「提督が辞める…?」   作:ぱすたすきい

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最上「提督が……辞める?」

 

 

最上「大淀、冗談……だよね」

 

大淀「残念ですが……本当です」

 

最上「…このこと知ってるの、ボクと大淀だけ?」

 

大淀「はい、混乱を避けるために……と提督が」

 

最上「……」

 

大淀「最上……さん?」

 

最上「くっ…!」(ダッ

 

大淀「…………」

 

 

 

 

そんなの……嘘に決まってるよね……

 

今すぐ提督に確認しないと……

 

最上「はぁ……っ!はぁ……!」(タッタッタッ

 

 

提督が辞めちゃうなんて

 

そんなの

 

ボクは認めない

 

 

 

 

認めたくない…………!

 

 

 

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◇---

 

 

フタマルマルマル

 

最上「提督! 辞めるってどういうことさ!」

 

最上「ボクの傷? こんなのツバ付けとけば治るよ!」

 

最上「それよりどうして!? ねぇ、教えてよ……」

 

 

提督「…………」

 

 

提督は黙ったまま答えようとしてくれない。

 

 

"提督がいなくなっちゃったら

ボクは生きている意味がなくなっちゃうよ……"

 

 

本音を必死に押し殺そうとした

でも

 

 

最上「提督が辞めちゃうならさ……」

 

最上「あのままレイテで沈んでおくんだった…………」

 

気付いたら声に出てしまっていた。

 

 

最上「ぁ……提督……今のは……っ!」

 

 

提督が勢いよく駆け寄ってくる。

あぁ……ごめんね提督

 

流石に……

 

怒られちゃうかな

 

 

 

ぎゅっ…

 

提督はボクの身体を力強く抱きしめてくれた。

 

最上「っ……痛いよ……提督」

 

冗談だよ、ボクが本当にそんなこと思うわけないじゃないか

だって、提督さみしがりやの甘えん坊さんだもん。

 

最上「ごめんね、提督。もうあんなこと言わないからさ……」

 

ボクがいなくなったら、提督が悲しむもんね

それだけはしたくない

でも、もし提督を悲しませるやつがいたとしたら……

 

最上「…………」

 

 

 

ふふっ……これも冗談だよ

 

 

 

 

 

 

 

◇---

 

 

フタサンサンマル

 

今日、提督を観察して分かったことがる。

 

 

提督が早朝から外へ出かけているということ。

これは提督の寝室を窓の隙間から見て確認したから間違いない。

 

(提督の寝顔が見れると思ったのにな……残念)

 

え? 3階にある寝室の窓をどうやって覗いたかって?

……それは秘密♪

 

肝心なのは

提督がどこに行ったのか、だもんね

 

 

 

 

 

提督を探すために、鎮守府を歩いていたら

港の隅に黒色の船が停泊していた。

 

最上「あれは……」

 

建物の影に隠れていて気付かなかった。

 

船内を確認したかったけど、

見張りが何人もいてそれができない。

 

最上「それなら……」

 

 

 

 

 

 

警備員A「……」

 

警備員B「……っ! おい貴様、止まれ」

 

最上「わわっ…ごめんなさい」

 

警備員B「何用だ?」

 

最上「提督に電文があって…」

 

警備員B「後にしろ」

 

最上「急な用事なんだ、通してくれるかな」

 

警備員A「ダメだ、許可のない者は接見禁止だ」

 

最上「接見禁止……? どういうことさ!」

 

最上「提督のこと閉じ込めて、辞めさせるつもりなんだろ!?」(ギロッ

 

警備員A「……っ!」

 

警備員B「貴様には関係ない!」

 

警備員B「今すぐ立ち去らないのならば……分かるな?」

 

最上「…………」

 

警備員A「おい、何をやっている? 早く行け! この…ッ!」

 

最上「いったたた…、引っ張らないでよ…!」

 

最上(提督以外の人に触られちゃった……早く消毒しないと…)

 

 

 

 

 

 

ジジ……

 

 

警備員A『フン、口の聴き方も知らないのか、芋娘が…』

 

