ソードアート・オンライン 本能の牙-instincts-   作:新世界のおっさん

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宿命は変えられなくても運命は変えられる。
進むべき道を決めるのは結局自分自身。


gear of fortune

「……いつまで着いてくるつもりだ?」

「……」

 

さっきの件は片付いたはずだとイノセンスは振り向く。

あの後圏内まで護衛し、脅威は既にないにも関わらず少女シリカはいまだに着いてきている。正直寝所など把握されると寝首をかかれかねない彼の今の立場(ビーター)からすれば、たとえ無垢な少女でも警戒せねばならない。

 

「もう少しお話がしたくて」

「話?」

 

彼が助けた人間は大概が、すぐに恐怖からその場を逃げ出す或いはビーターと聞いて蔑む。そこにまともな対話の余地はない。

しかし、シリカは違うようだ。

 

「それは俺がビーターと理解しているうえで言っているんだな?」

「はい」

「……情報なら渡さないが?」

「構いません、私はビーターじゃなくて<イノセンス>さんとお話がしたいんですから」

 

どうやら本当に話がしたいだけらしい。

少し警戒を解く。

 

「……物好きな娘だ」

 

シリカはその言葉にニコリと微笑んだ。

 

 

 

「……好きなの頼みな、奢るよ」

「あ、いえ悪いですよ!」

「気にするな、この店リーズナブルだしな」

 

二人は落ち着ける場所として、イノセンスのいきつけである第三層の喫茶店<タルビン>に来ていた。

 

「すみません、<ジャイアントエッグ焼きそば>」

「畏まりました、そちらのお客様は?」

「……<野菜のリゾット>をお願いします……」

 

あまり納得していないが店員が来てしまったので、仕方なく頼む。その様子を見てイノセンスは苦笑する。

 

「頑固だなぁ」

「……私にも女としての意地がありますからっ!」

「なるほど、だがこちらが払わせてもらうよ。久しぶりの女性とのデートだしな」

「デッ!?」

 

こうしていると彼にとって懐かしい思い出が浮かぶ。

まだ現実にいた頃、サチ……早見幸穂と出かけた時にもこうやってからかっていた記憶がある。

あれから月夜の黒猫団は結成され、ケイタがリーダーシップを発揮し今まで上手く攻略組としてやっていけている。中でもダッカーは攻略組でも指折りの実力をもつ剣士だ。今頃は四層で情報集めか。しかし、今は彼らを気にしている時ではない。

気持ちを切り替え、真剣にシリカを見据える。

 

「それで……何を話したいんだ。」

「えっあっはい、そうですね……」

 

我に帰ったシリカは顔を振り、とりあえず一旦落ち着く。

それからゆっくりと口を開く。

 

「貴方はどうしてそうなってしまったんですか?」

 

イノセンスはビーターとしてかなりの悪評が流されている。非合法なチートを行った卑怯者、周りを利用するだけして捨てる悪魔等かなり尾ひれが付いているものばかりだ。

もちろんシリカもそれを知っていた。だからこそ、目の前にいる青年が極悪人<イノセンス>だとは思えないのだ。彼は悪を倒し弱者に優しいヒーローの様にしか思えないから。

 

「……君は第一層攻略に参加してなかったからな、詳しく知らなくて当然だな」

「はい、どうしても無理とおっしゃるなら仕方ありませんが……私は今知りたいです」

「ふーむ、本来なら駄目と言うところだが……君は頑固みたいだし、今言った方が後ぐされなさそうだ」

「あっ、なら」

「ああ、教えよう。どうしてもって程でもないし。君はあの件の関係者とは何も繋がりは無いだろうし。」

 

ただし、これから言う事はあまり他言しないでくれと彼は付け加える。シリカは頷く、最初からそうするつもりであったし何より彼は自分を救ってくれた恩人。そんなこと出来るはずがない。

 

イノセンスは第一層での出来事を思い出すようにしみじみと語りだした。

 

 

 

 

「ううっ……ひっく……ぐすっ……!」

「あ、あのぉ……シリカ?その泣かないでくれると嬉しいな?」

 

結果としてシリカは話の途中から既に涙目になっており、そして今限界を迎え泣き出してしまっていた。

 

「うっく……酷いです……そんなのあんまりですぅ……ぐすっ、イノセンスさんは皆さんを助けようとしただけなのに……どうしてぇ……」

 

シリカにとってそう言う理不尽は耐性が無かった。

何不自由なく家族や友人に愛され、いじめ等にも巻き込まれたこともない。この世界に閉じ込められ、そこで初めてはっきりとした人の悪意や恐怖を、世の中の理不尽さを知ったくらいなのだ。

 

「こう言うもんなのさ、人間みんながみんな出来たやつなわけじゃないし。妬みやら恨みやらで周りが見えなくなることだって普通にある。そんな中ずっと生きるってのはある意味死んだ方がマシって思う時あるよ」

「そんな……」

「でもな、シリカ」

 

俯くシリカに言葉を続けるイノセンス。

 

「だからこそ<生きなきゃ駄目だ>って俺は思う、辛いから苦しいからと逃げてたら絶対後悔する。少なくとも俺はそう思う」

「……イノセンスさんにとって<生きる>ってなんですか?」

「<勇気を持って立ち向かう>ことさ」

「……勇気を……持って……」

 

それはあくまでイノセンスが経験してきたことから、得た答えであってそれが全ての人間にとって正解ではないかもしれない。

しかし、シリカにはその答えがとても心に響いた。

 

