ひとりちゃん法廷に立つ   作:あるいてごろりと

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法廷パート3

「ちぃっ!!」

 

手錠をかけられたオインゴは、悔しさで舌打ちをする。

成歩堂が2人出てきて、一時法廷内は困惑の渦に巻き込まれたが、そもそもオインゴは弁護士バッジなしで弁護士として振舞っていた。

弁護士の資格なしに、刑事裁判に立っていたのだからどのみち逮捕である。

それを聞いたオインゴは観念してもとの姿に戻った。

その上、当人の僕だけでなく、主な関係者である御剣や真宵ちゃんにイトノコ刑事が、オインゴのスタンドについて改めて説明をしてくれたので、割とあっさりと事態は収まった。

 

 

「御剣検事、自分は一旦失礼するッス!

オインゴを護送車に引き渡したのち、自分はすぐに戻ってくるッスよ。」

 

「ああ、頼んだぞ。

オインゴは、証人として残す必要もないだろう。

そいつにこれ以上の発言をさせても、場をかき乱すことしかしなさそうだからな。」

 

そう言う御剣は、オインゴから花京院に視線を移し鼻を鳴らす。

こいつもこいつだが、1人にした方がまだやりやすいと言わんばかりの顔だ。

御剣検事に任されて、イトノコ刑事は満足そうな表情をした。

オインゴの腕を掴み、前を歩き出す。

 

「さっさと歩くッスよ!」

 

2人の後ろにはもう一人巡査がついていき、法廷所の外へと出ていく。

扉が閉められたことで、3人の姿は見えなくなった。

 

「成歩堂くん。

その怪我はどうしたのですか?」

 

裁判長が僕の頭の包帯や頬のガーゼを見て、心配そうに声をかけてきた。

 

「これはとある変装した男から受けた傷です。

ご心配をおかけしました。」

 

下手に共犯者を刺激しないように、オブラートに包んで発言した。

今のままで指摘したところで、姿を変えれるやつはきっと知らぬ存ぜぬを貫くだろう。

それを平然とやるはずだ。

相手はそれだけの修羅場をくぐったやつだろう。

悪く言えば、それだけ卑怯なおこないをしてきたともいえる。

都合が悪くなると、花京院の姿のままで逃亡でも企てかねない。

それならば、こちらにできる追及を持ってして、この場で正体を暴かせてもらう。

 

僕の言葉を聞いた裁判長は、首を横に振る。

 

「いえ、無事とは言い難いですが命があって何よりです。

しかし、弁護士を装う犯罪者がいるとは・・・。

世も末です。」

 

「全くです。」

 

「なるほどくん、本当にもう大丈夫なの?」

 

真宵ちゃんが尋ねてくる。

 

「うん。

それに寝てもいられないし。」

 

僕が気を失っている間の話は、真宵ちゃんから一通り聞いた。

告白だのと随分好き勝手に話を進めてくれたものだ。

 

「それでは、審理を再開します。

成歩堂くん。

証人は、『脅迫』ではない行動を見ていたようです。

被告人の判決は、彼女が『脅迫』されたかそうでないか、それによって決まります。」

 

「はい。」

 

僕が頷くと、袖をくいくいっと引かれる。

隣に立つ真宵ちゃんが、何か言いたいらしい。

 

「ねぇねぇ、なるほどくん。」

 

「どうしたの?」

 

「オインゴは連行されちゃったけど、どういう形に持っていけば『脅迫』だと判断されるのかな?」

 

「そうだね・・・。裁判長に告白ではなかったことを立証して認めてもらうか、『証言の信用性』を無くすこと・・・かな。」

 

「信用を無くすって、どうやって?」

 

「それも立証するんだよ。

手っ取り早いのが、証人がオインゴの共犯者である事実をつきつけることだね。」

 

「証言の矛盾をついていけば、そこにたどり着くかな?

