→今話を作成中に内容が被る
筆が早い人は尊敬します
十勝ガイア病院には曰く付きの噂がある。
中央棟から少し離れた終末患者用の入院棟。
そこでは囚人を使用した人体実験を行っているという噂だ。
無論、単なる噂話である。幾ら刑務所に近いとはいえ数キロは離れている病院に囚人を運べるわけもなく、そもそも患者は問題なく退院している。
確かにステージ5となるがん患者や余命宣告を受けた患者を完治させたと聞くと何らかの異常手段を使用したかに思える。だが、患者がお金持ち、或いはその親族であればどうだろうか。単純な話、保険適用外のお高い薬と腕の良い医者が伴った実績を邪推された結果なのだ。
機材や寄付金が多いのも、その医者自身が在住を公言しているからに過ぎない。そうでなければこんな田舎に金は入らないとは彼の父親である院長の弁だ。
ともあれ、生き証人の話もあり噂は噂として笑い話として病院に根付いている。
此処は十勝ガイア病院。
『命のためなら最先端を』をモットーに運営される死亡率と治療費に定評のある大病院。
その優秀さに嫉妬するように黒い噂が絶えない病院である。
あまり的外れと指摘出来ない事実に業界人が笑いながら。
十勝ガイア病院裏治療スレ 514手術目
265:名無しの藪医
鏡視下腎臓摘出手術完了しました
オペ6室は後30分で利用可能です
268:名無しの藪医
緊連、刑務所での治験中に脳死者がでた
詳細は覚醒者移植リストに載せたので確認してくれ
270:名無しの藪医
また?
治験者の残りは?
272:名無しの藪医
あと…60人くらいですね
ちょくちょく新潟*1から輸送されてますのでまだ増えるかと
275:名無しの藪医
検体は有難いけど脳死者の割合が高いのはいただけないわ
余裕があるなら此方で治療しても良いのでは?
276:名無しの藪医
>>275 ムリめ
ウチの法医学医が随伴して作ったカルテに信仰排泄術の時点で脳が
277:名無しの藪医
圧縮して物理除去で何とかならんか?
280:名無しの藪医
心筋を縮めるようなものでは?
MAG操作術式で脳以外に移動とかは試されたので?
283:名無しの藪医
>>280 脳自体がマグネタイト化してるらしく物理的に存在しないらしい
ダメ元で脳自体を完全再生したが自発呼吸は元より脳波もなかった
285:名無しの藪医
で、脳死か…
まあ…脳死だよな
286:名無しの藪医
年齢は…14才?
これからって年代じゃんよ
289:名無しの藪医
やるせねぇな…
290:名無しの藪医
…よし、黙祷終了
これから遺伝子置換術*2の準備するから
電脳内科は患者リストアップしておいて
292:名無しの藪医
>>290 許容年代は?
出来れば7才の子を優先したい
295:名無しの藪医
電脳接続*3に不具合でも?
299:名無しの藪医
逆
適応し過ぎて自発呼吸が怪しくなってる
脳だけなのも考えものだな
301:名無しの藪医
了解
10才までは行けるから親御さんに連絡よろしく
303:名無しの藪医
寿命3年分か…
納得していただけたら良いが
305:名無しの藪医
こればかりは感情論よな
308:名無しの藪医
おっさんなら無問題なんだが…
311:名無しの藪医
望めば若返り薬も検討できるし飲み込んで頂くしかないだろう
312:名無しの藪医
費用面でキツくない?
それなら化粧水レベルまで落とし込んで老化抑制で帳尻合わせした方が…
314:名無しの藪医
だが第二次成長期前の児童に常用させる薬ではないぞ?