警備員A『全くこれだから支部の連中は……』

 

警備員B『おい、さっきのはまずかったぞ』

 

警備員A『何がだ? 俺は仕事をしたまでだ』

 

警備員B『あいつらは"バケモノ"なんだぞ。下手に逆上させると何をされるか…』

 

 

 

 

最上「…………」

 

うん、バッチリ聞こえてるよ

さっき腕掴まれたときに盗聴器仕掛けたからね。

 

 

警備員A『ところでさっきの芋娘が言ってた話は本当なのか?』

 

警備員B『いや、厳密に言うと少し違う』

 

警備員A『どういうことだ…?』

 

警備員B『あぁ、知らねぇのか。』

 

警備員B『どうやら、本部から招集が掛かったらしい』

 

警備員A『本部って……まさか……!?』

警備員B『あぁ、"大本営"……"元帥様" 直々のお誘いだと』

 

警備員A『冗談だろ……』

 

警備員B『いや、本当だ。上官から聞いたから間違いない』

 

警備員B『だが提督は元帥の意見具申を断るつもりらしい』

 

警備員A『大本営に行けば待遇も上がるだろうにどうして…』

 

警備員A『それに断ったら辞職を強いられるに間違いないだろ…』

 

警備員A『まぁ、辞めても退職金が弾むだろうから安泰に過ごせそうだがな』

 

警備員B『辞めるだけで済めばいいがな……』

 

警備員A『どういうことだ…?』

 

警備員B『さぁな……』

 

警備員B『だが、これだけは言える』

 

 

警備員B『元帥殿の意向を無視する代償は大きい』

 

 

警備員A『ゴク……』

 

警備員B『俺たちも気を付けなきゃな…ハハハ』

 

警備員A『笑えねぇよ……』

 

 

 

 

 

最上「……っ!」

 

最上「そ、そんな……提督……っ」

 

 

 

 

 

◇---

 

 

無線チャンネルを提督の執務室と端末に合わせて…

 

" ガチャッ "

提督の寝室のドアが開く音がする。

 

提督、そろそろ寝るんだね

今日も夜遅くまでお疲れ様

 

え? どうして分かるかって?

提督の執務室にも"お守り"を設置してるからに決まってるじゃないか

 

これなら離れてても提督を見守れるし

提督と一緒に眠れて一石二鳥だよね

 

 

 

 

 

"くそ……"

 

最上「提督……?」

 

もしかして、提督……泣いてるの?

無線の感度を最大まで上げる

 

最上「…………」

 

 

"みんな……本当にすまない……"

 

 

 

 

提督が消え入るような声でそう言っていた

 

最上「…………っ」

 

黒い感情が湧いてくる…

 

ダメだ……

この気持ちを抑えられる自信がない。

 

提督が話してくれないのは、ボクたちのためを思って……

 

 

 

提督……一人で抱えて苦しいよね

 

 

 

 

大丈夫……

 

 

 

 

 

 

最上「ボクがなんとかするから、待っててね提督」

 

 

 

 

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◇---

 

 

マルゴーマルマル

今日も朝一で提督に会いに行く。

 

最上「提督、昨日は良く眠れた?」

最上「なんだか最近疲れてるみたいだけど…悩み事とかない?」

 

提督に少しカマをかけてみる。

 

提督「最上は本当に優しいな……」

 

最上「えっへへ…♪ 提督、くすぐったいよ」

 

 

提督「でも、最上には何も教えられない……」

 

提督「それに、もうすぐ私はここから去る」

 

提督「私のことなんか、忘れてしまっても大丈夫だ」

 

 

 

最上「……」

 

 

 

提督「最上……」

 

提督「本当に、ごめんな……」

 

最上「…………」

 

 

 

 

" 五月雨は 集めて早し 最上川 "

提督も聞いたこと、あるでしょ?

 

あのね、はじめは「集めて"涼し"」だったんだけど

実際に最上川の流れの早さを体験して、後で詠み変えたんだってさ

 

 

ねぇ提督

 

 

 

ボクってさ、怒ると意外と怖いんだよ?