ひとりちゃんは犯罪なんかやってないんだから、絶対矛盾はあるはずだよね。」

 

「うん、あいつらは後藤さんを陥れるために、嘘をついている。

そこに矛盾は必ず生まれるはずだよ。」

 

僕は裁判長へと向き直る。

 

「成歩堂くん。

証人に証言の変更を要求していましたが、どのような内容でしょうか?」

 

「証人には、当時の自身の行動を証言していただきたいです。」

 

「ふむ。証人、よろしいですね?」

 

裁判長に意思を聞かれた花京院は、頷いた。

 

「構いませんよ。

では、彼女の犯行当日に僕が何をしていたかお話しましょう。」

 

 

 

 

証言開始

~花京院の行動について~

 

 

 

 

「先程弁護士さんがいないときにも話したけれども」

「僕はコンビニの駐車場に車を停めていたんだ。」

「そこからは、10分ほど休んでいて、店内には入っていない。」

 

 

 

 

証言内容はとても短いものであった。

 

「何というか、普通に過ごしただけのようですね。」

 

裁判長の言葉に、花京院がやれやれという風に首を振る。

 

「このような証言に意味などありませんよ。」

 

「ねぇねぇ、なるほどくん。

今の証言じゃ、何も暴けないよ?」

 

真宵ちゃんが少しうろたえたような様子だ。

 

「そうだね。

このままじゃ、ね。」

 

真宵ちゃんがピンとした顔をする。

 

「さぁ、紐解いていこうか。」

 

「うん!やっちゃおう、なるほどくん!!」

 

 

 

 

尋問開始

~花京院の行動について~

 

 

 

 

「花京院さん。

車は、コンビニのどの位置に停めたのですか?」

 

「駐車位置は、西のコンビニ裏口側さ。

人の往来が少しでも少ない方が落ち着くからね。」

 

後藤さんが脅迫された位置は、南にあるコンビニ入り口の西端角側。

確かに、西側の駐車場からなら店外に出た2人の姿は見えただろうな。

ちなみに、裏口からはスタッフルームへと出入りができる。

 

「花京院さんの言う・・・告白のあった場の頭上にはカメラがあったはずです。」

 

「ええ、ありましたよ。」

 

「そのカメラのケーブルは、2人がその位置に来る前に断線しています。

あなたはそれを見ましたか?」

 

「いえ、カメラがあったのもぼんやりとしか覚えていないものですから。

断線など分かりませんね。」

 

「・・・そうですか。」

 

タイミングから考えて、共犯者が断線したのは間違いないはずだ。

どうにも白を切られているような気がする。

しかし、その証拠が手元にはない。

少し話を変えてみるか。

 

「店内に入らなかったそうですが、どのような理由でコンビニに来たんですか?」

 

「聞いてくれるかい?

実は、知り合いから靴をもらった帰りだったんだよ。」

 

花京院の声色が変わった。

 

「僕は黄色が大好きでね。

もらった靴も当然、黄色さ。

特注したらしい世界に一つだけのものでね、

側面には『YT』とイニシャルが入っているんだよ。

僕は黄色とその文字にほれ込んで、必死になってもらったんだよ。

 

家に着くまで我慢できなくてね。

その靴を車内で眺めたり、履いたりしてみたんだよ。

この靴がそうなんだけども、イカスだろう?」

 

花京院は証言台から足を伸ばし、前後左右から黄色の靴を見せてきた。

 

「証人、あまりはしゃがないように。」

 

裁判長が注意する。

 

「ああ、すまないね。

この靴の事となるとどうにも興奮してしまうんだ。」

 

さっき花京院は靴の表から裏まで見せてきた。

あの靴底は見たことあるな・・・。

 

「何か気づいたの?」

 

真宵ちゃんがこちらを見ている。

 

「どうやら、彼も靴の運がないようだよ。」

 

僕は花京院へと声をかける。

 

「証人、あなたの靴の底。

こちらのチケットについている靴跡と同様に見えますが。」

 

僕は、くしゃくしゃにされたライブチケットにつけられた靴跡を見せる。

御剣が追撃する。

 

「酷似しているかどうか確認をしたい。

証人、靴底をもう一度見せてもらえないだろうか?

確認が終わり次第、すぐさま鑑識に回させてもらおう。」

 

真顔でチケットの靴跡を見ていた花京院は、

 

「フッ。」

 

と、かすかに笑った。

 

「いや、鑑識に回さなくても結構。

認めるよ。

この美しい靴跡は、世界でただ一つ・・・。

僕の靴に違いないよ。」

 

「花京院さん。

あなたは先ほど、『駐車場に車を停めて10分ほど休んだ』と、言っていました。

それなのに、チケットを踏んだというのはおかしくありませんか!」

 

「・・・ふん。」

 

僕の言葉に花京院は、わずかに鼻を鳴らした。

だが、すぐさま表情をもとに戻した。

 

