ソードアート・オンライン 本能の牙-instincts-   作:新世界のおっさん

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イノ強化回。

ここで、出揃う最後のヒロイン……これで打ち止め!


紅き小兵

直貴がGGOを始めてから三日目。

イノとして必死にダンジョンに籠り、格上相手に本能の牙を使い無双をしてステータスポイントと資金を稼いだ結果、ようやく対人をしても大丈夫そうなステータスに達する。

残りは装備を整えなくてはならないため、イノは前の店とは違う大型の総合武具店に入った。

 

「やっぱりでかいところは品揃えが違うな、かなり沢山店があるし」

 

武器や防具のデパートと言えるそこでは様々な店が軒を連ねていた。

 

「実弾銃を主に取り扱ってるのは……ここか」

 

数ある店から場所を特定し中に入るイノ。

今の自分に扱えそうな品を探す。

 

「現在の予算、能力、スタイルなどを考慮して……」

 

イノは高速思考を展開、この中でも最善の結果を考える。

その末にたどり着いたのは、店のおすすめの一つ。

 

「<イングラムM10>か……」

 

イングラムM10とは、アメリカ製の短機関銃でありかつ小型なためマシンピストルとしても分類される銃である。

装弾数40発、45口径の武器であり本来は手振れが激しいが、ある程度STRが高いと格段に抑えられる。

AGI重視型かつ次点でSTRを上げていたイノには、現在の予算だとこれがベストの様だ。

 

「防具とサブウェポンは後にして、とりあえずこれで」

 

イングラムを購入したイノは店を後にする。

 

「次はもっと難易度高いダンジョンだな……きっかけは詩乃の為だが段々面白くなってきたし、この調子でどんどん突き進もう」

 

外に出てからイングラムを装備し、地図を見ながら移動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グロッケン市街から徒歩三時間はかかる距離にあるダンジョン、<ヴァルナ遺跡>。

ここは獣人であるケンタウロスが根城にするエリアであり、彼らはここで自らの宝を守りながら過ごしている。

それ故に宝を狙って潜り込むプレイヤーも多く、またそれを狙うモンスターも多く存在する、プレイヤーからすれば四六時中警戒していないといけないキツイ場所だがそれでも来るプレイヤーが後を絶たないのは宝の内容が様々で魅力的だからだ。

 

「全員、移動は慎重にな……絶対だぞ!」

 

「皆わかってるっすよ、番羽(ばんぱ)さん、ただ声抑えてくださいっす……」

 

「お、おお……すまねえな、少し緊張してるみたいだ」

 

現在トレジャーハントをメインとしたスコードロン<バンパー特攻隊>は全六名でこの遺跡に探索にきていた。

リーダー<番羽>とこのメンバーでは最も新参の少女<イナリ>は一番前で会話していた。

番羽はGGOでは珍しいクロスボウを装備し、意識しているのかインディジョーンズの主人公の様な格好をしている、ちょび髭割れ顎の中年アバター。

イナリはマグナム<デザートイーグル>を装備、身軽にするため黒いTシャツにベージュ色のベスト、下はベストと同色のミニスカートで、紫の瞳と髪でボブカットにゴーグルを着けた中高生くらいアバターだ。

 

「それにしても私初めてここに来たんですが、こんなに静かなんすね……本当にモンスターなんかいるんすか?」

 

「もちろんだ、宝を守るケンタウロスに、待ち伏せして襲ってくるジャイアントスパイダー、それに人を丸飲み出来るくらいの蛇とかな」

 

危険の度合いが分からないイナリに、如何にも危険そうな素振りをする番羽。

 

「……うぅ~何かケンタウロス以外全部気持ち悪い系のモンスターじゃないっすか……そんなのにあったら正気で入られる自信ないっすよ……」

 

「まあ、そう気を落とすなよイナリ……もう少しなんだからさ……ん?」

 

話を聞いて途端に弱気になってきたイナリを見て、番羽は励まそうとしたが、そこでふと気づく。

後ろから聞こえていた仲間達の足音が今聞こえないのだ。

 

「……まさか……」

 

「えっ?どうし……」

 

後ろを振り向く二人が見たのは、暗闇に光る赤い眼光だった。

 

「キシャァアアアアアアア!!」

 

「「ぎゃああああ!!」」

 

二人は決して振り返らずダッシュで逃げだした。

大蛇は追いかけてくる、二人の想像以上に速い。

 

「嫌っす!食われるのは絶対嫌っす!!」

 

「そりゃ俺だって同じだよちくしょお!!」

 

仲間達は恐らく皆仲良く後ろの蛇に食われてしまったのだろう。

その二の舞を踏みたくないのはどちらも同じだった。

 

「こんなとこでまだ死ねないっす~!」

 

「くっそ……お?おいイナリ!あいつ追ってこねぇぞ!?」

 

「えっ?」

 

振り返ると確かに蛇の姿はいつの間にか消えていた。

 

「良かった助かっ……」

 

