ソードアート・オンライン 本能の牙-instincts- 作:新世界のおっさん
彼女が英雄たる彼に憧れたその経緯、そして今の彼への想いとは?
夢を見る、それは遠い日の記憶……眠る小さな想いが広がりだす……。
「ナツ……ナツ?どうしたの?」
「え?いやなんでもない、ちょっとボーッとしていただけ」
「しっかりしてよ?今日はかなりの強敵が相手だから気を引き締めろってディアベル総督も言ってたでしょ?」
「は~めんどくさいわね……」
SAO第50層攻略。
軍も総出で、攻略組が勢揃いしている中に夏樹は、アバター名ナツとして参加していた。
この頃の彼女は、SAOそのものへの緊張感に欠けており、生来のめんどくさがりも相まってこの攻略に乗り気では無かった。
「第一何で軍が総員集合なわけ?総督ワケわかんない……そもそも何で次のフロアボスが強敵って分かるわけ?事前情報なんてなかったっしょ?」
「それがさ、話によると総督にとある人が進言したらしいんだってさ、総督はその人をかなり信用してるから即実行と言うわけなんだな?」
ナツが文句を垂れていると、話していた隣の男は楽しそうに裏事情を語りだす。
「……誰そいつ?」
何となく聞いてみるナツ。
男は何故か自分の事のように得意気にその名を言った。
「<イノセンス>さ……!」
「イノセンス……」
ナツは途端に不機嫌そうな顔になる。
イノセンスも当時は良くも悪くも有名で、最初の頃のビーターとしての悪質な面と、多数の女性プレイヤーと肉体関係を持っていると言う妙な噂も流れており、かなり悪評も目立った。
一方で軍や他の攻略組が一目おく存在だったり、犯罪者を積極的に裁いたりと善行もあり、プレイヤーからは賛否両論だと言う。
この話している男は、彼を英雄と見る人間であり、憧れがふつふつと伝わってきた。
一方でナツはと言うと。
「あいつ、嫌い」
「え?」
彼を嫌っていた。
理由は多々あれど、彼女の一番彼が嫌いな所は。
「私ああ言うガチな奴嫌い……やたら何でもかんでも駆使して強くなった気がして、馬鹿みたいじゃん……これさ、ゲームだよ?」
彼女の性格状、イノセンスの様に本気でうちこんでいる人間は滑稽であり、面倒くさくある存在だった。
単純な感情論だけでなく、生理的に嫌悪していた。
「ナツ……」
「私は絶対にああはならない、見苦しいし面倒くさいから」
彼女はそう思っていた、ボスとの戦いが始まるまでは。
「! どうなってんの!?味方が総崩れなんて!聞いてないし!」
事態は苦戦の一途だった。
ボスの<スーパーアーマー>による割り込みと薙刀の火力とリーチで、波状攻撃が崩され多数の被害が出た。
怪我人が続出する中にナツはいてこの事態に対する覚悟がなかったため、おろおろするだけだった。
ふと、ナツの手が掴まれる。
掴んでいたのは話していた男だった。
「ナツ……逃げるんだ……」
「はあ!?む、無理だって!動けないし!」
「今、総督の号令でタンクが前に出た……いま彼らが支えてる内に……」
男は必死にナツに逃げる様に言う、彼のHPは赤であり、満足に動けなかったのだ。
「逃げたいけど、あんたら放ってくのも無理!面倒くさいから!」
一方でナツは自分だけ逃げることが出来ない精神状態だった。
死にたくはないが、彼らを放って逃げて後悔するのも嫌だったのだ。
だがここで悲劇が起こる。
タンク部隊が盾ごと吹き飛ばされると言う悲劇が。
「そ、そんな……」
ナツ含む後方部隊は絶望した、後は皆纏めて蹂躙されるビジョンしか浮かばなかったくらいには。
ナツは後悔した、本気でなかった事を、強くならなかった事を、そして彼を滑稽といっていた事を。
「助けてください……おねがいですから……誰か……」
彼女は願う、英雄の存在を……願わずにいられなかった、彼女は初めてここに来て本気になったのだ。
「誰か助けてよぉぉ!!!」
「オラアァァァァァァァ!!!」
叫び声に顔を上げた彼女の見た物は。
巨大な敵に果敢に一人で立ち向かった、英雄だった。
後に彼の愛刀<雷切>が、自分達を守るために壊れた事について謝罪に行くと、彼はこう言った。
「人の命にゃ代えられんだろ」
そう笑って言って見せたのだ。
この時から、彼女はVRMMOでは常に本気で打ち込む様になり、彼に心酔することになったのだ。