 

 

 

 

 

 

◇---

 

 

提督の服に"お守り"を付けておいた。

提督のプライバシーが全部筒抜けになるから、こんなことはしたくなかったけど……

 

でも、提督を守るためだから、許してね。

 

 

 

無線のチャンネルを合わせる

 

 

ジジ……

 

 

???『組織の意向に逆らうつもりか!?』(バシッ!

 

提督『ぐっ……!』

 

 

上官のものと思われる怒号の後に

提督のうめき声が聞こえた。

 

まさか……

 

 

 

提督『私は……あの子たちを置いて…この場を離れることはできない!』

 

提督『あの子たちは今も戦場で戦っているんだ…!』

 

提督『それを高みの見物なんて……私にはできない!』

 

上官『貴様、大本営の職務を愚弄する気か!?』

 

 

やっぱり……

提督のこと、そうやって脅して……悲しませてたんだ…

 

 

 

 

最上「提督、待っててね」

 

最上「今すぐ助けに行くから……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンコンコン

 

上官「なんだ……執務中に……入れ!」

 

ガチャッ

 

元帥「……」

 

上官「……っ!元帥殿!」

 

元帥「キミ、下がりなさい」

 

上官「……はっ!」

 

 

 

元帥「提督くん、久しぶりだね」

 

提督「お久しぶりです……元帥殿」

 

元帥「今日はよく晴れている」

 

元帥「あれは……瑞雲かな?」

元帥「私も若い頃はあれで飛んでいたよ」

 

提督「……」

 

元帥「さて、単調直入に聞こう」

 

元帥「部下を捨ててこちらに来なさい」

 

提督「……できません」

 

元帥「……」

 

元帥「はぁ……それは私が聞きたい答えではないな」

 

元帥「提督、キミもここは長いんだろう?」

 

提督「……」

 

元帥「これまでの戦果を考えても、昇格は妥当だと思うが?」

 

提督「自分は……人の上に立つ器ではありません」

 

元帥「謙遜しているのか?」

 

元帥「キミは優秀な人材なのだよ、軍としても失うのは惜しい」

 

元帥「それに、事の大きさが分からぬわけでもあるまい」

 

提督「…………」

 

上官「元帥殿の意向に逆らうつもりか!?」

 

元帥「貴様は黙っていろッ!!」

 

上官「……ッ!」(ビクッ

 

 

提督「……」

 

元帥「なぜこだわる?」

 

提督「……私には、大切な部下たちがいますから」

 

提督「家族のように大切なみんなが……」

 

上官(…………)

 

元帥「なるほど…?」

 

元帥「キミが"あれら"を大切に思っているのは承知している」

 

元帥「だが、その思い入れこそが諸刃の剣になりかねんのだ」

 

元帥「キミがここを去ると同時に、"あれら"はすべて解体」

 

元帥「これに変わりはない」

 

元帥「分かっていただけるかね?」

 

提督「……」

 

 

 

元帥「気にすることはない、"あれら"はまた"作れば"良い」

 

元帥「なぁに、"あれら"は生娘の皮をかぶった"兵器"だ」

 

上官(……)

 

元帥「そんなこだわりより、キミの自身の出世のほうが大切ではないのか?」

 

元帥「そうだろう?」

 

元帥「そのために、今まで共に苦難を乗り越えてきたんじゃないか…」

 

元帥「思い出してみろ、我々が戦闘員時代のことを…」

元帥「私はキミに空の飛び方を教えた…」

 

元帥「あの頃のようにまた楽しくやろうじゃないか…!」

 

 

上官(泣き落としか…? 食えねぇジジイだぜ……)

 

 

 

 

提督「…………」

 

提督「元帥殿……」

 

 

 

提督「なんと言われても……私は……

 

元帥「これは命令だ…ッ!!」

 

 

 

 

提督「…………」

 

提督「お言葉ですが……」

 

上官(それ以上は言うな……)

 

提督「あなたたちが私の大切な仲間を……」

提督「ただの"兵器"として見ている限り……」

 

上官(おい…!)

