【堕胎志望/ヒーロー志望】が緑谷出久に殺されるまでの話 作:あるらしい
「思ったより時間食っちゃったな・・・・・・」
筒美火伊那さんはあの後駅の方へ去っていった。名刺の番号に連絡する様に念を押しながら。どうしてぼくの名前を知っているか尋ねてみたが、はぐらかされてしまった。ぼくを探していた理由も気になる。後で電話して見たときに聞けばいいか、そう思いつつ雄英の馬鹿でかい門を潜る。
全面ガラス張りの校舎はまるで都内のオフィスビルのよう。入試に時に来ているとはいえ、あまりの大きさに全然慣れない。昔から押し入れの中のような狭い場所が好きなぼくにとっては、この校舎は大きすぎる。
まぁそのうち慣れるだろう。どんなところも住めば都だ。住むわけではないから誤用なのか?こういった言葉ってちゃんとした意味を知らないことが多いな、と改めて実感した。
「あっ、サイン貰うの忘れてた!」
レディナガンと出会えるなんて思ってもいなかった。言ってしまえばあり得ないほどのチャンス、千載一遇の機会、それを逃すなんてぼくは馬鹿か。
メモ帳とボールペンがあったというのになんという失態だ。この分も相澤先生やマイク先生からサインを貰おう。A組への道を歩きながらぼくは今日の放課後の方針を決めた。
「お前ヒーロー科か?」
後ろから聞き覚えのある声がした。どこで耳にしたのかは思い出せなかったけど、なんだか懐かしくなる声だ。振り返ってみるとそこには雄英の制服を着た少年がいた。紫色の髪はボサついていて、目の下にはクマがある。
「ええ、そうですよ。ここにいるってことはもしや貴方も?」
「ああ、ヒーロー科同士三年間よろしくな。俺は心操人使、お前は?」
「ぼくは足立玲、レイって呼んで下さい」
心操人使、ぼくはその名前を知っている。洗脳という個性を持った普通科の少年、前世での認識はそうだった。だが目の前にいる心操君はヒーロー科らしい。これもバタフライエフェクトなのだろうか。それともこの世界が原作通り進むなんてのが、ぼくの勝手な思い込みに過ぎないのだろうか。自分一人の存在で世界が変わるなんて、滑稽で馬鹿馬鹿しい思い上がりにすぎないのだろうか。
なんでもいいか、ぼくはただ今ある現実を受け止めるだけだ。考えたって何がどうにかなるわけもない。どれもこれもただの戯言だけれども。
でも、洗脳という身体能力が上がるわけでもなく、異形の力を持つわけでもなく、何かサイキック的な能力を使えるようになるわけもない、ロボ相手には無意味な個性で、どうやって入試を突破したのかは少し気になった。まあそれも後でいいか、いきなりそんなこと聞くのも何か違う気がするし。
「昨日眠れなかかったんですか?」
「いや?キッチリ八時間快眠、寝起きも好調だった。なんでそんなこと・・・・・・なるほどね、このクマか」
一瞬不思議そうにする心操君、だけどすぐなんのことか気がついたらしい。 目の下のクマは前世から気になっていたことだ。いっつも寝不足なのか体質なのか。個性関係なくカラフルな色の髪が溢れるこの世界で、そんなことを聞くのは野暮かもしれないけどね。
仮にもヒーローに憧れる少年が毎日夜更かししてるってのも考えにくいから、多分体質だと思うけど一応聞いておくことにした。
「そうそう、三徹直後の朝みたいなクマしてるからね。ちょっと気になったってわけです」
「俺は入学式前日に徹夜する程の間抜けじゃない」
「ま、そうですよね。遅刻もあれなので行きましょうか」
スタスタと二人で雑談しながら歩いて行った先はA組。そしてぼくはその扉をガラリと開けた。扉は思ったより大きかった、バリアフリー。
筒美さんに心操くん、前世の記憶ではここにいる筈なかった二人と出会ったんだ。もう何が来ようと動じない。そんな構えでクラスの中に足を踏み入れる。
きっと僕はまだ知らなかったんだ、本当の悪意を。
真に狂気なヴィランのことを。
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「朱音!逃げるぞ!」
何故だ、何故こんなことになった。
志村転弧の父である志村弧太朗は叫んでいた。
いきなりだ、いきなり庭が崩れだしたのだ。
それに巻き込まれて妻も死んでしまった、ほかの家族はわからない、唯一無事が確認できるのは両手で抱えている娘だけだ。
先日生まれたばかりの娘、弧の妹であり弧太朗の娘である志村朱音だけだ。
発生源はわかっている、転弧だ。
転弧の手のひらから崩壊は広まっている、娘がいなかったら転弧をどうにかして止めようとするところだが、朱音を危険に晒すわけにはいかない。
「玄関を使う余裕はない!向かいの窓を割ってでもとにかく外に──────」
必死だった。
生き残るため、娘を守るため、弧太朗は必死になって逃げようとした。
確かにそれは素晴らしい行動だったであろう、普段の行動はさておき娘への愛情が溢れ出ていた素晴らしい行動だった。
その冷静で的確な判断はきっと彼を生かしただろう、娘と共に逃げる道を探すことができただろう。
だがそうはならなかった、災厄は自らのそばに居た。
「ダメじゃないか父さん」
こんな言葉がある。
『存在することは罪にならねぇ』
だがその言葉は彼女にだけは適応されないだろう、生まれながらの最悪であり絶望である彼女には。
人間が罪かそうでないかを判断している間は、彼女が許されることはきっとない。
「愛しい愛しい兄さんから逃げようとするなんて」
弧太朗は理解ができなかった、昨日家に来たばかりの生まれたばかりの子供が喋りだしたことが理解できなかった。
理知的で常識を好む弧太朗でなくても、単なる一般人でも困惑していただろう。
「微睡みの中で死にたいって思ってたけど、兄さんと一緒に過ごせるなら話は別だ」
それは異様な気配を醸し出していた。
それは異質なオーラを発していた。
それは理解不能な戯言を並び立てていた。
それはたった今この世に最初の災厄を齎した。
そして志村弧太朗は死んだ、呆気なく。
「あぁ、崩壊に巻き込まれちゃったか。このままだと俺も死ぬな」
それは笑った、赤子は笑った。
自らの終わりを悟った上で。
「おいで兄さん、俺を殺して」
されど赤子は生き残る、何故なら彼女は転生者なのだから。
この世にいてはならない災厄の権化なのだから。
愛に狂った凡人なのだから。
転生者複数出したい→でも噛ませにはしたくない→ちょっと敵の転生者盛りすぎた