変身者たち   作:Mk.Z

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変身者たち・前編

 □■レジェンダリア・<シャルル雨林>

 

 初めは、茂みがガサガサと揺れたことからだった。

 月は隠れていた。夜の厚雲はただでさえ暗い闇を更に深くしていたが、そんな闇の中でも蠢くものがいる。

「……静かにしろ!」

 低く、鋭い声が響いた。声の主は思ったより大きな反響に驚いたように口をつぐんだが、辺りに物音が無いことを確かめると、また小さな声で話し出した。

「愚図め」

「そんなこと言われても、困るよぉ」

 もうひとつの困り声。そして鈍く肉を殴る音がして、茂みがまた揺れる。

「声が大きいんだよ」

 怒りで人を動かすことに慣れているのだろう、暴力的な声は囁き程度であっても十分にどすが効いていた。

「ただでさえ耳のいい奴らだろ、いいか、心臓の音だって鳴らすんじゃねえぞ」

「そんな……」

 愚図と呼ばれた困り声は口をつぐんだ。怒り声の主はまた黙り込むと、ゆっくり、用心深く、茂みを掻き分けた。

 実際その手腕は見事なもの、葉擦れの音すらしなかった。単純な漆黒ではなく、夜の森に溶け込むよう深緑や赤を配した衣からは、こういった忍び足に習熟していることが伺える。

「……いた」

 困り声、小太りの男がその後ろで遠くを見て呟き、そして痩躯の男に睨まれる。その視線の先には、夜を退ける炎が灯っていた。篝火だ。明々と燃える火の周りには、黒々と人影が見える。

 痩躯の男は、彼にとっては貴重この上ない薄青の【ジェム】を取り出すと、静かに地面の上へ置いた。【空振術師】の術が込められた宝石は、速やかにその結界を吐き出した。

「……もう喋っていいかい、兄貴」

 小太りの男はへらへらと笑い、そして兄貴と呼ばれた男はその顔をまた殴り付けた。

「ひぃ、ひぃ、殴らないでくれよぉ!」

「そりゃ結構な台詞だなァ、バンチよ。お前がへましなけりゃ殴らねえよ」

 セルペというその男は顔を歪めて言った。

「この結界は中からの音を消せる、おまけに使える術師も多くねぇから対策も打たれにくい。だから今のうちに言うんだ、バンチ」

 セルペがバンチの首根っこを掴む。

「俺が言っておくのはな、この仕事にゃ心してかかれって話だ、いいか?伝説の“変身種族”を捕まえりゃ……実在を証明するだけでも金を出す奴らはごまんといる!」

「あぁ、分かってるよぉ、セルペ兄」

「分かってねえよ。いいか、お前はこの【ジェム】持って向こう側へ回るんだ。こっちじゃねえぞ、向こう側へ、だ!」

 セルペはひそひそ声で怒鳴り付けた。

「ゆっくり慎重に行くんだ、目で見られてバレねえようにな。術はあと一分と少し続く、それが切れるまで茂みの中で座ってろ。《カーム》が切れたらあの明かりに向かって走れ、喚きながら走れ!得意だろ、いつものやつだ、死にかけの豚みたいに泣くんだ!」

 バンチはその大きな鼻を揺らして頷いた。セルペは箱メガネのような硝子が嵌められた兜へ剃りあげた頭を押し込みながら続けた。

「お前は陽動だ。俺が一人捕まえて、良いと言うまで続けろ。そら、行け!」

 セルペがバンチの尻を蹴りあげ、哀れなバンチは逆位相振動結界の術を携えて歩き出した。セルペは音もなくそれを見送ると、身なりを整え、手元の大きな袋を構えた。

 人攫い御用達、レジェンダリアの裏の人気商品だ。叫び声さえ上げられぬままに袋へ吸い込まれた人間は抵抗も許されず閉じ込められる。満足度九割九分を誇る逸品である。

 時計を見る必要は無かった。闇の中で時を窺うのは慣れたものだ。きっかり一分と十三秒、あと十秒ほどでバンチが暴れだすだろう。

 身体は微動だにしていない。森を揺らす夜風と完全に一体化している。

 だが、セルペは顔をしかめた。

 音がしない。既に《カーム》の【ジェム】は力尽きているはずだが、バンチの陽動が聴こえてこない。

 篝火は相変わらず燃え盛り、それを囲む人影も陽気に揺れていた。セルペは思わず舌打ちをするところだった。

(バンチ!あの愚図が!)

 暗闇に目を凝らす。どこかで蹴躓いているのかとバンチのいる方を窺って……

『だめだよ』

セルペは思わず身震いした。

 隣には音もなく、いつの間にか黒犬が座っていた。引き締まった体躯、すらりとした耳。見るからに猟犬だ。その顎が動き、もう一度声が響いた。

『だめだよ』

(こいつが!)