助かったと思ったイナリだったが、振り返ったせいで前を見ていなかったのが仇になった。

目の前には既に道が無かったのだ。

 

「う、うわあああああ!!?」

 

「イナリ!?」

 

番羽が落ちた彼女見て駆け寄ると。

落ちたそこは一面巨大な蜘蛛の巣だったのだ。

イナリは糸に絡まれながら恐怖で顔が青ざめている。

 

「何てこった……これじゃあもう……」

 

「ば、番羽さん……助けて……ほしいっす……」

 

「……ッ!」

 

イナリは助けを求めるが番羽は動けない。

トレジャーハンターとしての能力に特化している番羽では真正面から戦えばむしろ自分が返り討ちに合うのを知っていた。

自ら死ににいくのは愚の骨頂。

番羽は覚悟を決めた。

 

「イナリ」

 

「番羽さん」

 

「すまねえ」

 

彼女を見捨てる覚悟を。

「えっ?」

 

「俺もここまで来て宝の一つも取れねえまま死んだんじゃ、仲間達に申し訳がたたねぇ……だから……俺は行くよ……」

 

「うそ……嘘っすよね……そんなの無いっすよ!番羽さん!」

 

「もう、会うこともないかもな……許せよ……」

 

そう言って横道へ去っていった番羽。

番羽の言葉に絶望していくイナリ。

 

「いや、いやっす……こんな……こんな死に方……何でログアウトすら許されないんすか……ねぇ……」

 

手が拘束されメインメニューすら開けない。

ただこのままジャイアントスパイダーに食われるのを待つのみ。

巣がギシギシと音を発てる。

巣の主が獲物を食らいに来たのだろう。

 

「(ああ、こんな時……いてくれたら良いのに……都合良く助けてくれるヒーローみたいな人が……)」

 

彼女の思いとは裏腹に近づいてきて、顔が見える距離まで来たジャイアントスパイダー。

 

「(こ、怖いっす!本当に死ぬわけでも無いのに!怖いっすよ!)」

 

溢れだす涙を止める人は今いない。

そんなのは彼女だって分かっている、だが叫ばずにはいられなかった。

 

「助けてええええええ!!」

 

次の瞬間、上から何かの影が降ってきたのと、ジャイアントスパイダーの腹が蜂の巣になったのがほぼ同時だった。

 

「ピギャアアアア!!」

 

「……えっ?」

 

イナリは訳がわからず放心状態だったが良く見るとジャイアントスパイダーの上に誰かが乗っていた。

 

「オラァ!!」

 

何者かのかけ声と共にジャイアントスパイダーの頭と腹がお別れし、何故かその下にあった蜘蛛のまで綺麗に切れていた。

蜘蛛は両断された状態で落下し、蜘蛛の上から何者かがイナリに向かって飛ぶ。

その姿は不釣り合いな大剣を振りかぶった金色に輝く目をした少年だった。

 

「身体一ミリも動かすなよ!」

 

「ええっ!?」

 

少年が剣を振るうと巣が断ち切れ、今度はイナリが落下する。

 

「お、落ちるっす~!!」

 

「なんとぉ!」

しかし少年は急いでイナリに追い付き、抱き抱えて彼女の負担にならない要に綺麗に着地する。

 

「ふぅ……何とかなったか」

 

「……あぁ~私もう死んだっす~」

 

「別に死んでねぇぞ?」

 

イナリは唐突に色々ありすぎて疲れたのか、或いは恐怖のたがから外れたからかその場に崩れ落ちる。

 

「それはそうっすけど、気持ちの問題っすよ~……ジャイアントスパイダーに近づかれた時には心臓止まったと思ったんすから」

 

「まあ、あんなのに抵抗出来ない状態で近づかれたら確かにそう思うかもな」

 

真っ二つとなった蜘蛛の死体は先程までびくびくしていたが、砕け散ったので問題は無いと思われる。

 

「……ところで気になったんすけど……」

 

「なんだ?」

 

「貴方は何処のどちらさんなんすか?」

 

イナリの質問に少年は今気づいた様に返す。

 

「俺の名前はイノ、ポイント&金稼ぎにこの遺跡に来たプレイヤーだ」

 

「そ、そうっすか……私はイナリ、トレジャーハンターっす」

 

二人は握手して、互いに友好な存在だと示す。

 

「まず助けてくれてありがとうっす、本当になすすべ無く泣くしか出来なかったっす……」

 

「どういたしまして、しかし、お仲間はどうしたんだ?まさかやられちまったのか?」

 

イノは彼女の現状に質問する。

するとイナリは驚く。

 

「なんで私に仲間がいたことを知ってるんすか!?」

 

「いや、実は君と仲間が追いかけられてるのを横道から見かけてさ、助けようと武器を構えたら俺にヘイトが移って……そのあとしばらく戦ってたんだ……んで、戦利品がこれ」

 

イノ背中の大剣を自分の前に突き刺す、特殊なその蒼い刃には草薙と彫られていた。

 

「……何かご迷惑おかけしましたっす……実は仲間にはさっきの所で見捨てられちゃったっすよ」

 