「証人、どうなんだ!」

 

御剣の言葉に、花京院は臆する様子がない。

 

「ああ。その通りだよ。

ほれ込んだ靴を履いたのだから、そりゃ歩き回りたくもなるだろう。

靴跡がつくのものちに気づいていたよ。

今は靴底だけ交換して跡が残らない状態にしたさ。

それと、勘違いしないでほしいのは、わざわざ踏んだわけではないということだよ。

たまたま降車する際に偶然それを踏んだんだ。」

 

思ったよりあっさり認めたな。

だが、それなら断言できることがある。

 

「このチケットは、御剣が店内のスタッフルームから見つけたものです。

あなたは先ほど、『店内には入っていない。』と、言っていました。

店内に入っていないならば、なぜゴミ箱からチケットが見つかったのでしょうか!」

 

僕の言葉を聞いた花京院は・・・、

 

 

やれやれといった顔をしていた。

これは・・・外したのか?

いや、だが強がりの可能性もある。

 

「弁護士さん。」

 

「・・・はい。」

 

「物事には、『原因』と『結果』がある。

原因があるから結果がある。

結果があるから原因がある。

この2つの法則は絶対だと思うんだが、あなたはどう考える?」

 

「・・・そうだと思います。」

 

いかん、額から汗が出てきた。

 

「なるほどくん!猫背になっているよ!!」

 

真宵ちゃんに姿勢を注意される。

おじいちゃんをしかる孫か!

それに猫背というより、腰が引けているだけだ。

・・・どっちにしても良くはないけど。

 

花京院は、なおも自身に満ちた表情をしている様子だ。

 

「そのチケット、指紋がありましたよね?

誰と誰の指紋がついていましたっけ?」

 

それは、オインゴと後藤さんの・・・。

 

「あ、あああああああー--!」

 

僕の叫び声を聞いた花京院は、ニヤリと笑った。

 

「チケットに僕の指紋がないのに、どうやってゴミ箱に捨てるのだろうか?」

 

「そ、それは手袋でもつけて・・・。」

 

「意義あり!

証拠もないのに、想像で語らないでほしいな。」

 

「ぐっ・・・。」

 

しまった。

こいつが共犯者だという前提で考えるあまり、単純なことを見落としてしまった。

ってか、証人がそのセリフで抗議してくる裁判って、なかなかないんじゃないかな。

いや、待てよ。

そういえば、スタッフルームの扉の前には靴底の擦った跡があったな。

 

「花京院さん!この写真を見てください。」

 

法廷所内にある大きなモニターに写真が映し出される。

 

「これは・・・靴底の擦ったあとのようだね。

かかとの外側だけで分かりづらいけど。

これが何か?」

 

僕は机を叩いた。

 

「これはスタッフルームの扉の前で見つかったものです。」

 

花京院がぴくりと眉を動かした。

 

「スタッフルームの・・・?」

 

「ええ。これはあなたの履いていた靴の跡じゃないですか?」

 

どうだ!?

 

「・・・フッ。」

 

花京院が鼻で笑った。

 

「弁護士さん、このかかとの外側だけで僕の靴かは、分からないでしょう?

それにその靴跡はスタッフルーム内にいくつもあるのかな?」

 

そ、そういえばこれ1つしかないな。

裏口からレジに向かう扉の前まで一足飛びで行ったことになる。

普通は無理な話だ。

 

「ぐぅぅぅっ・・・。」

 

 

 

カッカッカッ!

 

 

 

裁判長が木槌を叩く。

 

「成歩堂くん。

ここまでの話をまとめると、証人は車からは降りたが、店内には入っていない。

また、被告人とも接触はしていないようです。

いまだに告白の話は筋が通っているように思いますが、どうでしょうか?」

 

なかなか嫌な状態だ。

覆そうとしても、確実な証拠がない。

オインゴの脅迫について責めたいとこだが、真宵ちゃんの話では手形の指紋とガラスの破片も躱されたようだ。

 

「ねぇねぇ、なるほどくん。

外の監視カメラのケーブルについては、やっぱりだめかな?