 セルペはぞっとした。犬の口が動くと共に、若い男の涼やかな声が流れてくる。犬の黒々とした瞳には、確かに知性の光が感じられた。

(バンチはやられたのか?この、こいつらに!)

『……君の仲間は向こうで寝ている』

犬は穏やかに言った。

『この森は幻影と汚染に満ちている。君もすぐに眠る』

「ハッ!親切だな」

 とうとうセルペは吐き捨てた。

 精神干渉避けのお守りは懐に入っている。頭はしっかり澄んでいた。

(気味の悪い……本当に犬じゃねえか)

 兜に鋳込まれた《看破》で眼前の猟犬を覗く。現れる文字は何から何まで犬のそれだった。

『おれたちを捕まえる?』

 ふと、犬は尋ねた。その首がまるで人間のように傾く。

『捕まえる?』

「そりゃ違うぜ、犬モドキ!」

 セルペは高らかに叫んだ。

「このノロマが!既に!捕まえてんだよォ!」

 そう言うや否や、犬の足元に広げていた袋をセルペはがばりと持ち上げた。地竜の皮で造られた袋は犬の全身を被い、頭から吸い込んだ。

「はは!一匹丸々!これで大金持ちだ!」

 セルペは歓喜に震えた。空想上の産物だと思われていた“変身種族”だ。長らくロストしていた、存在さえあやふやな系統の生き証人。情報としては千金の価値がある。

「あのハイエルフめ!しこたま金を用意して……」

『だめだよ』

 セルペが硬直する。一瞬の後、袋をズタズタに引き裂いた犬の牙が唸り、セルペの右腕に食らいついた。

「お、おお!」

 セルペが喚き、猟犬が血塗れの腕を放す。痩躯の男は地面をのたうち回り、叫んだ。

「何故だァ!あの【ジェイビー・モートン印の人攫い袋】だぞ!人間範疇生物なら間違いなく……!」

 そこでセルペは自分の間違いに気づいた。《看破》は正常に働いている。

 考えるべきだった。【人攫い袋】ですら非人間範疇生物だと認識するレベルのーー

「……変身種族」

 そこでセルペの頭はぐらりと揺れた。気が遠くなり、視界が歪む。四肢の感覚が消えていく。

(<シャルル雨林>の呪い……こんなにも……)

 それでも、とセルペは足掻く。霞む目の端で、揺れる篝火と廻る宴を見つめ、手を伸ばした。

(くそ、こいつらを、こいつらを捕まえりゃあ、借金もチャラに……)

 そして、セルペは愕然と手を落とした。さっきからずっと見えていたこの篝火が、人影すら、この森の呪いが見せた幻だったと気づいたからだ。

「なん、だ、初めから、幻……」

 その言葉を最後に、セルペは昏倒した。精神系の呪い避けをいよいよ貫通した森の呪いによって。

 

 ◆

 

『アパシハ』

 その声に、猟犬は素早く振り向いた。

『ガラシュリ。周りは?』

『後詰めはない。その二人だけだ』

 現れたのは、土色の毛を蓄えた大猿だった。肉厚の掌が太い枝を掴み、樹上から犬……アパシハを見下ろしている。

『どうするつもりだ?』

『どうもこうもないよ』

 猟犬が静かに言う。その影が、溶けるように揺らいだ。

 前足が伸び、後ろ足が伸び、背中が盛り上がる。鼻が即座に縮み、耳が側頭部へ動いていく。眼窩が広がり、皮をなめした衣服が現れる。全身を包む毛皮は皮膚に吸い込まれていき、ズラリとならぶ牙は短くなる。三秒ほどの後、そこには浅黒い肌の若者が立っていた。

 引き締まった手足は長く、その先には()()()()がある。細い髪は赤みの混じった黒。耳には青銅のピアスが食い込んでいる。黒い瞳を湛える眼は顔に比して大きく、キョロキョロと臆病そうな印象を与えていた。

「森の呪いが効いてる。目が覚めても、記憶は混濁してるはずだ。おれたちを思い出すことはない」

『このまま夜の獣に襲われたとて、それもこいつらの運命か』

 大猿のガラシュリが頷く。枝を放して飛び降りた大猿は、湿った土を踏む時には既に人の姿へ戻っていた。

 森は彼らの領域であり、同時に彼らを隠すゆりかごだ。外界の不躾な視線がこの森を犯し、彼らを捉えることがあってはならない。

 さっきまで犬だったアパシハもそれを知っている。だからこそ、彼は眼前のガラシュリに尋ねた。

「ヘシリンシは?」

「あの馬鹿は相変わらず仕事ができない……が、少し嫌な知らせがある」

 頭を剃り上げた筋骨隆々の男、ガラシュリは苦々しげに言った。アパシハが少し曲げすぎだと言えるほどに首を傾げる。

「ヘシリンシの知らせ?また町で女に振られたとか?」

 ガラシュリは首を振った。

「長老に知らせる。お前もその場で聞け」

「わかったよ」

 アパシハは立ち上がり、人の姿のまま歩き出した。ガラシュリもまた、人の姿を留めたままその後を追う。彼らの住処へと戻るためだ。

 二人は落ち葉を踏み、いつも通り二股に分かれたスモーキー・ツリーを探した。煙のように細く広がった葉はすぐに見つかった。その二股を踏み越えると、二人の身体は忽然と消え失せ、足音すらも残らなかった。

