ソードアート・オンライン 本能の牙-instincts- 作:新世界のおっさん
久しぶりに長い戦闘きついですね(笑)
第四層の迷宮区<滴る宮殿>
先程の空気とうってかわり、攻略組全員が周囲を警戒する。
安全マージンをとっていても油断大敵でどんな罠があるか分からないからだ。
「き、緊張しますね」
「そうだな、シリカは初だろうし俺は第一層以来だ」
戦闘にブランクがあるわけではないが、ボスとの戦いは独特であるため少し不安もある。
「イノ君なら大丈夫だと思うよ、あの時だって何とかしたじゃない」
「まあ、そうなんだがさ……やはり<イルファング・ザ・コボルド・ロード>とは相手がちがうからな」
「それを言うなら私達だってあの時とは違うよ、皆三回の攻略で強くなったし」
サチは自信をもって胸を張る。この様子を見てサチは本当に成長したんだなとイノセンスは実感する。まるでリアルで会ってた時の調子で話せる様になっていたのだから。
「それを言うなら私もマスターに会ってから、かなり進歩しましたから!他の皆さんにも引けをとりませんよ!」
「……ふぅ~ん、なら負けられないね!」
「むむむっ……!」
横から茶々を入れてきたシリカをジッと睨むサチ、それに負けじと睨みかえすシリカ。二人の間に火花が散るが、どちらも睨み慣れてないのか迫力に欠ける戦いだ。
それを見て苦笑するイノセンス。するとさりげなくトトが寄ってきた。
「あの、さっきはありがとう……<稲生>君……」
「おう、もう大丈夫なん……<稲生>君?」
「いや、あのね……あの時<東条>って呼んでくれたから……私もって……」
「ああ、なるほどな……ま、いいかな<稲生>なら。<イノ>からの派生みたいで多分違和感は周り大して感じなさそうだし」
「……やった」
彼女からすれば少しダメ元だったが、OKを貰えたため密かにガッツポーズをする。
「あ、でもこっちはどう呼ぶべきか……流石に<東条>は」
身バレの危険がと言おうとしたが。
「いや、良いっ!<東条>が……良い……!」
「おうっ?そ、そうかならこれからは<東条>にするか」
「うん、改めてこれからもよろしく<稲生>くん」
「ああ、よろしく<東条>」
二人は友好の握手をする。
昔はこんな事も簡単に出来なかった自分を恥じるトトだが、そちらよりも好きな人と手を繋いでいる(握手だが)状態に歓喜する気持ちが強かった。
イノセンスはリアルでは拒絶されたあの頃を思いだし、トトにもまた成長があった事を認知する。
「ところでイノ、素朴な疑問なんだが」
「どうした、キリト」
「あっ……」
キリトに呼ばれ、手を離すイノセンス。
手が離れ少し残念だが、確かな<ぬくもり>を感じ喜ぶトト。
「何故今攻略に参加することにしたんだ?」
今までは攻略時に気まずくなるのを避けるため、気を使って参加しなかったイノセンスが何故。
イノセンスは答える。
「それか……。シリカにな……説教されたんだよ、今のままだと皆さんのためになりませんってな」
「へぇ、あの娘がな……意外と度胸あるな」
「ああ、無垢な分行動力もあるし好奇心も高い……礼儀正しく戦闘の才能もある、自慢の<弟子>だよ」
「イノ程の男がそれほど入れ込むとは……」
キリトはシリカがどれ程の腕なのか気になった。これはプレイヤー<黒の剣士>キリトとしての純粋な興味をもった。
「ん?そういや<アスナ>は?」
第一層ではキリトとコンビを組んで瞬速の剣技を見せてくれた人物についてイノセンスは聞く。
すると、キリトは罰が悪そうに視線を向ける。
そこには、赤と白で構成されためでたい色の新星ギルド<血盟騎士団>がいた。
「第二層攻略で君は強くなるからどこかのギルドに入ると良いって言っちまってな……そしたらあそこに入っちまったよ」
良く見ると、先頭を歩いているのが彼女ではないか……フードを外し以前より表情が固くなっていたため気づかなかった。
「副団長様だとさ」
「彼女が副団長か、なら団長はよほどの腕利きなんだろうな」
「二層で一回だけ見たが、堅かった」
「物理的に?」
「物理的に」
流石は<騎士団長>だ、盾として前に出るからには高いVITが必要なのだろう。イノセンスはそう納得したが、解せないのはその当人がこの場にいない事だった。攻略より優先する事項があるのだろうか?