絶対、あの人が何かやったはずだよ。」

 

共犯者が断線したと思われるケーブルか。

切ったわけでも引きちぎったわけでもない不思議な断面・・・。

消去法でスタンド能力によるものだと推測はされるが・・・。

けど、スタンドと言っても通じないだろうな。

それに、チケットについていた靴跡も監視カメラの下にはなかった。

ハッタリもかませないほど、手札が少ない。

 

「ダメだよ。

たぶん、スタンド能力でやったとは思うけども、根拠となる証拠が提示できない。」

 

真宵ちゃんが閃いたように手のひらをグーで上から叩く。

 

「そうだ、スタンド能力を出させればいいんだ!」

 

「どうやって?」

 

「あの人を鈍器で殴ればいいんだよ!」

 

「その時点で真宵ちゃんが捕まるから!」

 

確かに、出るものは出るかもしれないが・・・。

真宵ちゃんが不満そうな顔をしている。

 

「あたしがやるとは言ってないのに。」

 

「僕がやっても捕まるから!

結果変わんないから!」

 

恐ろしい発想をするな、この子。

でも、真宵ちゃんの気持ちもわかる。

スタンド能力、ここを突破しないと話が進められない。

少しでも花京院にそれらしきものを出させれば、状況は変わるかもしれないのに・・・。

 

「成歩堂くん、どうでしょうか?

あまり時間は取れませんよ。」

 

裁判長の言葉が僕を焦らせる。

まずいな・・・。

 

 

 

 

「待った!!」

 

 

 

 

その声は、法廷所の入り口から聞こえてきた。

僕でもない、御剣でもない、花京院でもなく真宵ちゃんでもないその人物は、

矢張だった。

 

「おい、御剣!

来たけど、今の空気何なんだ?

ちょっと、芳しくないんじゃないか?」

 

御剣が意外そうな表情で矢張を見る。

 

「思ったより早かったな。」

 

「いやー、それがよ。

俺もダッシュで行こうとしたんだけどよ。

疲れてぜぇぜぇなってたのよ。

そしたら、車に乗ったある人が声かけてくれてよ。

地方裁判所に行きたいって行ったら、『自分も行くところだから乗ってください。』って言ってくれたのよ。

だから、早目にこれたんだな。」

 

「ある人?」

 

「ふっふっふっ。

皆さん、お久しぶりです。」

 

御剣の疑問に、法廷所の入り口奥から聞こえる声が答えた。

その姿は、眼鏡をかけた中年男性だった。

若干、頭頂部が寂しいがそれも長年この仕事を耐えてやってきたんだ、という証拠でもある。

 

「あ、あなたは・・・亜内検事。

どうしてあなたが矢張を・・・?」

 

御剣の質問に、亜内検事が眼鏡をくいっと上げて答えた。

 

「いえね、私も仕事でたまたま世田谷区からここの地方裁判所に来る途中だったんですよ。

それで千代田線方面に向かって全力疾走する見知った顔の男が見えたもんですから《中略》。私の広くて深い懐に感謝してほしいものですね。家から早目に出たのですが、途中の喫茶店で時間でもつぶす予定でして、彼もそこで最初は降ろそうかと思っていました。けれど、車内で彼から今回の裁判の話を聞いていたら、成歩堂くんがスタンド能力という話をしてたと《ペラペラ》。以前、私の頭髪は急に吹き飛んでいきましたが、きっとそれはスタンドによる攻撃を受けたからであって《ペロペロ》。要するに、スタンドではげたのなら、スタンドではげを治せば良いという結論に行き着いて《ぺろりんちょ》。それで、情報提供を受けるためにもあなた方に恩を売っておこうと思ったわけですよ。」

 

御剣が苦笑いをして返答する。

 

「そうでしたか!助かりました!!」

 

あいつ、勢いで話を済ませようとしているな。

 

「いえいえ。

それでは今後ともごひいきに。

ふっふっふっ。」

 

亜内検事は満足そうにして、姿を消した。

御剣は裁判長の方を見る。

 

「裁判長、新たに証人喚問をしたいのだが、構わないだろうか。」

 

裁判長は考えている様子だ。

 

「その人の証言は必要となるものでしょうか?