「俺はこれからも生き続けるつもりだ、死がくるその時まで精一杯な……」

 

これが彼の強さなんだろう、生きたいと言うその強い願い。

魂と身体に刻まれた<本能>が。シリカは真の彼の一部に触れたと感じた。

 

「ありがとうございます、わざわざ私の為に時間を下さって」

「いや、俺こそ最近人とまともにふれあえて無かったから……楽しかったよ」

 

礼を言うシリカにそう少し寂しそうに言う。

 

その表情を見てシリカは今どうするべきか心を決めた。

 

「イノセンスさん、お願いがあります」

「ん?何だ?」

 

 

「私を……<弟子>にしてください!!」

 

今運命の歯車が動き出す、音をたてギシギシと……。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ガルルァ!!」

「ギシャー!!」

 

第四層ダンジョン<シーホラーの寝床>

そこで今複数体のリザードマンが一人のプレイヤーを囲んでいる。

メタリックブラックの鎧を纏い手にはエキストラスキルの<両手鎌>を持ったそのプレイヤーはリザードマンなど眼中に無いように見える。

 

「邪魔」

 

プレイヤーは肩に鎌を担ぎソードスキル<スピニングサイス>を発動、囲んでいたリザードマンを全匹一撃のもと両断する。

 

「準備運動にもならないよ」

 

何事もなかったように奥にある祭壇のようなものに近づき、球体状のアイテムをそこに置く。

するとダンジョンボス<シーホラー>が姿を現す、巨大な蛸のようなモンスターだ。

 

「私が相手だ、来い!」

「ーーーーーーーッッ!!」

 

謎の咆哮を上げ、触手を叩き付けてくるシーホラー。

それに対して全く避ける動作をせず武器で受けるプレイヤー。

 

「……強いね、アナタなら私の全力受けてくれるかな?」

 

触手を打ち払い、鎌を薙ぐ。

しかし、ダンジョンボスなだけありシーホラーはしぶとい。

触手を絡ませ動きを封じてくる。

「くぅっ!」

「ーーーーーーッッ!!」

 

壁に叩きつけられ、さらに強くなる拘束。

立て続けにシーホラーは墨を吐きかける。

プレイヤーの視界を奪う。

 

「フ、フフフフフ!上等!」

 

絶体絶命に見える彼女の表情に笑みが浮かぶ。

 

「ウガアアアアァッ!!!」

「ーーーーーーーーーッッ!?」

 

突如叫び触手に噛みつくプレイヤー、シーホラーが驚き拘束が緩む。その瞬間を待っていたと言わんばかりに触手を掴み投げ飛ばすプレイヤー。

 

「もういいっ!終わりだよ!」

 

見えない視界もプレイヤーには彼女には関係ない。<本能>が倒すべきものが何処かを教えてくれる。

彼女はソードスキル<ギロティン>でシーホラーに斬りかかる。

シーホラーは逃げようとした、しかし襲ってくる複数の刃に混乱し逃げ損ねる。シーホラーはバラバラに引き裂かれた。

 

「……」

 

シーホラーを倒した彼女のドロップ品には両手鎌<ベルーガ>が入っていた。それを確認し、安堵した彼女は

 

「……シャワー浴びたい」

 

と一言のこし、その場を後にした。

 

 

 

 

 

「おい、大丈夫かな……大分経つぜあれから」

「……」

クラインは黙っていたが内心かなり焦っていた。

ちょっと出てくるで彼女<トト>がすぐに帰った試しはないが、今回は特別遅かった。

何かあったのではとも思ったが、ここで慌てて仲間たちを動かすのは上策ではない。

 

「今日はもう遅ぇし、とりあえず解散」

「……了解」

 

とりあえず一度解散し、様子を見ようと考えた。場合によっては一人でも探す覚悟はあった……が。

 

「……すぅ……すぅ……」

「……おいおい」

 

クラインが自分の部屋に行くと、先程まで帰って来ないと言っていた眠り姫がいた。

クラインは即座に仲間にメールを送り、安心させる。

 

「ったく……心配させやがって……」

 

眠る妹の様なじゃじゃ馬娘を眺める。

こうして見ると本当にただの女の子なんだが。

それがどうしてこうなっちまったかなと考えた。

やはり、きっかけは第一層攻略であろう。

 

(クラインさん)

 

本当に……

 

(私、強くなりたいです)

 

どうしようもなく馬鹿だ。

 

あの後、トトはクラインなどフレンド全員との登録を解除し場所の特定をさせない様にしてからソロで出かけることが増えた。

彼女は力を欲していた、何者にも負けない強い力を。

もう、あんな思いをしないため……弱い自分を否定し続けている。

クラインの瞳に涙が溢れる、自分は彼女に何をしてあげれば良いのか……何て声をかければ良いのか自分には分からなかったからだ。

 

「ちくしょお……情けねえなぁ……俺……」

 

今の自分には分からない……ただ、この娘を一人にしたくない……一人にすれば何処か遠くに行ってしまいそうで。

頭を優しく撫でると頬が緩ませ、微笑む。

 

 

クラインは決意する、この娘を絶対に死なせない。

自分が守ると、そう決めた、己の魂に誓って。




クラインって何か父性が高いって思います。
かなり面倒みが良いし、強い心持ってますし。
キリトさんもトトもクラインによって救われています。
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