小さい頃から血と痛みは日常として住み着いていた。
それなりに大きい霊能者家系である矢部家の嫡女
両親は家族としての情は確かにあったものの、逼迫していく霊能事情に無理を通さなければならないと言うのが実情だった。それでも一般の小学校へ通わせたのは、覚醒した私へのせめてもの慰めだったと思う。脆い机。退屈な授業。孤立していた私に構ってくれたのは、やたらと大人びた同級生の男の子だった。
「徳子ちゃん塩なんか持って何してるの?」
「派和くんですか。これは魔蟲を退治してるのです。お父様から依頼された正式なお仕事なのです。」
「蟲…?ああ、この霧みたいなやつ?」
「!!見えるのですか!?だとしたら霊能者の才能があるのです!スカウトするのです!」
「おっとなんだかいきなりファンタジーになったぞ?」
「その黒いのが悪魔の素なのです。このまま放っておくと人喰いの化け物が現れるのです。派和くんもこの塩で浄化に協力するのです。」
「思ったより命の危機だった。…えっと、アレに振りかければ良いの?」
「そうです!とはいえ派和くんは未修行なのであまり効かないです。この後わたしが時間をかけて「よいしょっと」」
『ギァャヤアャァ!!』
「おお。流石本物の清めの塩…一瞬で消えるとは…」
「いっしゅう…かん…」
「あれ?どうしたの徳子ちゃん」
…。
…………。
「…さ、さすがでやんす…」
私は三下になった。
それからの私は彼…派和歩の補佐をする日常を過ごした。
「此処は矢部家代々の訓練用異界なのです。今日は悪魔の成り損ない…通称『モドキ』と戦ってもらうのです。」
「銃のレクチャーしてもらったけど当たる気しないな…あ、あの人型かな?とりあえず頑張ってみるよ。」
『ヴェアアァ…』【
「!?アレは顕現化した本物です!ひとまず逃げてって速い!?乱射しても銃は当たりませんよ!?なんで捨てるのってか火の玉!?秘技!?ナンデ!?」
「ただいま。いやあ必殺技が外れたら危なかった。なんか叫んでたけどどうしたの?」
「…とりあえずお説教でやんす。」
「!?」
霊能に無知な彼の才能はピカイチだった。
「とりあえずMAG操作も覚えたみたいなのでウチの家業【
「コレ石じゃなくて君の弟のガンプラパーツだよね?明雄くん泣いてたよ?」
「いいんですよサボってプラモ作りに励んだ馬鹿のことは。ほらほら、はやくはやく。馬鹿弟には炎上するガンプラがお似合いよ。」
「非力な俺を許してくれ明雄くん…できたよ。」
【アギストーン(ロボ)】…敵1体に火炎相性ダメージ&ノックバック
「嘘でやんす…家宝の宝石より出来が良いなんて…」
「悲しいのは明雄くんの方だよ…」
その才能は矢部家を再興させ、近隣の霊能家系を手助けすることすら可能となった。
「うーむ。流石に伸び悩んできたなぁ。」
「Dレベル50越えがナニ言ってるでやんす。これ以上の異界はもうソロは不可能でやんすよ。義兄ちゃんも分かってる筈でやんす。」
「明雄くんみたいなアイテムサポートでも?」
「オイラが純サポートで随伴しても異界環境に対応出来るかが怪しいでやんす。最近はガイア連合にシェアが取られてるのもあってウチの台所が厳しいでやんす。大人しく姉ちゃんや大江さんや神条さんの
「…」
「…?どうしたでやんす?」
「ちょっと頭に引っかかって。…明雄くん。ガイア連合に関連する単語をちょっと誦じてくれない?」
「いきなりなんでやんす?…えーと。ガイア連合、ハンター協会、ジュネス、時価ネットたなか、MOEL石油、エクステローバー、邪教の館「それだ」…他にもたくさんあるでやんす。」
「思い出した思い出した。
「そりゃメシア教徒に鳥を飼う人はいると思うでやんすが…」
「じゃあちょっとガイア連合に行ってカード貰ってくるよ。徳子ちゃんによろしく。」
「…マジで行ったでやんす。」
…2時間後…
「ただいま。」
「おかえり。明雄から聞いたわよ。カード取るなら矢部家で推薦したわよ?なんでわざわざ1人で行ったの?」
「紐付きと疑われるのは迷惑だと思ってね。黒札にもなれたことだし明雄くんと一緒に貢献度稼ぎに行ってくるよ。」
「へぇ黒札…黒札!?」
「てかオイラがお付きやんすか?戦闘なら猪狩兄弟の方が便利でやんすよ?」
「明雄くんの方が気に入られそうだし…あの2人だと雌になりそうで…」
「オイラも雌は嫌でやんすが!?」
ガイア連合にもその実力は評価され、黒札の一員として組織を運営する権利までも手に入れた。その結果、ガイア連合の目的…終末という天災の対応という事情に注力する形となった。止まらないGP、上がり続ける悪魔のレベル。彼のレベルについていけなくなった私はガイア連合の補佐を兼任することになった。