成歩堂くん、どうでしょう。」

 

どんな内容かは分からない。

ただ、これ以上話を進めるなら、違う視点の証言も必要だろう。

矢張は店内の様子に何か気づいているかもしれない。

・・・僕が行った時には、大して何も言ってなかったけども。

 

「弁護側からも証人喚問を要望します。

この裁判の真実の解明に必要なものとなるでしょう。」

 

はったりでしかない。

裁判長は頷いた。

 

「証人喚問についてはよろしいでしょう。

時間は10分でお願いします。」

 

「くっ・・・、短いな。

矢張、すぐに話をまとめるぞ。」

 

御剣と矢張はささっと法廷所を出ていった。

 

 

――――――――――――――――

 

 

9月18日 午後13時42分

地方裁判所 被告人第1控え室

 

 

 

「なるほどくんは、もうお手洗いは大丈夫だよね?」

 

やっぱり僕はおじいちゃんのように思われているのだろうか。

と、一瞬思ったけど、怪我したときのことを心配して言ってくれたのだろうな。

 

「うん、しばらくはあそこは使わないつもりだよ。」

 

「あ、あのっ。」

 

「うん?」

 

珍しいな。

後藤さんから声をかけられた。

 

「どうしたの?後藤さん。」

 

後藤さんは、いつもと変わらず目線が合わない。

ピンクジャージの上半身部分の裾を両手でギュッと掴んでいる。

何かあったのだろうか?

不安がこみ上げてくる。

僕の思惑とは異なり、後藤さんはぎこちない笑みを浮かべる。

 

「い、いえ。何でもなかったです。

さ、裁判・・・頑張ってください。」

 

「ありがとう。絶対に勝訴を取ってくるよ。」

 

依頼人からのこういった応援は結構嬉しいものだ。

 

「・・・・・・。」

 

さて、矢張はどんな証言をするのだろうか。

狩魔豪検事のときには、あいつの証言で隙をつくことができたけども。

正直、心配だ。

僕にじゃじゃ馬のような証言の手綱をうまく握れるだろうか?

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

9月18日 午後13時52分

地方裁判所 第1法廷

 

 

 

「裁判長、ひとまずスタッフルーム内の状態について簡単に説明をしよう。」

 

「お願いします。」

 

裁判長は、御剣に説明を促す。

 

「レジから入ってすぐ左側にあるのが、被告人や矢張が使っている荷物置き場となる。

カーテンが備えてあり、簡易的な着替え場にもなっている。

左奥は資材置場だ。

反対側だが、すぐ右側にあるのが金庫、その奥にはパソコンや複合機、モニターが並んでいる。

部屋の奥には、外に通じる裏口の扉がある。」

 

裁判長は頷いた。

 

「分かりました。」

 

カッ

 

木槌が打たれる。

 

「それでは、証人より証言をお願いします。」

 

「おうよ。」

 

矢張は慣れた調子で答えた。

 

 

 

 

証言開始

~事件当日の矢張の行動~

 

 

 

 

「実はコンビニの金庫の金が無くなっていてよ。」

「多分、事件のあった日にそうなったとおもうんだよね。」

「あの日は、後輩ちゃんもいるし昼飯時に外出しようとおもったんだよ。」

「スタッフルームの扉を開けて、レジにいる後輩ちゃんに声かけして裏口から外にでたな。」

「昼飯は・・・まあいいか。」

「帰りも裏口から入ったんだけどよ。」

「パトカーが何台か駐車して、たまげたな。」

「それと裏口に入る前に駐車場で、くしゃくしゃの紙を見つけたもんで、トングで拾ってスタッフルームのゴミ箱に捨てたんだ。」

「金庫の金は、俺が出掛けてパトカーが来る間に盗まれたのかなぁ。」

 

 

 

 

「・・・・・・・。」

 

静まり返る法廷所内。

なんかデジャブ。

 

「矢張・・・。」

 

「んあ?なんだよ、御剣。」

 

「あまり爆弾を抱えないでほしい。」

 

このじゃじゃ馬証言者は、やっぱり御剣にも扱えないらしい。

 

「まぁー、俺って多忙だからな。

色々忘れちゃうんだわ。」

 

てへへと後頭部に片手を置いて、舌を出す矢張。

いや、腹立つな。

 

「何だか、大変な証言をしたように思えますが、

成歩堂くん。

このまま進めてもいいですね?」

 

「はい・・・。」

 

と、とにかく尋問で話をさらに聞き出そう。

 

裁判長は頷いた。

 

「それでは、成歩堂くん。

尋問を。」

 

 

 

 

尋問開始

~事件当日の矢張の行動~

 

 

 

 

「矢張、トングで捨てたくしゃくしゃの紙って?」

 

「恐らく、私が証拠品として提示したライブチケットのことだろう。」

 

