ホロライブ・オルタナティブver.IF 外伝 ~オリジン~ 作:天野空
ラミちゃん何か感じる?」
「ん~
…ちょっと分からないかな」
目をつぶって辺りの気配を探っているラミィがぼたんに答える。
「そっか…」
そう言ってぼたんは釣竿を海へとふった。
2人は今、【ファンタジー】の海へと来ていた。
ポルカの情報によると、漁の手伝いクエを受けた団員さん(プレイヤー)から、時折沖合いで原因不明で船が消えるという事件が起きているらしい。
運営に確認したところ、そういったイベントはここにはないようで、運営以外の何かの手によって起こされているのではないかと思い調査に来ている。
2人が乗っているのは小さなボート。
よくこんな沖合いまでこれたなという感じのボートだった。
「さて、どうしようか?」
ぼたんは釣りをしながらラミィに聞く。
「ん?
たまには気晴らしも良いんじゃない?」
とぼたんに寄りかかり本を読むラミィ。
「そうは言ってもねぇ。
何も成果がないと…」
そう言ったぼたんの釣竿にあたりがくる。
「お!」
ぼたんは突然立ち上がりリールをまく。
「あいた」
突然立ち上がられてもたれていたラミィは船の中で倒れる。
「もう」
ラミィは頬を膨らませながらぼたんを見た。
「よ、ほ」
ぼたんはリールをまいたり竿を振りながら魚と格闘している。
「よし、来た!」
思い切り竿を振り上げたぼたん。
海中から何かが勢いよく飛び出した。
「ちょ、ちょっとこれって!」
海中から飛び出たものに驚くラミィ。
「まさか、これに?」
吊り上げたのはデッドシャークと呼ばれる人喰いサメだ。
しかし、そのサメの体に黒い帯のようなものが、巻き付き蠢いている。
「ししろん!」
ラミィは空中に吊り上げられたデッドシャークに氷魔法を放つ。
デッドシャークは一瞬で凍りつく。
「…」
そのデッドシャークの頭をぼたんは構えた銃で撃ち抜いた。
氷は割れ、デッドシャークは粉々になり黒い帯のようなものと共に消えた。
「まさか、普通のエネミーにもコメント集が付いてるなんて」
ラミィが呟く。
「やっぱりこの海域に何かが起きてるのかもしれない」
ぼたんは何かを探るように辺りを見回しながら言った。
ブォン
突然2人の前にディスプレイが現れる。
「な、なに?」
「え?」
驚く2人。
「ごめんごめん、うちうちうちだよ~」
『ミオ先輩』
ディスプレイに手を振って写るミオに2人は声をかけた。
「ごめんね。
ちょっと用事を頼まれてほしくって…」
そう言ってミオはある事をぼたん達に伝える。
「分かりました」
「何だが嫌な予感もするんだ」
「ミオ先輩の予感は無視できないですからね」
2人は頷き答える。
「護符を3枚送っておいたから、それで移動して。
それじゃ、お願いね」
そう言ってディスプレイが消える。
「じゃ、私が助けに行くよ」
「はいはい、仲が良いですからね」
「そう拗ねない」
「分かってます。
先輩の為ですからね。
ラミィは先に戻ってみんなにコメント集の事を伝えるね」
「頼んだ」
そうして2人は送られて来た護符を使いその場から移動する。
無人のボートが大海原に漂う。
その下をゆっくりととてつもなく巨大な影が通りすぎたのを今は誰も知らない。
斬!
ぐぎゃぁぁぁ
俺は目の前のモンスターを倒す。
『クエストクリアです』
そう機械音声が流れた。
討伐クエを受けた俺は、【ファンタジー】の第2の町周辺に出没するゴブリンを倒すクエストを受けていた。
「ふぅ~」
(どうしたんですか?
