ひとりちゃん法廷に立つ   作:あるいてごろりと

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法廷パート1

9月18日 午前9時50分

地方裁判所 被告人第1控え室

 

 

 

「おはようございます。

イトノコ刑事。」

 

僕は緑のコートを着た大男に挨拶をした。

 

「おはようございます。昨日はお電話ありがとうございました。」

 

真宵ちゃんが後に続く。

 

「ああ、アンタらッスか。おはようッス。

昨夜電話した通り、花京院典明から連絡があったッス。

本人からも証言をする意思があることは確認済みッス。」

 

そう、行方不明となっていた花京院典明から警察署へ連絡があったのだ。

今日彼は、後藤さんの裁判の証言をすることになっている。

 

「彼の両親について、SPW財団からは何かありましたか?」

 

「それが問題らしい問題はなかったッス。

花京院典明は、つい先日両親とも顔を合わせたッス。」

 

彼の両親が会ったとなると、花京院は実在する男ということになる。

空条さんから聞いたエジプトでの死の話は何だったのだろうか。

傍から聞けば、そちらの方が怪しく感じてしまうだろう。

ただ、空条さんの人柄を見ると彼が嘘をついているとも思えない・・・。

 

「なるほど君、大丈夫?」

 

真宵ちゃんが僕の顔をジッと見て尋ねてくる。

 

「ああ、心配ないよ。真宵ちゃん。」

 

「ひとりちゃん、何とか無罪にしてあげたいね。」

 

「そうだね、何としてでもね。」

 

今一度、証拠品の確認をしておこうかな。

 

 

・割れたガラス商品

 土台がついた球体上の割れた商品。球体の中には何かのキャラクターが描かれている。

 

・外壁の手跡

 監視カメラの真下の壁で見つけたシミ。指紋が残っている。

 宝月茜からもらったルミノール試薬で検査済み。

 

・店外の監視カメラ

 ケーブルが切断されていた。切断面は、切ったわけでも引きちぎったようにも見えない。

 もちろん自然に切れたわけでもない。

 映像が映らなくなった時刻は、12時22分00秒。

 

・ガラスの破片

 空条さんがトイレで見つけてくれた。小さな破片。

 

・レジの監視カメラ映像データ

 犯行日はほとんど後藤さんが映っている。

 花京院が後藤さんを連れて姿が見えなくなった時刻は、12時22分10秒。

 

・靴跡

 レジからスタッフルームに入ってすぐ真下の床にあった靴跡。かかとの外側部分だけで靴の特定は難しい。

 

僕が証拠品の確認をしていると、イトノコ刑事が質問してきた。

 

「ところで、被告人は何やってるッスか?」

 

「え?」

 

見ると、後藤さんが部屋の隅で頭を抱えて座り込んでいる。

先の裁判に緊張しているのだろうか。

そう思うと、彼女はゆっくり立ち上がり僕の元にフラフラと歩いてきた。

 

「おっ、おはようございます。べ、弁護士さん。」

 

「おはよう、後藤さん。」

 

思った通り緊張はしているようだが、以前の彼女よりはやや大きい声で景気よく挨拶をしてくれた。

こういった言葉一つで、今日の裁判の意気込みが高くなるのは、まだまだ青い考えだろうか。

 

「ゆ、有罪です!

私を有罪にしてください!!」

 

死刑でもなんでもカッくらって

サッパリ死なせてください!!」

 

景気よく不安になる願望をぶつけてきた。

というか、初めて矢張を弁護したときのあいつの台詞にそっくりだな。

あいつもいきなり「俺を有罪にしてくれぇ!」と親指立てて言ってきて、度肝を抜かされたもんだ。

 

「ご、後藤さん?

昨日はあんなに勇気を振り絞ってたのに一体どうしたの?」

 

そうだ。

彼女は昨日、泡を吹いてまで僕にずっと言えなかった証言を口にしたのだ。

それは生への執着にほかならないはずだ。

 

「あっ、あの時は勢いあまって口にしてしまいましたが・・・、やはりおこがましかったです!