代わりに御剣が答えた。

やっぱりか。

 

「そうそう、それそれ。

その時には、チケットだって気付かなかったんだよな。

わざわざ丸まった紙を開いて見ようとも思わなかったし。

後輩ちゃんには、悪いことしたな。」

 

矢張はちょっと申し訳なさそうに言っていた。

 

「金庫の金が無いって、いつ気づいたんだ?」

 

「あー、それな?今日、金の清算してたんだよ。結構な日にち分。」

 

「結構な・・・。」

 

毎日やってくれ・・・。

 

「そ。いやー、あのデータ量にはまいったね。

それで店の金を確認しようと思って、金庫の扉をノールックで開いたら無かったわけよ。」

 

「・・・。」

 

ノールック・・・?

 

「どうした成歩堂?」

 

「お前、金庫のカギは?」

 

「かけてねぇよ。」

 

「・・・。」

 

「ダイアル式でさ、いちいち開錠するの面倒なんだよね。

最初は、1だけ数字をずらしてたんだけど、最後にはかけることもなくなったのよ。」

 

毎日かけてくれ・・・。

 

「ついででいうとよ、裏口のドアもカギかけてねぇんだわ。」

 

僕は、言葉が出なかった。

矢張がいないなら、いつでも裏口から侵入できるし、いつでも金庫の金を盗めるわけだ。

 

「さらにいうと、スタッフルームのドアも後輩ちゃんに声かけたあと、少し開けたままの状態で外出したな。」

 

再びてへへと舌を出す矢張。

 

「あっ、開け放題じゃないですか!?

防犯対策はしっかりしたほうが、よいですぞ。」

 

裁判長の言うことも、ごもっともである。

本社もさすがにこんな男切った方がいいだろうに。

 

「矢張、金庫の金は本当に盗まれたのか?」

 

「ああ。俺のいない時間にな。

つっても、誰がどのタイミングでやったのか分からないぜ?」

 

「なるほどくん。

今の矢張さんの発言に、共犯者を絡めることはできないかな?」

 

真宵ちゃんが尋ねてくる。

 

「・・・今は無理だよ。」

 

「どうして?」

 

「証人がスタッフルーム内に入った証拠がないのだから、金庫の金を取った疑いを持たれるのは、今のところ2人だ。

矢張は可能性が少ないと見られるだろうけど、後藤さんは・・・。」

 

「あっ!!」

 

真宵ちゃんが口元に手をあてた。

今窃盗犯の容疑者について言及しても、後藤さんの立場が悪くなるだけだ。

 

「成歩堂くん。

尋問はもういいでしょうか?」

 

裁判長が聞いてきた。

心なしか裁判長の顔が少し疲れているように見える。

原因は、やっぱり矢張だろう。

 

「ええ・・・。」

 

僕も疲れた。

こいつの証言は、事態を悪化した気がしてならない。

そう思っていると、証言台から笑い声が聞こえてきた。

 

「くっくっくっくっ。

ガァーハッハッハッハッ!!

どうやら当ては外れたようだ!

それどころか、僕の無実をさらに証明してくれた。」

 

花京院の言葉に裁判長は頷いた。

 

「確かに、靴跡がついたチケットは店の者が店内に運んでいたようですね。

証人の供述に間違いはなかったようです。」

 

非常にまずい事態だ。

どこから解決したらいいか、皆目見当もつかなくなってきている。

 

「なるほどくん、金庫のお金は共犯者が盗んだはずだよね?」

 

真宵ちゃんが、先ほどと同じ話を僕に尋ねてくる。

 

「恐らく・・・、といっても証拠がない。」

 

「チケットに靴跡がつくぐらいなんだから、スタッフルーム内に入ったのなら靴跡だらけになりそうだよね。」

 

「確かに、けど僕らがあそこに入ったときにはそれらしきものはなかったよ。」

 

「矢張さんが掃除したとか?」

 

「ないない。」

 

本社の圧力を押しのけて、仕事放棄してた男だぞ。

真宵ちゃんがパンッと両手を合わせる。

 

「分かった!裏口前で靴を脱いだんだ!」

 

それならスタッフルーム内に靴跡はつかないな。

けど・・・。

 

「それも考えづらいかな。」

 

「どうして?」

 

首をかしげる真宵ちゃんに僕は答える。

 

