吾輩はTS転生者である。名前は伽羅。女の子につける名前ではない。
今世の親はDQNなのかと戦慄したものの、蓋を開ければただの低所得階層であった。病弱共働きに保育園の預け金などなく、母の伝手により住居であるアパートの大家にお邪魔するのが日常だった。大家のお婆様は素晴らしい人格者だったが、年齢もあったのだろう、インフルエンザで先週ぽっくりお亡くなりになった。今後は孫娘が引き継ぐと聞いた。それだけならまだ悲しめたが、最悪なことに両親すら同じ死因で旅立ってしまった。看取った限り苦しんではいなかったと思う。とりあえず通報する前に孤児院でも調べてみるかと現実逃避したところ、更に嫌な現実を知ることになった。
「メシア孤児院、メシア救済施設所、ガイア児童養護施設、ガイア孤児院…メガテンかぁ…」
前世で聞いたゲームの名前だ。
「ロボトミーで悪魔と融合して餃子になるんだっけ?嫌な世界観だよ…まぁ私は関係ないけど。」
「残念ながら
「ふぁっ!!??」
突如背中から抱き抱えあげられくるりと投げ回される。視界の片隅に開かれた扉は開け離れていた。脇の下をかっちりと捕まえられ、正面から下手人の姿をじっくりと見る。金髪赤眼のスタイルの良い美少女である。その姿は前世で見たとあるキャラクターにそっくりだった。
「死臭がしたから申し訳ないけど合鍵で入ったわ。大家初日に幸先が良いやら悪いやら…」
「…アルクェイド?」
「パチモンだけどねー。貴方もきっと何かのパチモンよ、お仲間さん?貴方の名前は?」
「…下尾
「いるわ。大量にね。みんな困って、どこもかしこも問題だらけ。貴方も働いて貰うわよ?ケツイをこめて、ね?」
「…あはは。」
どうやら私は気運に恵まれているらしい。
少なくとも将来を不安に思う必要は無さそうだ。
「…勘違いだったわ。」
数年後。
晴れて中学生となった私は黒札となってレベル上げに勤しんでいた。隣には親友となった書類上保護者の千城或が手持ち無沙汰に佇んでいる。
「普通さ、ホグワーツ然りアカデミア然り、物語で国家組織に属したら成人まで学びごとが優先されない?教師とかスポンサーが10超えた程度の砂利ガキに頭下げるとか見たくなかったわ。【マハブフ】」
「流石に序盤はビジネスライクだったわよ?キャラが入った時はもう国体として私兵軍みたいになっちゃってたし。軍人に敬礼するなら年齢も関係ないでしょ?」
「【マハブフ】学生を軍属に仕立て上げる組織【ブフーラ】とか酷い組織だ【ジオ】な。アルも私くらいの年齢で入ったんでしょ?当時もこんな感じだったの?…ゴメン逃した。」
「はいはい【ひっかき】。…もっと酷かったわ。何せ規模の小さーい超人(笑)集団だったし。ハニトラとかも必死さが違ったわよ。整形した顔で泣きながらスカウトする依頼主を振り切るのが日常よ?今はだいぶ落ち着いた感じね。」
「うへぇ。」
美人は得だと聞いたが才媛も加わると酷いおモテかたをする。
「キャラも学校では気をつけなさいよ?貴方別嬪さんなんだから。」
「まあ、それなりに整ってるとは思うけど…」
髪を弄びながら照れたが、アルは気に食わないのか私の頭を掴んで睨みつけた。
「スキン無しでその顔なら美人よ、び・じ・ん。まったくもう。帰ったらスキンケアを教えるからきっちり日課にすること。さもないと…」
「…な、ないと?」
「成人した時に美人度が半分になるわ。」
「そんなに!?」
「ヒエラルキーは10%になるわ。」
「!?」
女って凄い。
2度目の人生となると趣味に費やす金額が増える。
正確には趣味に掛ける費用を纏められる。爺婆まで歳を重ねれば幾多の無駄金はニッチに固まってしまう。複数の趣味を死ぬまで続ける猛者は中々いないのだ。私もその例に問わず潤った懐事情に甘えて
「10点満点の平均評価3.4…クソ映画…自覚はある…あるけど!」
趣味の副産物を睨んで呟いた声は放課後のガイア学校に虚しく響いた。その光景に隣に腰掛けてゲームをしているクラスメイト兼舎弟の輝夜がわざとらしいため息を吐いた。
「まぁたその愚痴ぃ?酷評覚悟で作ったんでしょ?監督からも言われたんじゃないの?」
「…言われた。日常にオカルトが組み込まれた普通は難しい。ミステリーでは過去視や読心を想定したトリックを作る必要があるし、パニックで豪華客船が沈没しても覚醒者なら生存する。恋愛だって覚醒者が冷蔵庫程度をひーこら運ばないしホラーはもう実録ドキュメンタリーになってる。アクションなんかほぼ死に体。覚醒の有無でスピード感が異なるから没入感が死ぬ。結構著名な脚本家達を抱えてるけどまともなのは数年待ってほしいってみんなから頭下げられた。」
「なら良くない?金銭で困ってないんでしょ?反省して次よ次。」
「うごご。」