 

 ◇◆◇

 

 ■“変身種族”

 

 噂というものは常に存在する。技術と思想が進み、文明が発展し、偉大なる帝国が栄え、そして最後に滅び去っても、そんなことには関係なく人は不確かなものを囁き合う。

 ここ、魔法と亜人のひしめくレジェンダリアにおいてもそうだった。不確かな噂がある。国家に潜む刺激的な陰謀や、海嘯に没した伝説の都、あるいは日々の暮らしに根差した下らないご近所話。

 その中でも、森に住まう怪しげな民にまつわるものは多い。色とりどりの種族によって組み上げられた国であるがゆえに、種族への偏見を抱かずにはいられない。

 そして、ここ<シャルル雨林>においては、人に知られぬ民の棲む隠れ里があるというのが人気の噂話だった。

「森には、獣に変身する一族がいる」

 <シャルル雨林>が呪われた森だというのもこれを後押しした。呪い避けを身に付けてもいずれ意識を失い、忘却に侵される。自然、その詳細な地理さえ把握は困難になる。

 時折、向こう見ずや夢想家が森に入る。“変身種族”を見つけるためだ。そして、昏倒したまま森の獣の餌になるか、あるいは何の収穫もなく馬鹿として嗤われる。そして人は口々に言う。「噂は噂さ」と。

 だが、噂にも真実は含まれるものだ。水浸しの<シャルル雨林>の奥には確かに隠れ棲む民がいたし、彼らはおしなべて不思議な力を備えていた。

 

 獣へと変身する力を。

 

 彼らはその力を隠している。知られることは赦されない。呪われた森に潜み、息を潜めて暮らす。十やそこらではない、一族郎党のひとつが隠れ棲んでいるのだ。

 そしてその民は今、とある危惧を抱いていた。事と次第によっては一族の存亡に関わる危惧だ。それを話し合うため、<シャルル雨林>の奥深くでは“変身種族”の一族がひとつところに集結しつつあった。

 

 ◇◆◇

 

 □■レジェンダリア・■■■・中央

 

 森の木陰、広場のように整えられた場所へ、皮の着物を着た人間たちが集まっていた。老若男女が輪を描くように幾重にも座り込んでいる。その全員が浅黒い肌と六本指を持つ“変身種族”だ。中には、鳥や獣の姿も交じっていた。

