器用だけどよ。

こんなことをされていい子じゃないんだよ。

あの子が何でアルバイトを始めたか知ってるか?

仲間と一緒に夢を叶えるためらしいぞ。」

 

矢張が静かに席を立ち、レジに向かう。

 

「矢張、どうしたんだ?」

 

「後輩ちゃんが帰ってくる前に、店を潰すわけにもいかねぇからな。

・・・後輩ちゃんのこと頼んだぞ、成歩堂。」

 

「・・・ああ。」

 

モニターの確認はもはやここまでだろう。

あとは、花京院が見つかるのを待つのみだ。

 

僕は、矢張へ事務所に戻ることを伝えた。

やつは、俺の代わりに本社に連絡を入れてくれないか、と言ってきた。

だれがするかよ・・・。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

9月17日 午後3時30分

留置所 面会室

 

 

 

僕は今、超常現象を目の当たりにしている。

これがスタンド能力なのか。

信じられない光景が目の前に広がっていた。

 

「な・・・、なるほどくん・・・。」

 

真宵ちゃんは泣きそうな顔をしていた。

空条さんにも啖呵を切っていた強気な彼女の面影は、もはや一片もない。

 

「・・・落ち着いて真宵ちゃん。

冷静になるんだ。」

 

僕は自分の行動を振り替える。

 

確か、後藤さんの様子を見に行きつつ、犯行当日の状況を聞き出そうと思い留置所へ向かったのだった。

そう、僕と真宵ちゃんは後藤さんに会いに来たのだった。

しかし、現実はどうだろう。

透明なアクリル板を挟んだ向こう側に座っているのは、ピンクのジャージを着たガイコツだった。

 

「あっ、あの・・・。」

 

ガイコツがしゃべった!

空条さんの読み通り、死人を甦らせるスタンド能力もあったのか。

彼女がガイコツで、花京院が生前の姿のままなのはきっと魂を甦らせることができても、肉体までは能力の影響が及ばないためだろう。

しかし、そうなると後藤さんは花京院さんよりもずっと前に・・・。

いけない、僕と真宵ちゃんだけでは力不足だ。

イトノコ刑事に連絡を取って、空条さんに来てもらおう!

闇に紛れる真の敵を打ち取ってもらおう!

 

「あっ、あの・・・弁護士さん・・・。真宵さん・・・。」

 

アクリル板の通声穴から、透き通るような清い声が聞こえてきた。

どうか、その声を生前の姿で聞きたかった・・・。

 

「安心してほしい、後藤さん!君の仇は必ず取って見せるから!

だから、安らかな成仏ができるように祈っているよ。」

 

「えっ、私の死刑ってもう決まったんですか?そ、そんな・・・。

それに成仏って・・・。わ、私ってもう・・・”そう”なんですか?」

 

可哀想に・・・。留置所にいまだ自分の状況を理解せずに骸が漂っているのだろう。

彼女が面会室にいるのは、恐らく・・・自分を救ってくれるものを待つが故にだろうな。

僕は彼女の気持ちを思うと、目頭が熱くなった。

せめて、生きている間に君の弁護をすることができれば・・・。

 

 

 

 

「あれ、なるほどくん。このガイコツ、生きてるひとりちゃんだよ?」

 

 

 

 

真宵ちゃんがおかしなことを言っている。

気でも触れたのだろうか。

 

「真宵ちゃん・・・。残念だけど、彼女はずっと前に亡くなっているんだよ。

だから、こうしてガイコツの姿で現れたんだよ。」

 

「けど、2日前にあたし達が会ったときには、ガイコツじゃなかったでしょ?」

 

言われてみればそうだ。

真宵ちゃんは続けて言う。

 

「ひとりちゃんとひとりちゃんの守護霊の自称・ロックスターの魂が見えるから間違いなく生きてるよ。」

 

「えっ、でもスタンド能力の可能性が・・・。」

 

「何でもかんでもスタンド能力のせいにしちゃいけないよ。」

 

そりゃそうだが。

何か学級委員長にしかられている気分だ。

 

「けど、間違いなく僕らの普通にはない現象が目の前で起きているんだよ?