べ、弁護士さん達にこれ以上迷惑をかける前に、どうか私を楽にさせてください!!」

 

「め、迷惑なんてことはないよ。」

 

法律はどうあれ彼女に非はない、と個人的には思っている。

 

「ひとりちゃん!落ち着いて。

前みたいに一曲弾こうよ。

好きなギターを触っていれば、穏やかな気持ちになれるよ!」

 

真宵ちゃんが後藤さんのフォローをしてくれる。

こういった時に、彼女は頼りになるな。

 

「わ、分かりました・・・。

それでは聞いてください。

『夢だけ見ようよ』。」

 

後藤さんがどこから取り出したのか、ギターを弾き出した。

ゆったりとした曲調は、癒しを感じさせる。

脳からα波が出て、眠気を誘ってくる。

 

「なるほど君、あたしちょっと横になるね。う~ん・・・。」

 

真宵ちゃんが横になり出した。

僕も一休みしよう。

被告人控え室の床では、これから法廷に向かうはずの2人の寝姿があった。

 

「アンタら!!

 

そんなこと!!

 

している場合じゃ!!

 

ないッスよ!!」

 

 

 

イトノコ刑事の注意が部屋に響き渡った。

 

 

 

 

9月18日 午前10時

地方裁判所 第1法廷

 

 

 

 

「これより、後藤ひとりの法廷を開廷します。」

 

裁判長が裁判の開始を宣言した。

 

「検察側、準備完了しております。」

 

御剣が淡々と言う。

 

「弁護側、準備完了しております。」

 

僕の言葉を聞くと、裁判長は御剣を見た。

 

「御剣検事、前回のような調査不足はないですね?」

 

御剣は、執事の挨拶でもするように右手を胸の前で水平に左側へ切り、一礼をした。

 

「前回の件は改めて申し訳ない。

今回は、過不足なく調査をしている。

同じようなミスはないと誓おう。」

 

裁判長はゆっくりと頷く。

 

「では、御剣検事。

・・・冒頭弁論を。」

 

「前回の法廷の内容で不明としているのは、

被告人とお客が店外で何をしていたかだ。

本日は、被告人の犯行を見たお客からそのときの証言を聞いていただく。」

 

「いいでしょう。

・・・さっそく呼んでもらいましょう。」

 

「では、花京院 典明(かきょういん のりあき)氏を入廷させていただこう!」

 

証言台には、写真で見た通りの男が立った。

赤茶色の頭髪に、やや緑がかった学ラン姿だ。

キリリとした表情からは、証言台に立つことへの緊張を感じさせなかった。

 

「証人の名前と職業をうかがいたい。」

 

御剣が花京院に問う。

 

「ぼくの名前は、花京院 典明だ。

見ての通り、高校に通う学生だ。」

 

花京院は、堂々とした態度で答える。

 

「被告人の後藤ひとりをご存知か?」

 

「もちろん、彼女はぼくから見てもインパクトある女性だったからね。」

 

「彼女がコンビニのレジにいるときに、証人は彼女に声をかけて店外へと2人で行った。

違いないか?」

 

「違いないよ。あの日のことはよく覚えている。」

 

花京院が御剣の質問に答えると、裁判長が代わって話を進行する。

 

「では、花京院さん。

・・・『証言』をしていただきましょう。」

 

 

 

 

証言開始

~店外に呼び出したこと~

 

 

 

 

「ぼくはコンビニに入店した数分後に、店の入り口から2mぐらい離れたところにある店外の監視カメラをチラリと見たんだ。」

「たまたま見つけたんだけど、監視カメラ本体につながるケーブルが切れていた。」

「店内を回ったあとに、一応と思ってレジにいた店員に声をかけて案内したんだよ。」

「彼女、新人だったのかな?切れたケーブルを見ると震えだしちゃったんだ。」

「きっと、どう対応していいのか分からなかったんだろうね。」

 

 

 

御剣検事が資料を取り出して読み上げる。

 

「監視カメラの映像が消えたのが、12時22分00秒。

証人の入店時間は、12時18分20秒である。

よって、時間による矛盾はないと言えるだろう。」

 

「ふむぅ・・・。

花京院さんは好青年のようですね。

なかなかそういった気づかいは聞けるものではありません。」

 

花京院の証言を聞き終えた裁判長は、彼に感心した様子だ。

 