「それは確かかえ」

 老人が嘆くように言う。ガラシュリは前髪を弄くっているヘシリンシを引きずると、柔らかな砂の上に投げた。

「ちょっと!」

 ヘシリンシがその長髪を揺らし、歯を剥き出して威嚇する。引き締まった手足が苛立たしげに砂をはたいた。

「ヘシリンシ」

老人は静かに言った。

「説明せい。お前の聞いた話をな」

「だからァ、ガル兄に言った通りだってばァ!オレが酒場で飲んでたとき、隣の女の子と良い感じになってさ……」

 ヘシリンシは楽しみを思い出すように笑いを噛み殺した。

「青に銀色を混ぜたみたいな綺麗な髪でさぁ……それで、手の甲にね?紋章が入ってたんだ、まるで夏の空みたいな綺麗な青で……」

「本題に入れ、ヘシリンシ」

 ガラシュリがため息混じりに言う。無言のアパシハがその後ろでにやにやと笑った。ヘシリンシは続けた。

「……その娘が言ったのさ。自分は<マスター>だって」

「伝承にあるあれか」

 老人、名をヨベルバムレクという一族の長は唸るように言った。

「……ベルシルタ」

『不死の人間だえ』

 ヨベルバムレク老が俯くのに応えて、掠れた老婆の声が響く。ずりずりと乾いたものを引きずる音がした。

『【猫神(ザ・リンクス)】。たとえ頭を潰されようと、二人目が来る。火達磨にしようと、三人目が来る。百人殺せど、三日で甦る』

 そう、ヨベルバムレクの傍らで話していたのは、緑色の蟒蛇だった。人間一人容易く飲み込めそうなその大口は、定められた役目通り、先祖より伝えられた物語を綴っていた。

「語り部のベルシルタ婆よ、それが再び現れたと?」

『今上の【猫神】はギデオンにいるときく。若い男だそうだ』

 蛇のベルシルタは続けた。

『<マスター>は世が乱れたとき、何処からともなく現れる。果たして、いかなる兆しか……』

 億劫そうに身を丸め、再びまどろみに沈む蛇を尻目に、ヘシリンシは言った。

「オレも気になったからさぁ、その娘に聞いてみたのよ。なんでも、先月始めた?らしいんだけど。何を始めたんだろうね?」

「この阿呆が要領を得ないので俺が引き取りますが」

 ガラシュリが一歩前に出た。

「<マスター>というのは、死んでも甦る。そして、ここが肝心なことだが、彼らの精神には幻が通じない」

 一同が一拍遅れて息を呑む。長が深く息を吐いた。

「ガラシュリ、それは……」

「ええ。我らの存在を知られたら誤魔化しようがないということです」

 森の呪いはあらゆる外来者の意識を蝕み、記憶を荒らす。夢現は不確かに、混ざりあってしまう。しかし、<マスター>は昏睡や幻惑されこそすれ、その精神を本質的には侵されることがない。

「今までのよそ者は全て我らのことを忘れて帰ったが、もし<マスター>が踏み込んできたのなら、記憶を壊すことはできない。これは我ら一族の掟を脅かす事態だ」

「おまけに、口封じもできん、か」

 ヨベルバムレク老が髭を捻る。

 <マスター>は不死だ。たとえどんな死にかたをしても三日経てば復活する。

「……どちらにしても、人殺しはごめんだね」

 アパシハは呟いた。

「そんなのは勝手すぎる」

「では、“ラ”の掟を喪うか?」

 ヨベルバムレク老は鋭く言った。

 彼らにとって、存在を隠すことは掟だ。合理や損得ではない。守ることに意味のある、強固な古来の掟なのだ。

「アパシハ。丁度良い、お主、町へ行って<マスター>とやらがどれ程いるか、我らの存在が露見しておらぬか、見てこい」

「それは……」

「お主も既に若衆だ、不足あるまい」

 アパシハは不承不承頷き、そしてにやにやと彼を見つめるヘシリンシの足を勢いよく踏みつけた。お調子者が飛び上がる。

「……ヘシリンシ!」

 老人が再び口を開く。ヘシリンシは呆けた顔で、長を見つめた。

「お前も行け。町には詳しかろう。アパシハと二人で、町の様子を探ってこい」

 にやりと笑ったアパシハを、ヘシリンシは蹴り飛ばした。

 

 ◇◆◇

 

 □■“酒の町”シャルル

 

 シャルルの町はいつも通り賑やかだった。道端で妖精の男がひょうきんに踊り、ドライアドが果物を売り歩いている。アパシハはその売り物を眺め、鼻を鳴らした。

「大した代物じゃないな」

「お前さ、黙ってろよ」

 ヘシリンシが睨む。アパシハは眼を逸らした。

 二人が身に付けているのは普段の衣ではなく、ある程度都会的なレジェンダリア(びと)の服装だ。その首元で、異様に長い襟が風に揺れている。アパシハは嫌そうにそれを摘まんだ。

「これ、邪魔だよ」

「お馬鹿!これが今の流行りなんだよ」

 ヘシリンシはその色鮮やかな長襟を誇るように見せつけた。まるで羽を広げた鳥のようだった。アパシハはそれを無視して、ふと言った。

「……にしても、本当にいるんだな」

 アパシハの瞳は動かない。視界の中にある雑踏をぼんやりと眺めている。左手に紋章のある人々がそれに混じっていた。

 一人や二人ではない。探せばすぐに見つかる、という程度だ。そしてその動きは、アパシハにとっては少し奇妙だった。

(好奇心。興奮している。余所から来たからか……?)

 見るものすべてに珍しさを感じている、そんなふうだ。

(そもそも奴らはどこから来たんだ?そこの話が全く伝わってこない)

 人間が無から湧くはずもなし、とアパシハは首をかしげた。かの<マスター>、シュレディンガーとて二人の強者が隠れると同時、姿を消したという。

「アパシハ!」

 ひとり思考に沈むアパシハを、ヘシリンシの頓狂な声が引き戻した。前髪を弄くるのが好きなお調子者は、いつの間にか目の前にはおらず、少し遠くで知り合いらしき女の肩を抱き、へらへらと手を振っていた。

「オレは用事がある」

 アパシハは無言で舌打ちした。ヘシリンシの女好きにも困ったものだ。

「お前は……まぁがんばれ!じゃあな!」

「ふふ、良いの?友達じゃないの?」

「良いんだよ、キミの方が大事だし、あいつはあんな扱いで……」

 遠ざかっていく二人に、アパシハはため息をついた。浮かれ足のヘシリンシの横で、短めの蒼い髪が揺れていた。例の<マスター>の女らしい。それならそれで、使命の言い訳も立つだろう。

 さりとて、アパシハに方にこそ策があるわけでもない。調べろ、と言われたところで何か当てがあるわけではない。

(おれはヘシリンシのように不真面目じゃなかったからなぁ)