ため息なんて)
背後に現れるオメガαが俺を心配してか声をかけてきた。
「いや、何でもないよ」
オメガαに出会ってから俺は、様々なクエストを受けれるようになった。
前までは1人では到底クリア不可能なイベントも、オメガαの補助で普通にクリアできる。
オリジンソードを装備しなくても、ホロメン級のオメガαからの補助はそれだけでチートだ。
オメガαはコメント集以外の時も積極的に現れて手伝いをしてくれている。
どうして手伝いをしてくれるのか聞いた時、(これは私に手伝ってくれるお礼です)と言っていた。
しかし、その手伝いは…
「ごめん、今日はここで落ちるよ」
(分かりました。
では、またのログインの時に)
そうオメガαの声を聞いて俺は宿に戻ってログアウトした。
「はぁ~」
自分の部屋に戻って俺はまたため息をついてしまった。
最近、【ホロライブワールド】は順調だ。
レベルもアップした。
お金もたまった。
前から行きたかったクエも行けた。
それに何よりホロメンに会う機会がめちゃくちゃ増えた。
それも全部オメガαに会ってチートな力を手に入れたからだ。
俺は部屋を出てリビングへと降りた。
リビングは真っ暗だ。
当たり前か。
もう深夜1時を過ぎている両親は寝てるだろうし、姉も寝ているはずだ。
冷蔵庫から、買い置きの缶コーヒーを取り出し、ソファーに座る。
ごく
冷たいコーヒーが喉を通っていく感覚が分かる。
しかし、改めてすごいよな。
【ホロライブワールド】で飲んだコーヒーも、リアルとまるっきり変わらない。
この喉を通る感覚も一緒だ。
「ふぅ」
「ひゃぁ!」
ん?
変な声がした方に向くと、パジャマ姿の姉がいた。
「な、電気も付けずに何やってるの?」
「え?
いや、目が覚めたからちょっとコーヒー飲みに」
「そ、そうなんだ。
ってそんなの飲んだら寝れなくなる」
「え?
別に俺は寝れるけど」
「ふぅ~ん」
姉は冷蔵庫からミルクを出して、コップに入れて電子レンジで暖めている。
「なんか久しぶりだね。
こんなに話すの」
姉が電子レンジを見ながら言った。
「そう?」
確かに同じ家に住んでいるとはいえ、会うといったら晩御飯の時ぐらいか?
うちの親、晩御飯は用事がない限り一緒に食べるようにと決めてるからな。
暖めたミルクを持って、姉が隣のソファーに座った。
「何か悩み事?」
そう言って俺を見る姉。
「なんで?」
俺はドキッとしながらコーヒーを飲む。
なんで分かったんだ?
「なんでって昔から悩んでる時、分かりやすいよ。
かなちゃんは」
「おい」
「はは、ごめん。
なんか抜けなくてね」
そう言ってミルクを飲む姉。
また、沈黙が訪れる。
俺は姉を見た。
姉はコップをじっと見て待っているみたいだった。
そうだな。
昔はいつも姉は俺が悩んでたらこうやって、こっそりと側にいてくれてたってっけ。
「なぁ、チートって分かるか?」
俺は何とはなしに姉に聞く。
「ん?
分かるよ」
「仮の話だ。
ゲームでチート能力を持ったやつって楽しいのかな?」
俺はそう姉に聞いた。
そう、俺はチートの力を手に入れてからなんだか【ホロライブワールド】が楽しめなくなった。
失敗も挫折ない今のチートキャラを使って、俺は確かに様々な経験ができてるけど、何か達成感がなかった。
「…そうだね」
姉は少し考えていた。
「そのチートがどんなチートか分からないけど。
私は楽しいよ」
そう姉はこちらを向いて微笑みながら言った。
そうか姉は…
「私はね、前に言ったと思うんだけど【ホロライブワールド】ってゲームのGMをやってるの。
それに私の場合、恥ずかしいけどフルスキャンシステムでキャラ作ってるから、キャラ自体が他のGMさんより、シンクロ率が高くて強いんだって」
フルスキャンシステム。
聞いた事ある、キャラを自分の体型に完全に合わせる事で、距離感や動かし方をリアルと誤差がないようにする。
そのお陰で、普通のキャラより強くなるって…
俺は姉の体を見た。
その視線を感じたのか姉はうつむき頬を赤くする。
ま、まぁ、自慢でもないが姉はすれ違いったら振り向いて見られるようなスタイルだ。
「だからから、私のキャラは他の人よりよりチートなんだ。
それでも、ホロメンの人達には勝てないけどね」
俺はそのホロメンの攻撃さえも防いでしまうな…
「でも、私が楽しいのは仲間がいるから」
「え?」
「GMでチーム組んでるんだ。
その人達がいるから私は楽しい。
普通のプレイヤーさんみたいにクエストできないけど、それでも仲間と何かをやった後は達成感もある。
例え、一時のチームだとしても、その時の仲間と何かをやれたのが私には楽しいって思える時間だよ」
「仲間か…」
俺はふとオメガαを思い出していた。
「その誰かが1人かどうかは分からないけど。
その誰かも誰かと冒険やクエストやった事あるんじゃないかな?
