ひとりちゃん法廷に立つ   作:あるいてごろりと

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法廷パート2

 

9月18日 午前12時10分

地方裁判所 第1法廷

 

 

 

「では、審理を再開しましょう。」

 

「………………。」

 

御剣怜侍が押し黙ってしまっている。

腕を組んで目をつむり、法廷所の天井に顔を向ける様は、まるで天上の神にでも祈りをささげているようにも見える。

 

「御剣検事、どうしましたか?」

 

裁判長も不思議に思い尋ねる。

御剣怜侍はワンテンポ遅れて返答をした。

 

「・・・む。

いや・・・、問題ない。」

 

「何やらご気分でも優れないように見えますが・・・。」

 

裁判長は心配のようで、なおも御剣怜侍に尋ねていた。

 

「大丈夫だ。・・・審理を進めてほしい。」

 

「ふむ、そうですか・・・。

分かりました。

それでは御剣検事、証人喚問をお願いします。」

 

「後藤ひとりの犯行日に、彼女とオインゴ氏を目撃したとして名乗り出た者がいる。

証人として、花京院 典明を入廷させていただこう。」

 

証言台には花京院典明が立つ。

髪の色、服装、そして顔つきまでもが”同じ”である。

たった一つの違いは、彼が派手に黄色いスニーカーを履いていることだけだった。

 

「・・・証人。

名前と学年を。」

 

御剣怜侍の呼びかけに、花京院は淡々と答える。

 

「花京院典明。

高校二年生。」

 

裁判長は目をぱちくりさせている。

 

「なんというか、その・・・。

何かの手違いではないですよね?」

 

誰もが思うような疑問を持ちかけてきた。

 

「・・・裁判長。

あなたがそう思うのも無理はない。

これからの証言は、事件当日の後藤ひとり達についてだが、

そのことについても含めて発言していただく。」

 

「ふむ・・・。分かりました。

では、証人。

証言を。」

 

「・・・・・・はい。」

 

花京院はじっと、こちらを見つめていた。

 

 

 

 

証言開始

~事件当日の後藤ひとりと2人の花京院について~

 

 

 

 

「僕は日中、北沢区エリアのコンビニに車で行きました。」

「そこで驚いた光景を見たんです。」

「なんと僕と同じ姿をした男が入り口の外にいたんです。」

「世の中には、同じような人が3人いるとは聞きますが、本当に出会うとは思いませんでしたよ。」

「彼はピンクの頭髪の店員さんと監視カメラの真下で会話をしていました。」

「気になって車の窓を開けました。自分と全く一緒の姿の人と会ったんですから、そうしたのも分かりますよね?」

「2人はとても親しげでしたよ。彼女は嬉しそうに何か一枚の細長い紙を渡していましたね。」

「あれは何かのチケットだったのかな?お互いにその紙の両端を掴んだときの彼は非常に興奮しているように見えました。」

「彼はチケットを一度手放します。後藤さんがチケットを持っているような状態ですね。」

「そのまま彼は女性の店員を挟んで、店の壁に左の手のひらを叩きつけました。いわゆる壁ドンというやつでしょうか。」

「かすかに聞こえたのは愛の告白でした。青春って素晴らしいですね。」

「後藤さんの手からは、驚きで握りしめた紙がポロリと落ちていくのが見えましたよ。」

「そのあと、彼女は恥ずかしかったのか急いで店内へと走っていってしまいました。彼には残念ですがその場で了承を得られなかったようだ。」

 

 

 

 

「………………。」

 

誰が、というより法廷内の空気そのものが沈黙していた。

 

 

「こ、告白ですとっ!?」

 

裁判長の驚きの声を皮切りにして、傍聴席からはざわざわと声がし始める。

外野の話の内容に耳を傾けてみると、告白のことでもちきりだ。

花京院が2人いることについては、何故か話題にもあがらない。

 

「しかし、証人。

その内容ですと・・・その・・・。」

 

裁判長は次の言葉を出すか躊躇しているようだ。

それを見た花京院は、にやりとやや口角を上げて笑う。

その笑みの対象は・・・ぼくだった。

 

なるほど、そういうわけか。

 

 

 

バンッ

 

 

 

ぼくは、机を両手で叩いた。

 

「裁判長!ハッキリ言ってください!!」

 