 アパシハは数秒考え込むと、道端のドライアドに眼をやった。

「……何さ」

 ドライアドは一瞬で気づいた。アパシハは思わず笑ってしまった。

「目敏いね」

「良いだろ!」

 ドライアドは不満げに叫んだ。

「さっき!あんたがあたしの商品を馬鹿にしたのも知ってるからな!」

「それは悪かったよ。お詫びに」

 そう言うと、アパシハは懐から金属の塊を取り出した。鈍く光るそれをドライアドはうろんげに見つめた。

「その目敏さを買う。情報料だ」

「あたしらは鉄を使う民じゃない。木々と花の民だ。こんなもの……」

「いらない?」

「貰っとくよ!」

 古代伝説級金属のインゴットを素早く仕舞い込むと、ドライアドは言った。

「で?」

「<マスター>だ」

「具体性に欠けてるね。どいつだい?」

「全部だよ」

 ドライアドは仕返しするように鼻を鳴らした。

「田舎者かい?一月も前から、<マスター>はたいそう増えてるよ。霊都じゃ不動産がかなり儲かってるらしいね」

 その言葉には、隠すつもりもないのだろう、少しだけ棘があった。アパシハが尋ねる。

「あんたの印象は?」

「いけすかないやつらさ!」

 ドライアドは舌を出しながら器用に言った。

「あたしを非人間範疇生物(モンスター)呼ばわりしやがった!不死身だからって調子に乗ってるのさ」

「そりゃひどいね……それで」

 アパシハが声を低くする。

「……死なない、っていうのは?」

「大マジだね」

 ドライアドは言った。

「家の屋根から落ちて首を折ったドジがいたがね、三日経ったらピンピンしてたよ。おまけに精神系の術も効かないね」

 そこだ!アパシハはピクリとも顔を動かしたりはしなかった。ドライアドが話すに任せる。

「……なんでも、身体は操れるんだがね。頭の中身までは弄れないよう守ってやがる。強い術だよ、当代の【忘却王】でも貫けなかったそうだ」

「あぁ、面白い話だったよ」

 アパシハが笑う。その手がもう柔らかすぎるレムの実をつまみ上げた。ドライアドが喚く。

「リル!」

「さっきので釣りが来るだろ?」

「まぁ、良いわさ。まけといてやるよ!」

 ドライアドがはたくように手を振る。その顔がふと、面白がるような色になった。

「しかしさ、なんだってそんな流行遅れの襟なんだい?」

 アパシハは無言で、その忌々しい首元の襟を引きちぎった。

 

 ◇◆◇

 

 路地を小人が走っていた。よく見ればそれが【人形師】の使い走りだとわかる。カタカタと継ぎ目が揺れていた。それを壁にもたれるアパシハの、ぼんやりした視線が追う。

 アパシハが集めた情報は、どれも似たり寄ったりのものだった。

 <マスター>は不死である。正確には、死んで消滅したとしても三日で蘇生する。また、その間の肉体がどこにあるのかは分からない。

 しばしばその姿を消す。これは隠蔽などではなく、この世界のどこにも存在しなくなるのだという。少し前から始まった出現もどこから来るのかは不明だ。

 <マスター>を真に洗脳することはできない。その記憶や人格、痛覚は保護されており、苦痛による拷問等も効果を発揮しない。

(つまり、おれたちの森に侵入して知らせを持ち帰ることも出来る……記憶は消せない)

 結局、分かりきっていた絶望的な結論を補強しただけだったらしい。一族は大慌てだろう。

(救いなのは、奴らがどれも弱いことだ。最も、不死なんて能力を持った人間が弱くなきゃ変だけど)

 アパシハも《看破》は使える。<マスター>はレベルが低く、動きも甘い。アパシハでも戦えば倒せることは倒せるだろう。

 リソースは有限だ。不死や精神保護の能力のせいで“才能”の上限が低い人間の変種なのだろう、とアパシハはひとまず結論を出した。

(そこだけが狙い目だね。見られずに殺す。難しいけど、やりようはある…………ッ!)

 心地よい思考の海から引き揚げられ、アパシハは息を呑んだ。一瞬遅れて、全身を熱と寒気が襲う。

「これ……!」

 目の前には、貼り紙が貼られていた。粗末な紙だ。おそらく何十枚と町にばらまいたのだろう。魔法の貼り紙には、大きな文字でこう書かれていた。

 

『急募。<マスター>限定。<シャルル雨林>の変身種族の手がかりを捜索する依頼。連絡したい方はこの貼り紙にお尋ね下さい』

 

(遅かった……!)

