ありふれてないミュータントは世界最強   作:アメコミ限界オタク

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第十話

 

 

「なに? ハジメが迷宮に行くだと?」

 

「うん、銃のテストがしたいんだって!」

 

ある日の昼食の席で、アクアから聞かされたハジメが戦闘に出るという話。

 

「つってもアイツまだパワードスーツすら完成させてないじゃないか。それが完成するまで待たないのかアイツ?」

 

「うーん、そこはどうなんだろうね……。

私も詳しく聞きたかったんだけど、はぐらかされちゃった」

 

白崎のやつもハジメの工房に通っていて、なにか聞いてるはずだから、後で白崎からも話を聞いておこう。

 

「美味いぞぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

「まだ眠いよ~……zzz」

 

訓練に気合い入れすぎて遅れた昼食にヒョウカはがっつき、焔はいつも通り良く寝てる。

アクアは厨房でこの世界で覚えた料理を作ってくれてる。

 

そして恵里はというと……。

 

「ふんっ!!」

 

ぶっすー、と不貞腐れた顔をして、俺から顔を背けている。最近はハジメやら天之河や檜山一味にばかり構っていたせいで、すっかりご機嫌斜めのようだ。

 

「悪かったって、ほら存分に撫でてやろう」

 

俺がそう言って、恵里を撫でてやろうとすると……。

 

「ふしゃーーーっっ!」

 

「痛って!噛みやがったこいつ!」

 

猫のように威嚇し、俺の指に噛みつく始末だ。

 

昨日の晩飯からずーっとこれの調子だ。

 

「聞いてくれよアクアちゃん!ハクってば酷いんだよ!私という美少女の彼女がいながら!トータスに来てからずーーっと南雲くんに夢中なんだよ!?信じられる!?ホモかよ!!」

 

「まあまあ、お兄ちゃんも悪気があったんじゃないから許してあげて。

……ね? ほら、恵里ちゃんにもクッキーあげるから」

 

「わーい、許しちゃう!」

 

現金なことに、アクアのクッキーを食べて機嫌を良くした恵里様はダメ彼氏の俺を許してくれた。

 

「モグモグ……で、なんの話だっけ?」

 

「ハジメの迷宮攻略の話だ」

 

数少ない、ところかひとりしかいない友達を危険な目に遭わせたくないんだがな。

 

ハジメの説得は無駄。

 

本人が自分で言い出した以上、なにをしても意見は変えないだろう。あいつはそういう男だ。

 

パワードスーツの完成まで待たせるのも愚策か。

 

スーツは俺が張り切って協力しちゃったせいでアーク・リアクターの完成待ち状態になっちゃってるからな。そのアーク・リアクターも、もうすぐ完成するってハジメ言ってた。

 

迷宮へ行くのは避けられそうにないな。

 

ならもう開き直って俺と妹たちで恵里ごと守ればいいか。

 

「うん、そうしよう」

 

考えをまとめて遅めの昼食に舌鼓を打つのに専念する。美味い。

 

「たたた、大変だ!!ハク!今すぐ来てくれ!」

 

俺たちしかいない食堂に、誰かが不粋にも転がり込んできて大騒ぎする。

 

しかも訓練中だったらしく、泥まみれだ。

食堂が汚れるだろ。

 

「遠藤か、なんか用か?」

 

こいつは特殊能力レベルで影が薄いが、心音と匂いで気配を探れる俺の感覚は、見えなくても遠藤の存在を感じることができる。それが理由で地球にいた頃から俺たち兄妹は遠藤にやたら懐かれて頼りにされてる節があった。

 

パニック状態で呂律の回らない遠藤に水を飲ませて落ち着かせると、改めて要件を聞き出す。

 

「それで、どんな用事だ?」

 

「檜山が……檜山が南雲を殺そうとしてる!!」

 

兄妹全員が食堂中の椅子とテーブルをひっくり返す勢いで、食堂を飛び出した。

 

 

 

 

 

