ソードアート・オンライン 本能の牙-instincts-   作:新世界のおっさん

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久方ぶりすぎる更新であります。

今回は不遇な扱いになってしまったベヒモスさんと、大分前にチラリと出た<猟犬>の話です。


殺戮者の仮面

直貴がGGOを始めて一ヶ月半……GGOはある意味VRMMO界で注目を浴び始めた。

理由は、有名プレイヤーが謎の心臓麻痺で亡くなったからだ。

噂は彼方此方へ飛び交い、最近は<デス・ガン>だの<猟犬>だのが彼を殺ったのだと広まっている。

 

「なぁなぁシノっち~、この後暇なら一緒に飲まない~?」

 

「……ごめんなさい、リアルで用事があるから」

 

しかし、そんな噂には特に流されず、シノンは今日も情報収集のため、他のスコードロンの実力者の偵察に来ている。

今回はこのスコードロンのリーダー<ダイン>と言う人物の話に乗り、用心棒の役割として参加している。

ただいつもと違うのは一人ではない事だ。

 

「じゃあ、ナッチンや滝サンは~?何なら奢るけど?」

 

「パス、一昨日来な」

 

「すみません、私好きな人がいますから」

 

ダインが持ちかけたのは、シノンがリーダーのファントムバレッツと合同でのモンスター狩り狩りをする話だった。

そのためナッチと滝30も来ていた。

因みに先程からフラれまくっている男は、ダインではなく、その仲間の一人である、世紀末モヒカンのアバターの<ギンロウ>である。

 

「ぐはぁ!全滅ゥ!しかも一人は予約入ってたァ!!」

 

「ってはぁ!?滝30アンタいつの間に好きな人いたの!?あたしは知ら……あっ」

 

崩れ落ちるギンロウを尻目に、ナッチは滝30に詰め寄るが、ふと何かを察して後ろに振り向き、視線をある人物に向ける。

 

「すまないな、俺達も勝ちたいから……冥界の女神と紅き小兵がいれば、まず問題無いと誘ったんだが……」

 

「気にするなよ、俺はソロだが、賑やかなのは好きだし、彼女らとも面識はある……報酬が減るのも、確実性を取るなら致し方ないと割りきれるしな」

 

そこにいたのは、ダインと岩を背にして語らう、少年イノだ。

彼は何処にも所属せずに、流れの傭兵として戦い抜いてきている、今回はダインに誘われ、シノン達同様に用心棒になったのだ。

 

「えっ、いや、あの」

 

「……やっぱアンタショタコン」

 

焦る滝30を見て、蔑む目で見るナッチ。

彼女の中では完全に滝30=ショタコンと認定されている。

 

『ち、違う!たまたま好きになった人がそうだっただけ!私はイノ君の中身に惚れたんだから!』

 

『中身?(意味深)』

 

『ブフーッ!!違うってば!!』

 

小声で否定するも、ナッチは完全にからかいモードに入っており、聞く耳を持ってくれない。

そんな事をしていると、イノが挨拶にやって来た。

 

「よいっす、元気そうで何よりだな」

 

「おっす、相も変わらずボッチね」

 

「ほっとけ」

 

ナッチの軽口に、同じく軽口で返すイノ。

 

「こ、こんにちはイノ君……」

 

「こんにちは、滝30も今日はよろしくな」

 

「! うん!頑張ろうッ!!」

 

「お、おう……元気だな」

 

イノの挨拶にいきなり元気になる滝30。

ナッチは後ろでニヤニヤしている。

最後にシノンに挨拶する、イノ。

 

「……よっ、シノン」

 

「やぁ、イノ君……どうかした?何かいつもと雰囲気違うような……」

 

「えっ、いや……そんな事無いと思うぜ?」

 

しかし、何故かぎこちなくなってしまった。

理由は当然と言えば当然だが、リアルの彼女を意識しているからなのだが……。

 

「おやぁ?これはこれは……もしかしてもしかするんじゃない?」

 

「ムッ……何かイヤな感じする……」

 

ナッチはイノの心境を察してよりニヤニヤし、滝30は今の彼の挙動に対して何かもやもやしているようだ。

 

「お、どうやら来たみたいだぞ……ギンロウ、いつまで塞ぎこんでんだよ、他の奴はもう準備万端なんだぞ?」

 

「す、すまねえ……けどよ、三回連続でフラれたら流石にキツくね?普通……」

 

「自業自得だろ、リアルで無理だからって、ネットにすがる時点でもうね」

 

ダインの言葉に、ギンロウが言い訳がましく言っているので、他の仲間たちは、彼をたしなめている。

 