あれから幾年か経ち、彼女は今学校にいた。
「ふぅ……」
「どうしたの?夏樹ちゃん、ため息ついて」
何かロンリーな気分の夏樹に、話しかける美恵。
「いやさ、先輩って土日しかバイト来ないじゃん?何か寂しいな~って」
「夏休み限定のバイトだったんだし、今来てもらえてるだけありがたいんじゃない?」
「いや~、先輩成分が欲しい!最近真夜さんカリカリしてるし、店長は相変わらずいい加減でめんどいし!まじ先輩だけが私の癒しなの~!」
美恵の言葉に駄々をこねる夏樹。
流石にこの事態には苦笑する美恵。
「夏樹ちゃんってさぁ、本当に稲生先輩の事好きだよね……いっそ告白でもしてみたら?」
「は?無理無理無理!私なんかじゃ全くあの人に釣り合わないっての!」
「……顔赤いよ?」
それを聞いて俯く夏樹。
「美恵が突然変な事言うからだよ!」
「もっと前から赤かった」
「あー、たまに美恵って面倒くさい!」
「はいはい」
必死に否定する夏樹を、翻弄する美恵。
どうも夏樹はこの手の話題は苦手な様だ。
「……そりゃ好意がないって言ったら嘘になるけど」
「やっぱり」
「だけど、あたし自信ないの!……憧れてた……今も憧れてる……けどそれだけじゃない……好きな気持ちもある……だけど、それがどうしても本気なのか自信持てない……」
夏樹は既に直貴に好意があった。
しかし、それは昔の憧れの延長で少し行き過ぎただけかもしれない……その可能性が彼女の心を踏みとどまらせていた。
「夏樹ちゃん……」
「だからさ……私は告白出来ない……それはあの人に失礼だし、迷惑だと思うから……」
「はぁ~」
美恵はため息をつき、スマホからメールを飛ばす。
「もう、分かったよ……だから立って!ちょっと気分転換に外にでも出よ?」
「ふぅ……そうね、何時までもこのままじゃあの人に笑われちゃうしね」
美恵の言葉に立ち上がり、教室のドアに向かう夏樹。
目の前まで来たところで突然ドアが開く。
そこには直貴がいた。
「……って先輩!?」
「お、おう夏樹か……あれ、たしかみ」
「あー!手が滑ったー!!」
直貴が何か良いかけたのを阻止する様に、夏樹を突き飛ばす美恵。
当然夏樹は直貴の前に突っ込むことになる。
「キャア!!?」
「おっと!」
咄嗟に夏樹を抱きとめる直貴。
「流石稲生先輩♪あとは頼みました!」
そう言って美恵はあっという間に退散した。
直貴と夏樹は教室で二人っきりにされた。
「嵌めやがったな、あの子は……一体どんな目的で……」
ふと直貴は夏樹を見ると、耳まで真っ赤にしていた。
「夏樹……?」
「ひんっ!」
話しかけると変な声で鳴いた。
「ど、どうした?」
「う、うぅ……」
彼女は混乱していた、好きな人と二人っきりになり、抱きあっている。
そう考えるだけで、血液が沸騰しそうに感じた。
だが、彼女は離れがたい何かがあり動けなかった。
「……ふぅ……仕方ない……離そうとしても離れないし、話そうとしても返事ないからこのままだな」
「……」
直貴は仕方なく諦めそのまま夏樹を抱き締めつづける。
「……先輩」
「お、どうした?」
しばらくして夏樹が反応を返したので、直貴は安堵して聞く。
「好きな人います?」
「ーーーー」
唐突にストレートが飛んできた。
全く予想外の口撃に頑張って返す。
「いないよ、まだね……」
「そ、そうですか……」
夏樹はその答えに安堵し、伝える。
「実は私、ずっと前から先輩のこと!好きでした!」
「ーーーー」
どうやら夏樹はデンプシーロールの体勢に入ったようだ。
「第50層で助けて貰ってから貴方に憧れて、それから長い時間が経つ内に……あ、返事はまだ返さなくて良いので!……これから、もっと仲良くなれれば私はそれで……」
「……分かったよ、とりあえず夏樹の気持ちは伝わった」
「! は、はい!ありがとうございます!」
彼女の熱意は間違いなく本物だった。
直貴はそう理解して、夏樹を見る。
「ちゃんと考えるから……待っていてくれるか、夏樹」
「はい!」
夏樹は笑顔で返事をした。
夢を見る、それは遠い理想かもしれない、もしかしたら未来なのかもしれない……でもこの夢を見る心は永遠でありたい……そう願った……。
夏樹参戦。
しかし、フラグ建ちましたがイノの正体に気づかないと依然不利なヒロインであります。