ありふれてないミュータントは世界最強 作:アメコミ限界オタク
例の広間からイシュタルに案内されて移動した俺たちは、大きなテーブルを囲んで食事の席に着いていた。
「おいおいおい!!にーちゃん!これうめえぞ!!なんかよくわかんねーけど!すげーうめぇぞおおおおお!!」
ヒョウカが大興奮しながら食ってるのは虹色に光ってる変なカエルの姿焼きだ。
そんなものを美味そうに食ってるヒョウカに女子はドン引きし、男子は恐る恐るといった感じでカエルを食い、目を輝かせて食ってる。
相当美味いらしい。俺も試しに食ってみたけど、そこまで美味くなかった。単純に舌に合わないってやつなんだろう。
飲み物も虹色をしてるジュースを飲んでみたが、こっちは果物の味がして美味かった。
兄妹1の食いしん坊のヒョウカはあれこれ口に入れては美味い美味いと騒いでいるのをメイドたちが微笑ましそうに見てる。
隣の席のハジメに聞いてみたところ、あれは子どもを見守るお母さんの目らしい。
おいこら、なに人の妹に母親気取ってんだ貴様ら。
「すみません、この食材はなんていうんです?」
アクアは本物のメイドと未知の食材に興味津々で、食事そっちのけでメイドたちに色々質問責めにしてる。
「zzz……」
焔は食事をさっさと済ませていつも通り昼寝中。
平常運転の妹たちに影響されたのか、動揺していたクラスメートたちも落ち着きを取り戻しつつある。
全員の腹が満たされたところで、イシュタルというジジイが本題に入る。
「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され」
始めったイシュタルの話は、実に魔法チックで、どうしようもなく自分勝手な内容だった。
詳しいことは……まあ原作を読め、とあの英国淑女のようにかっこつけて見る。
原作ってなんだ??
まあいっか。
魔人が魔物を兵器として利用しているのは、なんとなくこの世界の魔物に昔の自分を重ねるみたいで俺は少し嫌な気分になる。
魔人への評価が少し下がった。
「ヒョウカだけにってか、にーちゃん!」
やかましいぞヒョウカ。
「あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人類が崇める守護神にして唯一神。
そして、この世界を創られた至上の神。
勇者として選ばれたあなた方には力が与えられています。どうかそのお力でこのトータスの人類を救って頂きたい」
イシュ……なんだっけ、名前忘れちゃった。とにかくサンタクロースみたいな髭をした偉いジジイはどこか恍惚とした表情を浮かべて話してる。
神託を聞いた時のことでも思い出しているのだろう。エヒトの正体は上位世界で到達者と呼ばれる領域まで魔法を極めた人間であり、ただの自称神に過ぎない者であり、つい先ほど俺がぶっ殺したチンケな存在なのに。
バラして見たいけど、今ここで「エヒト殺した」って言ったら絶対ろくなことにならないから黙ってることにする。
なにせ、この世界の人間はほぼ全員がエヒトを崇めているらしいのからな。
イタズラ感覚で人類を敵に回すのは勘弁だ。
そしてジジイの話がまだ途中なのに、悠然と立ち上がり猛抗議する人物が現れた。
愛子先生だ。
「ふざけないで下さい!!結局、この子達に戦争させようってことでしょ!!
そんなのこの子たちの!先生として!!私は絶対に許しません!!!
私達を早く帰して下さい!」
怒る愛子先生。今年で二十五歳の社会科教師で、小さな体で生徒のため必死に頑張る彼女は生徒からの人気と信頼は非常に高い。
愛ちゃんというあだ名をヒョウカに付けられてそれがクラスに浸透して親しまれているのだが、本人はそう呼ばれるとキレる。
威厳ある教師を目指しているからだ。
ちなみにあだ名に関してはヒョウカをちゃんと躾られなかったという責任から俺も怒られた。
正直、すまんと思ってる。
今回のことも、理不尽な召喚に怒って真っ向から異を唱えられる勇敢で信頼できる良い先生だ。
「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」
場の空気が凍った。
重いプレッシャーに押し潰されたように、大半のクラスメートは何を言われたのか分からないという表情でジジイを見てる。
「そ、そんな……」
力の抜けた先生が腰を落とす。
周りの生徒達も口々に騒ぎ始めた。
「帰れないってなんだよ!帰らせろよ!」
「嫌だ、戦争やだ!」
「冗談じゃない!俺は家に帰らせてもらう!」
おい最後のやつ、物語だったらそのセリフを言ったやつは高確率で死ぬってハジメが言ってたぞ。
みんなパニックになってる。
妹たちは平然としてる。幼少期の生い立ちや能力を考えれば元の世界から迎えが来るまでの間、この世界でも十分生きていけるものな。
恵里はというと、俺の服をぎゅっと掴んで震えていた。怖いみたいだから頭を撫でてエンパスで心を落ち着かせる。
ハジメは……案外平気そうにしてる。
海外旅行もひとりだけ興味無いって言ってたし、巻き添えにするのは悪かったかな、と思ってたけどこの様子なら大丈夫そうだ。
そういえばあいつ、こういうパターンの作り話をたくさん読んでるんだっけ?