「誰も味方いないなぁちくしょう!もういいさ、俺が今回のMVPになって、女の子達を魅了して、お前らに吠え面かかせてやるよ!」

 

「何いってるんだか……おい、シノンどいつを狙撃する」

 

今回ダインが狙っているのは、先週も襲ったと言うモンスター狩り後の帰り際のスコードロン。

モンスター狩りは基本エネルギー武器でやるものなので、今歩いてきているスコードロンもエネルギー武器で固めているが、もしものために実弾武器持ちもいるようだ。

ダイン達は高台から待ち伏せしながら、そう品定めをして半ば実弾の奴を狙うのを頭で確定しながらも、あえてシノンに聞く。

彼女はこう答えた。

 

「普通なら実弾の<MINIMI>を狙うべきなんだろうけど……あの後ろのマントの男から嫌な感じがする……出来ればあいつを最初の標的にしたいんだけど……」

 

マントの男は、後ろでフードを被り、顔も分からなければ、何を持っているかも分からなかった。

スナイパーとしては、こう言う不確定要素は排除したいとシノンは考えているらしい。

 

「あいつを?確かに先週みた時はいなかったが……しかし嫌な感じがする、だけじゃなぁ……イノ、お前はどう思うよ?」

 

シノンの直感的な言葉を聞き、ダインはあまり納得がいっていなかったので、次はイノへと質問者を変える。

 

「後ろのマントは確かに不味そうなんだよな……対人の経験上、ああいうタイプのプレイヤーは用心棒の可能性が高いんだ」

 

「! 用心棒……」

 

「あのマントの下に、対人用のえげつない武器が入っていたらと考えると、あっちを狙った方が俺は良いと思う……それとMINIMIは俺が始末すれば言い訳だしな」

 

最後の言葉にダインはハッと気づいて、笑う。

 

「ハハハッ!そう言えばそうだったな、すっかり忘れてたぜ……シノン、マントの男を狙ってくれ」

 

「分かった、準備しといて」

 

「頑張ってシノン!」

 

「私達は下に行ってるね!」

 

「任せた」

 

「ええ、任されたわ」

 

ダイン達は、イノ、ナッチ、滝30と共に下に降りていき、シノンは愛銃<ウルティマラティオ・ヘカートII>を、マントの男の頭目掛けて構える。

呼吸を整え、引き金に指をかけ、ただ一点を見つめる。

 

『状況に変化があったら知らせろ、狙撃のタイミングは指示する』

 

「了解」

 

高まる緊張感しかし、彼女の瞳には一切淀みがない。

 

「そちらからの距離400、こちら1500」

 

『……まだ遠いがいけるか?』

 

「問題ない」

 

近づいてくる敵、鼓動に合わせ着弾予測円(バレットサークル)が広がっては縮みを繰り返す。

 

「(こんなプレッシャー、こんな不安、こんな恐怖なんて……距離1500?そんなの丸めたゴミを屑籠に投げ込む様なもの)」

 

集中力が極限まで達してくると、最早回りの雑音などまるで耳に入ってこなくなる。

シノンは今のその境地にいた。

 

「(そう、あの時に比べたら……!)」

 

シノンは引き金を引いた、ヘカートから弾が撃ち出され、瞬間マントの男が撃ち抜かれる。

 

「あ、あれは!?」

 

マントの男はどうやら武器をドロップしてしまった、らしいが、残っていたのは巨大な<ミニガン>だった。

 

「あいつを最初に撃てて正解だったみたいね……下の様子は……」

 

敵スコードロンは真っ先にミニガンの男がやられるとは考えて無かったらしく、かなり混乱している。

そこへダイン達は突っ込んでくる。

 

「ゴーゴーゴー!!」

 

「ッ!応戦だ!応戦しろ!」

 

敵スコードロンは必死に応戦するも、エネルギー対策の防護フィールドで威力が減衰されるため、ダイン達に一方的に撃たれている。

 

「ヘヘッ!楽勝だぜ!」

 

「そこには同意ね!」

 

「くそっ!調子に乗りやがって!」

 

ギンロウとナッチは先陣きって突っ込んで、敵を次々倒していく。

これに怒ったMINIMIの男は、二人に銃口を向けるが、その前に禍々しい赤い盾が立ち塞がる。

 

「させねえよ」

 

「なっ!紅き小兵!?」

 

イノは<アエテルヌム>を構えながら、MINIMIに突貫する。

当然応戦されるが、弾はまったく通らない。

どんどん縮む距離に恐怖を感じる男。

 

「くそっ!どうなってやがんだ!これはGGOだぞ!銃撃戦させろよ!!」

 

「ふっ!」

 