「良くわかったよ、ありがとな」
「こっちこそ、良い話聞けた」
そう言ってキリトは離れクラインに話しかけに向かったようだ、相変わらず仲が良いなとイノセンスは微笑んでいた。
「ここがボス部屋だ!皆は準備万端か!?」
ディアベルがこの場の全員に確認をとる。
問題ないため全員が武器を掲げる。
ディアベルは確認を終えるとイノセンスに視線を向ける。
「今回の号令……君に頼みたい」
「俺に?」
頷くディアベル。少し考えた後、イノセンスは口を開く。
「この中にはまだ、俺を気に食わないやつもいるだろう。だが、今回のボスも一筋縄ではいかないと思う。故に俺は全力を尽くすつもりだ……だからここにいる全員も一丸となって全力で戦ってほしい!この世界を脱出するために!いくぞぉ!!」
この瞬間全員が武器ふりあげ、オーー!!と口々に叫ぶ。心は決まった。扉が開く、戦闘開始だ。
第四層ボスは蟹型の巨大なモンスター<ザ・ライトニング・クラブ・ジャイアント>
取り巻きにザリガニ型モンスター<バイオレンス・ロブスター>を二体率いている。
甲殻系モンスターはその堅い甲殻には斬撃や突撃が効きづらく、打撃が効きやすい。斬撃と突撃が上手くダメージを通すには、間接を的確に狙わなくてはいけない。厄介な敵だ。
大半の剣士プレイヤー達が揃って顔をしかめるが、 攻略組の中でも最上位のプレイヤーたちは揺るがない。
「進めぇーー!!!」
ディアベルが指示を出すと攻撃が開始される。
メンツの多い<軍>や殆どが盾持ちプレイヤーの<血盟騎士団>が率先してボスを相手し、残りは取り巻きを相手する。
「いくぜぇ、野郎ども!」
「「「「「おう!」」」」」
「俺達は後方から槍で攻撃だ、<風林火山>に前衛は任せとけ」
「なっ!感じ悪いぜ!<青竜連合>もっと前出ろよ!」
「これが我々のやり方だ、悪く思うな」
<風林火山>と<青竜連合>はどうにも犬猿の仲な雰囲気のようだ。積極的に前に出る、後ろから攻撃し被害を減らす。
二つの意見は平行線……だが<風林火山>にはイレギュラーがいる、圧倒的な力で敵を薙ぎ倒す修羅が。
「お前なんかに大した時間は割かない、消えて」
トトが構えに入ると両手鎌<ベルーガ>が赤く輝く。ソードスキル<デス・カタストロフィ>を発動、天高くベルーガを構える。ただまっすぐに頭を狙い。
「バカが!そんな事をしてもまともにダメージが入る訳がない!」
<青竜連合>の一人がそう声をあげる。それは正論だ、ただし普通のプレイヤーに対してのみだ。
赤に染まる刃が一気に振り下ろされる、そしてそのまま刃はロブスターの頭殻をバッサリ切り捨て血のようなエフェクトが飛散する、倒れたロブスターにクラインがソードスキル<クレセント>で止めを刺す。ロブスターは光となって四散する。
その光景を見ていた<青竜連合>はただ唖然とするしかなかった。
同時刻、ソロと<月夜の黒猫団>側は。
「俺とシリカが前に出るから他メンバーはスイッチを頼む」
「「えっ、だが(でも)」」
「悪いが今はそれが一番効率が良いんだ」
今日まで前線から離れて、シリカとのコンビでやって来ており、昔と勝手が違い上手く連携が組めないと踏んでイノセンスはこう言った。
「わかった……次からは俺とも組んでくれよ」
「仕方ないなぁ……」
と久しぶりに組みたがっていたサチとキリトは後ろに下がる。イノセンスはこの二人案外似てるなと感じた。
「マスター……」
「さあ、見せてやろうシリカ。俺達<師弟>の力を」
「はい……<生きます!>」
シリカはイノセンスの戦闘中における心技体を参考にし、さらに丸々一週間を彼と二人きりでずっと同じ時間をすごした。彼の理念や思想をしっかりと理解するために、そして今その成果を見せる時。
駆けるシリカ、高いAGIと軽い短剣、かつてイノセンスが行っていたスタイルだ。風の如く駆け抜け敵の前爪を狙い弾く。そのままの勢いでシリカは後ろに回り込む。
すかさず<真紅の稲妻>がロブスターの前に躍りでる。ソードスキル<絶>を発動。イノセンスの姿がブレながらその刃が何度も敵の首の位置を切り刻む。一気に敵のHPが削れ、さらにロブスターが怯む。
「スイッチ!」
合図と共にキリト、ダッカー、サチ、さらに後ろに回り込んでいたシリカも加えてスピードアタッカー達が次々と突っ込んでは(間接を)切り刻む。正直ただの地獄絵図であったとケイタは後に語っている。終わったあとには解体され調理されるのを待つのみの食材があるだけだった。と思った時にはもう四散した。
「凄かったな」
「最近まで下層にいたとは思えない手際のよさだった」
「面白いくらい楽に倒せたわ、あんがとさん♪」
「こちらこそ、ありがとうございます!」
「よかったぞ、シリカ」
