ソードアート・オンライン 本能の牙-instincts- 作:新世界のおっさん
記念すべき10話にふさわしいッ!
そしてスタートォッ!
このSAOには今までのMMOには見られない独自のシステムがよくあったが、この<師弟>システムは最近まで明らかになってなかったものだ。
第三層の特殊クエスト<桃園の誓い>は自分とレベルが離れた相手とパーティーを組み指定されたモンスターを狩るというものでこれをクリアすると組んだプレイヤー同士が<師弟>の関係になるというものだ。
<師弟>は低層プレイヤーが安全に上の層に上がりやすくするための救済みたいな者で、レベルが高いプレイヤー<師匠(マスター)>はレベルが低いプレイヤー<弟子(ピューピル)>とパーティーを組むとレベルが同じになり、極端なレベル差による経験値調整が適用されず互いに安全かつ効率的に狩りができる。
しかし、やはりデメリットがある。
それは<結婚>同様に<師弟>でアイテムストレージが共用になり、現状ではどちらかが死ぬまで設定を解除出来ないのである。
「……最初に言っておく、本当に俺で良いのか?」
「はい!私はイノセンスさんだからお願いしてるんですよ?」
可愛らしいツインテールをピコピコと揺らしながら、シリカは質問に答え微笑む。
昨日の爆弾発言から次の日になった。今日はシリカとその例のクエストを受ける事になっているのだ。まあ、自分は問題ないが向こうには後悔がないよう聞いたがあっさり答えられたため致し方ないと諦める。
「なら、ちゃっちゃと済ますか」
既にクエストはシリカによって受注されている。あとはパーティーを組み、モンスターを倒すだけだ。
イノセンスはいつものように、二つ名(勝手につけられた)真紅の怪人の象徴である<ナイトメアローブ>を装備する。
頭にフードを被るとアバターの顔が影で覆われ、全く分からなくなる。そして
「いくぞ……シリカ」
「あっ、その声」
「ん?ああ、これか。これは<ナイトメアローブ>のユニーク効果でな……フードを被っていると顔判別が不可能になって声がこれに固定されるんだよな」
「なるほど、それで……」
やはりユニーク装備、色々充実している。
「私その声好きですよ……なんか安心するんですよね」
「ふむ、自分じゃあまり分からないが……そうなのか」
一つ勉強になったと歩き出す<真紅の怪人>、シリカはその後を楽しげに追いかける。
「ここのモンスターであっているんだな?」
「はい、その通りです」
二人がきたのは第三層の名物フィールド、巨大なキノコの群生地でそれを根城にするモンスターたちの巣窟<傘の谷(パラソルバレー)>
警戒しながら進むとモンスター達がいた。
「いました!<ゴブリン・アーチャー>です!」
「あいつか、面倒だがやるしかないな」
この世界において、基本的に遠距離攻撃は存在しないが例外は存在する。それが敵だ。中でもボスのブレスと弓は強力で厄介だ。
「シリカはキノコに隠れながら、あいつらの背後にまわってくれ」
「イノセンスさんは?」
「無論敵の注意を引く」
「そ、それは危険ですよ!」
高レベルプレイヤーでも弓は危険、しかも複数に対してとなるとヤバいのではと注意するが。
「<弟子>が<師匠>を信じなくてどうする」
「あっ……」
まるで助けてくれたあの時の様な低く暖かい声で諭され、頭を撫でられる。その声には確かな自信の様なものも感じられた。
「……分かりました、<マスター>」
申し訳なさそうにキノコの陰に入って行くシリカ。
それを見届けてから<ゴブリン・アーチャー>に向き直る。
「ふっ……<マスター>か……しばらく慣れそうにないな」
苦笑したあと、自らの得物を抜く。
それはかつて使っていた<短剣>ではなくその派生であるエクストラスキル<短刀>である。
「さあ、踊るぞ……魔物ども」
駆けるイノセンス、ゴブリン・アーチャーが反応し弓を構える。
だが、高いAGIのイノセンス相手にアーチャーは存外不利だった。すぐに近距離戦闘に持ち込まれ一体が何も出来ずに倒される。しかし他のゴブリンアーチャーは問題なく攻撃を放つ、それをイノセンスは本能的に紙一重で避ける。
「やっぱり凄い!」
その様子を影から見ていたシリカは感嘆の声をだす。
前回の戦いを見ている故により凄さが分かる。
だが、黙って見ていると<弟子>の名折れと隙だらけの小鬼を背後からの不意討ちでたおす。
「ナイスだ」
あとは残った一体を倒すのみ。
イノセンスはソードスキル<烈>で瞬時に接近し、抵抗らしい抵抗もさせず沈める。
「終わりだな……」
「はい!お疲れ様です<マスター>!」
「ああ、これで晴れて正式に<師弟>だな。今後ともよろしくな、シリカ」
「もちろんです、頑張りますよ~」
笑顔のシリカを見ていて微笑ましく感じていると、ドロップ画面が映る。まあどうせ大した物ではないだろうと確認すると、そこにあったものは。
<ルーンボウ>武器種別:弓
「………………?」
……とりあえずイノセンスは無言で鞄にしまった。
現在二人は祝勝会+<師弟>記念に第四層浜辺に来ていた。
「綺麗ですね、浜辺」
「人の手が入ってないからだろうな」
現実では人の手が入った結果、海が汚染された歴史を知っているため、綺麗な浜辺は真に心が洗われた。
「……これデータですから人の手が入ってるんじゃあ」
「細かい突っ込みは言いっこ無しだろ?」
突っ込んでも不毛なのはこのアインクラッドならではだと、より理解する二人。
「マスター……」
「なんだ?」
「あの戦い方ってどうやって身に付けたんですか?」
それはつまり<思考の加速>の事を言っているのだろうとイノセンスは理解する。
「死にかけて……もう無理だって時、生きたいって強く強く思った……そしたら出来るようになっていた」
最初は確実に<森の秘薬>の時、そしてはっきり自覚したのは……<第一層攻略>……
(…生きてください、生きて生きて生き抜いてください…そしていつか面と向かって会いましょう)
あの時確かに
(またね……パパ……)
夢のあの子の言葉がよぎった。
いまだにあの子が誰かは分からないが、心で礼を言っておく。
「第一層攻略から少しずつ制御できるようになってな……今はある程度融通が効くようになってる」
「なるほど、あれはその恩恵で」
「だが、正直劣化版だ。第一層の時は今の比じゃなかった」
「うわぁ……あれで劣化なんですか?」
シリカからすれば劣化版でも素晴らしい物だ、本来のそれは想像もつかないだろう。
「でもそれ何か名前無いと不便ですね、スキル同様に」
「名前?」
「はい」
「ふーむ」
彼からすればあまりこだわりは無いが、シリカにとっては<弟子>としてそれを言いやすくしたいのだろう。
とりあえずイノセンス本人の力のイメージとして
「本能の牙……かな?」
「おお、出きれば由来も教えていただけると」
「本能が引き金になる、化け物染みた力だからかな」
人間に牙はない、牙は人外の証であり強いイメージがあるからこそその名にした。と軽く付け加えられる。
シリカはなるほど……と頷く。
「言い振らすなよ?」
「分かってますよ~」
「……そろそろ冷え込む、早く宿戻るぞ」
「……はい、<マスター>!」
二人は行く、手を繋ぎはぐれないように宿屋の灯りを目指した。
シリカの弟子入りと力の命名でした。
クエスト最後のドロップ品ですがお気になさらず……伏線です。