至近距離まで迫りイノは、アエテルヌムによる打撃で先手をうつ、相手がぐらついた所に、身の丈に不釣りあいの大剣<草薙>を振り上げる。

まさに今彼は、あの<ヒースクリフ>の<神聖剣>を再現していた。

 

「ガッ……」

 

「悪いが、俺は白兵戦が大好きなんでな……許せよ」

 

そのまま頭に降り下ろし、真っ二つにするイノ。

リアルじゃなくても、中々派手な光景になった後、MINIMIの男は倒れた。

この時点で、既に大勢は決していた。

後はスコードロンの全滅を待つばかりであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、良かった良かった!今夜はファントムバレッツと紅き小兵に乾杯だな!」

 

「だからリアルで用事あるから落ちるんだっつの」

 

「ま、まあ少し時間あるし、ちょっとだけ参加するのも良いかもよ?」

 

「滝30、貴女は甘すぎる……彼が希望があるかもと勘違いするから早めに帰るのが一番よ」

 

戦いを終え、全員でグロッケンへと帰路へとついていた。

ギンロウは相変わらず諦めてないのか、三人に声をかけてきたが、滝30以外の二人は正直嫌なようだ。

 

「(まーたSTR重視な武器だな……いや、嬉しいんだけどさ)」

 

因みに今回の敵の用心棒<ベヒモス>がドロップしたミニガンは、この中で一番STRが高く、扱える領域に達しているイノに渡された。

彼は、また不釣りあいな物を手に入れた事に、複雑な気分だったが、貰ったのだから大事に使おうと、イベントリにしまった。

 

「どうしたの?ため息なんかついて、君らしくもない」

 

「えっ?いや、別に何でもないさ……今日はお疲れ、シノン」

 

「うん、お疲れさま……やっぱり強いね、BoBでは私の最大の障壁になるでしょうね」

 

突然話しかけてきたシノンにイノは軽く挨拶をし、シノンはそれに微笑み返す。

 

「俺からしてもシノンは強敵だ、スナイパーは俺苦手だし、さらにヘカートを盾でまともに受けれるか分からないしな」

 

そう言ってイノは苦笑する、実際彼女の持つヘカートⅡは対物ライフルなため、もしかしたら強固なアエテルヌムでも、防げないかもしれない。

 

「ふふっ、今から楽しみになってきた」

 

「そりゃ良かったな、まあ俺もそう思うけど……?」

 

シノンの言葉に同意しようとした時、ふと上を見て気づいた。

空を舞い、彼女を狙う2丁拳銃の仮面をつけた少女がいたことに。

 

「危ない!」

 

「えッ!?」

 

シノンを突き飛ばし、弾丸を盾で受けるイノ。

全員が驚くなか、仮面の少女はダイン達スコードロンの前に降り立つ、彼女からはえもいわれぬ強い殺気が放たれていた。

 

「! ダイン!ありゃまさか!」

 

「……ああ、最悪だ!こいつは<猟犬>だ!」

 

そうダインが叫ぶやいなや、<猟犬>は高速で接近し、ゼロ距離でヘッドショットを決め、一人を殺す。

 

「こ、この野郎!」

 

全員が一気に臨戦態勢に入り、撃ちだすが。

猟犬の動きの速さに、誰も着いてこれない。

一人、また一人と頭を撃ち抜かれる。

その様子をファントムバレッツは唖然と見つめ、イノは彼女に既視感を覚えた。

 

「(なんだ?……この女、何処かで会ったか……?)」

 

「くそぉ!食らいやがれ!」

 

ダインはグレネードを投げ、それを銃で撃ち、安全装置を破壊して爆裂させる。

中々の高等テクニックであり、彼の得意技の一つらしいのだが、どうやら猟犬には見切られていたようだ。

彼女は爆煙に紛れて、ダインに接近してきた。

 

「嘘だろ……夢なら覚めッ……!」

 

言葉を言い切る前に、ダインは始末されてしまった。

彼女の手に握った<コルト・ガバメント>が鈍く光を放つ。

猟犬は笑っていた、この状況を楽しんでいたのだ。

 

「これが……猟犬……」

 

「何て強さよッ……!」

 

「ッ!こいつは私がやる!」

 

シノンは彼女に短機関銃<MP7>を構え、挑みかかる。

それを分かっていたかのように跳んで避けながら、ガバメントを撃ちこんでくる猟犬。

シノンは弾道予測線を頼りに何とか回避し、再び彼女に向けて構える。

瞬間猟犬が跳び、その足元に銃弾が着弾する。

 

「あ、あたしらも黙ってられるかっつうの!」

 

「怖いけど!ほっておけないよ!」

 

「二人とも……ありがとう!」

 