ガイア連合ハンター協会十勝支部受付事務員。
それが今の私の仕事である。
事務員の仕事として1番の負担は物品管理である。
レンタル礼装をはじめとする消耗品、報酬としてのマッカなどの報償品、襲撃に備えての医療品、受け渡しの為に一時的に保管している呪物などなど、単体で金塊と交換できる代物がごまんとあるのだ。幾ら末端に払い下げられた一品とはいえ、その扱いは慎重になる。今も運んでいる依頼主から回収した人形など、私が触れれば間違いなく乗っ取られる様な負のオーラがあった。彼から借り受けているシキガミ【ブラック(一反木綿型カスタム仕様)】がいなければ命は無かっただろう。
「ニクイ…ニクイ…アタシモ…ギギギ… 」
「…同情はする。私のご主人は貴方より美しく、強く、ちやほやしてくれる。貴方は血だけ?…私は内臓入り。…フフッ。」
「コロスコロスウラヤマシイニクイシネシネ」
「あの、あんまり刺激しないでくれる…?ブラックちゃんは大丈夫でも余波で私が死んじゃうよ…?」
「
「ブラックちゃん話せるようになってだいぶ口が悪くなったね…」
神経に悪い管理業務が終われば次は依頼業務である。極論解決さえすれば方法は重視されない
「簡易鑑定が済みました。おおよそこちらの見積もりとなります。」
「ホホ。確かに。…フム、保管料に関しては想定してたが処分費が安いのはなんでかの?」
「はい。人形ですが付喪神としてレベルを有していたためにエネルギー不足となっていました。本人にも確認しましたがMAGさえ摂取すれば血液は不要とのことで、覚醒した子供用の人形として売却可能と判断しました。処分費は最低価格となる学校の備品代を減額しています。」
「なるほどなるほど。そこの護衛のお嬢ちゃんみたいなシキガミとして生まれ変わると?」
翁がブラックに向けてニコリと問いかける。ブラックはふんすと自慢げに胸を張って否定した。
「アレは低品質なおもちゃ用。私はもっとスーパー。戦闘も出来る。」
止める間もなくブラックはくるりと飛び跳ねる。丸まった背中から体が切り開かれて全身の表面が裏面と入れ替わる。目が良い人にはその中身が空っぽであることに気づけただろう。着地する時には小柄なヒーロースーツに身を包んだブラックが存在した。ビシッとポーズを決める彼女に対して翁は拍手喝采だ。隣の秘書は唖然としていたが、傍目には人間の皮膚が裏返しになればこうもなる。この爺が狸すぎるのだ。果たしてどこまで知っていたのやら。
「ホホ。そんなに睨むで無い。見物料代わりに色付けて払っておくから許してちょ。」
「ぐっ…ご契約ありがとうございます。」
「ついでに
「在庫はありますが…態々依頼に託けて注文する必要はないのでは?」
いつも事務員の実家のカタログを要求するのはやめてほしい。
帰宅した頃には23時を回っていた。
まだ二十歳にもなってないというのになんでこんな激務してんだろうか。
「疲れた…」
私が住む家…というかシェルターはハンター協会の裏に立地している。なんやかんやで恋人となれた派和とのハーレムの一員として5人でルームシェアを行っている。ハーレムに関して思うところはないこともないが、1人では到底持たなかったのだ。まだ身内で固められただけマシとも言える。
「ただいまー」
「おかえり。今日は私特製の肉じゃがだ。」
「なんや夜食あるんかい。ウチもいただくでー」
「…カズ、さっきもアイス食べたよな。太らないか?」
「太る…?」
「落ち着け紫杏。汗以上に血を流す前衛に体重計は不要なんだ。」
「だが五十鈴!乙女としてこの発言は許さないだろう!?」
「まあまあ。…なんだい徳子ちゃん。そんな笑って。」
…ま、こんな生活も悪くないか。
明日も頑張るでやんす!ってね?
派和歩
転生者。裏サクセスの住民。なんやかんやで4人囲った。そのうちシキガミも加わる。女神転生はさわり程度しか知らなかった。お小遣いで野球人形を作ってる。
矢部徳子
現地民。オカルトアイテム製造の家系に生まれた。時折やんす口調が漏れ出す女の子。財布の紐は彼女にかかっている。
矢部明雄
現地民。コミュ力と商才とそこそこの才能を持ち合わすR現地民。ピカチュウの声真似が上手い。
ブラック
一反木綿型のシキガミ。ヒーロースーツ型の形状で中身は空っぽ。表裏を反転させることで人間体に擬装できる。中に人を入れて保護することもできるが、デモニカじゃないので動いたら中の人は無事じゃすまない。彼女を含めて5人いる。