「いえ、大したことではありません。

困ったことがあれば助けるのは当然のことです。

僕も物心つかない頃から、誰かの恩を与えてもらっているはずですから。」

 

「いやはや、大したものです。」

 

裁判長の彼に対しての心証が良すぎるのは、あまりいい状況ではないな。

 

「あたしもこの前、横断歩道を渡るときにおじいさんの荷物を持ったよ!」

 

真宵ちゃんがドヤ顔で僕に話してくる。

対抗する所じゃないから。

 

「ほっほっほっ。

綾里真宵さんも大したものですな。」

 

朗らかに語る裁判長の顔は、もはや孫を見るそれである。

しかし、その顔も一時でキリッと変わった。

 

「さて、弁護人。

被告人・後藤ひとりが無罪となるためには、『脅迫』されていたことを立証しなければいけません。

今の彼の証言が本当なのならば、被告人の有罪は決定となります。

では、弁護人。

・・・『尋問』を。」

 

神妙な面持ちで裁判長が語りかける。

 

「はい。」

 

失敗は許されないと言っていいだろう。

 

 

 

 

尋問開始

~店外で目撃したこと~

 

 

 

「花京院さん、カメラのケーブルが断線されたのを発見したのはどこでですか?」

 

「あれは・・・、おにぎりの陳列棚あたりだったかな?」

 

 

 

バンッ!!

 

 

 

僕は机を叩く。

 

「おにぎりの陳列棚・・・ですか?」

 

花京院は、僕を不思議そうな顔で見ていた。

 

「・・・ああ、そうだよ。それがどうかしたのかい?」

 

「おかしいんですよ。

ケーブルが断線された店外の監視カメラは、入り口の2m横にある天井の角っこに設置されていました。

コンビニの入り口からまっすぐ奥に進んだところにある、おにぎりの陳列棚からは絶対に見えない位置です!!」

 

「な、なにぃ!!」

 

驚いた花京院の前髪がクルリと回る。

 

「ど、どういうことですかな、証人!

あなたはおにぎりの陳列棚から断線を目撃したのではないのですか!?」

 

裁判長の言葉に花京院は頭を抱えている。

 

「うぐぐ、そ・・・、そうだ!断線はもっと手前の位置から見た気がするな。

いや、記憶違いだったようだ。」

 

「証人、証言はその言葉一つで判決が下るといってもいいものです。

もっと当時の状況を思い出してから、発言してください。」

 

「ああ、肝に銘じるよ。」

 

注意を受けた花京院は、ややしょんぼりしているように見えた。

 

「やったね、なるほどくん!

すました顔にジャブを決めたよ!」

 

真宵ちゃんが嬉しそうに僕に語る。

 

「出来れば、このままストレートでK.O.したいけどね。」

 

「それでは、成歩堂くん。

尋問を続けてください。」

 

僕はすぐさま質問をした。

 

「花京院さん、入店後に監視カメラを見たそうですが何故でしょうか?」

 

僕の言葉を聞いた後に花京院はふっと笑う。

ちょっと腹立つな。

 

「何故って、監視カメラが目についたからだよ。

それ以上説明は必要かな?」

 

警戒心を持たれているな。

それに何もない所ならともかく、監視カメラが何となく目につくのはまぁ・・・、分かるといえば分かる。

 

「・・・いえ。

切れたケーブルはどのような状態でしたか?」

 

「真ん中あたりで切れていたからね。両端が下に垂れ下がっていたよ。そんなに長くはないけどね。」

 

これは、僕が現場で見たとおりだ。

 

「何故すぐ被告人にケーブルが切れていたことを伝えなかったんでしょうか?」

 

彼は一度店内を見て回り、トイレに行った後に後藤さんに声をかけている。

 

花京院は、いつの間にか用意していた茶瓶のフタを、『カチャッ』と音を立ててずらす。

すると、突然姿を現したチャイナドレス姿の女性がその茶瓶にお茶を注ぐ。

花京院が、証言台を人差し指で『トントン』と二回叩くと、その女性はすぐに消え去った。

 

「な、なんだ今のは!?」

 

御剣が驚いた様子を見せる。

花京院は、茶瓶の中身をコップに移し、一杯あおると満足そうな表情をした。

 

「フフ、茶瓶のフタをずらすのは、香港でのお茶のおかわりが欲しいという合図だよ。

人差し指でテーブルをトントンとたたくのは、ありがとうのサインさ。」

 

証言中にお茶を飲みだした上に、ウンチク語り出した。

ここは香港じゃないし、そもそもあの女性はなんだ?