訓練場では檜山が倒れてる南雲の頭をサッカーボールのように蹴っ飛ばし、血を流す南雲を容赦なく、無慈悲に魔法まで使っていたぶっていた。

正真正銘の殺し合いをしてきた俺だからこそ分かるが、檜山本人は死なない程度に手加減してるつもりだ。だが遠藤や他の生徒にとっては別。

檜山が本気で南雲を殺すつもりで攻撃してるようにしか見えない、それほど苛烈な攻撃だ。

理性の枷がねぇのかてめぇには。

 

「ギャハハハハ!!白髪野郎に守られなきゃなんもできねえ雑魚がよぉ!!」

 

お仲間のチンピラ3人を妹たちが病院送り状態にした八つ当たりを南雲にぶつけてるんだろう。

 

しかも暴行未遂の挙げ句返り討ちにされたのがバレてクラスメイトの治癒師からも助けて貰えなかったらしいじゃん、ざまぁ、非常にざまぁ。

 

「止めろ!!!!」

 

「ひでぶぅぅぅぅ!!!」

 

檜山の顔面にストレートパンチ!相手は顔面崩壊を起こして死ぬ!サヨナラ!

 

「で、出たーー!!にぃにの必殺ストレートだー!!」

 

「効果は抜群だぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

焔とヒョウカがノリノリで実況解説をするのを無視。アクアはそのふたりをガン無視して南雲の治療を始める。

 

「大丈夫? すぐに治してあげるからね」

 

「どこが痛いのか言えるか? 言えないなら代わりに伝えてやるからどこが痛いのか心の中で念じろ」

 

苦しそうに息をしてる。

蹴られた肋骨が2、3本は折れてるようでかなり苦しそうだ。やっぱあいつ殺す勢いで暴行してみたいだな。

 

「焔、ヒョウカ。俺とアクアは南雲を治すからその間そいつを取り押さえろ」

 

「りょっ!」

 

「おっしゃぁぁぁぁあああ!!!任せろおおおおおおお!!!」

 

前歯が折れて仰向けに倒れる檜山の両腕に焔とヒョウカがのし掛かり体重をかける。

焔はともかく、ヒョウカは身長もガタイもあるから重いぞ。

 

動きを封じるのを確認すると、南雲の傷をヒーリング能力で癒す。

この能力は死んでさえいなければどんな怪我も病気も治せる。言うなれば、他人にも使えるヒーリングファクターだ。

 

「よっし、治療完了だ」

 

「そこでなにをしてるんだ!?」

 

ここでタイミングの悪いことに天之河光輝と愉快な仲間たちご一行の登場だ。みんな拍手で出迎えてやれ。

 

「なにって、檜山が南雲を殺す勢いでリンチしてたから止めたんだよ」

 

ちょうど治療が完了して無傷の南雲と、血を流した状態で取り押さえられる檜山。

 

傷付いたまま取り押さえられる加害者の檜山。

無傷の被害者のハジメ。

 

端から見てる分にはどっちが悪者なのか、分かったもんじゃないな。まあいちばんは天之河に話を聞く気がないのが問題なんだけど。

 

「嘘をつくな!! 南雲には傷ひとつないだろうが!!」

 

そりゃお前、たった今、治したばかりなんだから当然だろ。最後まで話を聞いてから判断しろよ。

 

「いま俺とアクアで治療したからな。嘘だと思うなら他のやつにも聞いてみろ。 ここにいる全員が証人だ、ああもちろん、檜山以外だけどな」

 

「どうせお前から檜山を襲って、みんなに嘘を吐くように脅してるんだろ!!」

 

俺のこと嫌いなのは知ってるけど、ここまで話を聞く気がねぇのか。流石にこれは傷つくなあもう。

 

「そうだ、お兄ちゃんに助けを求めてきたのは遠藤くんだよ。 遠藤くんに話を聞けば分かると思うよ」

 

ナイス援護だアクア。

遠藤を連行してこい。

 

「アクア、君は優しいな……。でも悪いことをしたからって兄を庇う必要はない!むしろ身内の恥は身内が正さないといけない!正直になにがあったのか話してくれ!」

 

俺を庇う言葉は全部嘘だと完全に決めつけてやがるぞこいつ。いかれてんのか?