イノセンスがシリカを誉めるとシリカは照れくさそうに笑いボスへと体を向ける。
「あとはボスだけです!マスター!」
「ああ、行くぞ!」
取り巻き組は一斉にボスへと向かった。
ボス組はかなり苦戦しているようだった。
「くっ!痺れが!」
「A隊はB隊と交代!C隊はA隊の治療を!麻痺と気絶を最優先!くそっ!やはりβと違う!」
ディアベルはβテスターだ、故に情報を把握していたがやはり今まで同様βテストと違った。
βテストにおいてはHPが半分を切ると、<麻痺>や<気絶>などの状態異常がなくなる代わりに動きが速くなる……であった。
しかし本サービスである今回は、半分を切ったと同時にボスが飛び上がり雷を纏いボディプレスを行った。それによりA隊は状態異常で壊滅、しかもボスは雷を纏ったまま動きが速くなったのだ。
「おう、酷い状況だなディアベル」
「イノセンス!頼む!前線を立て直す時間をくれ!」
「分かった、何とかやってみよう」
そのまま、倒れたA隊の横を通りすぎてB隊のもとへ向かう。
B隊は大半が<血盟騎士団>で構成されており、其処には必死に仲間に指示を出すアスナの姿があった。
「会議の時ははっきり気づけなくてすまなかったな、アスナ殿」
「! あなたは!もう、君があんな事言ったせいで暫くキリト君相手するの大変だったんですからね!」
「そりゃ、申し訳無かったな……慰謝料は?」
「慰謝料はいらない、こいつを何とかして!」
「承った、お嬢様」
瞬時に本能の牙により思考加速。状況的に一番の最善を導き出す。
「OK、ならばこうだな」
答えを出し行動に出る。
「シリカ!東条!こっちへ来てくれ!他の皆はB隊の援護頼む!」
「何でしょうマスター!」
「今呼んだよね、稲生君」
二人は即座に駆けつける。
「シリカは俺と撹乱、東条はそこで出来た隙に今時点で最強のソードスキルをぶち当ててくれ。東条、どれくらいタメ時間が必要だ?」
トトは少しなやんでから答える。
「一分は持たせて」
「分かった、一分だな?シリカ後ろから攻撃を仕掛けろ、俺は前から行く。」
「了解!」
「頼んだ、東条」
「! 任せて!…………本気、出す!」
見送った後、トトも本能の牙を無意識で発動させる。その起動キーは強い<闘争本能>。
「はあああああああぁぁぁ!!!」
しかし、それはかつてよりはっきりと自分自身の意識があった……今まで何となくだった力をはっきりと感じられる。
「倒す……私と彼の敵……倒す!」
「せあっ!」
「そいっ」
上手く雷と爪の応酬を掻い潜り、ダメージを与える。
「大丈夫か皆!」
「問題ないぜ!」
「行けてます!」
「うん、だいじょ……ぐっ!!」
しまった、サチは思考がとまる。
一瞬の油断で、リズムが乱れそこを脚で払われた。
このままではやられる!
「サチ!!」
フワッと浮く感じのあと、自分がイノセンスに抱えられたと知る。とても、距離が近くに感じる。
「良かった……無事で……」
「イノ君……」
イノセンスは本気で心配し、自分が無事だったことで安堵してくれた。それだけで今の彼女は嬉しかった。
「……ぅぉぉおおおおお!!!」
「! 全員待避!!」
と、もうとっくに一分経っていたのでトトがボスに迫っていた。
急いで前線部隊が下がる中彼女はこう言い放った。
「イチャイチャすんなばかやろーーー!!!」
「え~~!?」
そのままソードスキル<アポカリプス>でボスに一撃見舞う。
物凄い音と共にボスがぶっ飛んでいく。
「今だ!行くぞシリカ!」
「待ってました!」
いくらトトがプレイヤーの中で最高のSTRだったとしても、フロアボスのHP半分近くは削れない、案の定ぶっ飛んだがHPは残っていた。
二人は駆ける、終止符を打つために。
「とどめ!」
「だあぁっ!!」
二人はクロスしながら斬りぬけ、とどめはイノセンスであった。
巨大な蟹が泡を吹き出し派手に散った。
今回は全員の拍手と歓声がわき起こった。
「<雷切>か……良い刀だ」
紫色の柄と独特な形の鍔……そして白く輝く刃。
短刀のユニーク武器を得てやはり自分はゲーマーだと感じる、思わず顔がにやけるのだ。
「<ナイトメアローブ>の時は喜ぶ暇もなかったし、良かったマジで!」
VITがダウンする代わりにSTRとAGI大きく上がるこの性能はまさに自分向けであったことも一塩だった。
「大事に使うよ……相棒……」
パリパリと稲妻が流れる。何となく<雷切>が答えてくれた様な気がした。
雷切のお陰でただでさえ高いAGIがどんどん上がる上がる……そのうち速さが足りないって言いだしたり、振り切るぜ!って戦う前に言って変身したり、GN粒子撒き散らしたりするかもしれません(オイバカヤメロ
次回……お待たせしました……あの子が東条じゃなかった登場します。