あれがスタンドなのか?御剣にも見えていたみたいだが。

 

「ねぇねぇ、前にも言ったけど何でもかんでもスタンドのせいにするのは良くないよ?」

 

僕の考えを察したのか、呆れたようなジト目の真宵ちゃんから注意が入る。

だって、超常現象を目の当たりにしたのだからスタンドで片付けたくなるのも仕方ないだろう。

 

「っていうか、さっきの高速移動した女性は、人なんだ?」

 

「そうだよ?」

 

そうなんだ。法廷にそんな無断で入っていいのか?

しかしなんというか・・・、花京院の態度は緊張していないというより、僕らをなめているのだろうか?

 

「しょ、証人。弁護人の質問に答えるように。」

 

裁判長が当たり前の注意をする。

 

「フフ、すまないね。喉が渇いていたもんで。

えっと、監視カメラのケーブルが断線していたのをすぐに店員に伝えなかった理由だね?

それは、僕の義務じゃないからだよ。単純な話だろう?

弁護士さんは、道路に落ちている紙くずを必ず拾うのかな?

その時の気分によるというのが本音だと思うんだけども・・・。

いや、大概の人はボランティアという形でも作らない限り、拾わないだろうね。

実際、僕が伝える前に店員さんにケーブルのことを話した人はいないんだろう?

見て見ぬふりをする人が多い中、ぼくは個人でありながら最後には店員さんに伝えたわけだから、マシな方だと自負しているよ。」

 

「そうですね。常に100%の成果を出せる人はいないと言っていいでしょう。

ゴミ拾いだって、毎回その都度じゃなくてももちろんいいんです。

よってあなたの行動は、良いおこないと言えますね。」

 

微笑む裁判長の花京院に対しての好感が、また少し上がったように思える。

 

「花京院さん、ケーブルの様子を知った後藤さんはどのような状態だったか、具体的に教えてください。」

 

「具体的もなにも言った通りだよ。

彼女は、ケーブルが切れたことを知ったら震え出したんだ。

それでぼくは念の為に『大丈夫かい?』と声をかけたら、ちゃんと返事をしてくれたよ。」

 

裁判長は頷いた。

 

「被告人の精神状態は、緊張はすれども正常の範囲内だったと言えるということですね。」

 

ゆさぶっても後藤さんの立場は少しも変わらないな・・・。

 

「ねえねえ、なるほどくん。」

 

「なんだい、真宵ちゃん?」

 

「あの人がひとりちゃんに話した内容は、監視カメラのことだけなのかな?」

 

「・・・いや、確か・・・。」

 

真宵ちゃんが聞いてきたことで、1つ思い出した。

昨日の後藤さんは、『花京院が自分たちのバンドのことを知っていて嬉しかった』、と言っていたな。

 

「花京院さん、被告人に監視カメラ以外のことで何か話をしませんでしたか?」

 

「・・・ああ、したよ。店外で彼女から『ライブのチケット』をもらったんだよ。

ぼくは、彼女の”ファン”だからね。」

 

「!!

なぜ、そのことを証言に加えなかったのですか?」

 

「関係ない話かと思ったからさ。

それにあのチケットは、いつの間にか落として無くしてしまったからね。

無い物を言ってもしょうがないだろう?」

 

それはそうかもしれないが・・・。

 

 

 

 

「待った!!」

 

 

 

声を出したのは、御剣だった。

 

「なんですかな?御剣検事。」

 

「裁判長。ここに1つの受理してほしい証拠品がある。

昨日、私がコンビニのスタッフルーム内にあるゴミ箱で見つけたものだ。」

 

御剣が裁判長に1つの紙を渡す。

あいつも昨日、現場に行ったのか。

しかし、ゴミ箱まで探していたのか。

チケットにはまるで気がつかなかったな。

 

「これは・・・くしゃくしゃですが、『STARRY』と書かれていますね。」

 

「それは、被告人が活動拠点とするライブハウスの店名だ。

その紙は、入店してライブを見るための引換券になる。

そして、その紙には”被告人”と”証人”の『指紋』がついていた。

ご丁寧に、靴跡までつけてね。」

 

「なっ・・・。」

 

花京院がわずかにうろたえる。

 

 

 

バンッ!!