「さっきの黄色い靴に対してのテンションの上がりようを見ただろう。

あそこまで、気持ちが高ぶるものを自分の身体から離すようなことはしないと思うんだ。」

 

「あの高いテンション自体が嘘って可能性はないかな?」

 

「それなら、まぁ。

ただそうだとしても、突きつける証拠がないよ。」

 

「そっか・・・。」

 

真宵ちゃんの気が沈んでしまったようだ。

僕も正直、どうしたものか悩んでいる。

スタンド・・・、これさえどうにか出来れば・・・。

僕は空条さんと初めて会った時を思い出していた。

確か、僕がスタンドを見ることができたのって・・・。

 

「そうだ!!」

 

僕の声に真宵ちゃんがびくりとする。

 

「どうしたの!?」

 

「勾玉だ!あれで花京院のスタンドを暴けばいいんだ!!」

 

真宵ちゃんの顔がぱあっと明るくなる。

彼女が勾玉に霊力を込めると、隠されたものを暴くことができるようになる。

僕も以前、勾玉の力を使って空条さんのスタンドを見た経験があった。

 

「そっか!それでスタンドの問題は解決できるね!」

 

僕が勾玉を真宵ちゃんに渡すと、彼女は霊力を込めた。

勾玉は淡い緑色の光を放つようになった。

よし、これでいける!

 

「裁判長!」

 

「何ですかな、成歩堂くん。」

 

「弁護側は新たな証拠品を提示します。」

 

「ほう、それはどのようなものでしょうか。」

 

「それはこの勾玉です。」

 

「まがたま・・・?」

 

「はい。

裁判長、この石を持ったまま証人をご覧ください。

きっと、何か答えが見えてくるはずです。」

 

僕の言葉を聞き終えた裁判長は、訝しげに僕のことを見てきた。

な、なんだろうか・・・。

 

「成歩堂くん。」

 

「は・・・はい。」

 

「その石を証拠品として受理することはできません。」

 

「な、なぜですか!?」

 

「私がその石を持って証人を見ると何か変わったものが見えるのですね?」

 

「ええ、そうです。」

 

「その間、他の人にはどう証人が見えるのでしょうか?」

 

「それは・・・、特別何も・・・。」

 

裁判長は首を振った。

 

「他の者には見えないのに、個人だけ特別何かが見える石。

私には、その石が麻薬のように見えますよ。

果たして、そのような物が正当な証拠品と言えるでしょうか?

残念ながら、その石を受理することはできません。」

 

はっきりと言われた。

裁判長の言葉は、僕の頭を一瞬真っ白にさせた。

花京院は、僕のうろたえる姿を見てニヤニヤと笑っている。

唇の隙間から、幾本か歯の抜けた様子が見て取れた。

 

届かない

 

指紋も

 

靴跡も

 

監視カメラの映像も

 

やつの真実を暴くには届かない

 

頼みの勾玉は、証拠品としてすら扱ってもらえなかった。

 

もう無理なのか?

 

受け入れがたい言葉が脳裏をよぎる

 

その言葉は、徐々に僕の心に浸透していく

 

 

 

 

 

 

「うあああああああああああああああっ!!」

 

 

 

 

 

 

僕は両手で頭を抱え込んでいた。

 

心に染みていく言葉を振り払うように叫んだ。

 

腕が切れた側頭部に触れて痛みが走る。

 

殴られた頬も何かを思い出し、ズキンズキンと脈打つように痛覚を刺激する。

 

痛みにとらわれ、ここから何をどうしたらいいのか分からない。

 

頼ってくれたのにごめん、後藤さん。

 

助けていただいたのにすみません、空条さん。

 

真宵ちゃん、御剣、みんな・・・。

 

 

そして―――――――

 

 

 

 

 

 

「顔をあげなさい、なるほどくん。」

 

 

 

 

 

 

懐かしい声がした。

 

しばらく聞いていなかった、かつての上司の声だ。

 

僕は、彼女のその声に最初から、何度も、ずっと助けられてきた。

 

窮地に陥っても、挫けるようなことがあっても、

 

いつだって彼女は手を差し伸べてくれた。

 

今だって・・・。

 

 

 

 

「千尋さん・・・。」

 

 

 

 

彼女は僕を見つめていた。

目が合った瞬間、僕は悟る。

千尋さんはまだ諦めていない。

彼女の瞳には、その意志が映し出されていた。

 

 

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