 アパシハは思わず舌打ちをした。

 状況は既に動いている。どこかの誰かが思い付くことは当然の成り行きだ。こういう試みをこそアパシハたち、“ラ”の一族は恐れていたのだ。

「おい、貼り紙!」

 アパシハは狼狽を出来るだけ隠しながら言った。

「依頼者は?」

 貼り紙が揺れる。その端に描かれていた馬の絵が突如、朗らかに大口を開けて話し出した。

『Gi!連絡は【アンダーソン・カフェ】!貼り紙を見たと仰ってください。募集は今日の正午まで……GaGa!?』

 アパシハが貼り紙を引きちぎり、御用聞きとして紙に漉き込まれた哀れな“音”のエレメンタルが断末魔を上げて揮発する。アパシハは紙屑を握り潰すと、首元の金属片、植物のレリーフを持つ小さなネックレスに唇を当てた。

 そのネックレス……もとい、金属で出来た小さな笛が小さく澄んだ音を鳴らし、アパシハは満足げに頷いてから言った。

「《変身(メタモルフォーゼ)》」

 空気が動く。落ち葉がかさりと音を立てる。アパシハの【人探しの笛(アゲンスト・ゲイザー)】が教えた通り、それを見ているものは誰もおらず……次の瞬間、そこには黒い艶やかな毛並みの猟犬が立っていた。

 

 ◇◆◇

  

 □■【アンダーソン・カフェ】

 

 このカフェは喫茶店でもあり、同時に依頼の仲介所としても使われていた。店内は薄暗く、妙に扉が多い。床では床板から這い出した植物のエレメンタルがつまらなさそうに頭らしき部分を揺らしていた。

 客はテーブル一つ、三人だけだ。知り合いでもないのだろう、談笑はない。

「……自己紹介は?」

 まず会話の口火を切ったのは、白い服の女だった。まるで令嬢だ。純白の釣り鐘帽(クローシュ)を被り、日傘を携えている。右手には【ジュエル】、左手には青と銀の紋章があった。その髪も青みの入った短い銀髪だ。

 ヘシリンシの遊んでいた女。<マスター>の女である。

「わたしはマライア・スキルフル。【奴隷商】よ。宜しく?」

「……《看破》で良いだろう」

 その向かい、鎧を着込んだ男が低い声で言った。

「わざわざ紹介などする必要があるか?」

「大有りよ。礼儀と社交、大事ではなくって?ねぇ、【苦行僧(サドゥー)】ファウ・ザ・!(エクスクラメーション)さん?」

「ひゃひゃ!その名前で自己紹介無しってのは酷だぜ」

 その隣、足を崩していた野卑な男がファウを指して笑う。無精髭に軽装の装備。手元には緑色のガラス瓶が携えられていた。

「俺は【女衒(ピンプ)】。バーニングボルボックスだ。ボックスと呼んでくれ」

 ボックスは歯を剥き出して笑うと、得体の知れない液体の入った瓶を呷った。

「宜しくな、ミスター“!”。ところで時計が止まってるぞ」

「あぁ」

 針の止まった腕時計に目をやることもなく、ファウは沈黙した。マライアが不満げに頬を膨らませる。

「無愛想だこと。ねぇ、ミスター・ボックス?」

「ちげえねぇ。俺たちは愛想よく行こうや」

 油っぽい髪をかきあげて、ボックスが情熱的な眼をマライアに向ける。マライアがそれを躱して窓の外に眼をやった。

 

『会話は弾んでいるようで何よりだ』

 

そして、卓上の石ころが話し出した。

「……何よ?」

「石のエレメンタルか?」

「……」

三者三様の反応に、石ころが笑う。その上品な笑い声に、マライアが眉を潜めた。

「どちら様かしら?」

『そうだな、端的に行こう。雇い主だ』

 その言葉に、三人の空気が変わった。より真剣味を増した三人をいかにして感じ取ったか、石ころも真面目な口調になる。

『この石は【空振術師】が魔法を掛けたものだ。対になる石の“振動”をコピーして共鳴する……《振話(レゾナンス)》と呼ばれている。マイナー極まりない上に非効率な通信手段だが、通信魔法より傍受されづらいという利点があってね』

「で、私たちは何をすればよいのかしら?」

 マライアが冷静に尋ねる。【共振石】越しに、雇い主は答えた。

『貼り紙はご覧になったかな?そうだろうね。報酬や何かは明記してあったろうから、ここではより効率的な話をさせて貰おう。君たちの任務の詳細は、“変身種族”の調査だ』

「……そこについて、二、三質問がある」

 ファウが石を見つめた。

「“変身種族”とは、そういう亜人型モンスターがいるという認識で正しいか?」

『答えは“いいえ”だ、【苦行僧】』

 雇い主は否定した。資料をめくるような紙の音が通信に混じる。

『文献によれば、彼らの力……非人間範疇生物への変身能力は千年前にロストした職能(ジョブ)によるものだ。系統名は……【憑戦士(シャーマン)】』

「変身するのは、例えば狼とかかしら?」

『そうとも限らないようだ。大蛇や豹に変身した人間の例が残っている』

 マライアがそれを聞いて笑みを浮かべ、手帳にペンを走らせ始める。雇い主は鷹揚な声で話し続けた。

『場所は<シャルル雨林>だが、あそこは森そのものが呪われていてね。踏み込めば、精神系の状態異常に罹患して行動不能になる。記憶喪失になった調査員が後を絶たない。そこで君たちだ』