 

アクアの証言を嘘だと決めつけることは、俺に対して以上にアクアに対する侮辱だぞ。ほら、友達を侮辱された八重樫が後ろでお前のこと凄い殺気だった目で睨んでるぞ。

 

「兄ちゃんと姉ちゃんがウソつきだってのかゴラァァァァァァァァァァ!!!!!」

 

ヒョウカが犬歯を剥き出しにして天之河を威嚇する。今にも飛びかかる勢いのヒョウカを坂上と遅れてやってきた恵里が一緒になって「どうどう」と押さえて落ち着かせてる。あ、恵里の親友の親父みたいな性格のチビ助(谷口鈴)も一緒になって押さえてる。

坂上とチビ助の手が触れあってラブコメ空間が生成されてるのクソウケる。

 

「ガルルルルルルルルルル」

 

オオカミか、ライオンか、それともヒョウか。

肝心なヒョウカは飢えた肉食獣のごとき眼光とうなり声で天之河を親の仇と言わんばかりに睨みつけている。ヒョウカは兄妹の中でもアクアのことが大好きだからな。

いちばん大好きな姉を嘘つき呼ばわりされて怒り心頭のご様子だ。

 

白崎は勇者一行ではあるが、口論に混じる気はないらしくハジメに駆け寄って彼の身を案じている。おい、ラブコメ空間Ⅱが形成されてるぞ。

 

坂上と谷口といい、ハジメと白崎といい、二人だけの世界に入り込んでるバカップル多いな。

 

「あーもう、滅茶苦茶だよ」

 

頭が痛いな、うん。

 

「彼は嘘なんて吐いてないわ、私が保証する」

 

意外なことに、八重樫が堂々と俺を擁護する。

これには俺も天之河も眼を見開いて驚いた。

 

「雫!? どういうことだ?」

 

「どういうこともなにも、彼は本当に南雲くんを助けただけなのよ。周りの状況を見れば分かるでしょ?」

 

周りを見渡せば、永山を始めとしたクラスメイトたちの非難がましい視線が俺……ではなく、天之河に向けられていた。四面楚歌なのは俺じゃなくて勇者の方だ。

 

「……ッッ!クソッ!」

 

話はまだ途中だが、天之河は怒ってどこかに行ってしまった。

 

「助かったぞ八重樫、感謝する」

 

「別にいいわよ、アクアにはいつも仲良くして貰ってるからね」

 

八重樫はしれっとした顔で天之河を追いかけていった。多分慰めるのか説教でもするのか、あるいは両方だろうな。

 

 

 

 

 





ハク
主人公。檜山を病院送りにすることで檜山一味全員が病院送りとなった。
ハクからの好感度は
南雲は親友
恵里は普通の彼女
クラスメイトは可もなく不可もなく
檜山は仇敵
天之河は面白いやつ
八重樫は苦労人
妹たちは可愛い

妹たち
個性と感情が豊か。
共通して身内と好きな人以外は興味なし、という実は結構ドライな性格をしてる。
3人ともハクのことが大好き。クラスメイトの一部も好きだからヤバイ時は助けてくれるが嫌いな相手なら余裕で見捨てるタイプ。
実は兄妹で一番情に熱いのは多分お兄ちゃん。

南雲ハジメ
神回避したはずのイベントが再襲撃、代わりに白崎香織とラブコメ展開がやって来る男。

天之河 光輝
ハクのことが嫌い。ハクのことが嫌い過ぎて南雲のことがどうでも良くなってきた。

八重樫 雫
白崎と坂上がラブコメ空間を展開したせいで天之河の暴走をひとりで止める割りを食った苦労人。がんばれ雫、負けるな雫。


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