後藤さん、今の君の状態分かるかな?」

 

僕は後藤さんに尋ねてみた。

 

「あっ、はい。即身仏になっているんですよね?

たっ、たまにあるんですよ。」

 

たまにあるんだ。

そんな女子高生嫌なんですけど。

 

「み、水を飲めば大丈夫です。」

 

「そこの人ー!水を大量にお願いしまーす!!」

 

僕は取調室の奥に座っている警察官に大声で呼びかけた。

ってか、警察官はあの状態の彼女を連れてきて何とも思わなかったのだろうか。

 

 

 

ゴクゴクゴクゴクゴクッ

 

 

「ぷっ、ぷは。げ・・・、げぼろろろろ。

あ、ありがとうございました。生き返った思いです。」

 

飲んだ水の一割を床に散水している後藤さんは、以前会った時のような若々しい表情となっていた。

人間の体って不思議だな。

 

「元気になって良かったよ、ひとりちゃん。」

 

「早速で悪いけど、後藤さん。アルバイト初日のことについて話を聞きたいんだ。」

 

話を強引に進めるが、もう明日には裁判が始まるのだ。

面会室の使える時間も、思ったよりかなり遅くになってしまったし、優先して聞きたいことを明らかにしておきたい。

 

「は、はい。分かりました。私に言えることであれば・・・、がっ頑張ります。」

 

良かった。以前のように会ってすぐに奇声をあげることもない。

これなら、話をまとめることもできるかもしれない。

 

「君を通報したのは、この男で間違いないかな?」

 

僕は、花京院典明の写真を彼女に見せた。

 

「うっっ、うぐっ!!

そ、そうです。その人が・・・私を通報した人・・・です。」

 

苦しそうな表情を見せる後藤さん。

きっと、その時のことがもはやトラウマのようになっているのだろう。

 

「この男は君を呼び出してコンビニの外に連れていった・・・違うかな?」

 

「ぐ、ぐぅぅぅぅぅ!!そ、その通り・・・です。

わ、私の・・・私たちのバンドを知っている人だったみたいで・・・。

私・・・、うっ・・・嬉しくてその人について外に、行ったんです・・・。

がっ、がふっ!」

 

「ひ、ひとりちゃん!!口から泡吹いてるよ!

なるほどくん、これ以上はやめようよ!?

ひとりちゃんの命が危ないよ!」

 

僕が躊躇していると後藤さんが制止するように手のひらを差し出した。

 

「ひとりちゃん・・・。」

 

「だ、大丈夫・・・です。べ、弁護士さん。

最後の・・・質問をお願いします。」

 

彼女の何としてでも無罪判決を勝ち取りたい強い気持ちが伝わった気がする。

頼むぞ、後藤さん。

あと、次の質問は別に最後じゃないんだけれども。

まだまだ序の口なんだけれども。

 

「君を外に連れ出した口実を・・・いや、君を外に連れ出したその男は何をしたか。

壁によりかかる君の真上か斜め上あたりを手のひらでたたきつけたんだ。

壁ドンをするようにしてね。そうして君に何かを伝えて脅したんだ。

どうだろうか?」

 

見ると、後藤さんはプルプルと震え出した。

何かが噴き出す予兆のような動作が、見る者に不安を与える。

 

 

 

 

「そ、そうですうううううううううう!!

ぴぃああああああああああああああああああ!

ぐふうううっ!!ざくうううっ!!

どむううううううううううっっっ!!」

 

「ひっ、ひとりちゃあああああああん!!」

 

「ごっ、後藤さん!!」

 

後藤さんは、泡を吹き出してパイプ椅子ごと床に倒れてしまった。

脅された当時の状況が、彼女の脳裏に鮮明に蘇ってしまったのだろうか。

すまない、後藤さん。

君が振り絞って出した証言は、無駄にしない。

出来れば、何と言って脅したかを知りたかったけれども。

 

完全に伸びてしまった後藤さん、突然の出来事に慌てふためく警察官、泣き出す真宵ちゃん。

異常事態に踊らされる彼女らを尻目に、僕は状況を整理することに努めていた。

非情のようだが、今以上の悲劇を生み出さないためだ。

 

そうして、明日を迎える。

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