「<マスター>の精神保護だな?」

 ボックスがへらへらと言う。

「最悪死んでも情報は持ち帰れる。結構な話だな、捨てゴマじゃあねぇか」

『意外だな、死はやはり不快なのかね?』

 雇い主は本当に驚いたのだろう、少しだけ声を揺らしていた。

『不死者だというのに。命など捨てて平気だと思っていたよ』

「あら。死ぬのは時間がもったいないわ。三日もログインできないのですもの」

『あぁ、君らの復活は三日の経過が必要なのだったな』

「俺の質問が済んでいないぞ」

 納得したような雇い主へ、【苦行僧】ファウが口を挟む。

「次だ。<シャルル雨林>のことは知っていた。精神保護は精神系の状態異常を完全に防げるわけじゃない。身体は支配されるし、感覚は騙される。そこのところは?」

『対策はある』

 雇い主がそう告げると、カフェの店主が心得たとばかりに三つ、箱を持ってきた。ウェイトレスがコーヒーを置くように、その箱がテーブルに置かれ、そして中身が晒される。

『【免罪符(ゲズントハイト)】、状態異常を防ぐ能力を持ったアクセサリーだ。少々の実験で、あの森での耐用時間も分かっている。行けるところまで行って情報を得ろ。それが任務だ。最重要目標は【憑戦士】一人の捕獲、あるいはクリスタルの確保か。まぁ、理想だ。これは威力偵察に過ぎない、好きにやりたまえ』

「敵は強いのか?」

『憑戦士系統の情報は少ない。まぁ、野良のモンスターにも気を配れということだな……以上だ。他に質問は?』

 雇い主はそう言うと、少し沈黙した。資料を置く音が響く。

『では、始めてもらって構わない』

 その言葉を皮切りに、三人が立ち上がる。ボックスがドアノブに手を掛け……舌打ちをした。

「鍵が掛かってるぞ、おい」

 石は沈黙していた。ボックスが繰り返す。

「冗談じゃねえ、壁を破るぞ!」

『勘違いして貰っては困るな』

 雇い主が再び話し出す。マライアが薄く笑った。

『始めろと言ったのは任務ではない……最終試験だよ』

 

 そして、一際大きな奥の扉が粉々に弾け飛んだ。

 

 咆哮。爪の音。息づかい。生臭い匂い。現れたのは、一頭の地竜だった。狂暴な若い雌だ。赤い鎧を身に纒い、角や棘に守られている。

『品種改良と交配の末に生まれた鎧竜の変種、【アーマード・フレイム・デミドラゴン】だ』

 そう言うと同時に、竜の喉が炎を噴き……その全身へと燃え移る。烈火の鎧を得た竜が突進した。一番近いのはマライアだ。

『力は申し分ないのだがね、その分頭に栄養が廻りかねたようで知恵はない。気を付けたまえよ』

 立ち竦むマライアに、風を切って白痴の竜が迫る。余熱で近くのテーブルが発火した。竜のゲスな瞳が殺戮の喜びに濡れてーー

 

「《喚起(コール)》」

 

ーー止められる。

「いい仕事よ、芸術的だわ……“三号”」

 それを成したのは、【奴隷商】マライアの右手から出てきた……男。筋骨隆々、裸身を晒した男。そして、その頭。

 

 ヒトの頭部があるはずのそこには、代わりに大きな造花のバラが鎮座していた。

 

 マライアが舌を鳴らす。三号と呼ばれたそれは心得た様子で、竜を押し止める両手に力を込めた。次の瞬間、その手が竜の炎を押し退けて、燃え上がる。炎熱を掴んだその手は、炎の鎧竜を勢いよく投げ飛ばした。

「ヒュウ!やるねぇ」

 ボックスが口笛を吹き、その手を広げる。

「んじゃ、今度は俺かな?トカゲ野郎」

 その掌が波打った。剃刀で切ったような線が入り、瞼が出来る。瞼が開く。掌に開いた“眼”が、竜の瞳を覗き込んだ。

「《雄性の誘惑(メール・テンプテーション)》・《マッドアイズ・チャーム》……命令だ、俺を襲うな」

「Guuuuuh……?」

 愚かな脳ミソは完全にボックスへ隷従していた。眼前の“親友”から目を離して、代わりに標的と定めたのは……

「良いだろう」

【苦行僧】ファウ・ザ・!。

 真面目そうな顔が戦意に滾る。ファウは初めて腕時計に目を落とすと、静かに宣言した。

「《ペネンスドライブ・フィジカル》。HPを1残して全て、捧げろ」

 それは即座に実行された。瀕死にまで削られた生命力に伴って、爆発的な攻撃力がその身体に灯る。ファウが右手を引き……

「死ね」

左足が床を踏み砕く。渾身の右ストレートが竜の頭を吹き飛ばし、煮えたぎるその脳漿が空中で光の塵へと変わった。

「大したもんだが……死んだな」

 ボックスがバカにしたように呟く。HP1とはそういう数字だ。光の塵に崩れていく竜の反撃の余波、炎の余熱、そよぐ風。全てが命のリスクになる。光の塵に変じるファウを見ようとボックスは背を伸ばした。