 

提督「私はあなた方の言いなりにはなりません…!」

 

 

 

 

元帥「……」

 

元帥「今一度聞こう」

 

元帥「私が聞きたいのは、」

 

元帥「「生きる」か「死ぬか」だ」

 

提督「…………」

 

 

提督「自分は…………」

 

提督「あの子たちを解体することはできません。」

 

提督「あの子たちを導くのが私の使命であり…」

 

提督「この命に変えても、あの子たちを守れるのなら、それが本望です」

 

元帥「……」

 

元帥「そうか、それがキミの答えなのだな」

 

ジャキッ

 

提督「…………」

 

元帥「最期に言い残すことは?」

 

提督「あの子たちのことを……頼みます」

 

 

 

 

最上「提督……!」ガチャッ!!!

 

 

 

提督「……最上ッ!?」

 

元帥「なんだ貴様は、止まれッ!!」

 

 

上官「よせ!!」

 

バァンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

提督「最上……」

 

 

最上「て……いと…く……大丈……夫……?」

 

最上「提督のこと……ちゃんと……」

 

最上「……守って……あげられた……かな……」

 

 

 

最上「……」(バタッ

 

 

 

提督「も……最上……?」

 

提督「最上……っ!!!」

 

 

だめだ、力が入らないや…

 

 

 

 

提督「しっかりしろ……!最上…!!」

 

提督の声だ……

 

 

どうしたの…提督……

 

そんなに悲しそうな顔しないでよ……

 

 

提督のことを悲しませてるやつは誰……

 

 

ボク……? ボクが……提督を悲しませてるの……?

 

 

 

 

 

 

ごめんね……提督のこと、まだ守らないといけないのに……

 

提督に……、ボクの本当の気持ちを……

伝えないといけないのに……

 

 

 

 

 

ていと…………く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆---

 

 

 

提督「最上……」

 

提督「最上、朝だぞ」

 

最上「あ、あれ……ここは……」

 

提督「私の寝室だ」

 

最上「え……て、て、て、提督の………寝室!?」

 

 

 

提督「あぁ……2,3日、寝っぱなしだったんだ」

 

提督「……それより最上……」

 

最上「あ……怪我?」

 

最上「も~提督ってば心配性だなぁ~もう♪」

 

最上「ボクなら……ほら! 全然へっちゃらさ!」

 

最上「あっ!もう消灯時間だよ! 提督も一緒に寝よ!」

 

 

 

 

 

最上「えっへへ……提督のふとん、温かい……」

 

最上「ボクさ、こうして提督の執務室のおふとんで寝るのが夢だったんだぁ…!」

 

最上「えっへへ…提督の匂いがする…♪」

 

最上「……なんだか…ボク、眠くなってきちゃったみたいだ…」

 

最上「提督ともっとお話したいのに……」

 

 

最上「提督…………」

 

 

 

最上「ボク、少し……眠るね……」

 

最上「えっへへ…、提督……」

 

 

 

 

 

最上「大好き…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

◇---

 

 

提督「大淀、最上の容態は……?」

 

大淀「いえ……まだ……」

 

提督「そうか、今日も目覚めないか……」

 

提督「私が……私に力が無かったせいだ……」

 

大淀「提督…っ!ご自身を責めないでください!」

 

提督「……ああ、分かっている。最上も望んでいないもんな」

 

 

提督「いかんな、これでは最上が起きたときに合わせる顔がない」

 

大淀「提督……」

 

 

 

 

提督「最上……私のことを……」

提督「みんなのことを守ってくれてありがとう」

 

提督「今度は私が最上を守ってやるからな……」

 

 

 

大淀「……」

 

大淀「……っ!」

 

大淀(最上さん……今、微笑んだような……)

 

 

 

提督「さぁ、今日も仕事だ。まだまだ仕事が山積みだからな」

 

提督「大淀、今日も遅くなりそうだが、頼むぞ」

 

大淀「はい、提督!」

 

 

 

 

 

 

 

 



 

 

 

 

 

 

 

 

見てくださりありがとうございました。

次回は「山城・扶桑」を予定しています。


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