一歩間違えれば成長に差が出て皮膚が裂けるかも知れん
318:名無しの藪医
とすればー
「先生…先生!」
「む…」
看護師の声に叩き起こされ、男は顔を上げた。
190センチをゆうに超える肉体は筋肉に覆われ、男が白衣を着ていなければ医者とは到底思われないだろう。しかし、この病院では彼ー大門丈夫ーを医者以外に例える人は居ない。
何故ならば、彼こそが回復魔法を使い熟した最先端の医者、スーパードクターだからだ。
脳、内臓、皮膚、骨ーこと外科に関して彼に並ぶと自称する者はいない。
難病を簡病とするために金持ちから治療費をむしりとる男、とは入院患者の評価である。
「すまん、寝ていた。回診の時間か?」
「ええ。ただ、大門先生の受け持ち分だけになります。七海ちゃんとご家族の了承しだい手術になりますので。」
「…検体がいらっしゃったか。」
大門は溜息をついた。
手術する患者は七海千秋。7歳の女児だったが、COMP改造の被害者に遭い肉体を損失。今は脳髄のみで延命している状態だった。本来なら復元可能な範囲だったが、皮肉にも脳のみで覚醒者となり、覚醒時の基準が狂う状態となっていた。
無論、この病院では(大門のみ、という但し書きがつくが)治療可能な範囲である。肉体を
歳若く、覚醒素体で、女で、五体満足で、蘇生不可能である肉体。
おまけに犯罪歴もあるとくれば彼が曇るのも当然であろう。
だがしかし、彼は前世も含めれば御年100オーバーのベテランドクター。理不尽に蓋をして患者に接することなど造作もない。
難病がずらりと並ぶ患者たちに挨拶を行い、状態、要望、手術予定などを世間話と合わせて会話する。
彼等に危機感は感じられない。それも当然である。
彼のMAG操作による肉体操作は癌細胞すらコントロールできる。
別の病院で余命宣告を受けた者すらそこらの骨折患者と大差ない顔色をしているのだ。
日々良くなる体調に不安をもつ人間などいない。
丁寧な解説を受けた老人はニコニコと髭を撫でた。
「ほいじゃあ来週にはあのあまぁいカレーも卒業かい。」
「ええ。CA19-9の値も落ち着きましたし、あとは経過観察で大丈夫かと。…本当ならもう少し入院して保護していただけると有難いのですが…」
「ほほほ。口が上手いの。安心せい。メディアには口利きしとったる。」
「政治面はブンヤには厳しいんじゃないかぁ?」
「入院で懐に空きが無いのでは?お小遣い差し上げます?」
「じゃかしい爺婆ども!おまえらこそさっさと退院せんかい!」
患者たちがやいのやいのと騒がしく口喧嘩を行う。
いつものことだと年若い連中は子供達に飴を与えた。
看護師から止められた老人は未練がましく大門に質問した。
「そういや先生。この死に損ないの爺婆からも言われたと思うが、ほんに嫁さんいらんのか?」
「欲しく無いと言えば嘘になりますが…」
大門は遠い目で自分の手を観た。
「ちょっと鍛え過ぎましてね。下世話な話、シモの世話が出来ない女性をあてがわれても互いに不幸になります。」
「先生が鉄板千切れるのは知っとるよ。」
「…その、ジョークでアルミ製の突撃一番を作った奴がいまして。…そいつ、穴が空いたらしいんですよ。」
「…おおぅ。」
「何で2桁レベルの覚醒者なら喜んで世話になります。是非、よろしく!」
老人は初めて冷静沈着な先生が必死になる姿を見た。
「…ということで運良く検体が来ました。七海ご夫妻と千秋ちゃんが納得していただければ本日中に手術をさせていただきます。」
「ええ!是非!費用は父に借金しても工面します!」
「私もお義父様の伝手ですが職につきました。どうかよろしくお願いします!」
大門の提案に男は妻と共に頭を下げて了承した。誘拐されて哀れな姿となった娘が治る。どんなリスクも請け負う覚悟が両親に存在した。
七海は椅子に座る娘をみる。金属とプラスチックで構成されたドリンクサーバーに手脚がついた義体。満足に五感を受け取ることもできない体は夫妻の無力さの具現化だ。
『…』
「…千秋?」
七海は娘に声をかけた。
『…センセ。お願い1つ。』
「何だい?」
『カムクラくんを私のゲボクにして。』
大門は盛大に咽せた。ダイナミックな人身売買に父は素っ頓狂な声を上げた。母は娘の健全な成長に微笑えんだ。