「し・・・、しかし。

成歩堂くんにとって決して良い内容ではありませんが・・・。」

 

「構いません!ぼくは真実をただ認めるのみです!」

 

裁判長はゆっくりと頷いた。

 

「・・・分かりました。

証人、今の証言は間違いないでしょうか?」

 

「ええ。間違いはありません。」

 

花京院は、頷いた。

 

「証人の発言は、先程の審理の内容を覆すものとなります。

それはすなわち、先の証人が被告人を”脅迫”したとされる証拠・・・。

『丸め込まれた指紋付きのライブチケット』と『壁の指紋付きのシミ』、これらは全く別の意味で生まれた物となってしまいます。

それが意味することは分かりますかな?御剣検事。」

 

御剣怜侍は、ようやく目を開いた。

 

「・・・被告人に対するオインゴの好意により証拠が生まれたのであれば、後藤ひとりは脅迫の恐怖によって精神に異常をきたし犯行をおこなったわけではないということになる。

彼女はただ、告白された動揺により犯行をおこなった・・・。

それが意味するのは、彼女の無罪判決は遠のいてしまい、ほとんど振り出しに戻ったということだ。」

 

「そ、そんな!?

動揺でもダメなんですか?」

 

綾里真宵が御剣怜侍に問う。

その言葉を聞いたやつは、痛みをこらえるような表情を見せる。

 

「真宵くん・・・。

『お客様に不快感を与えたで賞』から逃れる方法が、元々か恐怖による精神に異常をきたした者が犯行をおこなった場合のみだ。

告白の動揺などは・・・該当しない。」

 

「そ、そんな・・・。」

 

綾里真宵がつい先程、ぼくに見せた強気な表情はどこへやら。

今にも泣きだしそうな顔になっていた。

 

裁判長は目を閉じて思案していた。

彼の口が開く。

 

「うーむ。

複雑な問題ですね。

しかし、先程御剣検事の問いにオインゴさんは罪を認めていました。

当人が認めた以上、彼の罪には変わりないようにも思えます。」

 

 

 

「異議あり!」

 

 

 

 

ぼくは声を大きくして言った。

一度は言ってみたかったものだ。

裁判長だけにとどまらず、隣の綾里真宵と御剣怜侍も驚いた表情をしている。

 

「成歩堂くん。どうしましたか?」

 

「オインゴ氏は確かに先の審理で罪を認めていました。

しかしそれは我々が捉える罪とは別の”法に触れないもの”ではないでしょうか?」

 

「裁判長!その話はもう済んだものだ!

これ以上審議する必要はない!!」

 

御剣怜侍が割って入ろうとするが、裁判長は首を振る。

 

「御剣検事の意見を却下します。

成歩堂くん、お聞かせください。」

 

「彼は被告人に対して告白したことを迷惑行為と捉えてしまったのです。

それが、過剰に膨らみ”脅迫”と思い込むほどまでに・・・。」

 

「なるほど、繊細な気持ちがそうさせたのですね。

実にうぶな話ですな。

しかし、そのあとの動機となる彼の言葉は、実際脅迫に結びついておかしくないものでしたが。」

 

「彼は被告人の投稿動画を撮影の参考にしていました。

初めから、嫉妬心はなかったはずです。

最初にあったのは、その演奏技術に対する”憧れ”でしょう。

彼は証言する優先順位を間違ってしまいました。

日にちが経ち、そこから湧いて出たわずかな嫉妬心を我々に吐露してしまったのです。

あの開き直った態度が逆にヤケを起こしたものだと、今になってですがぼくには容易に想像できますよ。

 

それに被告人の犯行当日に、彼女を憎からず思ったのは、やはり彼が繊細だったからです。

 

『いきなり告白したのは確かに迷惑行為をしたかもしれない、けれど逃げるのはあんまりじゃないか!!』

 

その思いが、レジで犯行をおかした彼女を通報する動力源となったのでしょう。」

 

裁判長は再び思案していた。

 

「うーむ・・・。

愛と憎しみは紙一重。

それは思い違い1つで、誰もが間違いを起こしうることかもしれません。

彼は自身の恋を罪と思ったわけですか・・・。」

 

「ねぇ、やめて!

どうしてそんな話を進めるの!?」

 

綾里真宵がぼくに抗議してきた。

目障りな女だ。

 

「キミは感情をつらつらと述べているだけだけど、それが仕事なのかい?