 

 

 

今度は御剣が机を叩いた。

 

「証人に問いたい!

恐らく店外で彼女からチケットをもらったのだろうが、そのチケットはくしゃくしゃにされてゴミ箱に捨てられていた!

被告人の”ファン”を語るのならば、なぜそんな真似ができたのか。

このチケットが、被告人を脅迫した証拠ではないのか!!!」

 

「ぐおうっ!!」

 

花京院の前髪が二回転した。

僕もたたみかけよう!

 

「コンビニ店外の監視カメラの真下に位置する壁には、手のひらと思われる跡が見つかりました!

そこには、指紋が残されています!!

あなたは、脅迫の際に自身の手のひらを壁に叩きつけて、後藤さんを脅したのではないですか?」

 

「な、なんだとお!」

 

花京院は、最初の紳士然とした態度が砕けてきている。

明らかに動揺しているな。

 

「チケットの靴跡とその指紋が証人のものと一致するか、鑑識に確認を頼みたい!」

 

御剣検事が声を大きくして言った。

 

「く、くそうっ!!」

 

花京院が悔しそうな表情を見せながら、証言台に拳を叩く。

 

「こ、これはどういうことでしょうか?

手のひらの跡とまるめ込まれたチケット・・・。

鑑識からの結果が届くまで一時休憩と致しましょうか・・・。」

 

 

 

「待った!!」

 

 

 

「成歩堂くん。どうしたのですか?」

 

「鑑識の結果を待つ間に、片づけておきたいことがあります。」

 

「そ、それはなんでしょうか?」

 

裁判長がおずおずと尋ねてくる。

 

「何なの?なるほどくん!」

 

真宵ちゃんも聞いてくる。

 

「何なのだ!?成歩堂!!」

 

御剣が答えをせかしてくる。

なんか事が大きくなっているけど、そんなインパクトある内容ではない。

 

バンッ!!

 

一応、机を両手で叩く。

 

「後藤さんは、ガラス製の商品を落とし証人の気持ちを傷つけたために、『お客様に不快感を与えたで賞』に該当するものとして通報されました。

ですが、それすらも彼の計画に過ぎなかったのです。」

 

僕は資料の紙を取り出す。

 

「トイレ付近を映す監視カメラの映像をご覧ください。」

 

大きなスクリーンに監視カメラの映像が映し出される。

 

「証人は入店後に店内を一回りしたのちに、トイレへと向かいました。」

 

「ふむ、確かにそのようですが何か問題がありますか?」

 

裁判長が疑問を口にする。

 

「トイレに入る前の証人の手元をご覧ください。

何か握られているのが分かりますよね?」

 

「確か・・・、ガラス製品を持ってたよね?」

 

真宵ちゃんは先日のコンビニで、確認済みである。

 

「そう。彼は店内を回った際に、棚からガラス製の商品を手にとっていました。これは、他の監視カメラで確認出来ます。」

 

「成歩堂・・・。

言いたいことは分かる。

証人はトイレ内で商品を砕き、被告人を脅迫したのちにそれを渡した。

動揺している被告人はそれに気づくことなく精算したのだろう。

さらに、証人にとってはありがたいことに、途中で手元を滑らせて落下させてしまった。

さもその時に商品が砕けてしまったと、いちゃもんをつける環境が整ってしまったのだ。

・・・しかし、成歩堂。

それを証明するには、監視カメラの映像では判断ができない。

トイレには監視カメラがついていないのだからな。」

 

御剣が両腕を組み、左の二の腕に右手の指先をトントンと叩きながら言った。

 

「そ、そうだ!!

ぼくは商品をトイレに持って行ったのは、うっかりしていただけだ!