「《第二時(ツヴァイ)》」

 

 そして、他ならぬ五体満足のファウがその目を睨み付けた。

 

 時計の竜頭を捻っていた手が下がる。だらりと両手の力を抜き、ファウが言った。

「合格か?」

『全員、申し分ないだろう』

 床に転がっていた石が答える。その表面が少しだけ焦げ付いていた。

『では、現場での動きは任せる。君たちもそのほうが動きやすかろうよ。結果は急がない。再度連絡したければここを尋ねたまえ』

 雇い主はゆったりと言った。

 三人もまた、戦闘の後始末を整える。店主が慣れた様子でチッチッと舌を鳴らした。植物系のエレメンタルがわらわらと現れ、焦げたテーブルや椅子を引きずっていく。その中の一部が床板に沈み、その罅や穴を埋めていく。

 その時、焦げ付いた扉のノブが回った。

「す、すいません!まだ、あの募集ってやってますか?」

 少年の声が聞こえ、そしてドアが開く。軽い足音が店内に踏み込んだ。

「【斥候】ニッケル・ブラスといいます。貼り紙を見て……」

「《喚起(コール)》・“十一号”」

 ブラスと名乗った少年が店内の三人へと挨拶すると同時だった。一陣の風が吹く。何かが切れる音がする。そして、

 

「あれ?」

 

 ボックスの頚が落ちた。

 力を失くした身体が崩れ落ち、即座に光の塵になる。マライアが嘲笑うように言った。

「追試よ。弱いじゃない」

「なぜ殺した!」

 ファウが詰め寄る。マライアはどこ吹く風。代わりにファウの胸ぐらを掴んだのは、“十一号”と呼ばれた男。頭をトランジスタラジオにすげ替えられた男。腰に血の付いた鉈のような武器を携えた男。

『……』

「なんだ?ラジオ頭(レディオヘッド)!」

「そいつは喋れないわよ。言語機能は付けてないものォ~!殺したのは、あの男が気に食わないから、それだけ」

「あの、えーっと、どういう……」

 ブラスがやっと店内の暗さに慣れてきた目をぱちぱちさせる。マライアは愉しそうに言った。

「君は好きよ?見た目が好み。少しだけね。仕事するならあいつより君とがいいわ」

「はぁ……?」

 ブラスは理解していないようだった。マライアは黙って奴隷に椅子を引かせ、座った。

「……思ったよりアブナい女だったようだな」

 ファウが小さく呟く。マライアも視線だけ彼に向けて、小さく呟いた。

「……それは違うわ。わたしはーー」

 

 このコも殺すよう命じたもの。

 

「防いだ方の勝ち……平等(フェアプレー)でしょ?」

 マライアはそう言って笑った。

 

 ◇◆◇

 

 □【憑戦騎】ラ・アパシハ

 

 黒い犬は、一部始終を窓から眺めていた。熱で歪んだ硝子越しに、<マスター>の力を。

『奇妙だ』

 それが、正直な感想と言っていい。彼らのレベルはアパシハ以下、お粗末そのものだ。竜など相手にした日には三秒で蹴散らされて終わりだろう。それを埋めたのは……

『話にはあった。あれが、<エンブリオ>とやらの力か?』

 脅威をもう一回り、大きく見積もる必要がありそうだ、とアパシハは思った。恐らく亜人種の持つ小手先の特性などとは出力の桁が違う。かなりレベルの高い事象を起こせる力のようだ。

 加えて、人格に問題がある。かなり狂暴な種族らしい、<マスター>というやつは。

 考え込むアパシハのその横で、鮮やかな羽の南国風の鳥が着地をする。その嘴が不気味なほど滑らかに動いた。

『どうだ?』

『危険だ、思ったよりね。少なくとも、()()<シャルル雨林>には侵入されるだろう。おれたちじゃ見られず殺すのも難しそうだ』

『《変身》して殺すのは?』

 長い尾羽の極楽鳥……ヘシリンシが言う。アパシハは首を振った。

『なおさら無理だ。おれたちじゃ。戦士長か、或いは……』

『王に?』

 極楽鳥のヘシリンシが問う。アパシハは黙り込んだ。

『……』

『それでお前、良いのかよ?』

『掟だろ。良いも悪いもない。力がないのはおれだ』

 アパシハが踵を返す。ヘシリンシもそれに続いた。

『帰還する。長に伝えなくては』

 狩りは、直ぐに始まる。アパシハもヘシリンシも、それをよく分かっていた。

 

 To be continued

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