だから平気なのか。
ジジイにテレパシーを使うと「エヒト様に選ばれたことをなぜ喜ばないのか?」という意思をはっきりと感じ取れる。
こいつぁ、クレイジーだぜ(ドン引き)
未だパニックが収まらない中、誰かがテーブルをバンッと叩いた音がする。
天之河だ。
なにやら面白いことになってきた、とワクワクする。
全員の注目が集まったのを確認すると天之河はおもむろに話し始めた。
「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。だってどうしようもないんだ。
俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機に瀕してて、それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに人間を救うために召喚されたのなら救済さえ終われば無事に帰してくれるかもしれない!」
もうエヒト死んでるから無理だぞ。
ていうかあのサンタ擬き、名前イシュタルだったのか。
「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」
俺エヒトの心読んだけど、あいつ帰す気なかったっぽいぞ。ついでに言うとお前の体乗っ取るつもりだったから俺様にお辞儀をするのだポッター。
「それに、俺達には大きな力があるんですよね?ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」
「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」
俺はそんなの感じないぞ。妹たちにも聞いてみる。
「ホムラはなんもないぞ~」
「私もなにも感じないよ」
「おっしゃぁぁあ!!!!良くわかんねーけど強くなってんのかぁぁぁぁぁ!!」
約1名、微妙にわかり辛い返答が来てるが、少なくとも強くなった実感はないらしい。そしてもうちょい声抑えろ。
「うん、ヒョウカだってああ言ってるし大丈夫だ。他の皆にも強い力があるはずだ!俺は戦うぞ!人々を救い!皆が家に帰れるように!世界も皆も救ってみせる!!」
ギュッと握り拳を作りそう宣言する光輝。無駄に歯がキラリと光る。
ヒョウカのややわかり辛い返事は都合良く受け取られたらしい。強くなった実感湧かないって意味なのにね。
同時に天之河のカリスマは遺憾なく効果を発揮された。
絶望の表情をしていたクラスメイト達は活気と冷静さを取り戻し始めている。光輝を見る目はキラキラと輝いておりまさに絶望の中の希望とを見る目だ。女子生徒の大半はお熱い視線を送っている。
……ここで実はもうエヒト殺したから帰れないとネタバラシしたいが、どうせろくなことにならないので自重する。
それに、帰る方法は用意してあるからな。
問題なのはその迎えがいつ来るかだ。
未来視によると今から大体1年後の未来、その時間に同胞たち……あのヘルメットの人やハゲの人の仲間が迎えに来ることになってる。
エヒト殺したせいでお前ら全員1年は帰れないからwwww、なんて言ってしまえば暴動もんの大騒ぎだ。
「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。俺もやるぜ?」
「龍太郎……」
「今のところ、それしかないわよね。……気に食わないけど……私もやるわ」
「雫……」
「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」
「香織……」
いつものメンバーが天之河に賛同する。
後は当然の流れというようにクラスメイト達が賛同していく。愛子先生はオロオロと「ダメですよ~」と涙目で訴えているが天之河が作ったこのビッグウェーブの前では無に等しい。
その勢いで大半のクラスメイトが戦争に参加することを表明してしまった。
流れに任せて参加を決めたクラスメイト達は、戦争をすることどういうことなのか、恐らくはわかってない。俺のような超人兵器として産まれたやつならともかく、普通に産まれて育った連中に人殺しは無理だろう。
多分、どこかで精神崩壊を起こすはずだ。
……今のうちに止めておくか。
そんな風に考え事をしていると、ふと視線を感じて顔を上げる。イシュタル爺の視線が俺と妹たちに向いていた。
「どうしました?まだ参加を誓っていないのはあなた達だけですよ」
愛子先生はまだ参加を決めかねている俺たちを最後の希望にすがるような眼で見ている。
その目は「戦争、ダメ、絶対」と訴えているのがエンパスやテレパスを使わなくてもわかる。
妹たちは今までの経験から俺が方針を決めるのを待っているようだ。
「兄妹を代表して言います。俺はこの戦争への参加には条件を付けたい」
「それは、如何なる条件ですかな?」
イシュタル爺も偉大なる神に選ばれし救世主である勇者様方をタダで戦わせるつもりは無かったのだろう。
案外すんなりと話を聞いてくれる。
「あいつマジ空気読めないよな」
「光輝くんが戦うって言ってるのにどうして和を乱すのよ……?」
「あいつだけ死んでヨシッ!」
おい、全部聴こえてるぞカス雑魚どもが。
妹たちにも聴こえていたらしく、三人とも眉間にシワが寄ってる。
ここでキレずに抑えてるのは偉いぞ、後で存分に撫でてやる。
「まず、俺たちの身の安全と生活の保証。
それから性格や能力的に戦闘に向いてないやつを前線投入することは止めて欲しい。
無論、戦闘に向いてるやつでも本人がそれを拒んだ場合もだ。
それと……戦闘で心や体に負ったキズをしっかりケアすること。この4つだ」
「良いでしょう。しかし、戦闘に向いている者を戦わせない、というのは流石に飲めませんな。あなた方には人類を救うため戦って貰わないといけないのですから」
「ならそれでもいい」
天之河は何か言いたげな憎々しい目で俺を見ているが、クラスメイトの安全に関わることだと分かっているから何も言えない感じだった。
こうして俺たちの異世界生活……じゃなくて異世界家族旅行1日目は終わるのだった。