ありふれてないミュータントは世界最強 作:アメコミ限界オタク
物心が芽生える、というのはこういう感覚なんだろう。
俺はたった今、確立されたばかりのはっきりとした自我に戸惑いを覚えつつも、心は解放感と興奮に満たされていた。
戦闘実験の最中に、センチネルが俺の首輪を破壊したことにより、俺の脳に働きかけて人格を封じる機能が破壊されたようだ。
「89号が制御できません!! デリートプログラムを実行しますか!?」
「ふざけるな! ようやくここまで育てた1体しかない成功例だぞ!!ここで破棄したら我々が消される!」
ガラスの向こうでは俺に指示を出していた研究者たちが大パニックになってる。もし俺が逃げたら心臓と脳の中に仕込んである小型核爆弾で爆発させる手筈になっているようだ。
テレパシーで心読んだから間違いない。
取り敢えず相方の制止を振り切って爆破ボタンを押そうとしてるやつの手を止める。
『止まれ』
そう念じると、ピタッと石のように動きが固まる。
テレパス能力は高レベルになると人間の行動を物理的に操れる。学習装置で刷り込まれた知識通りだ。
「ぶっ壊してやる」
勝利を確信したようにガッツポーズで拳を握る。
するとテレキネシスで爆破装置を握り潰したように破壊できた。
砲弾を防げる特殊アクリル板越しだろうとお構いなしだ。
その様子を見てもうひとりの研究者が狂ったように冷や汗を流しているのが見えた。
「センチネル全機出撃しろぉぉぉぉぉ!!! 89号をここから出すなぁぁぁぁ~~!!!」
スピーカーから響くヒステリックな悲鳴にも近い絶叫をBGMに、戦闘実験室の全シャッターが開く。
より実戦に近いデータを録るため、という理由で大都会を丸ごと再現した実験室は部屋と呼ぶにはとてつもなく広い。
センチネル……俺のようなミュータント?と呼ばれる能力者と戦うために造られたキラーロボットが都市の人口に匹敵する数で押し寄せてくる。形も丁度人型で大きさ的にも俺と替わらない個体が大半を占めていて非常に町の住人っぽさが出ている。
そして追従するのは戦車や戦闘機の形をした特化型センチネル。
兵器保管庫の兵器を総動員してでも俺を捕まえようとしているみたいだ。
この兵器を山をスクラップの山にするのはいいが、その前にやることがある。
「まずこれを取り出さないとな」
頭と心臓にある爆弾をテレキネシスで取り除いた。
この作業で『痛い』という感覚を始めて味わって新鮮な気分だったが、それはそれとして、これがなかなか不快で二度と味わいたくない感覚だった。
手に持った不快な爆弾はそのまま握り潰す。
ボンッ!と手の中で爆発した感触はあったが、それだけだ。
痛いとか熱いとかの感触は一切無く、怪我も特にしてない。
この分なら体の中で爆発させても大丈夫そうだった。
無駄に痛い思いしただけじゃないか。
なんだろう、無性に堪えがたいマグマのような、炎のような感情がジワジワとこみ上げてきた。
俺の胸を満たすこの不快な激情はなんだ?
なんという感情だ?
あぁなるほど……これが『怒る』ってことなのか。
首輪が壊れてからまだ数分しか経ってないのに、産まれて始めての経験ばかりだな。
拳を握り、腕に力を籠めると体内で発電した電力を集中させる。すると腕が青く発光し、抑えきれない電力が小さな雷となってスパークする。エネルギーが充填された証拠だ。
センチネルの大軍に向かって横凪ぎに手刀を振る。
たったそれだけ。
たったそれだけで空間が歪むほどの大電力を孕んで振るわれた手刀が、荷電粒子を帯びた指向性のある衝撃の刃と化した。
稲妻と衝撃の刃は進路上の建物と道路を爆発と斬擊を持って廃墟にし、進路上のセンチネル全てを真っ二つに切り裂いた。
「まだまだ行くぜぇ!!!」
また腕に電力を蓄え、今回は追加で異次元の赤いエネルギーが収束される。
オプティックエネルギーと呼ばれるそれは、青い電力と交わり紫色の光を放つ美しい光線となって解放された。
ドドドドドドドドドドドド!!!!!