確かに1億程度楽に払えたがそれでも爆死は辛い。私はクソ映画ソムリエになったのだ…
「…ねえ。」
「支部長が技術指導したラストバトル部分は評判高いの。戦闘中の間延びした間抜け台詞回しをフェイク・陽動を交えた皮肉混じりの対話を表現してるから戦闘シーンが映えてる。ただこっちで演技させるとなんか茶番になって…」
「姉御の人脈なら海外から逃亡した業界人でスタッフを固められたんじゃない?単純にスポンサーだけやるなら趣味人員で良いでしょ?何で終末後を想定した環境で映画を作ったの?それこそ終末後からは作れないわよ?」
「…」
ぐうの音も出せない。
輝夜は変わらず不貞腐れた顔のまま映画雑誌のページをはたいた。
「姉御が幾らTUEEな黒札でもスクリーンでは3点よ。さ・ん・て・ん。というかそんな無駄金使うならウチの孤児院に寄付してくんない?」
「天下の黒札様に舐めた口聞きやがって(震え声)…」
「意見しない部下なんて無能でしょ。てか黒札個人の部下ってどんな感じなの?私みたいな?」
「輝夜みたいな無礼者がそういてたまるか。」
そして媚び媚びの顔をしても寄付はしない。
あまりにも輝夜がしつこいので解説することにした。
「私にとっての輝夜みたいな人材を指すなら幾つかパターン分けされるわ。」
「へぇ。」
「まずは友情型。私と輝夜みたいに知古の関係がレベル差で格差がついたタイプ。覚醒前からの間柄が大抵ね。」
理不尽な格差が生み出した型とも言える。恐怖や嫉妬などで破綻する友情も少なくない。デモニカの比率が高いのもこれになるだろう。
「ガイア連合じゃなくて霊能家に師事してた黒札とかもその分類かな?」
「矢部家とか?」
「そうそう。伝手があっても販路自体は別口だからね。」
私たちは好き嫌いはあっても信条は高くない。特に不利益が無ければ部下として働くことに不満はないのだ。
派和などは分かりやすくサラリーマン気質だ。ノルマと報酬、そして
「そんで親戚型。血縁関係での保護や介護。才能があれば装備品や消耗品の提供、無ければデモニカ付き。ブルジョアなスポンサーとしてレベリングする型。今後は大小あれどこの型が増えると思う。」
強いヤツが!弱い群れを!統率する!
獣時代から脈々と繁栄せし奥ゆかしい型である。
「貴族みたいになりそう(直球)。」
その認識で間違いないと思う。
渡米俺たちの報告では半終末となった外国では国単位ではなく集落単位での社会基盤が生成されていると聞いた。今はガイア連合によるインフラにより国体自体の認識はかろうじて存在するが、10年もすれば
「師弟型…は省略して良いでしょ。あとなんかパターンあったかしら…」
「ハーレムとかは?」
「親戚型で良くない?それに黒札で
「そうなの?」
「7人囲えば休みなしで腰振ることになるし?
悲しいことに我が肉体は男で興奮してしまうカラダなのだ。
「ハーレムなら紅が必要に駆られてやってるわね。フェルグスとやらのデビルシフターでどうしても高ぶるみたい。紹介する?」
「アイム中1。ノット生理。オーケー?」
「イェース。」
そこで食いつかないから信頼してるとは言わない。
暇なのだろう、輝夜は椅子の隙間から腰を通して柔軟をしながら何とも言えない声を出した。
「じゃあ
「…あー、イヤ…どうだろ。」
「パターン思いついた?」
「ついた。
ある意味では1番報われる型だろう。
他人のために命を使い切る姿勢。強さの糧に己を勘定できる精神性。命を使い捨てできない私たちには多少眩しい人間だ。彼等が正しく実力者になれないことは非常に残念な気分になる。
「結局は全部
「元も子もないわね…スレ建てしても荒らされそう。気にいるためのコツとかある?」
「鏡見れば?…私的には生き様ね。」
「…生き様?性格とか?」
「そう。派和や紅が特に目立つけど、黒札は大小あれど前世に引き摺られる。黒札のお気に入りってのは
人外になったつもりはない。
私たちはどこまでも前世に価値観を引っ張られる一般人であり、この世界の人間と人格での差異などないのだ。
だから歩み寄れる筈…なんだけど。
「なる。今から建てるからコテハンよろしく。」
「炎上待ったなしだから辞めろおバカ。」
何年かかるだろう。
成人までには分かりたいものだが。
下尾伽羅
転生者。現時点でレベル15。前世から映画好き。保護がてら映画スポンサーで作ったら爆死した。終末後も映画を作るために金策中。輝夜は将来の女優候補として囲っている。
竹村輝夜
このあと盛大に炎上した。
超人金策物語
異能が日常となった世界で超人となった一般人が家族の治療費を払う映画。異能関連の世知辛さと地味さ、スプラッターな戦闘、税金対策のガチさと色々とっ散らかったためにめでたくクソ映画認定された。