だったら、楽しいんじゃないかな?」
そう言って姉は微笑んだ。
「そう、かもな」
俺はそう言ってコーヒーを飲む。
確かに俺はオメガαに出会ってチートな能力を受け取った。
そして、その力で様々なクエスト終わらせた。
でも、その側にはオメガαがいてくれていた。
俺1人でやれた訳じゃない。
共にクリアしてくれた相手がいた。
「ありがとう」
「ん?」
俺は立ち上がり姉に例を言う。
「どういたしまして」
そんな俺に姉は笑顔で返事をしてくれた。
「おやすみ」
「はい、おやすみなさい」
俺は自分の部屋に向かった。
(俺は何を勘違いしてたんだろうな。
オメガαが手伝ってくれる。
俺のチート能力はオメガαがいて初めて発揮される。
なら、チート能力が必要ないなら言えばいい。
仲間にも相談しないで1人でやってる気になっていた)
俺は何かすっきりした気分で眠りにつけた。
(おかえりなさい)
翌日の昼にログインすると覗き込むようにオメガαが浮いていた。
「ただいま。
でも、いきなり目の前にいたらびっくりするだろ」
俺の言葉にオメガαは微笑みながら横にどく。
俺はゆっくりとベッドから起き上がった。
(いいことありましたか?)
「ま、あったかな」
(それは良かった。
顔も何かすっきりされてます)
そう言ってオメガαは微笑んだ。
「そうか?」
俺はベッドから起き上がると装備を着ける。
(それで、ログインそうそう悪いのですが…)
「コメント集か?」
(はい、それも最悪な状態です)
オメガαはそう言って暗い顔をした。
俺は今、【ゲーマーズ】の第2の町の近くにある森に来ていた。
少し離れた場所でオメガαが言った最悪な光景が見えた。
腕組みをして左右にコメント集の力で作り上げた羊巨人を連れたわためちゃんの姿だ。
相手はホロメンとGM?
GMの中には姉もいた。
「助けられるのか?」
(分かりません。
ただ、わためさんはまだ完全に侵食されていない感じです。
もし、そうならぺこらさんがあの力を解放すれば…)
「助けられるなら助ける。
俺とオメガαでな」
(はい!)
オメガαは俺の言葉に微笑み頷いた。
戦闘は続いている。
羊巨人はGMとこよりちゃんが相手をしていた。
まさか、とうとう推しをこのゲーム内で見れる日がくるとは。
(うかれないでくださいよ)
頭の中でオメガαに注意される。
「わ、分かってるよ」
ぺこらちゃんとわためちゃんが何かを話している。
するとぺこらちゃんが胸に手を当て何かを取り出したかと思うと空に掲げる。
「なんだ?」
突如、ぺこらちゃんが青白い炎に包まれた。
(使うんですね。
ぺこらさん。
絶対勇者の力を)
オメガαはそう言った。
青白い炎から現れたぺこらちゃんはまさしく勇者の姿だった。
離れるわためちゃん。
わためちゃんが放つコメント集の力を、ぺこらちゃんは意図も容易く斬り払う。
(トライン。
準備を、ぺこらさんがあの力を使ったなら、わためちゃんを救えます)
「分かった」
俺はゆっくりと森から出る。
ぺこらちゃんはわためちゃんを追い詰めるが、その剣を振り下ろせない。
(どうして、振り下ろさない?)
(目の前にいる仲間を助けられるかどうか、まだ、ぺこらさんには自信が持ててないんです)
俺の考えにオメガαが答えた。
なら!
わためちゃんの背後に黒い渦が現れる。
(逃げるつもりです)
させるか!
俺は剣を振り上げる。
そして、ぺこらちゃんに向かって言った。
「まだ、諦めるのは早いよ、ウサギさん」
『え?』
ズバァ!