霊媒師として、ちょっとはぼくの役に立って見せろよ。」

 

「!!

だ、だって・・・。

お姉ちゃんは呼ばないでって・・・なるほどくんが・・・。」

 

彼女はそれだけ言うと、俯いて無言になってしまう。

これでこの女もしばらくは静かになるだろう。

 

 

バンッ!

 

 

御剣怜侍が机を叩いた。

 

「だとすれば弁護人に聞きたい。

トイレで見つかったガラスの破片はどう説明する!」

 

やつの問いに、ぼくは余裕の表情で答える。

 

「オインゴ氏がトイレでガラス製の商品を割ったという証拠らしきものは、その破片だけでしょう。

破片に彼の指紋はありましたか?

割ったときの映像はないんですよね?

そもそも元からヒビが入っていた可能性はありませんか?

それがトイレに入ったときに、たまたま破片が落ちた可能性だってあるでしょう?」

 

「それは弁護人の想像に過ぎないだろう!」

 

「トイレで割ったという意見だって想像でしょう。

だから、見せてほしいんですよ。

その”証拠”をね。」

 

「ぐ・・・ぐぅっ!」

 

御剣怜侍の苦しそう表情が満足感を覚えさせる。

裁判長が慌てて口を挟む。

 

「し、しかし成歩堂くん。

あなたの意見により、後藤ひとりの有罪の可能性が再び浮上してきました。

さらには、オインゴさんの無罪立証までしようとしています。

あなたはどちらの弁護をしたいのですか!?」

 

「裁判長、誰を弁護するとかいう次元の話ではないのです。

弁護人のやるべきことは、人を守るとかそんなチンケなことではありません。

”真実の追求”、ただそれのみです。」

 

傍聴席がざわついていた。

裁判長が木槌を叩く。

 

 

 

カッカッカッ!!

 

 

 

 

「静粛に!静粛に!!

 

オインゴさんについては、再審議をする必要が出てきました。

ですが、今回の審理は後藤ひとりに対してのものです。

御剣検事、これ以上何か意見はありますかな?」

 

どうやら判決の時はもう目の前まで迫っているらしい。

御剣怜侍は眉間に皺を寄せている。

重たく口が開く。

 

「真宵くん・・・。

もはや・・・、”約束”などと言っている場合ではない。」

 

「御剣さん・・・。」

 

やつらは何を言っているのだろうか。

裁判長も首をかしげている。

 

「御剣検事、小声で聞き取れませんでした。

もう一度、あなたの意見をお願いします。」

 

「裁判長、よく聞いてほしい!!

弁護側のあの男は――――――――

 

 

 

 

「待った!!」

 

 

 

 

ガチャリと開かれた両開きのドアから人影が2つ見えた。

 

「遅いぞ成歩堂!!」

 

「なるほどくん!!」

 

御剣怜侍と綾里真宵がその人影の1人に声をかけた。

くそっ、話が違うぞ!

やつを”食った”んじゃないのか!?

 

ぼくは証言台に立つ男を睨んだ。

そいつは、開かれたドアの人物を見て舌打ちをした。

計画のずれをここで認識する。

いっそここでずらかるか?

”俺”の能力なら一般人相手にとんずらこくことなど簡単だ!

 

もう一度、ドアを見やると恐怖が俺の体を支配してきた。

成歩堂龍一の隣に立つもう1人の男は、かつてエジプトで暗殺の対象となっていたやつだ。

俺に恥をかかせた忌まわしき一行の1人。

出来れば、もう二度と会いたくなかった。

 

心臓の鼓動が高鳴る。

呼吸が乱れ、冷や汗が顔と背中に流れるのを感じる。

あいつは・・・、あの学ラン姿は・・・。

 

 

 

 

ドドドドドドドドドドドドド

 

 

 

 

空条 承太郎だ。

 

 

成歩堂龍一は法廷内に入ってくる。

額に血のにじんだ包帯を巻き頬にガーゼを貼り付けた姿は、気品あるこの場に似つかわしくないものとなっていた。

 

「裁判長!

弁護側からはもう一度、新たな証言を要求します。

被告人の判決は、その男の矛盾を立証してからです!!」

 

成歩堂龍一が突き出した指先には、空条さんをにらみつける花京院がいた。

 

 

 

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