ダイン達の応戦する姿を見ていた、彼女らは、猟犬がどう言う立ち回りで来るかは何となくは把握していた。

しかし、三人の攻撃はかすりもしない、かつ向こうの攻撃は回避が至難で、下手をうてば急所を避けれても当たってしまう。

まるで<最初から分かっているかの様な動き>だった。

 

「やっぱりそうか……なら……」

 

イノは何か納得し、本能の牙を発動する。

思考がクリアになり、加速し、瞳が青く輝き出す。

草薙を背中に納め、<イングラムM10カスタム>を構え、動き回る猟犬ではなく、その先の位置に精密射撃を行う。

すると、今までかすりもしなかった猟犬の左足に当たった。

 

「ーーーーッ!?」

 

思わぬ衝撃を受けて、体勢が崩れ、転げ回る彼女を見て三人は驚く。

 

「今のイノ君!?」

 

「射撃苦手だったんじゃないの!?」

 

「白兵戦が好きなだけで、射撃が下手なわけじゃねーよ」

 

「……」

 

猟犬がゆっくりと起き上がり、イノに目を向ける。

その一瞬驚くと同時に、笑顔が消える。

 

「まだやる気なら相手になるわよ!」

 

シノンは殺気だっていたが、今の猟犬からは先程放たれていた様な強い何かはなく、寧ろ静寂だった。

そして、今まで言葉を発さなかった彼女が口を開いた。

 

『アナタモ、ワタシモ……オナジ……』

 

猟犬はイノを見据えながら、遠くから響くような不思議な声で話す。

彼はただ黙って彼女の言葉を聞いていた。

 

『ナニヲ、ドリョク、シヨウガ……ケッキョク、コロス……ミンナ、シヌ……シュクメイニハ……アラガエナイ……』

 

「殺す……宿命……?貴女何を言ってるの?」

 

『サイゴニハ……<ミズカラヲ、コロス>!!』

 

シノンの疑問には答えず、猟犬はスモークグレネードを投げる。

辺りを強い煙が埋め、四人の視界を奪う。

そして、晴れたころには猟犬の姿はなかった。

 

「皆大丈夫か?身体に異常あったりしないか?」

 

「私らは大したことないわよ……それより、あの猟犬と知り合いなの?」

 

「イノ君の事を知ってるみたいな言い方だった……」

 

「……心辺りある?」

 

三人は自分のダメージよりも、イノが猟犬に目をつけられた可能性を心配していた……噂でしかないが、猟犬があの<ゼクシード>を殺した説も流れているのだから。

 

「分からないな……正直確証が持てない……」

 

「そうか……なら気を付けなよ?ああ言うやつは、根に持つタイプよ、間違いなく」

 

イノの返答に、ナッチは経験があるのか嫌に実感のこもった言い方だった。

 

「分かった……すまないな、余計な心配かけて」

 

「謝ることないよ!寧ろ私達は助けられた訳だし……」

 

「そうよ、何かあったなら連絡頂戴、次こそ私が倒すから……」

 

申し訳なさそうに謝るイノを見て、滝30は慌てて否定し、シノンは先程決着がつかなかった事に不満があるらしく、寧ろウェルカムな姿勢だった。

 

「(……本当は、もしかしたらとは考えた奴はいるんだ……俺を知っていて、俺と同じような力を持ってるなら、容疑者は絞られるんだよな……はてさて、どうしたもんかな……)」

 

イノは一人頭を悩ませていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、リアルでは<猟犬>が目覚めていた。

アミュスフィアを外し、立ち上がり、鏡を見つめる。

その姿は、紫の輝きを放つ瞳をしている、稲生直貴の従姉である<稲生真夜>であった。

その瞳からは止めどなく涙が流れ出ている。

 

「そう……結局死ぬのです……私も……貴方も……母さんの様に……!」

 

頭に浮かぶのは、自らの母親の最期。

力に翻弄され、暴走し、最後は自らを殺した哀れな母。

それを見たとき、そして同じ力を得たとき、彼女は諦めていた。

自らの人生、幸せな時間、好きになった人も……。

だから、その日から彼女は変わった。

リアルでは冷たい態度で、人を寄せ付けないようになり……GGOでは力を突発的に暴走させないために、使って発散していた……それがいつしか<猟犬>と呼ばれる様になる。

しかし、床に崩れ、鳴き声をあげる彼女にそれらの面影は見えず、年相応の女の子でしかなかった。

 





と言うわけで新たなる本能の牙の持ち主が登場しました。

青→金(extraでは青→緑)<生存本能>
赤<闘争本能>
紫(new!)<????>

何の本能なのかは、いずれ明かされます……具体的にはBoB予選の後くらいに(笑)
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