「あ~そうだったのか、すまないな……嫌なこと聞いちまって」

 

イナリの言葉を聞き、謝罪するイノ。

 

「貴方が謝る必要は無いっす!彼にはきっちり償ってもらうつもりっすから」

 

イナリはそう言って、むすっとした表情をする。

それを見てイノは当然だなと笑い、奥へと目を向ける。

 

「んじゃついでだし付き合うよ、トレジャーハント」

 

「……えっ?でも申し訳無いっすよ」

 

「ケンタウロスを狩って俺はポイントを、君は宝を、ギブアンドテイクさ」

 

そう言って大剣<草薙>を背負うイノ。

イナリはそれを聞いて呆気にとられたが、すぐに笑った。

 

「あははっ、かっこいいっすね!君!でももう少し大きくないとキュンとこないっすね!」

 

「……はいはい、じゃあ行こうか」

 

「むむっ、今の反応は冷たすぎっすよイノくん」

 

イナリは自分の言葉に素っ気ないイノに対してむくれる。

 

「そうやってむくれるうちは子供だよ、イナリ」

 

そう言って、ケンタウロスが守るフロアに向かうイノ。

 

「な、なに言ってるんすか!子供はイノくんの方っ……て待ってほしいっすー!」

 

イナリは置いていかれる前に急いでイノを追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく奥へ進むと、怪しい扉に突き当たった。

 

「怪しいな」

 

「怪しいっす」

 

イノは前に出て、イナリを後ろに下げる。

 

「もしもの時は、そのデザートイーグルで援護してくれ」

 

「り、了解っす」

 

イノが取っ手に手をかけ扉を開ける。

中は広間になっており、中央には宝箱がその周囲にはケンタウロスが複数配置されている。

イナリが目を凝らして良く見ると、宝箱近くにクロスボウが落ちていた。

 

「(天罰っすよ、番羽さん……)」

 

それを見てイナリは無性に虚しい気持ちになった。

 

「俺は突っ込んでヘイトとるから、もしもの時よろしく」

 

イノはイングラムを持ち、ケンタウロスを撃っていく。

弓を使うケンタウロスを優先して狙い、制圧する。

 

「凄いっす……何か、あんな小さい子なのに歴戦のプロみたいっす」

 

動きも、手際も全く無駄がない。

洗練されたそれに、イナリは見入る。

槍を持ったケンタウロスに草薙で対抗したが、ここで彼の今の弱点が露呈する。

「あの表情、それに重たくて上手く振るえてない、もしかしてSTRが足りてないんすかね」

 

イノは確かにSTRも上げている、しかし次点であり数値が足りず、装備して持つことは普通に出来ても満足に振るえず真価を発揮出来ていない。

故に苦戦し、上手く対応できていなかった。

 

「なら、私の出番っすね……あんま射撃には自信無いっすけど」

 

イナリは自分のデザートイーグルを構える、槍を持ったケンタウロスに対して慎重に狙いを定めて撃つ。

デザートイーグルはマグナム、一発の威力の高さはかなりのものので当たれば高いダメージと敵の硬直が狙える。

イナリは見事に命中させ、ケンタウロスを制止させる。

 

「ナイス!」

 

「私だってやれば出来るんすよ!」

 

ケンタウロスは草薙に斬られ、敗北する。

全ケンタウロスが倒された為、中央の宝箱が開く。

 

「ふぅ、終わった」

 

「やったっす!!」

 

イノは一息つき、イナリは飛び上がり宝箱に駆け込む。

中にはレア装備が3つも詰まっていた。

 

「ウマウマッス!」

 

「良かったな、これでトレハンの面目躍如だ」

 

イノはイナリのキラキラした瞳を見て苦笑する。

 

「さて、リアルでいい時間だし……帰って落ちるかな」

 

「あ、待ってほしいっす!!」

 

帰ろうとするイノをイナリが止める。

 

「なんだ?」

 

「……やっぱり何も返さないのはおかしいっすから……これ!」

 

イナリはトレード申請で先程のレア装備の一つ、真紅のコンバットスーツ<カグツチ>をイノに見せる。

 

「イナリ……」

 

「……それSTRブーストっすから、イノくんにぴったりっすよ」

 

「これで断るのも悪いし、ありがたく貰うよ」

 

申請を受諾し、早速着てみる。

力がみなぎってくる気がする、肌にも馴染む装備だった。

 

「それと、これっす

 

イナリは続いて、フレンド申請を送る。

 

「来ると思った」

 

それは予測しており、二つ返事で受諾する。

 

「これから度々護衛依頼するっすから!一緒に組んでほしいっす!」

 

「もちろん、暇なら駆けつけるよ」

 

「ありがとうっす!」

 

二人は互いを見合って笑いあう、殺伐としたダンジョンが幾分か和んだように感じた。

 




第三章最後のヒロインイナリ、これで5人出揃いました。

ずっと日常が続いていたので久方ぶりのまともな戦闘でした(笑)
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