そんなド派手な爆発音と伴い、俺はレプリカの都市を焼き払う。
地下に造られた研究所は乱射される破壊光線の威力に耐えられずに悲鳴を上げる。
「ひいいいいいい~~!!止まれ!止まるんだ89号!!これは命令だぞ~~!!」
小太りの研究者が叫ぶ命令ももはや俺の鼓膜には届いても、首輪を外された俺の脳にはなんの影響も与えない。
「うるさい!」
ジュッ。
逆に俺の放つ光線によって一瞬にしてその醜く太った体は原子の欠片も残さずに消滅する。
そして破壊の限りを尽くした89号こと、俺がテレポートによって姿を消すと同時に、崩落が始まり、全ては地下1000mに埋もれて消えた。
かくして俺は真の自由を手に入れて産まれて初めて外の世界に出た。
地下に造られた仮初めの世界ではなく、本物の地上世界だ。
地下に監禁されていたのも、太陽の光が俺に無限に等しいパワーを与えるためだと言われていたが、まさにそうだったんだろう。
始めて見る太陽は、その光を浴びるだけで体の底から力が沸き上がってくるのだから。
まあそんなことよりも状況の把握が先だ。
まず、ここは公園という遊び場だ。
太陽が真上にある時間帯なので遊んでいる子どもたちも大勢いる。その子たちは遊びに夢中であり、付き添いの大人も子どもを見守るのに忙しいため、幸運なことに突然テレポートしてきた俺のことには誰も気付いていないようだった。
俺自身もその子達と同じくらいの年齢のため、子どもの群れに上手く溶け込めている。
その子どものひとりが俺に近付いて話しかけてきた。
「ねえ、君も一緒に遊ばない!」
産まれて始めて遊びに誘われた、俺感動。
「いいよ、なにして遊ぶ?」
「おままごと!」
女の子はそう言うと、俺になにかの配役を振って演技を始めた。どうやら役に従った演技をする遊びらしい。
俺も違和感の出ないようにその場の空気に合わせておままごとを演じていると、太陽が沈む時間帯となっていた。
その女の子も迎えの父親らしき男が来たので別れることになった。
「それじゃまた遊ぼうね!バイバ~イ!」
「またな。 ところでお前、名前なんて言うの?」
「私は中村恵里だよ、バイバイ!」
そう言うと、その女の子……じゃなかった、恵里は赤信号に気付かずに道路を渡った。
あ、これなんか不味い気がする。
道路の向こうでは父親が鬼気迫る顔でこちらに走ってくる。当たり前だ、トラックがすぐそこまで迫ってるのだから。
…………。しょうがない。外の世界では目立つことはしたくないけど、産まれて初めての友達だ。記念に助けてあげよう。
「テレキネシス」
俺がトラックに手を翳すと、俺の手から伸びる青白いエネルギーが恵里とその父親の周囲にバリアを展開、轢かれる寸前にトラックはバリアに激突することで強制的に停止する。
車は大破したが運転手はエアバッグが正常に作動したので無傷だ。
そして、轢かれる寸前だった恵里とその父親もバリアによって無傷だ。
そして事故を聞きつけて集まるギャラリーが奇跡のような生還擊を目撃して信じられないように目を丸くする。
そして集まるその奇跡を起こした俺への注目。
尊敬するような憧れるような、そんな子どもたちの無垢な目と、それとは真逆の大人たちの恐ろしい怪物を見るような目。
ふたつの相反する感情が俺にぶつけられているのをテレパスを使わなくても分かるほど分かる。
「じゃ俺も帰るので」
帰るとこないけど、その辺で休めば良いや。
そそくさと逃げようとする俺の手を恵里が掴んで止める。
「なにか?」
「あなた名前は?また会えるよね!?」
キラキラキラキラ。
そんな目で俺を見つめながら言う恵里。
名前………。
我輩は89号である、名前はまだ無い。
どう答えればいい?
「悪いけど俺はもう帰らないと。さよなら」
俺はそう言って手を振り払うと、今度こそ本当に逃げるようにテレポートした。
89号
主人公で最初にして最強のウエポンオメガ。
あらゆるミュータントのX遺伝子を組みこまれて誕生したため、能力は基本なんでもありのほぼ全能のミュータント。
その遺伝子は100%X遺伝子で構成されているため、これ以上ないくらい純粋なミュータントであり通常のミュータントとも一線を画した存在。
本人は電撃系をメインに使い勝手のいい肉体の金属化や汎用性の高いテレキネシス・テレポート系の能力を好んで使う。
現実改変や時間の巻き戻し・停止もできるが、使い勝手が悪いので必要な時以外はあんまり使いたくないらしい。
Ω計画
人工的に最強クラスの能力を持つオメガレベルミュータントを創造し、制御することで兵器利用するための計画。
中村恵里
多分ありふれで最も不幸で最もやらかしてる女。
原作ではなにも救いが無かったので二次創作では檜山・天之河アンチと同じくらい救済が盛り上がってる二次創作界隈のアイドル。
ただし、今回のように父親まで救う展開は多分珍しい。
父親が助かったため、虐待のきっかけ自体が消滅したので生来のヤンデレ気質は大人しくなると思われる(ヤンデレにならないとは言ってない定期)