俺はその返事と同時に剣で黒い渦を斬り裂く。
その先にいるぺこらちゃんとわためちゃんは驚いて俺を見ていた。
「な、な、なんです?」
わためちゃんは俺を見て動きを止めている今なら。
「自分を信じて、貴女なら出来ますよ」
俺はぺこらちゃんにそう言った。
ぺこらちゃんは大きく目を開き俺を見た。
そして、決心した目を俺に向けた。
もう、大丈夫だな。
ぺこらちゃんがわためちゃんに剣を振り下ろす。
その剣はわためちゃんには当たらず目の前を通りすぎただけだった。
しかし、俺には見えた。
一筋の光がわためちゃんを通りすぎたのを。
(コメント集は除去されました)
オメガαの言葉に俺は頷き、俺はその場から姿を消した。
ミコ達を助け、ワープホールにミコ、わため、リィスが入り消えたのを確認したぼたん。
「さて、頼まれた用事を済ませましょうか」
ぼたんはオーガ達に銃を構える。
「もちろん、手を貸すよね?」
ぼたんはそう言って闘技場のいくつかある柱の1つに目を向ける。
そこには白騎士が下を見下ろすように立っていた。
トンと白騎士が闘技場へと降りてきた。
「いつから分かってたんです?」
「ん?
さっきの戦いの時かな。
時折、リィスちゃんが危なくなる度に、きみ威圧放ってたでしょ」
ぼたんにそう言われ、黙る白騎士。
「ま、そのお陰で助かったし。
理由は聞かない。
それより、少し聞きたい事あるから。
逃げずにこれどうにかするの手伝ってくれる?」
ぼたんはこちらの様子を見るオーガ達を見る。
「貴女なら1人でもやれるでしょう?」
「このエリアもあまり時間がないんだよね」
「…分かった」
少し考えた風の白騎士が剣を構えた。
とたん、オーガ達が目に見えて動揺する。
(やっぱり何かあるのか…)
「じゃ、やるよ!」
「おう!」
そして、2人のオーガ討伐が始まった。
「はぁ!」
最後のオーガを斬り倒す白騎士。
「やっぱり早い」
ぼたんが白騎士を見て言った。
あれほどいたオーガ達がものの数分で片付けられた。
ぼたんや白騎士のチートな力もそうだが、やはり、白騎士が姿を表した事で、オーガ達の動きが鈍ったのが大きく影響している。
空にノイズが走り始めた。
「そろそろ、ここもヤバイか」
ぼたんは空を見上げて言った。
「閉鎖するのか?」
「そう、ここにあるコメント集を除去するんでしょうね」
白騎士にぼたんが答える。
「1つ聞いておきたい。
仲間がもしきみに会ったら聞いてほしいと言われてるんでね」
「なんですか?」
白騎士はぼたんを見る。
剣はまだ抜き間のまま。
(警戒は解かないか)
「きみはコメント集を消滅させる対象と言ったんだよね」
「…そうだ」
「なら、コメント集に侵食されたホロメンやNPCはどうするんだい?」
「…」
ぼたんの言葉に白騎士は黙る。
(嫌な答えだけはしないでくれよ。
もしそうなら、私はここで…)
ぼたんは銃の持つ手に力を入れた。
「心配しなくてもいい」
「ん?」
「俺はあなた達を消そうとは思っていない。
助けられるなら全力で助ける。
もし、俺が助けられないなら、助けられる人のサポートをする。
それだけだ」
「それが本心?」
「ああ、俺とここのな」
そう言って白騎士は自分の胸をトンと叩いた。
「…分かった。
その言葉信じるよ」
ぼたんの言葉に白騎士は小さく頷いた。
「ここからは出れるのか?」
「もちろん、いろいろな抜け道があるからね」
ぼたんは1枚の護符を見せる。
それはミオからもらった転移の護符。
「目印はうちの優秀な小悪魔が付けてくれてる」
アロエが目的地として自らをマーカー役としてくれている。
これで、ゲーム間の電子空間に迷い混む事はない。
「そうか、なら、もう俺にする事はない。
また、どこかで」
そう言って白騎士は剣を振る。
空間が斬れワープホールが現れた。
そして、白騎士はその中に入り消えた。
「敵ではないと思っておくよ」
ぼたんも護符を発動させる。
そして、ぼたんは仲間の元へと帰っていった。