何もしちゃいない!」

 

花京院が慌てた様子で、御剣の意見に乗っかってくる。

もう少しだ。

 

「いえ、彼はトイレで間違いなく商品が簡単に割れるようにヒビを入れています。

恐らく、砕く前に何かテープでも巻いて一撃で粉々にならないように調整したのでしょう。

証人は被告人にいちゃもんをつけれるのであれば、別に商品を砕く必要はなかった。

ヒビ1つでも十分だったと思います。

それと、御剣・・・。

見落としがあったのは何も被告人だけではないぞ?」

 

「それはどういう意味だ?」

 

御剣が聞き返す。

 

「裁判長、この証拠品をご覧ください。

コンビニのトイレで見つかったものです。」

 

「なんかばっちいですね。

これは・・・、ガラスの破片でしょうか?

これがトイレで・・・ああっ!!」

 

裁判長が気づいたようだ。

 

「そうです。これはガラス製の商品の一部です。

割れた証拠品を組み立てると、足りないパーツが出てくるはずです。

それが、この『ガラスの破片』です。

裁判長、彼はガラスが割れたことで気持ちが傷つけられることはありません!

なぜなら・・・」

 

僕は証人に向けて人差し指を突きつける。

 

 

 

 

「彼自身が商品に傷をつけていたからです!!!」

 

 

 

 

「花京インゴオオオオオオオオオッ!!??」

 

 

 

花京院がよく分からない声をあげる。

 

ってかあれ?

花京院の顔がみるみるうちに変化していくぞ。

何だか細長い顔立ちになっているし、赤茶色の髪はパーマのかかった真っ黒なものになっている。

もしかして、こいつは・・・花京院じゃないのか!?

証言台に立つ男の雰囲気は、最初の紳士然としていた彼のものではなくなっていた。

 

「ちぃっ・・・。

やっぱり弟の”予言”がないと、うまくいかねぇな!

日本は安心して暮らせると聞いていたのによ、話が違うじゃねぇか!!」

 

「あ、あなたは一体誰ですか!?」

 

裁判長がたまげた表情で問い正す。

 

「ふん!・・・おれの名はオインゴ。

『スタンド使い』でカードは創造の神『クヌム神』だぜ!」

 

「すた・・・んど?くぬ・・・?」

 

裁判長がこんがらがっているような顔になっている。

僕も正直驚いている。ここにいる皆がそうだろう。

『クヌム神』については分からないが、とうとう『スタンド使い』が出てきたか。

ここは説明しておこう。

 

「裁判長!『スタンド使い』というのはですね――――――」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「・・・ふむ。そんな超能力が現実にあるとは、信じがたいですが。

実際に目の当たりにしてしまったのですからそれを否定することも難しいです。」

 

裁判長は、意味深にうんうんと頷いている。

僕だけでなく、御剣や真宵ちゃんからも説明があったために信じざるを得ない様子だ。

御剣はどうやら、空条さんの取り調べをおこなったイトノコ刑事から聞いたらしかった。

 

「証人、2つ聞きたいことがある。」

 

御剣がオインゴを見据えて言葉をかける。

 

「なんだぜ?」

 

割と余裕な態度を取るオインゴ。

 

「1つ、脅迫の罪を認めるのか?」

 

「ああ、バレちまったもんはしょうがねぇからなぁ。

素直に認めるよ。」

 

「2つ、なぜ今回の事を起こした?」

 

オインゴはくっくっくっと笑みをこぼした。

 

「いやな?

俺はエジプトから日本へ来てすぐに楽な暮らしをしようと思ったのよ。

調べたら動画を投稿して、その視聴者数と広告収入なんかで金を稼ぐ方法を知ったんだ。

これはいいや、と思って趣味のギター動画を日々投稿していたんだがよ・・・。

これが全然伸びなくてまいっちまった。

・・・『ギターヒーロー』ってアカウント名のやつがいてよ。

最初は選曲や撮影方法の参考にしていたんだが、俺よりよっぽど注目をあびて稼いでいるそいつのことが憎たらしくなってきちまった。

俺の曲だってこいつ以上の出来が良いものばかりなのにな。

ある日、息抜きにライブハウスに寄ってみたのよ。

名前は『STARRY』だったな。

そこで俺は見つけたんだ、・・・やつをよ。

そう、『ギターヒーロー』だ。

あのギターの弾き方、ピンクのジャージ、使っているギターもそのまんまだったからすぐにピンときたぜぇ。

俺はこの巡り合わせに感謝したよ。

これでやつを蹴落とせば、そいつの動画投稿は止まって俺が他の奴らの注目を集めることができる。

嫌がらせもできて一石二鳥だな。

その日から、俺は計画を少しずつ立てていったわけよ。

ガラス製の商品を割った時のやつの顔はよ、そりゃあ笑えたぜぇ?」

 