「せ、先生、あー…その、カムクラ君…とは?」
「千秋ちゃんと電脳で良く遊ぶ子供です。」
『カムクラくんが吐いた。オヤブンが居ないと記憶が封印されるって。』
「ふ、封印!?」
「うーむ。神座くんの意思が無いとダメかな。」
『呼ぶ。』
千秋が義手をガンガンと鳴らす。ガンガーンガンガン。10数回叩いて待つこと数分。布巾を手に鉄面皮の幼い少年ー神座が部屋に入ってきた。
「チアキ。汚れたからとモールスでの連絡はやめて下さい。【念話】は教えましたよね?」
『手術決まった。ゲボクになって。』
「それは封印後の僕に言ってください。」
『なれ。』
「いやです。」
千秋が無言で義手を振り回すが、神座は片腕でこともなげにいなす。
振り回すスピードが七海父の目に見えなくなるが、それでも平然と受け切っていた。間違いなく覚醒者であろう。
「えっと、神座くん。娘が迷惑をかけてすまない。」
「…いえ。楽しんでやってますので。」
回答は優等生だが神座の表情と目は死んだままである。
だが、七海には何となく彼が本心で答えたのが分かった。
「私は君と初対面だ。オカルトに関しても疎い。それでも今の君を見て封印とやらをする必要は無いように見える。」
「ええ。医師の見解としては不要と考えています。」
「ですか。何でと理由を聞いてもいいかな?」
七海父は膝立ちとなり神座に眼を合わせて手を握った。
神座は口を微かに開き、閉じ、眼を揺らしながら手を握り返した。
「…僕は人造人間です。」
「…」
「メシア教の救世主実験として誰とも分からない遺伝子を掛け合わせて作られました。今の僕の人格はメシアから刷り込まれた人格データが元になります。…この人格ではいつチアキに危害を加えるか分かりません。」
「それで封印を?」
「僕はチアキと仲良くなれました。でも彼女はメシアの被害者です。僕が…メシアだから…仲良くさせたのかと…思ってしまいました。」
神座は俯いた。
七海父は苦笑いして妻に目配せする。彼女はウィンクをして娘と合わせて神座を抱えてベッドに押し倒した。うつ伏せになった神座に千秋は追撃ののしかかりを喰らわせた。神座から間抜けな声が漏れ出た。
『わたしはわたし。』
「…!」
『いっしょにリハビリ。決定。…ね?』
「…はい…」
神座は震えて涙を流した。
看護師と医師は暖かい目で目配せをした。
「青春ですねぇ。これで失敗したら恥ですよ恥。」
「茶化すな。…なに、格好はつけてみせるさ。」
オカルトが導入されようとも治療の根幹は変わらない。
確かに肉体のマグネタイト情報により手術は大幅に変わった。
微弱の【ディア】による縫合により糸すら不要となった結果、肉体のリハビリは最小限に。欠損した内臓も回復薬により再生可能。移植手術すら薬要らずで退院可能なほど進化を果たした。
だが、どれほど進化ようとも名医は要求される。
今回の脳移植などがその代表例であろう。
切り離された肉体と脳髄の管という管を間違いなく接合させるというのは。
刈り取った髪を全て元の位置に付け直す作業に等しい。
「…汗を。」
「はい!」
ガラス管から伸び出る逆さとなった脳髄に対して、アナライズにより解析した血管の位置を正しい部位へ接合する。
接着はしない。マグネタイトを活用し細かい紐として全ての血管をタグ付けする。
何十万もの縫合糸を維持し、その全てを管理する。
間違いは許されない。脳の血管1つが切れるだけで人は人格さえ変わるのだ。
慎重に、だが素早く行う。
それでも「大丈夫」と自慢できる看板を掲げて仕事をしているのだ。
これくらいのハードルなど、大人は超えて当然なのだと笑ってやる。
斜に構えたガキンチョにはそんな扱いが正当なのだ。
大門は笑みを浮かべ、手術に没頭した。
当然、手術は成功した。
神座は今も学校で彼女の尻に敷かれている。
十勝ガイア病院
オカルト治療を含めた医療をしている病院。オカルト治療の普遍化をモットーにMAD医者が日々実験と治療を行っている。ガイア連合の資金調達に多分役立っている筈。
大門丈夫
転生者。前世からずっと医者をしているベテランドクター。指を1時間程度で繋げられる。結婚には前向き。