オインゴは再びくっくっくっと笑い出した。

 

 

 

そのすぐあとに、御剣から検査の結果が告げられた。

僕が提出した証拠品の外壁についた手跡についていた指紋は、オインゴのものと一致した。

ただし、御剣が持ち出したくしゃくしゃのチケットについていた靴跡は彼のものではなかった。

それを聞いたオインゴがまた笑い出し、僕は少し苛立ちを覚えた。

 

 

 

一時ざわついていた法廷内がやがて落ち着きを取り戻したように静まり返る。

どうにも釈然としない。

オインゴの余裕ある態度がその気持ちの原因だろう。

人を蹴落とそうとし、これから罰を受けるにしては些か不釣り合いな態度に見えるからだ。

オインゴのその態度は、後藤さんに対してやりきったという満足感から出るものなのか分からない。

分からないゆえに、どうにもスッキリとしない。

しかし・・・。

後藤さんはこれで無罪判決を得ることができる。

これでいい、これでいいんだ。

自分に言い聞かせて納得させることしかできない。

それが残念で仕方ない。

 

御剣は両腕を組んで、何やら考えている。

 

「なるほどくん、あたし・・・何だか悔しいよ。」

 

真宵ちゃんが僕に気持ちを吐露した。

後藤さんに対しての思いやりが彼女の怒りに火をつけたのだろう。

後藤さんにトラウマ級のダメージを与えたであろう当の本人の態度はアレだしな。

大いに分かりうる感情だ。

しかし、その火は燃えあがることなく、くすぶらせることしかできない。

 

「僕もだよ、真宵ちゃん。

けれども、そこから先は弁護士の仕事じゃない。

・・・残念だけど。」

 

「なるほどくん・・・。」

 

やがて、裁判長が口を開こうとした。

 

 

 

 

「待った!!」

 

 

 

 

法廷内に男の声が響き渡った。

 

「な、なんですかな?御剣検事。」

 

「裁判長、監視カメラの映像データを確認したい。」

 

「し、しかしこれ以上の審議の必要性はないように思えますが・・・。」

 

「それはそこが終着点だと思うからだ。

成歩堂!」

 

御剣が僕の方を向いた。

 

「まだ答えにはたどり着いていないかもしれんぞ?」

 

 

 

――――――――――――――――

 

御剣は法廷内に設置されたスクリーンにレーザーポインターを当てる。

 

「2つの監視カメラの時間を見てもらいたい。

一つ目は、店外の監視カメラ映像がケーブルの断線により映らなくなった時間だ。」

 

「ふむ、12時22分00秒とありますな。」

 

裁判長が答える。

 

「もう一つはレジの監視カメラだ。

店外の監視カメラのケーブルが断線した12時22分00秒に何が映っている?」

 

僕はスクリーンを見て驚いた。

 

「ひ、被告人とオインゴが映っている!!??」

 

 

この凡ミスは、僕が後藤さんとオインゴの接触だけに焦点をあてたためだろうか。

しかし、それが意味するものとは一体・・・?

 

 

御剣がニヤリとする。

 

「そうだ、断線のあった時刻にオインゴはレジ付近にいた。

ここから、被告人に声をかけて店外へと行ったのだが、時間を操作しない限り彼に断線は不可能だ。

監視カメラのケーブルは、断面を見る限り自然に切れたものではない。

誰かが断線したのは間違いないことだ。

しかし、それはオインゴではない。

つまりは―――――」

 

 

 

 

「この事件、共犯者がいると見られる!!」

 

 

 

 

「ば、馬鹿なああああああああ!?」

 

 

 

 

オインゴは今日一番の声をあげた。

 

 

 

 

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